ウチの学校の番長は特進科2年生

夏輝

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リッキのゴミ掃除

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 十五章
 
 10月も半ばを過ぎると2学期の中間テストがある。試験勉強でも律輝と華恋かれんは一緒だった。市内の図書館に行き、教科書の内容は違うが、机を並べて勉強した。
 そして、試験の最終日。今日も律輝は華恋と下校していた。
 「ねえ、カレンちゃん。近頃、ずっと僕と一緒でつまんなくない? 試験明けの日ぐらい、友達と遊びに行ってもいいんだよ。僕、邪魔せずに黙って近くにいるから」
 だが、華恋は首を横に振る。
 「いいの。わたし、リッキ君といると楽しいの。リッキ君は頭がいいから、いろんなことを教えてくれるし」
 華恋は空を見上げた。空はもう、すっかり秋空になっていた。彼女の言ったことは本当だった。律輝といるのは本当に楽しい。紗里には悪いが、通学のときだけという約束を破りたくなってしまう。
 律輝も空を見上げた。
 「今度の中間テスト、花岡商業での最後のテストになるんだよね。結果は東京の高校に引き継がれるの?」
 「うん。そうなるって聞いてる」
 「そうかぁ。東京ではどんなことするの?」
 「事務所の寮に入って、学校に行きながら歩き方や話し方、歌にダンスにお芝居のレッスンを受けるの。そんなことやってる間に、わたしをどんな方向で売り出すのか考えるんだって」
 「大変そうだなぁ。そう言えば、僕、東京の大学に行ってる兄さんがいるんだ。今度、遊びに行ってみようかな。そうしたら向こうでも会えるね」
 華恋の顔が輝いた。
 「おいでよ。待ってる。そのときまでには、東京を案内できるようになってるから」
 
 
 華恋の自宅まで、もうすぐというときのことだった。路地の陰から背の高い男が出てきた。華恋は顔を引きつらせる。男はニヤリと笑った。
 「華恋ちゃん久しぶり。そのちっこいのが、いつもうろうろしてるから、なかなか会いに来れなかったんだ」
 律輝は華恋を見た。
 「これが松田?」
 恐ろしそうな顔で華恋はうなずいた。松田は手招きをした。
 「ちょっとこれ、見てくれないかな」
 路地の奥を見ると、花岡商業の制服を着た女子生徒が、男に羽交い絞めにされていた。男の右手にはナイフが握られ、女子生徒の顔に突きつけられている。その横にももう1人、男がいた。
 「ユキちゃん!」
 女子生徒は華恋と仲の良いクラスメイトの遠藤有紀だった。松田は猫なで声をだした。
 「そのチビはここで帰らせて、俺たちと来てくれないかな。そうでないと、友達の顔がズタズタになっちゃうよ」
 有紀は恐怖で体を震わせて、涙をポロポロ流している。
 「カレンちゃん助けて‥‥」
 緊迫した空気の中で、律輝は大きなため息をついた。
 「お前ら、三流アクション映画の見過ぎじゃないの? どんなことをしても、カレンちゃんは渡さないよ。もし、その女の子の顔に傷をつけたら、お前らは僕がズタズタにしてやる。それでもいいの?」
 律輝は松田に近づき、さりげなく通学用カバンのポケットに手を当てた。
 「なあ松田。お前、バカだから、こんな卑怯なマネ思いつかないだろ? 誰かに教えてもらったんじゃないのか? 卑怯なチンピラの戦い方しか知らない奴にさ」
 「うるせえ!」
 頭に血が昇った松田は律輝に殴りかかってきた。有紀にナイフを突きつけている男の視線が、一瞬、律輝から松田に移った。律輝はそれを見逃さなかった。松田の拳を腰を下げてかわしながら、ポケットから素早く玉のようなものを取り出し、屈んだ姿勢のままナイフの男の肩に力いっぱい投げつけた。
 
 『母の教え八、卑怯な手を使う相手には飛び道具を使え』
 
 律輝は華恋のボディーガードを引き受けたときから、万一のときに備えて、通学用カバンのポケットにいつでも取り出せるよう、ゴルフボールより少し小さめの鉄球を入れていた。5メートル以内なら外さない自信がある。
 「ぎゃっ!」
 鉄球はナイフの男の右肩に命中した。ナイフを足元に落とす。男に構わず、律輝は上半身を起こしながら、松田の顎にアッパーを食らわせた。松田は後ろに吹っ飛んだ。
 さらに律輝はもう1人の男にも胸に鉄球を投げた。男は胸を押さえて息もできずに喘いでいる。
 「あーあ。ナイフの方は肩を骨折。野球選手なら引退だね。もう1人は肋骨を骨折。息をするのが苦しいだろうね。2人とも病院に行った方がいいよ」
 そして、茫然と立っている有紀に声をかけた。
 「こっちにおいで。もう大丈夫だから」
 有紀は駆け出した。それを華恋がしっかり抱きしめる。有紀は泣きじゃくっていた。
 律輝は起き上がろうとしている松田の顔を蹴飛ばした。
 
