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【壱】御茶ノ水発奥多摩行
②
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単調なリズムを刻みながら、列車は山間を走る。途中、汽笛が鳴るのは、トンネルに入る合図だ。すると、乗客たちは一斉に窓を閉めた。蒸気機関車の黒煙が車内に入るのを防ぐため、トンネル内では窓を閉める必要があるのだ。
車輪の音がこもり騒々しい車内で、桜子は零の話に目を丸くした。
「それは穏やかじゃないわね」
「はい。穏やかじゃないです。そんな事情では、日曜日だろうと関係ありませんからね。私は彼女の話を詳しく聞く事にしました」
自然と声が大きくなる。その様子は傍から見れば滑稽である。しかし、それよりも可憐な美少女の行く末の方が気になる。桜子は犬神零の話を聞き逃すまいと、耳を彼に向けた。
「……おや、どうしてそう思われるのです?」
犬神零もさすがに神妙な顔をして彼女に聞き返した。
彼女は、来住野梅子と名乗った。奥多摩の水川村の、元代官の家柄の三女である。
「私たち、三姉妹なんです。上の姉の松子は、歳が離れて既に嫁いでいますけど、下の姉の竹子と私は、双子なんです」
「そうなんですか」
「そして、我が家には、昔から言い伝えがあるのです。……世にも恐ろしい言い伝えが」
「ほう、それは何ですか?」
すると、梅子は泣き腫らした目を、食い入るように零に向けた。
「――うちの家系に産まれた双子は、十五になる前に、どちらかを天狗の生贄に捧げなければならないと」
「…………」
零は眉を寄せた。天を衝く建物が建ち、鋼鉄の汽車が縦横無尽に走るこの時代に、生贄などという残酷な風習を律儀に守る地域が、未だに存在するのか。それも、奥地とはいえ、この東京府に。
その表情が不安にさせたのか、梅子は目を伏せ、ギュッとスカートを握った。
「こんな話、お信じになりませんよね」
「いや、そうではありません。私、妖怪だとか人身御供だとか、この国の文化に根付く影の部分を、よく知っています。ですから、そういった風習は、単なる迷信で片付けられるものではない、そこに住む人々の深い部分に染み付いたものだと、理解しています」
「ならば、私、どうしたらいいのか……」
再びポロポロと涙を落とす梅子を眺めて、零は紗に包まれた腕を組んだ。
「その天狗の話を、もっと詳しく教えてくださいませんか。双子の片方を人身御供に求めるようになった、天狗の伝承のようなものを」
――水川村の奥に、月原洞窟という鍾乳洞がある。ここは昔から、山岳信仰の聖地として、修験者が修行に訪れる地であった。その信仰の由来の一説に、天狗の登場するものがあるのだ。
――戦乱の世。この辺りを治めていた領主の家に、双子の兄弟があった。その双子が十五の元服を迎えた時、事件は起こる。
跡継ぎを争う、という、その当時としては珍しくないものだったが、この兄弟の父である領主が、はっきりしない人だった。争いを起こした以上、跡継ぎとしなかった方に罪を負わせ、斬首せねばならない。しかし、可愛い息子のどちらの首を斬るのも、領主は受け入れられなかった。
そのうちに争いは泥沼化し、村にも影響を及ぼす。戦火が田畑を村を焼き尽くし、村人たちを困窮させたのだ。
戦火に追われた人々は、月原洞窟へ逃げ延びる。するとそこに、天狗が現れこう言った。
「双子のうちどちらかを我に差し出せ。そうせねば、更なる災厄が起こるであろう」
天狗は、領主の館にも現れた。そして、村人たちに伝えた予言を、領主にも伝えたのだ。しかし、領主は天狗の警告に従わなかった。
――そして、災厄は起こった。月原洞窟から多摩川へ流れ込む、水川村の中心を流れる月原川が、大氾濫を起こしたのだ。
濁流が田畑を、家々を飲み込み、村を飲み込んだ。
後に残ったのは、惨憺たる爪痕だけだった。
