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一章ー男装令嬢と堅物の義兄ー
閑話・水遊びと少しの計算(エクセン王子視点)
私はエクセン・ヴァスリャス、第二王子だがこの国王太子だ。
この国は魔力適正と魔力保持量で一生を左右される。
私は三属性の魔力適正とそこそこの魔力量を持っていた結果、兄である第一王子デュール兄上を差し置いて、王太子に据えられた。
この国の仕組みは歪んでいる。そう思っていても、私は動けずにいた。
動かなければ、という使命に燃えることはなかった。ただ、大切な兄から大切なものを奪い取った無力感に苛まれていた。
そんな時、私の目の前に現れたのがパシェンだ。
パシェンは正義感に燃える青年だった。
魔力適正と魔力保持量ゼロの義妹の幸せのために、とこの国を変えるのだと意気込んでいた。
冷淡な性格に似合わない熱血なところがあるパシェンに、名は体を表すとはこのことか、と感心したのをよく覚えている。
『パシェン』とは古代の言葉で『情熱的な男』という意味だ。
最初は冷えた外見と性格をしたパシェンにどうしてそんな名がついているのか、と首を傾げたものだが、親しくなればなるほど、パシェンは本当に正義感の強い青年だった。
私より三つ年下のパシェンの熱意に引きずられる形で、私はパシェンと組むことにした。
今日も執務室から外の光景を眺める。
騎士団の剣の稽古の様子が見えるが、そこにパシェンが気にかけているフィーネという少年の姿はない。
フィーネはパシェンの義妹と同じ魔力適正と魔力保持量がゼロの少年だ。
彼が騎士団に入団した経緯は知らないが、騎士団は魔力適正と魔力保持量で入団者を弾かない。
――というより、魔力適正と魔力保持量ゼロの人間が騎士団の門戸を叩いた過去がなく、前例がなかったのだ。
結果フィーネの入団は議論こそあったものの、パシェンの熱い要望により受け入れられた。
パシェンはフィーネに入団前から期待していたのだ。
フィーネが騎士団で良い成果を出せれば、魔力適正と魔力保持量ゼロの人間へのあたりも柔らかくなるだろう、と。
私もパシェンを応援する形でフィーネの入団を認める書類に裁決を押した。
「ああ、そうだ」
フィーネといえば、一つ、いい案が脳裏をよぎった。
にこりと笑って私は足取りも軽く執務室を後にするのだった。
* * *
騎士団の庭で雑草の草むしりをしている後ろ姿をみて、私は声をかけた。
「フィーネ」
「はい!」
穏やかな声で名前を呼ぶと、フィーネはぱっと立ち上がってくるりと体を反転させ振り返った。
「どうされましたか、エクセン王子」
「水遊びをしないかい?」
「水遊び……?」
きょとんと首を傾げるフィーネに、私はこっちだよ、と手招きをする。
フィーネは足元の雑草と私の顔を見比べて少し迷っていたようだが、素直についてきてくれた。
「最近暑いだろう。涼を取ろうと思ってね。パシェンも呼んだんだ」
井戸に近づくと先に呼んでおいたパシェンが井戸の傍で不機嫌そうな顔で佇んでいる。
「やあ、パシェン」
「エクセン王子、私は忙しいのですが」
「奇遇だね、私もだよ」
私たちのやりとりをフィーネがはらはらとした様子で伺っている。
パシェンが私についてきたフィーネの姿を見て、ますます眉を顰めた。
フィーネが軽く息を飲んで私の後ろに隠れる。パシェンがますます不機嫌そうにするのが、面白くてたまらない。
まったく、私の友はわかりやすい。
「童心に帰って水遊びといこう。井戸の水は使い放題だしね」
「井戸の水は使い放題ではありません」
「まあまあ、固いことを言わずに」
そういって私は井戸の水を汲もうとするとフィーネが慌てた様子で「僕がやります!」と私の手伝いをしてくれた。
パシェンは不機嫌を隠しもせず腕組みをして動かない。そういうところだぞ、パシェン。
「ほら、井戸水は冷たい」
「本当ですね!」
くみ上げた井戸水に手を突っ込んでみせる。真似したフィーネがぱっと顔を輝かせた。
私はにこにこと笑ったままフィーネにぱしゃりと水をかける。
「わっ」
「冷たくて気持ちいいだろう?」
「えっと、はい!」
一瞬反応に迷った様子を見せたフィーネだが、すぐに笑顔で頷く。私はパシェンに向かっても井戸水をかけた。
「エクセン王子!」
「私たちの中で一番厚着をしているのはパシェンだよ」
くすくすと笑うと、パシェンはむっとした顔でずかずかと近づいてきた。
そのまま桶に手をつっこんで、私に水をかけてくる。
「あはは、いいね!」
その日、私は童心に帰った気持ちでパシェンとフィーネと遊んだ。
もちろん、途中で抜けてパシェンとフィーネを二人きりにすることも忘れない。
