【完結】幾月依玖(いくつきいく)の生き様-彼女の在り方、彼の愛し方-

久遠れん

文字の大きさ
5 / 40

5話・私と彼の心の話

しおりを挟む
 コンビニで成人男性がどれだけ食べるのか分からなかったから、適当に惣菜パンを四つと自分用におにぎりを一つ買う。

 ついでに五百ミリリットルのウーロン茶も。緑茶と迷ったけど、外人ならウーロン茶のほうがなじみがあるかもしれないと思った。紅茶は好き嫌いがわかれるし。

 日本ではメジャーなアイスティーは外国では邪道だと前に小説で読んだこともあるし。

 合計で千円以下。それでも私にしては買ったほうだ。自分の買い物ではないから当たり前かもしれないけれど。

 普段より重いビニール袋を提げて部屋に戻る。

 朝の位置から動かずに(起きた時点で布団はたたまれていた)いたらしいレイスにちょっとどいてもらって、昨日布団をしくときに端に寄せたテーブルをひっぱってくる。手伝ってくれたレイスにちゃんとお礼をいって、自分の分のミネラルウォーターをコップにいれてもってきて、準備は終わり。

「好み、わからなかったから」

 そういって、四つ買って来たパンを広げて、好きなものを取って、という。メジャーなところで焼きそばパンとコロッケパン、無難にクロワッサン、甘いものでメロンパン。

「イクの分は?」
「私はおにぎり。……こっちがよかった?」
「いやっ、そんなことは!」

 シンプルな塩むすびを見るまなざしがなんだか羨望の視線に思えて問いかければ慌てた様子で否定される。

 それは肯定しているのと一緒だなぁなどと思いつつ、ここでどうぞといっても恐縮させるだけだろうと、真剣な眼差しでパンを選び始めたレイスを横目に包装をはぐ。

「全部食べてもいいからね」
「ああ、ありがとう……あ、お金!」

 はっとした様子で顔を上げたレイスが止める間もなくごそごそと上着を漁りだす。正直期待していなかったので、ぼんやりと眺めていれば、案の定私にはどこの貨幣か分からないものがでてきた。多分お金だとは思う。多分。どこの国のものかかわらないけれど。

「これは、この国でも使えるか?」
「え、っと……」
「そうか……なら、こっちを」

 私の反応からつかえないと判断したのだろう。すぐに貨幣らしきものをしまったレイスはそういって首の後ろに手を回して胸にかけていたネックレスを外した。

 それはとても高価そうな宝石が花のようにあしらわれているもので、男性にしては不釣合いだな、などと思っていたもの。

 だけど、到底五百円程度の朝食には釣り合わないものだ。差し出してくるレイスにぽかんとしてしまって、あわててつき返す。

「も、もらえないよ!」
「だが、物には対価が必要だろう?」
「でも、こんな高くなくていい!」
「だけど、俺はこれしか持ち合わせが……」
「ならいらないから!」
「でも」

 堂々巡りの会話を約五分。たっぷり続けて最終的に折れたのはレイスだった。ように、思ったのだけど。

 レイスはそっと私の手をとると、有無を言わさず花の宝石を握らせた。ひっと高すぎるものへの拒否反応で声を上げた私の手を包み込んで握らせて、自分の手を重ねて目を伏せる。

「俺が帰るときに、それが必要なければ、返してもらおう。でも、もし必要ならもっていてくれ」
「……?」
「それはきっと、イクの心を守ってくれるから」

 微笑みながらいわれた言葉が、ぐさりと胸に突き刺さった。

 守る? 心を?

 ……笑わせないで、ほしかった。

 私の心は、こんな、いくら高価でも、こんな宝石に守れるものだというのだろうか。

 この、どうしようもなく傷ついた心が、宝石一つで治るというなら、私はどんな手段を用いても、これを手に入れるだろう。

 そういって嘲って、つき返して、しまいたかったのに。

 私の手を握る温度が、包み込む優しい心が、わかってしまったから。本心からの言葉だと、察してしまったから。

 私は、泣きそうな気持ちで、小さく頷くことしかできなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。 黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。 私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと! 薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。 そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。 目指すは平和で平凡なハッピーライフ! 連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。 この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。 *他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

処理中です...