村人の多くは、月原川の上流である月原洞窟へ避難していたため無事だった。そして、村に戻った彼らは、村の惨状を目にして怒りに震えた。
領主は村の安寧よりも、己の息子たちの愚かな争いを優先したのだ。到底許せるものではない。
村人たちは、石斧や竹槍を手にし蜂起した。そして、続く戦乱に疲弊していた領主一族を、双子もろとも滅ぼしたのだ。
それからというのもの、その村の領主となった者は、天狗を奉るようになった。天狗が現れたとされる場所に御堂を建て、天狗の鼻に雌しべの形が似ている事から、百合を周囲に植えた。
来住野家は江戸時代、幕府の天領であったこの村に、代官として任ぜられた。そして彼らもまた、信心深く天狗を祀ってきた。
ところが……。
「……父は現代的な人ですから、私たちは女だし、問題ないと言うんです。上の姉もいますし、後継ぎ争いなど起こらない。この時代に、天狗など馬鹿らしいと」
「しかし、村の人たちは納得していないんですね」
梅子は悲痛な表情でコクリと頷いた。
「毎年、天狗が現れたとされる七月二十日が、天狗堂のお祭りなんです。天狗など馬鹿らしいとは言いながらも、これは村の祭りでもあるので、やらない訳にはいきません。……私、その時に生贄にされるかもしれません」
「三日後とは……、時間がありませんね」
零は難しい顔で顎を撫でた。
「そのお祭りには、どんな事をするんです?」
「お祭りは、二日間行われます。一日目は前夜祭で、十九日の夜。代々、来住野家の一族の女の誰かが、舞を奉納します。去年からは、一番上の姉が行っています」
「そして、二日目が本祭りですか」
「はい。私たち姉妹が作物をお供えに奉納した後、お寺の和尚さんがお経を上げて、それから……」
梅子はブルッと肩を震わせた。
「生贄を奉納します」
「どんな?」
「だいたい、山で狩った猪か鹿です。ですが、双子がいた場合は……」
そこまで言って、梅子はハンカチに顔を埋めた。
「きっと、村の人たちは、双子の妹である私を捕まえて、生贄にするんですわ。御堂の梁に吊るすんですわ。私、怖くて、怖くて……」
「……ちょっと待って。気になるんだけど」
桜子がそう言った時、汽車がトンネルを抜けた。急に音が静かになり、桜子の声が無駄に大きく車内に響いた。桜子は慌てて声を低めた。
「という事は、依頼人の梅子さん、今年で十五になるって事よね? で、今は十四歳と」
「左様です」
「さっきあなた、十二、三と言ったじゃない?」
「小柄で童顔な方ですので、お歳より若く見えます。桜子さんもお会いにあれば、分かると思います」
「まあいいわ。でも、十四歳になるまで育てられたって事は、村の人たちはこれまで、何も言わなかった訳じゃない? 何で急に……」
「はい。私もそこのところは気になりまして、お伺いしました」
「それで?」
すると零は、言葉を選ぶように目を泳がせてから答えた。
「……先日の事です。奇妙な老婆が、村に現れたそうなんです」
「奇妙な老婆?」
「天狗の使いと名乗る、謎の老婆です」
それは、七月の初めの事だった。
「私は直接見た訳ではありませんし、詳しくは分からないんですけど、私たちが十五になれば、祟りが起きると言って、村を歩いていたようなんです」
「…………」
「それを聞いた村の人たちが、父のところへ押し掛けて……」
「あなたたち姉妹のどちらかを、天狗に差し出せと迫ったと」
「はい……」
「その時、お父様はどのようにお答えになったんですか?」
「馬鹿馬鹿しいと、追い返したようです」
「そうですか……」
「ここで、来住野家のご家族をご紹介しておきましょう」
犬神零は袖口から手帳を取り出した。
「とにかく、時間がありませんでしたので、依頼人が帰られた後、大至急上野の図書館に行ってですね、調べられるだけ調べてきました。まずは……」
と、零は手帳の頁をめくった。