見ていてわかるけれど、パシェンはリーベ嬢と似ているフィーネのことも気にしているからね。
この国は魔力適正と魔力保持量で一生を左右される。
私は三属性の魔力適正とそこそこの魔力量を持っていた結果、兄である第一王子デュール兄上を差し置いて、王太子に据えられた。
この国の仕組みは歪んでいる。そう思っていても、私は動けずにいた。
動かなければ、という使命に燃えることはなかった。ただ、大切な兄から大切なものを奪い取った無力感に苛まれていた。
そんな時、私の目の前に現れたのがパシェンだ。
パシェンは正義感に燃える青年だった。
魔力適正と魔力保持量ゼロの義妹の幸せのために、とこの国を変えるのだと意気込んでいた。
冷淡な性格に似合わない熱血なところがあるパシェンに、名は体を表すとはこのことか、と感心したのをよく覚えている。
『パシェン』とは古代の言葉で『情熱的な男』という意味だ。
最初は冷えた外見と性格をしたパシェンにどうしてそんな名がついているのか、と首を傾げたものだが、親しくなればなるほど、パシェンは本当に正義感の強い青年だった。
私より三つ年下のパシェンの熱意に引きずられる形で、私はパシェンと組むことにした。
今日も執務室から外の光景を眺める。
騎士団の剣の稽古の様子が見えるが、そこにパシェンが気にかけているフィーネという少年の姿はない。
フィーネはパシェンの義妹と同じ魔力適正と魔力保持量がゼロの少年だ。
彼が騎士団に入団した経緯は知らないが、騎士団は魔力適正と魔力保持量で入団者を弾かない。
――というより、魔力適正と魔力保持量ゼロの人間が騎士団の門戸を叩いた過去がなく、前例がなかったのだ。
結果フィーネの入団は議論こそあったものの、パシェンの熱い要望により受け入れられた。
パシェンはフィーネに入団前から期待していたのだ。
フィーネが騎士団で良い成果を出せれば、魔力適正と魔力保持量ゼロの人間へのあたりも柔らかくなるだろう、と。
私もパシェンを応援する形でフィーネの入団を認める書類に裁決を押した。
「ああ、そうだ」
フィーネといえば、一つ、いい案が脳裏をよぎった。
にこりと笑って私は足取りも軽く執務室を後にするのだった。
* * *
騎士団の庭で雑草の草むしりをしている後ろ姿をみて、私は声をかけた。
「フィーネ」
「はい!」
穏やかな声で名前を呼ぶと、フィーネはぱっと立ち上がってくるりと体を反転させ振り返った。
「どうされましたか、エクセン王子」
「水遊びをしないかい?」
「水遊び……?」
きょとんと首を傾げるフィーネに、私はこっちだよ、と手招きをする。
フィーネは足元の雑草と私の顔を見比べて少し迷っていたようだが、素直についてきてくれた。
「最近暑いだろう。涼を取ろうと思ってね。パシェンも呼んだんだ」
井戸に近づくと先に呼んでおいたパシェンが井戸の傍で不機嫌そうな顔で佇んでいる。
「やあ、パシェン」
「エクセン王子、私は忙しいのですが」
「奇遇だね、私もだよ」
私たちのやりとりをフィーネがはらはらとした様子で伺っている。
パシェンが私についてきたフィーネの姿を見て、ますます眉を顰めた。
フィーネが軽く息を飲んで私の後ろに隠れる。パシェンがますます不機嫌そうにするのが、面白くてたまらない。
まったく、私の友はわかりやすい。
「童心に帰って水遊びといこう。井戸の水は使い放題だしね」
「井戸の水は使い放題ではありません」
「まあまあ、固いことを言わずに」
そういって私は井戸の水を汲もうとするとフィーネが慌てた様子で「僕がやります!」と私の手伝いをしてくれた。
パシェンは不機嫌を隠しもせず腕組みをして動かない。そういうところだぞ、パシェン。
「ほら、井戸水は冷たい」
「本当ですね!」
くみ上げた井戸水に手を突っ込んでみせる。真似したフィーネがぱっと顔を輝かせた。
私はにこにこと笑ったままフィーネにぱしゃりと水をかける。
「わっ」
「冷たくて気持ちいいだろう?」
「えっと、はい!」
一瞬反応に迷った様子を見せたフィーネだが、すぐに笑顔で頷く。私はパシェンに向かっても井戸水をかけた。
「エクセン王子!」
「私たちの中で一番厚着をしているのはパシェンだよ」
くすくすと笑うと、パシェンはむっとした顔でずかずかと近づいてきた。
そのまま桶に手をつっこんで、私に水をかけてくる。
「あはは、いいね!」
その日、私は童心に帰った気持ちでパシェンとフィーネと遊んだ。
もちろん、途中で抜けてパシェンとフィーネを二人きりにすることも忘れない。
見ていてわかるけれど、パシェンはリーベ嬢と似ているフィーネのことも気にしているからね。
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