 『母の教え九、女を殴る男はゴミだ。ゴミはちゃんと掃除しろ』
 
 松田のことが律輝は許せなかった。何を企んでいたのか華恋に執着し、彼女を奪うために友人の顔に傷をつけようとした。こんな人間は本当に痛めつけねばならない。二度とこんなことをしないように、思い知らせねばならない。そうでないと、世の中の女性たちは安心して暮らせない。
 いつか太陽学園の村山にやったように、仰向けになっている松田の肝臓の上を踏みつけた。
 「ぐわっ!」
 松田の体は痺れ、全身に激痛が走った。その腹の上に律輝は腰を下ろし、襟首をつかまえて力いっぱい平手打ちした。何度も何度も。路地に破裂音が響いた。
 しばらくすると、端正だった松田の顔はサッカーボールのように腫れ上がり、鼻や口から噴き出した血で血まみれになった。もう完全に戦意を失い、律輝に怯えていた。
 律輝はようやく手を下ろす。
 「何のためにカレンちゃんを追い回した? こんなことまでするんだから、自分の彼女にしたかった訳じゃないだろ?」
 松田は黙っていたが、律輝が再び手を上げると、顔をかばうように両手をかざす。
 「わかった。言うから、もうやめてくれ」
 有紀の肩を抱きながら、華恋も黙って松田を見ていた。
 「‥‥田岡さんが考えたんだ。華恋を捕まえてレイプして、その動画を撮れって。華恋はもうすぐ芸能界に入る。金が稼げるようになったら、その動画をネタに金を脅し取ろうって」
 華恋の顔は真っ青になった。怒りが爆発した律輝は平手ではなく、拳で松田の顔を力いっぱい殴った。折れた奥歯が2本吹き飛んだ。
 「お前たちは何もわかってない。カレンちゃんは強い子なんだ。もしそんなことになったら、芸能界の夢をあきらめてでも、お前たちを地獄の果てまで追い詰める。そんな子だ」
 そして、律輝は田岡の居場所を聞いたが、松田は知らなかった。指示があるときは携帯でメッセージが来るだけだった。だが、律輝はあきらめなかった。北山工業で田岡とつながりがありそうな奴ら、数人の名前を聞き出した。
 松田に用がなくなったとき、鉄球を投げつけられた男たちは姿を消していた。
 「ケガが治ったら、お前は毎朝、早起きして新聞配達のアルバイトをするんだ。アルバイト代をもらったら、お前が今まで傷つけてきた女の子たちに、少しずつでいいから慰謝料を渡せ。お前の謝罪の気持ちを見せろ。やらないときは、今日よりもっと痛めつける」
 そう言って、華恋と有紀を連れてその場を立ち去った。
 
 華恋を自宅まで送り届け、次に律輝は有紀を家まで送って行く。華恋は去っていく律輝の後姿を窓から見ていた。
 律輝の強さは噂以上だった。3人の男をあっという間に血祭りにあげた。やっていることは凄惨なのに、彼の目は怒りではなく、正義感に燃えていた。
 華恋のため、世の中の女性のために、あの男たちを叩きのめしたのだ。律輝が怒りで松田を殴ったのはただ一度。華恋のレイプの話のときだけだった。
 華恋は律輝の目の中に『本物の漢』を見た。胸の奥が熱く燃え上がった。
 
 
 華恋のボディーガードが終わった律輝は、1人で北山工業に乗り込んだ。そして、松田から聞いた、田岡とつながりのありそうな男たちを片っ端から叩きのめした。だが、誰もが松田と同様に、田岡との連絡は携帯だけで、居場所を知る者はいなかった。
 しかし、何の収穫もなかった訳ではない。律輝は叩きのめした男たちに、田岡が実は小悪党で、本物の悪党からは相手にされていないので、年下の者を集めてケチな悪事を働いているという話をした。
 最初、彼らは半信半疑だった。だが、1人が「そう言えば、田岡さんが同じ歳か、年上の人と一緒にいるのを見たことがない」と言うと、次々に小悪党を表すような話が出てきた。
 最後には律輝と北山工業のヤンキーたちとの間に妙な信頼感が生まれ、両校の間に揉め事が起きたときは、ケンカではなく話し合いで解決しようということになった。律輝が行ったことは、無駄足にはならなかった。
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