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8話・私と彼の『愛』の話(1)
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「イク!」
「!」
大きな声にびくりと身体をすくめる。同時に夢から覚めた。起きれば夢を忘れるというけれど、私はこの夢を忘れたことは一度もない。
私が見る夢は、高確率でこの夢で、忘れようがなかった。むしろ、起きた時のほうがリアルに思い出せる。
そっと、夢の中でしめられた、首に触れる。どくどくと早鐘のような鼓動。冷たい指先。同じくひんやりとした感触の、自分の首。
生きているはずなのに、生きているのが不思議なほど冷え切った体。
ぞっと背筋を這い上がるものがあって、咄嗟に口を両手でふさいで体を丸くする。
少しずつ荒くなる呼吸。過呼吸だと気づいていたけれど、意識しても呼吸は元に戻らない。ぜっぜっと、不自然な呼吸を繰り返していると、ふと温かさに包まれた。
呼吸が苦しくて自然と浮かぶ涙をそのままに歪んだ視界をあげれば、目の前に薄緑色が広がっていた。……遅れて、レイスに抱きしめられているのだと、背中をなでる優しい温度がレイスの手だと気づいて、私はそっと目を閉じて、意識を委ねた。
どうしようもなく安堵できる体温に包まれて、私は静かに涙を流しつづけた。
* * *
ふと、意識が戻ったとき、外は真っ暗で時間なんてわからなかった。
相変わらず温かな心地よさに包まれていて、耳には同じくらい心地いい音楽が聞こえていた。
それは私には聞き覚えのない、音色で。
ゆっくりと顔を上げれば、目を閉じたまつげの長い、綺麗な表情が目に飛び込んできた。その口が動いていたから、耳に心地いいこの音色がレイスの歌う歌なのだと気づけた。
異国の言葉で紡がれるそれは、穏やかで優しい、とても居心地のいい歌だった。
しばらくぼうっと歌に耳を傾けてから、おもむろに自分の置かれていた状況を把握した。
胡坐をかいたレイスの膝の上に横抱きにされているのだと気づいて、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。涙を流したから、頬がひりひりと痛い。
だけど、不思議と意識はすっきりしていた。
「レイス」
そっと名前を呼べば、綺麗な調べを奏でていた口元がとまって、瞼の下から綺麗な青色が見える。晴れ渡った夏の青空より綺麗な、色。太陽が宿っているような、きらきら輝く素敵な瞳。
穏やかな色を灯した瞳が私を見下ろして、背中に添えられていた腕に少し力が篭る。
左手で私をささえていたレイスの右手がそっと私の額にかかった髪を払う。
「イク、落ち着いた?」
「うん……ごめん」
視線を伏せて、優しく頭をなでてくれる手はそのままにぽつりと呟けば、いっそう優しい声音が頭上から降ってくる。
「なにを謝るんだ」
「みっともないとこ、みせた」
「みっともなくなんて、ないよ」
「……迷惑、かけたでしょう」
「迷惑なんてとんでもない」
どこまでも優しい声音は、どうしようもなく私の涙腺を刺激した。ぐすり、と小さく鼻を鳴らして、レイスの服を左手で掴む。
ベッドを背にしているらしいレイスが、また優しく頭をなでてくれるから、ぐすぐすと私の涙がとまらない。ごまかすように疑問を投げかける。
「私、いつ寝たの……」
「最初は転寝をしていたみたいだったけど。ベッドにはこんでしばらくしてから苦しそうにしていて。起こしたんだ。そのあと、また眠ってしまったけど、今度は寝息も落ち着いていたから」
睡眠時間が、足りていなかったからだろうか。
いまいち記憶がないが、いつも昼寝をする時間に起きていたから、睡眠時間が足りなかった自覚はある。気づかないうちにうとうとしていても不思議ではなかった。
最近はあの悪夢もみなかっただけに、なんともいえない心地になる。
やっぱり、私の中にお父さんに黙ってレイスを部屋にあげている罪悪感があって、それであの夢をみたのだろうか。
ああ、でも、夢を見れたことは、少し嬉しくもあった。
あの夢は、どうしようもないほど辛いけれど。苦しいけれど。
あの夢だけが、いまだ私とお母さんを繋ぐ、絆であるから。
かぼそい糸を必死で手繰って、今にも切れそうな細すぎる糸を懸命に繋いでいる私にとって、悪夢であろうと、それは、掛け替えのない絆だった。
「あのね、イク。これは俺の国にある、寝物語なんだけど。聞いてくれるかな」
