ウチの学校の番長は特進科2年生

夏輝

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リッキとサリの2人だけの結婚式(非合法)

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 十九章

 冬休みが明け、3学期が始まった。卒業式は3月初めにあるため、紗里にとって高校生活は実質、あと2ヶ月もない。
 この日の昼食は2人で学食で食べていた。
「卒業したら、一緒にいられる時間、短くなるね。あんたは受験対策が本格的に始まるし、あたしも経理の勉強で今より忙しくなるだろうし」
 さみしそうな顔の紗里に、律輝は笑顔で応える。
「でも、同じ街にいるんだから、休みの日や平日でも、夕方以降なら会えるじゃない」
「ねえ、あんた、本当に警察官になりたいの?」
「うん。そのことで、父さんと兄さんにも相談したんだ。2人とも、本気なら東京の有名大学に行って、そこでちゃんと勉強して、国家公務員の総合職の試験に合格して行くのがいいって言ってた」
「総合職?」
「波川さんが言ってた“キャリア”ってやつ。そうなれば、本当に警察の幹部が目指せるんだって」
「ふーん。じゃあ、やっぱり東京の大学に行くんだ‥‥」
 暗い表情になりかける紗里に律輝は明るく言う。
「会う時間は減るけど、ウチの父さんは東京の大学に行ってる間も母さんと遠距離恋愛を続けて、卒業後に結婚したんだよ。僕たちだってできるよ」
「そうだね」
 それでも、紗里の心は晴れなかった。


 1月の終わりの日曜日。紗里は律輝の家に遊びに来ていた。本来なら母の美智がいるはずなのだが、パート先の同僚が急に休みたいと言い出したため、代わりに美智が入ることになった。だから、今日の矢村家は夕方まで2人きりだ。
 昼食は冷蔵庫の残り物で2人でチャーハンを作って食べた。食後からは恋人タイムだ。律輝の部屋に行ってベッドに並んで腰かける。律輝は少しうつむいていた。
 実は紗里は来たときから、律輝の様子が少しおかしいと感じている。顔を覗き込むように見た。
「どうしたの? 今日は何だか元気ないね」
 律輝は気弱な笑みを浮かべた。
「‥‥実はね、僕、少し不安なんだ‥‥」
「不安?」
「‥‥この前は、会う時間が減っても大丈夫みたいなこと言ったけど、サリの卒業が近づいてくると、変なこと考えちゃって‥‥」
「変なことって?」
 律輝はさらにうつむいた。
「‥‥高校を卒業したら、サリは経理の専門学校に行って、資格を取って社会に出る。大人の世界に行くんだ。大人の世界ではいろんな人と出会うだろう。でも、僕はまだ学生で子供で、未熟者だ」
 そして、深いため息をついた。
「サリはきれいだから、社会に出たら大人の男性に、『付き合ってください』なんて言われるかもしれない。そうなったら、もう、子供の僕の相手なんかしてくれないかもしれない。僕のところに遊びに来てくれないかもしれない。そんなこと考えると、不安になって‥‥」
 1歳年上で先に社会に出て行く紗里に、大人の男性という強力なライバルが現れたらどうしよう、それが律輝の不安の種だった。紗里は律輝の手を握った。
「バーカ。バーカバーカ」
 からかうような声でそう言うと、ピッタリと肩を寄せた。
「あたしはあんたが好き。好きだからファーストキスをあげた。好きだから処女をあげた。好きだから将来、自分の人生を預けるつもり。この気持ちが信用できないの?」
「信用してるよ。でも、サリは美人だから心配で‥‥」
 不安な律輝には悪いが、紗里はうれしくなってきた。
「あたしのこと、そんなに美人だと思ってるの?」
「うん‥‥目がきれいで、笑うとキラキラ輝くんだ。こんな女の子、探したってどこにもいない」
 ますます紗里はうれしくなってくる。
「他にはどんなところが好き?」
「脚が長くて、スタイルが良くて、性格だって、かわいくて、優しくて、面白くて。そんな素敵な女の子なのに、セックスのときは思いっきり淫らで、激しくて、僕を興奮させてくれる。僕、セックスの相手は絶対サリじゃないとダメだって思うんだ‥‥」
 紗里は本当にうれしくなってきた。今まで律輝は何度も「きれいだね」と言ってくれたが、ここまで本気で言っていたとは思わなかった。
「お兄さんの彼女の柏木美波さんより美人と思う?」
「思う。兄さんには言えないけど、サリの方がずっと美人だと思う」
「じゃあ、美人のあたしが社会に出たら、誰かに取られるかもしれないって思って不安なんだね?」
「うん。絶対にサリを誰かに取られたくない。一生自分のものにしておきたい」
「もし、あたしが誰かに取られたら、リッキはどうするの?」
「そんなこと言わないで。もしそうなったら、僕はサリを取った人に土下座して、何でもするから返してくださいって言う‥‥」
 紗里の喜びは爆発した。
「よし! わかった! 今から神社か教会に行こう! 2人だけで結婚式を挙げるんだ!」
「はっ?」
 律輝はポカンとした顔をしている。だが、気持ちが高揚した紗里は1人で立ち上がった。
「指輪もドレスも金ができたら用意すればいい! とにかく行こう! リッキ、立ちなさい!」
 そして、立ち上がった律輝を抱きしめて叫んだ。
「どの国の神様でもいい! 神様の前で2人は一生離れないって約束するんだ!」
「うん‥‥いいね‥‥」
 律輝は完全に紗里の気迫に呑まれていた。
 結局、神社も教会も見当たらず、近所の小さなお寺で2人は永遠の愛を誓った。


