エスター公爵家の男たち~男性恐怖症の薄幸令嬢ですが、竜の父子に溺愛されて4人で幸せになります~

柴田

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「機嫌悪くってごめんね。……ただ、僕だけ仲間外れみたいで寂しくて……」
「ヴァルトロお兄様……」

 悲しげに眉を下げるヴァルトロを見て、ジゼルは胸が痛んだ。

「ジゼルは父上が好きなんだよね?」
「はい」
「キリアンも好きなの?」
「……はい」
「じゃあキリアンとも恋人ってこと?」
「そ、うなるん、ですかね」
「僕は?」

 突飛な問いを受け、ジゼルはきょとんとしてしまう。
 上目遣いで見つめてくるヴァルトロの瞳は、懇願するような色を湛えていた。人の良心に直接訴えかけてくる、捨てられた仔犬みたいな眼差しだ。

「僕のことは、好きじゃない?」
「すっ、好きですよ! もちろん、ヴァルトロお兄様のことも好きです」
「じゃあ僕ともしてくれる?」

 ジゼルの膝に顎を乗せ、首を傾けて見上げてくる甘えた仕草とはうらはらに、その言葉は相手に有無を言わせない圧を感じさせた。

「何をですか……?」
「えっち」
「えっ――って、ど、どうしてそうなるんですか! それも〝仲間外れにされてる〟みたいだから?」
「そんな理由じゃないって、わからないかな? わざと僕の気持ち弄んでる?」
「それならどんな理由で私としたいって言うんですか……? ヴァルトロお兄様なら、女性なんてより取り見取りでしょう? わざわざ私なんかにお願いしなくても……」
「好きだからに決まってる。ジゼルじゃなきゃだめなんだよ。ひどいこと言わないで」
「ま、待って、待ってください……! ヴァルトロお兄様、私のこと好きだったんですか……? い、いつから? 全然そんなふうに思えなかったのに」

 衝撃の告白を受けて慌てるジゼルを前に、ヴァルトロは考え込む様子を見せる。

「けっこう最初からかな? たぶんはじめのほうは、父上の血に引っ張られてジゼルのことつがいみたいに思ってた気がするけど……なんだろうね。僕もいつからとか、どうしてとか、明確に言葉にできないけど君が好きなんだ」

 あのヴァルトロが自分のことを異性として好いてくれているだなんて、想像したこともない。彼の優しさは誰に対しても平等で、ジゼルは自分が特別だなんて考えはなかったからだ。
 ヴィンセントを受け入れて、キリアンともそういう関係になって、まさかヴァルトロまで好意を寄せてくれているだなんて、とても現実とは思えない状況が重なり、ジゼルの頭の中はぐちゃぐちゃだった。

「僕もジゼルが好きなのに、父上のつがいだからって諦めてたんだよ? それなのにキリアンだけジゼルとえっちしたなんてずるいよ。ていうか父上怒らなかったんだね? てっきり独占したいタイプかと思ってたけどそうでもないんだ。それならもっと早く手を出していればよかったな。ね、ジゼル。お願い。僕ともして? だめ?」
「でも、先ほど結婚すると――……」
「まだ正式に決まったわけじゃないよ。たとえそうなるとしても……望まぬ結婚をする前に、好きな女の子と一夜の夢を見たいって思うのはおかしい?」

 いつもヴァルトロは優しくて、余裕があって、一歩引いて見守ってくれているイメージだったのに、突然ぐいぐいと迫られてジゼルは困惑する。――けれど困惑以上に、余裕なく必死にねだるヴァルトロの意外な一面を見せられて、ジゼルは不思議なほど胸が高鳴っていた。

 ヴァルトロのことは好きだ。
 いきなりエスター家の養女にされて右も左もわからないジゼルに、自分も状況が飲み込めないなかでもヴァルトロはとても優しくしてくれた。ヴァルトロがいなければ、エスター家に馴染むのはもっと時間がかかっただろう。何もできないジゼルに焦れもせず、幼い子どもだって知っているようなことでも、いつも穏やかに根気強く教えてくれた。
 優しくて、頭もよくて、なんでもできて、かっこいいヴァルトロが、今はジゼルの前に跪き縋りついて愛想を振りまいている。

(ヴァルトロお兄様は、お兄様なのに……なんでこんなに変な気持ちになっちゃうんだろう? 私、ヴァルトロお兄様に求められて、う、うれしいって思ってる)

「……少し、時間をもらえませんか?」
「いいよ。なにも今すぐ抱こうってわけじゃない。抱きたい気持ちはやまやまだけど、ジゼルの気持ちが一番大事だ。今まで僕のことはお兄様として見ていたんだから、急には切り替えられないだろう。――君に男として好きになってもらえるようにたくさんアピールするから。それでも僕を男として見られないというのなら、潔く女王のもとに嫁ぐよ。キリアンがつけた痕が消えた頃、返事を聞かせてほしい」
「……わかり、ました」

 指先にキスをされ、ジゼルは頬を赤らめる。

 自分が何に躊躇っているのかわからない。ジゼルは自分の中に〝ヴァルトロを拒否する〟という選択肢が存在しないことをわかっていたにもかかわらず、返事を先送りにした。

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