「ご当主は、来住野十四郎氏。元代官という名士ですし、以前村長をされていたそうです。……この辺りは、石灰が採れる事で有名なのはご存知ですか?」
「知らないわ」
「そうですか。この辺りの石灰は、江戸城の建築にも使われたと言われていまして。石灰というのは、セメントの材料になるんですね。セメントは、頑丈な建材として需要がうなぎ上りですからね、石灰の採掘は、非常に注目される産業と言えます」
「はぁ」
「来住野十四郎氏は、石灰採掘を有利に推し進めるため手腕を奮っていたそうです。そして現在は、一族の方に村長の座を譲り、次期帝国議会議員選挙に立候補すべく、活動中のようです」
「へぇ……」
「その奥様、梅子さんのご母堂が、鶴代さん。華族の高室伯爵家のご令嬢です。三十年前、明治二十四年にお輿入れになっています」
「まさに、華麗なる一族ね」
「そして、姉の松子さんが、明治二十六年生まれの二十八歳。梅子さんとは十四も歳の離れたご姉妹です。――そして、驚くなかれ、その方、帝東歌劇の大スター・花沢凛麗なんですよ」
「エッ! 嘘!」
桜子は素っ頓狂な声を上げた。そして、周囲の乗客の視線を感じて首を竦めた。
「知ってるわよ、花沢凛麗。大ファンだもの。活動写真で何度も観たわ。うっとりするような綺麗な女優さんよね」
「はい」
「それに、男役も娘役もこなす演技派で、その上、脚本や演出もできる、天が何物も与えた才色兼備。憧れだったわ」
桜子は頬を染めながらも、不意に目を細めた。
「でも確か、顔がいいだけの三流役者と結婚して、引退したわよね」
零は苦笑した。
「いや、一応彼も、帝東歌劇の看板スターでしたよ。不知火清弥。一世を風靡したと言っても過言ではない二枚目俳優です。スター同士の結婚と、当時は随分と騒がれました」
「あんなの、花沢凛麗という稀代の才女を潰しただけの役立たずよ。大泥棒よ。私たちファンから、彼女を奪ったんだもの。……で、今も、不知火清弥は彼女の夫なの?」
「はい。お子さんはいないようですが」
「ふうん……」
束ねた髪に隠れた首元をゴシゴシと擦って、零は続けた。
「それで、梅子さんと、双子のお姉様の竹子さん。これがまた、瓜二つなんですよ」
「何で分かるの?」
「それはですね、実は、梅子さんの後に、竹子さんもまた、依頼に来られたんです」
車輪の音がこもり騒々しい車内で、桜子は零の話に目を丸くした。
「それは穏やかじゃないわね」
「はい。穏やかじゃないです。そんな事情では、日曜日だろうと関係ありませんからね。私は彼女の話を詳しく聞く事にしました」
自然と声が大きくなる。その様子は傍から見れば滑稽である。しかし、それよりも可憐な美少女の行く末の方が気になる。桜子は犬神零の話を聞き逃すまいと、耳を彼に向けた。
「……おや、どうしてそう思われるのです?」
犬神零もさすがに神妙な顔をして彼女に聞き返した。
彼女は、来住野梅子と名乗った。奥多摩の水川村の、元代官の家柄の三女である。
「私たち、三姉妹なんです。上の姉の松子は、歳が離れて既に嫁いでいますけど、下の姉の竹子と私は、双子なんです」
「そうなんですか」
「そして、我が家には、昔から言い伝えがあるのです。……世にも恐ろしい言い伝えが」
「ほう、それは何ですか?」
すると、梅子は泣き腫らした目を、食い入るように零に向けた。
「――うちの家系に産まれた双子は、十五になる前に、どちらかを天狗の生贄に捧げなければならないと」
「…………」
零は眉を寄せた。天を衝く建物が建ち、鋼鉄の汽車が縦横無尽に走るこの時代に、生贄などという残酷な風習を律儀に守る地域が、未だに存在するのか。それも、奥地とはいえ、この東京府に。
その表情が不安にさせたのか、梅子は目を伏せ、ギュッとスカートを握った。
「こんな話、お信じになりませんよね」
「いや、そうではありません。私、妖怪だとか人身御供だとか、この国の文化に根付く影の部分を、よく知っています。ですから、そういった風習は、単なる迷信で片付けられるものではない、そこに住む人々の深い部分に染み付いたものだと、理解しています」