 2月中旬。学年末テストも終えて卒業式の目前、律輝と紗里は繁華街に買い物に出ていた。
 何気なく覗いた雑貨店に、クラスメイトの谷川圭介と、1つ年上の彼女である新山千里がいた。2人とも楽しそうな顔をしている。
 千里は圭介の助けもあり、彼女の地元にある大学のスポーツ科学部に合格していた。
「何してるの?」
 2人は安い指輪のコーナーで商品を選んでいた。律輝の声に振り向く。
「あっ、リッキ君。九重さんも、こんにちは」
 圭介と付き合うことで明るくなった千里は、今では紗里や玲奈たちともうまく付き合っている。千里は少し頬を赤らめた。
「‥‥もうすぐわたしたち、遠距離恋愛になるから、さみしくならないようにって、ケイ君が考えてくれたの」
 圭介も少し赤くなった。
「おもちゃみたいな安物だけど、2人で同じデザインの指輪を買うんだ。さみしくなったらそれを指につけて、相手のことを考えながら『いつか本物の指輪にするんだ』って思うんだ。そうしたら、さみしくなくなって、今、目の前にあることに集中できるんじゃないかなぁって気がして」
 紗里は圭介の言葉を眉間にシワを寄せながら聞いていた。
「‥‥いい‥‥すっごくいい‥‥谷川、あんた、やるじゃない」
 そう言って満面の笑みになった。
「リッキ、あたしたちも買おうよ!」
「えーっ。だって僕たち、遠距離恋愛って訳じゃないだろ?」
「一緒にいる時間が減るんだから、似たようなモンでしょ?」
 笑顔で千里と圭介に交じり、指輪を選び始めた。「お寺で愛を誓ったはずなのに」と、律輝はあきれ顔になったが、紗里の機嫌が良くなるならと思って3人の輪の中に入った。


 そして迎えた卒業式。律輝は自ら志願して在校生代表の祝辞を読んだ。祝辞は儀礼的なものでなく、卒業生たちと過ごした、ちょっと危なくて楽しい日々を振り返るものだった。
 教師たちは渋い顔をしていたが、ヤンキーやギャルたちの目には涙が光っていた。
 すべての行事が終わり、卒業生は正門前に集まっていた。今までは学校がうっとうしいと思っていた不良たちも、なかなか正門を出ようとしない。律輝は卒業生たちに囲まれていた。その中には、去年の5月に律輝に叩きのめされた村山もいる。
 村山は自分の非を認め、ずっと律輝に謝りたいと思っていた。だが、なかなかそれができなかった。そこで、ヤンキーグループのリーダー格である武田が、仲立ちをしてくれたのだ。
「ねえ、リッキ君。卒業しても、たまには一緒に遊ぼうよ」
 ギャルグループの玲奈がそう言うと、
「うん。“友達”としてね」
 と律輝が返す。
「最後まできつーい」
 細い眉毛をハの字にした玲奈の横で、紗里は高笑いをしていた。
 近くでは千里と圭介が何か話をしている。圭介も千里を送るため、卒業式に参加していた。ふと、律輝は気づいた。2人とも左手の薬指に、先日買った指輪をつけている。
 ―ひゃー! 谷川君とチサトちゃん、やるー!―
 和やかな雰囲気の正門前に、突然、2年生のヤンキーグループの1人、水巻航が駆け込んできた。航は卒業式には参加していないため私服姿だった。
「リッキ、大変だ!」
 航は血の気の引いた引きつった顔をしている。
「コウ君どうしたの?」
「駅前で梅崎が派手なタトゥーを入れた奴らに絡まれてる。あれはどう見ても半グレだ。リッキ、助けてくれ!」
「わかった」
 律輝は卒業生たちに頭を下げた。
「こんなお別れになって、ごめんね。僕、行かなきゃ」
 卒業生たちの中から武田が前に出る。
「早く行ってやれ。お前はウチの学校の仕切りなんだから」
「武田さん、ありがとうございます」
 そう言って、律輝は航とともに駆け出した。その背中に紗里が大きな声をかける。
「無理しないで! ホントにヤバいと思ったら、波川さんに頼るんだよ!」
「わかってる!」
 律輝は走る速度をどんどん上げた。そして、あっという間に見えなくなった。
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