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彼の嫉妬2
「お前、ここに来てたのか?」
「……はい」
「誰と?」
「あ、後輩とです」
「後輩?今年入った人事の後輩のことか?」
「そうです」
「お前、まさか……」
すると、目の前の男性が私を見て言った。
「課長、彼女は人事の人?怯えてますよ。相当怖かったんでしょ、向こうで」
「一緒にやりますか?そっちの人は何人なの?」
「あ、ふたりですけど、ちょっと相手が酔っ払っているので今日はあの失礼します」
「残念だな。可愛い子大歓迎なのに。今度紹介してくださいよ、課長」
「お前……男と二人で飲んでるのか。しかも相手は酔っ払ってる?しょうがないな、見に行ってやる」
「……ええ!?い、いいです、大丈夫ですよ」
私がいらないと手を振ったら、凄い目で睨まれた。
「お前達、俺はもう席外していいか?」
「「はあ?」」
「支払いはこれでしろ。久しぶりだし、俺は人事の方へ挨拶に行く。あとはふたりでやれ。じゃあな」
そう言うと、あっけにとられている男女ふたりの前に数枚のお金をおいて、鞄を持った誠司さんは私を見た。
「ほら、案内しろ田崎」
水を持った私をじろりと睨んでいる。ま、まずい。歩き出して、角を曲がったら低い声がした。
「……後で覚悟しろよ、すみれ」
「そ、そんな。川村君が相談あるっていうから……本当ですよ!さっきまで聞いてあげていたんです」
目の前には机に寝ている川村君が座っていた。やっぱり飲み過ぎだ。
「川村君!起きて!」
「……うーん、あ、やっと帰ってきた。どこ行ってたんです、田崎さん。探しに行こうかと思いましたよ。って、この人誰です?」
誠司さんを寝ぼけ眼で見つめる川村君、メガネをかけ直してじっと彼を見つめた。
「川村君だよな。人事の新人。最終面接に入っていた俺を忘れたか?君と入れ違いで人事課長を交代したんだ」
「……え?あ、そういえば面談の端の席にいた人ですね。どうも、お久しぶりです」
「お久しぶりです、じゃない。お前、田崎を残して酔い潰れるとはいい度胸だな。どういう魂胆だ?」
「いや、そんな魂胆なんてありませんよ。お水飲んで復活しますから。田崎さんを送っていかないとね」
そう言って私の手から水を取ると、一気飲みした。
「おい、田崎。こいつの相談は終わったんだろ?」
「ちょ、ちょっと誠司さん。勝手に……」
「ん?誠司さんって何?」
しまった、私は口を両手で押さえて、ごまかそうとしたが遅かった。
「川村君。君は確か頭が良かったはず。少し考えればわかるだろ?田崎と会ったのは偶然だが、俺がここにいるのは必然だ」
「……ちょ、ちょっと何言ってるんですか?課長こそ酔ってますよね?」
「まさか、田崎さん……お付き合いしている人ってこの課長さんなんですか?」
「川村君お願い。誰にも言わないで……」
両手を合わせて彼にお願いのポーズをした。誠司さんは私の横に座り、川村君に言った。
「何を相談していたんだか知らないが、口説いたんじゃなければ許す。ただし、今後は二人で飲みに行くのはぜーったい禁止」
「……うっわ、大人げない……」
小さい声で川村君が呟いた。彼も酔ってる。もう、ふたりともどうしようもない。
「もう、課長やめてください!」
「俺はもう、お前の課長じゃない!」
「ちょっと、本当にいい加減にして!ごめんね、川村君。相談のことはわかったから……」
「ありがとうございます。田崎さん。この人が睨んでいて怖いので今日は退散します」
「あ、支払いはするからいいよ。ごめんね。気をつけて帰って……」
「本当ですか?来週半分払います。すみません。じゃ、田崎さんの彼氏の課長さん、おやすみなさい。田崎さんをよろしくお願いします」
「ああ、支払いは俺が持つから気にするな。気をつけて帰れよ」
荷物を持っていそいそと出て行った川村君を送ろうかと立ち上がった私の腕をグッと引いて椅子に無理やり座らせると彼は言った。
「すみれ。お前、何か言われたんだろ?」
「え?……な、何も言われてない……」
「お前は本当に嘘が下手だな。すぐにその目の動きを見るとわかる。大体、あいつがお前のこと気に入っているらしいっているのは春日から聞いて知っていたんだぞ。警戒しようと思っていた矢先にこれだ。ふたりで飲みに来るとは……」
「だって本当に悩み相談だったの!それに川村君は真面目ないい子だもん。いつも色々やってくれるの。気が利くんだよ」
「ふーん。そう……」
「そうです。勘違いしないで下さい。誠司さんこそ、毎日、あんな綺麗な女性と一緒でうらやましいですね」
「どんなに綺麗でも俺は付き合っていない女とふたりで来たりしないぞ。男を入れて三人だっただろ?」
「……それはすみませんでした。でもやっとできた後輩なんですよ。許して下さい。彼にとっては一番歳が近いのは私です。相談しやすかったんですよ」
声が大きくなってしまい、隣の席の人がこちらを見た。恥ずかしい。
「出るぞ」
そう言って、私の腕を引いてレシートを持つと出口へ行き、支払いをしてくれた。
「帰ろう」
急に手を握ってきた。会社の人がいるところでは、普段なら離れて歩いているのに、どういうこと?
