ウチの学校の番長は特進科2年生

夏輝

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紗里を忘れ、母の教えを忘れた、ただの暴走

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 十八章

 翌日のクリスマスには、久しぶりに父の龍平が帰ってきた。その2日後には兄の達輝も帰省して、矢村家は家族が勢揃いした。
 やがて年が明け、元日は朝早く紗里と待ち合わせをして、学業の神様として名高い天満宮に初詣に行った。律輝の大学受験はまだ来年だが、4月から紗里は資格取得のために新しい勉強を始める。
 参拝の後に参道で生姜の効いた甘酒を飲んで、2人は街の繁華街に戻ってきた。昼食時、元日でも食べる店は開いているだろうと思っていたものの、休んでいる店も多い。開いていても待っている客が大勢いるため、ここならば大丈夫だろうと、2人は地下街に入った。
 だが、地下街も人が多くて席を待つ客が並んでいた。
「参ったなぁ。元日を甘く見てたね」
「あたし、コンビニのイートインなんかでもいいんだよ」
 そんなことを話しているとき、突然、地下街に男の怒号が響き渡った。
「止まれ!」
 声のした方を見ると、一目で堅気じゃないとわかる格好をした男が全力で走っており、その後ろを2人の男が追っている。追いかけている方の1人を見て、律輝は息を呑んだ。中央署の波川だった。
 ―事件だ!―
「ここで待ってて」と紗里に言い残し、律輝も波川たちの後を追った。
 波川たちは逃げていた男を地下街の脇道になる通路に追い詰めていた。この通路は現在工事中で先は行き止まりだ。
 追い詰められた男は腰のベルトから拳銃を抜いた。
「来るな!」
 そして、追いついた波川たちに銃口を向けた。波川は両手を上げる。場数を踏んできただけあって落ち着いていた。
「そんなものを出してどうする? 今ならまだ軽い罪で済む。銃を下に置くんだ」
 だが、男は逆上していた。
「ウソ言うな! アニキたちは俺に罪をなすりつけて、今頃は海外だ! このままじゃ、俺はひでえことになる!」
「だから、本当のことを話せばいいじゃないか。俺たちは藤島たちより、お前の言うことを信じるぞ」
 波川の説得で、男の呼吸が少し落ち着いてきた。波川は語りかける。
「お前のことは調べた。お前は本当は極道やってるような奴じゃない。惚れた女もいるんだろ? まだ間に合う。今のうちに足を洗え」
 波川たちのかなり後ろには、やじ馬が集まっていた。律輝もその中にいる。だが、男が拳銃を持っているのを見ると、我先に逃げ出した。
 そのパニック状態の中で老人が突き飛ばされ、持っていた杖が大きな音を立てて床に倒れた。地下街に響き渡る、弾けたような音だった。
 落ち着きかけていた男はその音で、反射的に銃の引き金を引いた。
 パンッ!
 乾いた音とともに、波川が倒れた。
 一瞬にして律輝の中に怒りの炎が燃え上がった。感情だけで銃を持った男に向かって突っ走った。

『母の教え十、本当にヤバいときは、危険に近づくな』

 だが、律輝は母の教えを破った。
 男は律輝に気づいたが、波川の相棒が拳銃を抜いて構えているため、そちらに銃が向けられなかった。律輝は男の体の下に滑り込むように入り込み、銃を持っている手を下からつかんで払い落とした。そして、立ち上がりながら投げ飛ばした。
 大きな弧を描いて男は通路の床に叩きつけられ、うめいているところを刑事に押さえつけられて、手錠をかけられた。
 律輝は倒れている波川に駆け寄った。上半身が血に染まっていた。だが、律輝をにらんで怒鳴った。
「バカ野郎! 銃を持ってる奴に何てことするんだ! 西城がいなかったら、お前死んでるぞ!」
 正義のヒーロー、波川の血まみれの姿に律輝は気が動転していた。
「すみません‥‥すみません‥‥波川さん、死なないで‥‥死なないで‥‥」
 見る見るうちに律輝の目から涙が溢れてきた。苦痛に耐えながらも、波川は次第に優しくなった声で言う。
「撃たれたのは肩だ。これじゃ死なねえよ」
 間もなく救急車が到着し、波川は運ばれていった。波川の姿が見えなくなったとき、律輝の前に紗里が立っていた。紗里は何も言わず、いきなり律輝の頬に平手打ちを食らわせた。
 

 事件の数日後。律輝は紗里とともに市内の病院を訪れた。入院している波川の見舞いだ。ベッドの横には妻の由梨が座っている。由梨は怖い顔の波川の妻とは思えない美人だった。大きなお腹を抱えている。
 紗里を紹介した律輝は目を輝かせた。
「僕、人生の目標を決めたんです。将来は警察官になりたいです。波川さんみたいに、悪い奴には厳しくて、弱い人には優しい、正義の味方になりたいんです」
 だが、波川は苦笑いした。
「やめとけ。お前みたいに無鉄砲な奴は、そのうち死ぬ」
 頭をかきながら律輝は笑顔で紗里を見た。
「それは心配ありません。サリと約束したから」
「約束?」
 律輝は照れくさそうな顔でうなずく。
「あの後、僕はサリにすっごく叱られたんです。あのときの地下街は本当に危険な状況でした。僕がやるべきことはサリのそばにいて、危険から彼女を守ることでした。でも、好奇心から波川さんたちを追いかけて、あんなことをしてしまった。深く反省しています」
 そして、紗里に向かって頭を下げる。紗里は腕を組んで「よし」と言っていた。
「これからは無鉄砲な僕が暴走しそうになったら、サリが手綱を引いて正しい方向に向かせて、僕は素直にそれに従うって約束したんです」
 市内の高校生の間では無敵という噂の少年が、唯一、頭が上がらないのが、この背の高い、少し派手な身なりの少女なんだろうと波川は思った。
「そうかい」
 波川は優しい顔だった。
「お前は優等生だ。いい大学に行って、キャリアとして警察に入ったら、いつか俺の上司になるかもな」
「そうならないように、あんたも出世しなよ」
「簡単に言うなよ。出世って難しいんだぞ」
 由梨と波川のやり取りに、律輝と紗里は笑ってしまった。怖い顔の波川だけど、家庭の中では由梨の尻に敷かれているのかもしれないと思った。

 和やかな会話の後、律輝と紗里は病室を出て行った。由梨はうれしそうな目で波川を見る。
「警察官になってよかったね。正義の味方なんて言ってもらったんだから」
「よせよ。恥ずかしいだろ」
 波川は居心地の悪そうな顔をしている。由梨は大きなお腹をさすった。
「おーい、あんたのパパは正義の味方なんだよー」
 お腹の中の子供に話しかけ、2人で同時に笑った。
「わたし、リッキ君と紗里ちゃんって、将来結婚すると思う。見た目は全然釣り合ってないけど、お互いを本当に大切にしてるのがわかるから」
「そうだな。あんな女房がいれば、警察に入っても、あいつ、無茶はしないだろう」
 律輝のことを思い出しながら、波川は将来、本当に彼が上司になったとしても、それはそれで楽しいかもしれないと思った。
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