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『オナニーを見せないと出られません』
鍵のかかった扉の上に、そう書かれていた。
唖然としながらも、おそるおそる横へ視線を向ける。この妙な部屋に一緒に閉じ込められたのが、恋人であるラファエロ様でよかったと思うべきか。
「何をしても扉は開きませんし、困りましたね」
「……!?」
あまりに冷静な声音だったことに驚いて、わたしよりも随分と背が高い彼を勢いよく見上げる。
ラファエロ様は、同じ文章を読んだとは思えないほど落ち着き払っていた。わたしはこんなにうろたえているのに、少しも動揺を感じさせない態度だ。恥ずかしがっている自分のほうがおかしいのかと思わされる。
それとも、職業柄こういうトラブルに慣れているのだろうか。
「ルミナ? なぜそんな目で私を見つめるのですか?」
きょとんとした顔で首を傾げるラファエロ様に対し、「だってオナニーを見せろって書いてあるんですよ!?」と言いかけて、喉まで出かかったそれを呑み込む。
ふとあることに思い至ったからだ。
ラファエロ様は聖騎士。選ばれし者だけが生まれながら持つと言われる聖力を扱える、尊き存在だ。
――ま、まさかこの反応は……『オナニー』を知らない!?
知らない単語が出てきたから〝困りましたね〟なのね!?
二十代の男性が、そのようなことありえるのだろうか。
しかし神に仕える聖騎士には清らかさが求められるのかもしれない。そう考えると、これまで性欲とは無縁だったとしてもおかしくはなかった。
だから付き合って半年経つのにキスすらしてくれないのね。女としての魅力が足りないのかもしれない、と悩んでいた時間は無駄だったみたいだ。
ラファエロ様には、この指示をこなすことは不可能だろう。
壁も扉も、聖力をまとわせた剣で斬っても傷ひとつつかない。この部屋を出るには、文字どおり『オナニーを見せない』といけないのだ。
ラファエロ様は、聖騎士の中でも三本の指に入る聖力の強さを持っている。そのため非常に忙しく、明後日から三カ月は魔を狩るための遠征に出ると言っていた。このような場所にいつまでも閉じ込められていては世界の損失につながるだろう。
こうなったら、わたしが身体を張るしかないわ!
「あのっ、ラファエロ様」
わたしが呼んだのだからこちらを見るのは当然の流れだ。しかし目を合わせられない。火がついたかのように顔が熱かった。
「聖騎士であらせられるラファエロ様は、オナニーなんてしたことないですよね。ですからっ、わ、わたしがしますので、ラファエロ様は見ていてくださいっ!」
「……え?」
「でも、あの、どうか……、部屋を出られたあとも、わたしのことをきらいにならないでくださると……約束してください…………」
なんとか言い切り、最後に視線を合わせる。
恥ずかしいし、もし「汚いものを見せるな」とか言われたらと考えるだけで涙が出そうだ。
わたしを気遣って、ラファエロ様がそっと手を握ってくれる。彼は何を見せられるかも理解していないにもかかわらず、「お約束します」と安心させるようにほほえんだ。
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