イケメンマフィアの仰せのままに~断れるはずありません!

氷室ユリ

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第二章 降りかかるシレン

16 頼れる存在(2)

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 ラウルは護衛も付けず、一人書斎の窓から外を見ていた。

「思いのほか早かった。決戦は今夜、か…」
――ユイを早々にイタリアへ行かせて正解だったな――

 自分に向けられる悪意ある意識が、日に日に強まっているのは感じていた。だがこんなにも早くその時を迎える事は想定外だ。
 自分に襲い掛かろうとしている不穏な気の塊は、今ピークに達している。

 だがしかし、ただのマフィアには何の脅威も感じていない。問題はプロの殺し屋達だ。どれ程の手練れで何人いるのか。
 超能力についてもある程度は対策がされていると想定すべきだろう。

 愛用銃は常に定位置のジャケット裏にある。加えて予備の護身用短銃を引き出しから取り出す。
「私に弾が当たる事はない。意識さえ失わなければ」
 この屋敷全体にシールドを張りたいところだが、それをすれば他の攻撃が疎かになる。広範囲のシールドにはそれだけ大きな力が必要なのだ。

 静まり返った室内に、ドアをノックする音が響いた。
 気配で誰か察知する。「ダンか」
「はっ。失礼いたします」開いたドアからダンが現れた。

「何だ。まだ何も動きはないはずだが。持ち場に戻れ」
「ラウル様!やはり護衛をお付けください!私でなくてもいいので…お一人でいらっしゃるのは危険です!」
「必要ない。指示した通り守りを固めろ」
「しかしっ!」
「お前も早く戻れ。一番の要だ。しっかり頼んだぞ」

 恐らくプロ集団は裏口に目を付けるはず。それを分かっているから、ダンも強く反論できない。
――自分が敵を屋敷内に入れなければ良いだけ。そうだ、その通りだ!――
「お任せください、このダン、何があってもやり遂げます!至急戻りますっ」

 ダンは気持ちを切り替えて踵を返し、足早に裏口へと戻って行った。

・・・

 数時間遡る。フォルディス襲撃を目前に敵側では異様なムードとなっていた。

「おいおいマジかよ。ユイ・アサギリが不在だって?なら俺達が行く意味あんのか?」
「たかだかマフィアの勢力争いだろう。くだらん。俺は降りる」
「オレも~。チッ、ユイ・アサギリの顔を拝めると思ったのにな。肩透かしもいいとこだぜ!」

 雇われたプロの殺し屋達は、今回のターゲットに噂の美女が関わっていると聞きつけて集まった者がほとんどだった。
 ユイ不在の一報は、マフィア側の戦況を大きく変えた。当初の三分の一にまで人員が減ってしまったのだ。

「待ってくれ!こんな土壇場になって困るぞ!」
「君達はラウル・フォルディスの恐ろしさを知らないだけだ!プロの力がどうしても必要なんだ、頼む!」
「そうだ、ヤツはバケモンだぞ?ユイとかいう女なんぞ目じゃない!」
 マフィア側は必死に引き留める。彼等はユイの殺し屋の顔など知らない。

「って言われてもなぁ」
「この品の良さそうな青っ白い男前が、バケモノねぇ」
 ラウルを盗撮したピンボケ写真を前に、殺し屋達は好き放題に言う。
「しかし何でこんなにブレブレなんだ?今時手振れ機能とか付いてるだろうに!」

 なぜかラウルを撮影しようとするとカメラが壊れる。これは貴重な一枚なのだ。

 一向にやる気を見せない殺し屋達に、マフィア側は必死だ。
「ええい!ならば報酬額を上げる!奴を仕留めた者には倍出そう。それでどうだ!」
「いいね!アタシはやるよ。どうせ暇だし。この色男拝んでみたいし?」
 集まった中で唯一の女スナイパーが、下心のありそうな顔で笑う。
「ま~たオメェはヤらし~事考えてんだろ!いい気なモンだぜ」
「失礼だね、アタシはいつでも遠巻きにスコープ越しからしか拝んでないよ!」

 ああだこうだと言い合いの末、スナイパーの女とそれを冷やかしていた腕力自慢の大男、そして格闘派のマッチョ男、チビですばしこい童顔男、頭脳派のインテリ男、早撃ちのベテラン男、計六人が残った。

「もう六人でもいい。じゃ最終確認の作戦会議を開く」マフィア側の進行役が告げる。
「会議開くほどの仕事じゃないがね!」早速茶々を入れる殺し屋側。
「いいか、最後の忠告だ。ヤツを甘く見てると命取りになるぞ?」
「へえへえ!何にせよ、そいつを殺ればいいんだろ?」
「男共なんかに手柄は渡さないよ!」

 マフィアと殺し屋が組む事は滅多にない。相容れない者達は意思疎通を図るのも一苦労である。人数が絞られた分、自己主張が飛び交い話が纏まらない。

「で、そのフォルディスってヤツのどこがそんなに厄介なんだ?」
 格闘派のマッチョ男がふんぞり返りながら聞く。
「そこに手を出して壊滅させられた組織は数知れないとか。情報としてはどれも曖昧なものばかりだ」こう続けたのは頭脳派の殺し屋だ。
 事前に一通りの情報を集めていたのは彼くらいだ。

