108 / 132
51-2
「機嫌悪くってごめんね。……ただ、僕だけ仲間外れみたいで寂しくて……」
「ヴァルトロお兄様……」
悲しげに眉を下げるヴァルトロを見て、ジゼルは胸が痛んだ。
「ジゼルは父上が好きなんだよね?」
「はい」
「キリアンも好きなの?」
「……はい」
「じゃあキリアンとも恋人ってこと?」
「そ、うなるん、ですかね」
「僕は?」
突飛な問いを受け、ジゼルはきょとんとしてしまう。
上目遣いで見つめてくるヴァルトロの瞳は、懇願するような色を湛えていた。人の良心に直接訴えかけてくる、捨てられた仔犬みたいな眼差しだ。
「僕のことは、好きじゃない?」
「すっ、好きですよ! もちろん、ヴァルトロお兄様のことも好きです」
「じゃあ僕ともしてくれる?」
ジゼルの膝に顎を乗せ、首を傾けて見上げてくる甘えた仕草とはうらはらに、その言葉は相手に有無を言わせない圧を感じさせた。
「何をですか……?」
「えっち」
「えっ――って、ど、どうしてそうなるんですか! それも〝仲間外れにされてる〟みたいだから?」
「そんな理由じゃないって、わからないかな? わざと僕の気持ち弄んでる?」
「それならどんな理由で私としたいって言うんですか……? ヴァルトロお兄様なら、女性なんてより取り見取りでしょう? わざわざ私なんかにお願いしなくても……」
「好きだからに決まってる。ジゼルじゃなきゃだめなんだよ。ひどいこと言わないで」
「ま、待って、待ってください……! ヴァルトロお兄様、私のこと好きだったんですか……? い、いつから? 全然そんなふうに思えなかったのに」
衝撃の告白を受けて慌てるジゼルを前に、ヴァルトロは考え込む様子を見せる。
「けっこう最初からかな? たぶんはじめのほうは、父上の血に引っ張られてジゼルのことつがいみたいに思ってた気がするけど……なんだろうね。僕もいつからとか、どうしてとか、明確に言葉にできないけど君が好きなんだ」
あのヴァルトロが自分のことを異性として好いてくれているだなんて、想像したこともない。彼の優しさは誰に対しても平等で、ジゼルは自分が特別だなんて考えはなかったからだ。
ヴィンセントを受け入れて、キリアンともそういう関係になって、まさかヴァルトロまで好意を寄せてくれているだなんて、とても現実とは思えない状況が重なり、ジゼルの頭の中はぐちゃぐちゃだった。
「僕もジゼルが好きなのに、父上のつがいだからって諦めてたんだよ? それなのにキリアンだけジゼルとえっちしたなんてずるいよ。ていうか父上怒らなかったんだね? てっきり独占したいタイプかと思ってたけどそうでもないんだ。それならもっと早く手を出していればよかったな。ね、ジゼル。お願い。僕ともして? だめ?」
「でも、先ほど結婚すると――……」
「まだ正式に決まったわけじゃないよ。たとえそうなるとしても……望まぬ結婚をする前に、好きな女の子と一夜の夢を見たいって思うのはおかしい?」
いつもヴァルトロは優しくて、余裕があって、一歩引いて見守ってくれているイメージだったのに、突然ぐいぐいと迫られてジゼルは困惑する。――けれど困惑以上に、余裕なく必死にねだるヴァルトロの意外な一面を見せられて、ジゼルは不思議なほど胸が高鳴っていた。
ヴァルトロのことは好きだ。
いきなりエスター家の養女にされて右も左もわからないジゼルに、自分も状況が飲み込めないなかでもヴァルトロはとても優しくしてくれた。ヴァルトロがいなければ、エスター家に馴染むのはもっと時間がかかっただろう。何もできないジゼルに焦れもせず、幼い子どもだって知っているようなことでも、いつも穏やかに根気強く教えてくれた。
優しくて、頭もよくて、なんでもできて、かっこいいヴァルトロが、今はジゼルの前に跪き縋りついて愛想を振りまいている。
(ヴァルトロお兄様は、お兄様なのに……なんでこんなに変な気持ちになっちゃうんだろう? 私、ヴァルトロお兄様に求められて、う、うれしいって思ってる)
「……少し、時間をもらえませんか?」
「いいよ。なにも今すぐ抱こうってわけじゃない。抱きたい気持ちはやまやまだけど、ジゼルの気持ちが一番大事だ。今まで僕のことはお兄様として見ていたんだから、急には切り替えられないだろう。――君に男として好きになってもらえるようにたくさんアピールするから。それでも僕を男として見られないというのなら、潔く女王のもとに嫁ぐよ。キリアンがつけた痕が消えた頃、返事を聞かせてほしい」
「……わかり、ました」
指先にキスをされ、ジゼルは頬を赤らめる。
自分が何に躊躇っているのかわからない。ジゼルは自分の中に〝ヴァルトロを拒否する〟という選択肢が存在しないことをわかっていたにもかかわらず、返事を先送りにした。
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
【完結】女当主は義弟の手で花開く
はるみさ
恋愛
シャノンは若干25歳でありながら、プレスコット伯爵家の女当主。男勝りな彼女は、由緒ある伯爵家の当主として男性と互角に渡り合っていた。しかし、そんな彼女には結婚という大きな悩みが。伯爵家の血筋を残すためにも結婚しなくてはと思うが、全く相手が見つからない。途方に暮れていたその時……「義姉さん、それ僕でいいんじゃない?」昔拾ってあげた血の繋がりのない美しく成長した義弟からまさかの提案……!?
恋に臆病な姉と、一途に義姉を想い続けてきた義弟の大人の恋物語。
※他サイトにも掲載しています。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
襲われていた美男子を助けたら溺愛されました
茜菫
恋愛
伯爵令嬢でありながら公爵家に仕える女騎士イライザの元に縁談が舞い込んだ。
相手は五十歳を越え、すでに二度の結婚歴があるラーゼル侯爵。
イライザの実家であるラチェット伯爵家はラーゼル侯爵に多額の借金があり、縁談を突っぱねることができなかった。
なんとか破談にしようと苦慮したイライザは結婚において重要視される純潔を捨てようと考えた。
相手をどうしようかと悩んでいたイライザは町中で言い争う男女に出くわす。
イライザが女性につきまとわれて危機に陥っていた男ミケルを助けると、どうやら彼に気に入られたようで……
「僕……リズのこと、好きになっちゃったんだ」
「……は?」
ムーンライトノベルズにも投稿しています。
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。