彼は溺愛という鎖に繋いだ彼女を公私共に囲い込む

花里 美佐

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第一章 入社と出会い

就職ー2

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 今日は土曜日。

 久しぶりに緑ちゃんへ会いに行こうと決めた。社会人の先輩にこの話をするんだ。ケーキを焼いて持っていく。クランベリーケーキは私の得意ケーキだ。

 カランカラン~。

「あー、菜摘ちゃん。久しぶりだねー」
 
 大好きな緑ちゃんが笑顔で迎えてくれた。
 
「緑ちゃん、元気?お兄ちゃんにいじめられてない?」

「なんだよ、菜摘。久しぶりに来てその言い草はないだろう。お前、兄が優しいのを忘れたのか?」
 
 お兄ちゃんが緑ちゃんの声を聞いて、バックヤードから顔を見せる。確かに優しいし、割とイケメン。自慢の兄です。

「お兄ちゃん、幸せぼけで大丈夫?デロデロしてるんでしょ、どうせ……」

 お店の常連さんが皆笑い出した。

「いや、菜摘ちゃん。その通り。もう、こっちが見てらんないくらいイチャイチャしてるんだよ」

 ふたりは真っ赤になってる。しょうがないなあもう。

「皆さんすみません。長い春で中々くっつかなかったから許してやって下さい」
 
 私は皆さんへ頭を下げた。また大笑い。

 商店街の人達が土日は緑ちゃん目当てで来ると言っていたがすごい人気。
 店にとってはありがたい話だよね。

「ごめん、お兄ちゃん。緑ちゃんに相談があるの」

 緑ちゃんは目配せすると、私の腕を引いて中へ行く。

 キッチンの片隅でハーブティーとクランベリーのケーキを食べながら話す。

「ふーん。ミツハシフードサービスならいいんじゃない?」
 
「そう思う?」
 
「ていうか、菜摘ちゃんの答えは出てるでしょ。何が聞きたいの?」
 
 さすが、緑ちゃん。お見通しか……。
 
「私、戻りたくなくなりそうで怖いの」
 
「……なるほどね」

「ずっと、緑ちゃんに憧れてきた。会社楽しそうだって思ってた。私も入りたいって、言いたかったの……」
 
 緑ちゃんは優しい目をして私の頭を撫でてくれた。
 
「いいじゃん。戻らなくても……」
 
「え?」
 
「いざとなれば、他の人に跡継いでもらえばいいよ。ウチの子供とか……」
 
「ええ!?」
 
 私は驚いて、ガタンと音を立てて立ち上がった。 
 「緑ちゃん、もしかして……」
 
「うん。妊娠した。まだ二ヶ月入ったところ。誰にも言ってない」
 
「嘘。おめでとう。良かったね、って言っていいんだよね?」

「ふふ。さすが菜摘ちゃん。そう、予定外だった。もう少しふたりでいるつもりだったの。それが奏ちゃんの希望だったんだけどね」
 
「お兄ちゃんには言ってないの?」
 
「昨日話したばかり。こればっかりはコウノトリだからね。でも嬉しい。奏ちゃんの子供だもん」
 
 にっこり笑う緑ちゃん。結婚して本当に綺麗になった。お兄ちゃんの溺愛も分かる気がする。

 私は妙に納得してすっきりした。
 
「緑ちゃん。身体大切にして。そしてありがとう。私就職する」
 
 緑ちゃんは私の背中を叩いた。
 
「それでこそ、我が自慢の妹。好きにしなさいな。味方してあげる」
 
 嬉しい。泣きそうだよ、私。
 
「やだ、泣かないでよ、菜摘ちゃん」
 
 緑ちゃんの声にお兄ちゃんが入ってきた。
 
「どうした?」
 
「奏ちゃん、交代」
 
 そう言って、緑ちゃんが店に出て行く。

「おい、菜摘どうした?」
 
 私は泣き顔をあげて、お兄ちゃんに言った。
 
「お兄ちゃん、おめでとう。赤ちゃんのこと、聞いたよ」
 
「あ?ああ、ありがとう。それで泣いてんのかよ、お前……」
 
「ううん。お兄ちゃん、私ミツハシフードサービスに就職するね、春から」 

「は?」

「課長さんに誘われて、お母さんからは了承もらった」
 
「……いつかそう言うと思ってたよ。お前は喫茶店ごときで満足できる奴じゃない。そうしろ。親父は俺が何とかする」
 
 お兄ちゃん。大好き。
 
「ありがとう。私もしかすると喫茶店に戻らないかも知れないけど。緑ちゃんがお腹の子を跡継ぎにしてもいいって言ってくれた」

「はあ?」
 
「ふふ。お兄ちゃん、緑ちゃんには敵わないねえ……」
 
「そうだな。あいつがいない毎日なんてもう想像つかない。俺はホントに馬鹿だった。危なかったよ。ありがとな、菜摘」

「緑ちゃん、身体気をつけてあげてね」

「ああ。お袋たちにもよろしくな」

「うん」
 
 そう言って私は店を後にした。

 父は大騒ぎしたが、母と兄が味方になりあっという間に就職が決まったのである。
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