「今日俺は決めた。あいつに知られたし、聞かれたら公表しよう。同棲しているんだ、何の問題がある」
「そんな……やめて。公表したら色々聞かれてきっと大変な思いをするのは私だけですよ!」
「色々聞かれたら適当に返しておけ。大丈夫だ、春日に頼んでおく」
「絶対嫌です!」
立ち止まった彼は私を見て言った。
「もうすぐ、俺の誕生日だ。すみれ、プレゼント何がいいと聞いていたよな」
「あ、はい……」
「プレゼントはお前と俺がつきあっていると公表することにしようかな」
はあ?何言ってんだろ?絶対酔ってる。ちょっと呆れて下から彼の顔をチラリと見た。
「……」
「返事がないのは、了承ということだな?」
「返事は却下です。とりあえず、帰りましょう。そして、酔いを覚ませば少し落ち着いてきますから……」
「酔ってない!大体、お前が男とふたりで飲んでいるということに気づいた段階で、酔いなんてすっ飛んだ」
手をぎゅっと握られた。タクシーに押し込まれて、車内では重苦しい雰囲気でお互い無言だった。
部屋に入り、それぞれシャワーを順番に浴びた。私は自分の個室へ戻ろうとしたら、腕を引っ張られた。
「……おい。どうしてそっちで寝るんだ?大体、そういうところからして怪しい」
彼の顔を見た。背伸びをして、両手で彼の顔を挟むと目を見て言った。
「それは、しばらく誠司さんが夜の飲み会が落ち着くまでって話をしましたよ」
彼を挟んでいた両手をそれぞれ彼に握られた。
「今日は一緒に寝るぞ。さっきの話もある」
腕を引かれて彼の寝室へ。ベッドに突き飛ばされた。ひどい。振り返ると怒ってる。どうして?私だって頭にきた。
「ハッキリ言いますけど、川村君に何を言われようとどうこうなる気は一ミリも私にはないです。だって、誠司さんとは結婚前提で同棲して親にも紹介してるんですよ。それで私がどうして誠司さん以外とどうにかなるの?」
「やっぱり何か言われたんだな?お前隙だらけだ。男とふたりで飲むとか無防備すぎるぞ。あいつが酔ったフリして送り狼になったらどうする気だった?お前は男の力を甘く見てる」
「絶対それはない。少なくとも、川村君はそんなことするような子じゃないもん」
「どこのお母さんだ?うちの子はそんなことしないとか言うやつだろ。お前はすぐそういうふうに……」
私は彼を押し倒すと彼の上にまたがった。いつもと逆のパターンだ。彼は驚いて目を丸くしている。
「お誕生日は誠司さんのために私がお料理します。それで、何か好きなものをプレゼントしたいの。お願い、変なふうに勘ぐらないで……」
そう言って彼にそっとキスをした。唇を離して彼の目を見たら光っている。まずいと思って身体を起こそうとしたらすぐに背中を押さえられて、逆の体勢になった。彼は私を身体の下にひいた。
「そんな子供みたいなキスでお願いなんて聞いてやらない。聞いて欲しかったらここ二週間お前に無視されてたまった分を全部受け入れろ」
「え、え……そんな」
「明日は土曜日だ。ゆっくり行こうか。お前からキスなんて初めてだから、特別に優しくしてやるよ」
甘いキスが振ってきて、身体をなぞる手が優しい。丁寧に愛撫されて久しぶりに頭が飛んだ。
「好き、大好き、誠司さん……」
「すみれ、素直で今日は可愛いな……」
彼の背中に手を回し、揺すられるまま声を上げた。
「ん、ん……ああ……」
「もう限界だ、俺の方が……色々とな」
耳元で彼が何か言っていたがもう聞こえない。お酒を久しぶりに飲んだせいもあった。
彼は私をなぞりながらじっと見つめて何か考えていた。私は気がつかないままだった。
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