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第一章 入社と出会い
溺愛ー2
しおりを挟む家に帰っても両親に顔を見られたくなくて、よそよそしくしている。
母はクリスマスにおしゃれな格好をして外泊した私を生温かい目で見ていた。
明日からの仕事をどうやっていけばいいのか、まずそれを考えようと自分用のコーヒーを入れて考える。
ブレンドも自分好みにしてある内緒のコーヒー。これを飲めば頭が冴えてきっと考えが浮かぶ。
そう思ったのに、思い出すのは彼の仕草。夜のことばかりだった。真っ赤になりながら、こんなことではダメと顔を叩く。
抱かれる前に聞いたことがうやむやになってしまう。整頓しないといけない。
つまり彼はどこぞの御曹司で、さらに身分違いが大きくなったうえ、いずれこの会社を出ると言っていた。
付き合うことは結婚を意味していて、秘書をやめることもできない。
ちょっと待って。私は何のためにあの会社へ入ったの?
業務部の仕事が向いているとスカウトされて、一大決心で入社した。
しかも、入ってみたら想像以上に仕事が自分に向いていたから楽しかった。
それなのに、その決心も、今までのキャリアもすべてを彼に取り上げられてしまう。
許せるの?そんなはずないでしょ。
でもそれを彼に言ったら別れようと言われるんだろう。彼は付き合う女性を側におくと宣言した。
私は彼ときっと別れられない。なぜなら……他でもない。彼を愛しはじめている自分を認識したからだ。
これ以上大人の関係を続けると、拒みきれないと警笛が鳴っている。
結局どちらも選べない私は彼に前日寝かせてもらえなかったこともあり、気付けばベッドのうえであっという間に寝てしまった。
翌日出社すると、彼はすぐに私を部屋へ入れて、ブラインドを下ろし、鍵をかけた。
「菜摘……一晩離れただけでとても会いたかった」
そう言うと朝だというのに抱きしめて、顔をのぞき込む。彼の目を見た瞬間、顎を捉えられ、彼の顔が下がってきてキスをされた。
すぐにあの夜の記憶がふたりを包み、すぐに身体が反応してしまう。
気付くとふたりで何度もキスをして、身体を寄せ合い抱き合っている。
彼の唇が首筋まで降りてきた。すぐに彼から身体を離した。
「ダメです。朝ですよ。もう……」
「菜摘。今日から俺のところへ来い。同棲しよう。ご両親に挨拶してもいい」
相変わらず一足飛びで物事を進めたがる。私はため息をついた。
「菜摘、口紅が落ちた。こっちを向いて」
そう言うと、ポケットから新しい口紅の箱を開けて、私の顎を押さえて口紅を塗る。鏡の前に連れて行かれた。
「どう?」
後ろから私を覗き込む彼の姿。自分の姿を鏡で見て驚いた。
恥ずかしい……紅潮した肌、涙目。こんな自分の姿を初めて見た。
ローズの色が強い口紅は紅い頬に映えて、自分が少し大人の女性に見えた。急いでティッシュで少し抑えると落ち着いた女性が鏡に映っている。
自分じゃないみたい……新しい経験が自分を一気に色気のある女性へ変えていた。
「これからここでキスをしたら必ず塗ってあげるよ。これはキスでも落ちづらいらしいからね」
こんなの反則。会社でこんなのおかしい。
デスク前にようやく座った彼を前にして、深呼吸をすると今日の予定を話しだした。
「わかった。それと、菜摘……君の業務部の仕事の引き継ぎだが私が会議の間にできるだけ新村君から話を聞いて、段取りを進めてくれ。引き継ぎは基本僕が出張か会議、もしくは外出の時にしてくれ。僕がいるときは君には僕の秘書でいてもらう。僕も忙しいんだ。引き継ぎが僕自身にも発生するからね」
「本部長。私、納得してませんけど、話し合うんじゃないんですか?」
「菜摘は業務部を取って、俺と別れたいのか?」
僕から俺に変わった。プライベートの彼が現れる。
「どうしてそうなるの?関係ないでしょ?別に社内恋愛なら部署が違おうと仕事が違おうといいでしょう?」
俊樹は立ち上がって彼女を見た。
「菜摘は俺が他の女を秘書において、そいつが朝から晩まで一緒でも構わないのか?俺がこのフロアから消えて、会社からいなくなってお前の目の届かないところで他の女に囲まれていても平気か?」
菜摘は目の前の俊樹が怒っているのを見て、驚いた。自分は何かまずいことを言ったのかと焦った。
社内恋愛だろうと、社外恋愛だろうと、それは普通のことではないだろうか。
「もしそうなったとしても、お仕事ですからしょうがないことですよね?平気ではありませんけど、それは受け入れないと……」
怖い。すごい目で睨んでいる。
「そうか。俺はお前にとって、その程度なんだな。よくわかった。作戦を変えた方がよさそうだ」
「そんな……。私は俊樹さんのこと好きです。だからこの間だって……」
「俺の求める好きは一般的な好きとは違うようだ。ゆっくり教えてやる。とにかく、引き継ぎをやっておけ。仕事を始めよう」
そう言うと、椅子に座りいつものようにパソコンを見始めた。
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