 どんな依頼においても入念な下準備を欠かさないのがこの男。ユイ不在の情報も彼によって知り得たものだ。

「おいおい!これは嘘だろ?車列が一瞬にして爆発炎上したって、映画の撮影かよ!」
 ここでようやくマフィア側が答えた。
「どれも事実だ。まんま映画になるだろうよ、冗談抜きでな!それだけじゃない。ヤツには弾が当たらない。いつだって弾き飛ばされる。だから厄介なんだ」
「マジな顔で冗談言うなよ、オッサン!」
「分かった!その男はマジシャンだ!」

 沈黙する頭脳派を除いて、他の者は全く信じていない。

「ムダ口を叩くな、時間のムダだ。少しは黙ってられないのか?」
 イラ立たし気に頭脳派が言い放った。
「おいおい。超現実主義のお前さんが、まさか信じてるのか?そんな絵空事を!」
「信じてはいない。車が爆発する要因はいくつもある。点検は入念にしておく事だ。弾だって何かに弾かれただけだろう」
「ねえ、だったらさ、いっその事、こっちが上から爆弾落としたらいいじゃない!」
 屋敷ごと木っ端微塵!と両手を掲げて女が言う。

「そんな事をしても逃げられて終わりだ。女のクセに過激だな!」
「ちょっと?聞き捨てならないね。そこのコワモテマフィアの髭男爵!」
「まあまあ、いちいちそうやって突っかかるなよ。もう時間ないんだから!」

 周囲がさらに騒がしくなっても、頭脳派は考察を続ける。
――もしユイ・アサギリと関係しているなら、やはりフォルディスという男はただ者でないと取るべきだろう――
 殺し屋が単なるマフィアと組む必要はどこにもない。警察にマークされるリスクが上がるだけだ。単独で動く者にとってはマイナスでしかない。

 そしてこう結論を出した。
「何にせよ、我々は様子を見てからだ。お前達が先に正面から突入しろ。それと車はもう一度俺が確認しておく」
 まともに話し合えるのはこの頭脳派の男ただ一人。威勢のいい大男とマッチョは能天気だし、早撃ちガンマンは寡黙で一言も発せず。

「アンタが残ってくれて助かったぜ…」マフィアの一人がポツリと言った。

 すでに話し合いの段階ではなくなっている。言いたい放題口にしては盛り上がる。
 何だかんだと言いつつも、皆実戦を前に気持ちが高ぶっているのだ。
 早々に話し合いを切り上げて、それぞれ行動に移る事となった。

 時間が迫る中、車両を人一倍念入りに点検し終えて、ようやく頭脳派は頷いた。
「配線も電気系統も異常なし、オイル漏れもない。爆弾でも仕掛けられない限りは問題ない」
「よし。では向かおう」


 深夜に黒塗りの車が列をなして一本道を進む。異様な光景だが、これまでも何度かこんな光景が見られた。
 いつもとの違いはその数だ。そして最後尾の車両には殺し屋六人が控えている。

 案の定、彼等は車内でも賑やかだ。

「正面でオッサン共が派手に暴れてくれりゃ、裏から入り込むのは造作もないね」
「監視カメラの状況は?」
 女に続き、チビの童顔男が頭脳派に問いかける。
「ない」

「は?ない?あんなドデカい屋敷なのに?」
「知らん!どういう訳かないのだ、実際に!」
 慎重な性格の頭脳派は、フォルディス家の間取りまで把握している。セキュリティに関しては当然何度も確認した。

「ないならないで好都合じゃないか!なあ?」と楽観主義の大男。
「…どうにも気に掛かる」対して渋い顔で頭脳派は呟く。
「ならオレは、どっか入れそうな通気口からお先に侵入するぜ!」チビ男が宣言した。
「ご自由に」
 体型を生かしたチビ男の特技だ。こうして気配を消してターゲットに近づき殺す。

「アタシは庭に回って外から狙うよ。ターゲットの滞在する部屋は二階の正面だったね。ちょうど良さそうな木もあるみたいだし!」
「木登りも得意か。盛りの付いたメスザルだな!頼むから手元狂わせて俺等を撃つなよ?」
「黙れ、能無しゴリラ!狂ったフリして撃ってやろうか?そうすりゃ手柄はアタシのもの!」

 不毛な言い合いの中、不意に寡黙のガンマンが口を開く。
「タマが弾かれるってぇのは…どういう心境だろうな」
「それが手元が狂うって事だよ、オッサン!」
「…いや。それはあり得ない。俺の手元は一度だって狂った事はねえからな」
「はっ!な~んか、イッちゃってるよ、こいつ」

 ガンマンは何本目かも分からない煙草に火を点け、自分の愛用銃を見つめて再び黙りこくった。

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