「……なに?」
ゆっくりとした問いかけに、少しの間をおいて問いかければ、にこりとレイスはいつもとは違う穏やかな笑みを浮かべて、それから口を開いた。
「!」
大きな声にびくりと身体をすくめる。同時に夢から覚めた。起きれば夢を忘れるというけれど、私はこの夢を忘れたことは一度もない。
私が見る夢は、高確率でこの夢で、忘れようがなかった。むしろ、起きた時のほうがリアルに思い出せる。
そっと、夢の中でしめられた、首に触れる。どくどくと早鐘のような鼓動。冷たい指先。同じくひんやりとした感触の、自分の首。
生きているはずなのに、生きているのが不思議なほど冷え切った体。
ぞっと背筋を這い上がるものがあって、咄嗟に口を両手でふさいで体を丸くする。
少しずつ荒くなる呼吸。過呼吸だと気づいていたけれど、意識しても呼吸は元に戻らない。ぜっぜっと、不自然な呼吸を繰り返していると、ふと温かさに包まれた。
呼吸が苦しくて自然と浮かぶ涙をそのままに歪んだ視界をあげれば、目の前に薄緑色が広がっていた。……遅れて、レイスに抱きしめられているのだと、背中をなでる優しい温度がレイスの手だと気づいて、私はそっと目を閉じて、意識を委ねた。
どうしようもなく安堵できる体温に包まれて、私は静かに涙を流しつづけた。
* * *
ふと、意識が戻ったとき、外は真っ暗で時間なんてわからなかった。
相変わらず温かな心地よさに包まれていて、耳には同じくらい心地いい音楽が聞こえていた。
それは私には聞き覚えのない、音色で。
ゆっくりと顔を上げれば、目を閉じたまつげの長い、綺麗な表情が目に飛び込んできた。その口が動いていたから、耳に心地いいこの音色がレイスの歌う歌なのだと気づけた。
異国の言葉で紡がれるそれは、穏やかで優しい、とても居心地のいい歌だった。
しばらくぼうっと歌に耳を傾けてから、おもむろに自分の置かれていた状況を把握した。
胡坐をかいたレイスの膝の上に横抱きにされているのだと気づいて、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。涙を流したから、頬がひりひりと痛い。
だけど、不思議と意識はすっきりしていた。
「レイス」
そっと名前を呼べば、綺麗な調べを奏でていた口元がとまって、瞼の下から綺麗な青色が見える。晴れ渡った夏の青空より綺麗な、色。太陽が宿っているような、きらきら輝く素敵な瞳。
穏やかな色を灯した瞳が私を見下ろして、背中に添えられていた腕に少し力が篭る。
左手で私をささえていたレイスの右手がそっと私の額にかかった髪を払う。
「イク、落ち着いた?」
「うん……ごめん」
視線を伏せて、優しく頭をなでてくれる手はそのままにぽつりと呟けば、いっそう優しい声音が頭上から降ってくる。
「なにを謝るんだ」
「みっともないとこ、みせた」
「みっともなくなんて、ないよ」
「……迷惑、かけたでしょう」
「迷惑なんてとんでもない」
どこまでも優しい声音は、どうしようもなく私の涙腺を刺激した。ぐすり、と小さく鼻を鳴らして、レイスの服を左手で掴む。
ベッドを背にしているらしいレイスが、また優しく頭をなでてくれるから、ぐすぐすと私の涙がとまらない。ごまかすように疑問を投げかける。
「私、いつ寝たの……」
「最初は転寝をしていたみたいだったけど。ベッドにはこんでしばらくしてから苦しそうにしていて。起こしたんだ。そのあと、また眠ってしまったけど、今度は寝息も落ち着いていたから」
睡眠時間が、足りていなかったからだろうか。
いまいち記憶がないが、いつも昼寝をする時間に起きていたから、睡眠時間が足りなかった自覚はある。気づかないうちにうとうとしていても不思議ではなかった。
最近はあの悪夢もみなかっただけに、なんともいえない心地になる。
やっぱり、私の中にお父さんに黙ってレイスを部屋にあげている罪悪感があって、それであの夢をみたのだろうか。
ああ、でも、夢を見れたことは、少し嬉しくもあった。
あの夢は、どうしようもないほど辛いけれど。苦しいけれど。
あの夢だけが、いまだ私とお母さんを繋ぐ、絆であるから。
かぼそい糸を必死で手繰って、今にも切れそうな細すぎる糸を懸命に繋いでいる私にとって、悪夢であろうと、それは、掛け替えのない絆だった。
「あのね、イク。これは俺の国にある、寝物語なんだけど。聞いてくれるかな」
「……なに?」
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