「ならば、私、どうしたらいいのか……」
再びポロポロと涙を落とす梅子を眺めて、零は紗に包まれた腕を組んだ。
「その天狗の話を、もっと詳しく教えてくださいませんか。双子の片方を人身御供に求めるようになった、天狗の伝承のようなものを」
――水川村の奥に、月原洞窟という鍾乳洞がある。ここは昔から、山岳信仰の聖地として、修験者が修行に訪れる地であった。その信仰の由来の一説に、天狗の登場するものがあるのだ。
――戦乱の世。この辺りを治めていた領主の家に、双子の兄弟があった。その双子が十五の元服を迎えた時、事件は起こる。
跡継ぎを争う、という、その当時としては珍しくないものだったが、この兄弟の父である領主が、はっきりしない人だった。争いを起こした以上、跡継ぎとしなかった方に罪を負わせ、斬首せねばならない。しかし、可愛い息子のどちらの首を斬るのも、領主は受け入れられなかった。
そのうちに争いは泥沼化し、村にも影響を及ぼす。戦火が田畑を村を焼き尽くし、村人たちを困窮させたのだ。
戦火に追われた人々は、月原洞窟へ逃げ延びる。するとそこに、天狗が現れこう言った。
「双子のうちどちらかを我に差し出せ。そうせねば、更なる災厄が起こるであろう」
天狗は、領主の館にも現れた。そして、村人たちに伝えた予言を、領主にも伝えたのだ。しかし、領主は天狗の警告に従わなかった。
――そして、災厄は起こった。月原洞窟から多摩川へ流れ込む、水川村の中心を流れる月原川が、大氾濫を起こしたのだ。
濁流が田畑を、家々を飲み込み、村を飲み込んだ。
後に残ったのは、惨憺たる爪痕だけだった。
村人の多くは、月原川の上流である月原洞窟へ避難していたため無事だった。そして、村に戻った彼らは、村の惨状を目にして怒りに震えた。
領主は村の安寧よりも、己の息子たちの愚かな争いを優先したのだ。到底許せるものではない。
村人たちは、石斧や竹槍を手にし蜂起した。そして、続く戦乱に疲弊していた領主一族を、双子もろとも滅ぼしたのだ。
それからというのもの、その村の領主となった者は、天狗を奉るようになった。天狗が現れたとされる場所に御堂を建て、天狗の鼻に雌しべの形が似ている事から、百合を周囲に植えた。
来住野家は江戸時代、幕府の天領であったこの村に、代官として任ぜられた。そして彼らもまた、信心深く天狗を祀ってきた。
ところが……。
「……父は現代的な人ですから、私たちは女だし、問題ないと言うんです。上の姉もいますし、後継ぎ争いなど起こらない。この時代に、天狗など馬鹿らしいと」
「しかし、村の人たちは納得していないんですね」
梅子は悲痛な表情でコクリと頷いた。
「毎年、天狗が現れたとされる七月二十日が、天狗堂のお祭りなんです。天狗など馬鹿らしいとは言いながらも、これは村の祭りでもあるので、やらない訳にはいきません。……私、その時に生贄にされるかもしれません」
「三日後とは……、時間がありませんね」
零は難しい顔で顎を撫でた。
「そのお祭りには、どんな事をするんです?」
「お祭りは、二日間行われます。一日目は前夜祭で、十九日の夜。代々、来住野家の一族の女の誰かが、舞を奉納します。去年からは、一番上の姉が行っています」
「そして、二日目が本祭りですか」
「はい。私たち姉妹が作物をお供えに奉納した後、お寺の和尚さんがお経を上げて、それから……」
梅子はブルッと肩を震わせた。
「生贄を奉納します」
「どんな?」
「だいたい、山で狩った猪か鹿です。ですが、双子がいた場合は……」
そこまで言って、梅子はハンカチに顔を埋めた。
「きっと、村の人たちは、双子の妹である私を捕まえて、生贄にするんですわ。御堂の梁に吊るすんですわ。私、怖くて、怖くて……」
「……ちょっと待って。気になるんだけど」
桜子がそう言った時、汽車がトンネルを抜けた。急に音が静かになり、桜子の声が無駄に大きく車内に響いた。桜子は慌てて声を低めた。
「という事は、依頼人の梅子さん、今年で十五になるって事よね? で、今は十四歳と」
「左様です」
「さっきあなた、十二、三と言ったじゃない?」
「小柄で童顔な方ですので、お歳より若く見えます。桜子さんもお会いにあれば、分かると思います」
「まあいいわ。でも、十四歳になるまで育てられたって事は、村の人たちはこれまで、何も言わなかった訳じゃない? 何で急に……」
「はい。私もそこのところは気になりまして、お伺いしました」
「それで?」
すると零は、言葉を選ぶように目を泳がせてから答えた。
「……先日の事です。奇妙な老婆が、村に現れたそうなんです」
「奇妙な老婆?」
「天狗の使いと名乗る、謎の老婆です」
それは、七月の初めの事だった。
「私は直接見た訳ではありませんし、詳しくは分からないんですけど、私たちが十五になれば、祟りが起きると言って、村を歩いていたようなんです」
「…………」
「それを聞いた村の人たちが、父のところへ押し掛けて……」
「あなたたち姉妹のどちらかを、天狗に差し出せと迫ったと」
「はい……」
「その時、お父様はどのようにお答えになったんですか?」
「馬鹿馬鹿しいと、追い返したようです」
「そうですか……」
「ここで、来住野家のご家族をご紹介しておきましょう」
犬神零は袖口から手帳を取り出した。
「とにかく、時間がありませんでしたので、依頼人が帰られた後、大至急上野の図書館に行ってですね、調べられるだけ調べてきました。まずは……」
と、零は手帳の頁をめくった。
「ご当主は、来住野十四郎氏。元代官という名士ですし、以前村長をされていたそうです。……この辺りは、石灰が採れる事で有名なのはご存知ですか?」
「知らないわ」
「そうですか。この辺りの石灰は、江戸城の建築にも使われたと言われていまして。石灰というのは、セメントの材料になるんですね。セメントは、頑丈な建材として需要がうなぎ上りですからね、石灰の採掘は、非常に注目される産業と言えます」
「はぁ」
「来住野十四郎氏は、石灰採掘を有利に推し進めるため手腕を奮っていたそうです。そして現在は、一族の方に村長の座を譲り、次期帝国議会議員選挙に立候補すべく、活動中のようです」
「へぇ……」
「その奥様、梅子さんのご母堂が、鶴代さん。華族の高室伯爵家のご令嬢です。三十年前、明治二十四年にお輿入れになっています」
「まさに、華麗なる一族ね」
「そして、姉の松子さんが、明治二十六年生まれの二十八歳。梅子さんとは十四も歳の離れたご姉妹です。――そして、驚くなかれ、その方、帝東歌劇の大スター・花沢凛麗なんですよ」
「エッ! 嘘!」
桜子は素っ頓狂な声を上げた。そして、周囲の乗客の視線を感じて首を竦めた。
「知ってるわよ、花沢凛麗。大ファンだもの。活動写真で何度も観たわ。うっとりするような綺麗な女優さんよね」
「はい」
「それに、男役も娘役もこなす演技派で、その上、脚本や演出もできる、天が何物も与えた才色兼備。憧れだったわ」
桜子は頬を染めながらも、不意に目を細めた。
「でも確か、顔がいいだけの三流役者と結婚して、引退したわよね」
零は苦笑した。
「いや、一応彼も、帝東歌劇の看板スターでしたよ。不知火清弥。一世を風靡したと言っても過言ではない二枚目俳優です。スター同士の結婚と、当時は随分と騒がれました」
「あんなの、花沢凛麗という稀代の才女を潰しただけの役立たずよ。大泥棒よ。私たちファンから、彼女を奪ったんだもの。……で、今も、不知火清弥は彼女の夫なの?」
「はい。お子さんはいないようですが」
「ふうん……」
束ねた髪に隠れた首元をゴシゴシと擦って、零は続けた。
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