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第二章 恋愛と仕事
決着***
しおりを挟むあれから、二週間が経った。
結論から言えば、彼の思惑通り、大口の取引が氷室商事との間で決まった。今朝ほど会長室に呼ばれて、私の今回の異動はなくなったと言われた。
でも、また機会を見て頼むからねと言われた。いずれ私を達也さんの秘書につけると決めているからと念を押された。彼は知っているのだろうか。
今日は、彼と以前から行きたいと言っていたイタリアンの店で待ち合わせ。外出先から来るという彼がリザーブしてある席に案内され、入って待った。
すると、花束を持った彼が入ってくる。
「どうしたの急に?花を買ってくれたの?」
「そう。仕事も思うように進んだし、サポートしてくれた菜摘にプレゼントだ。異動もなくなったし万々歳だよ」
赤いバラがかなりの数だ。隣の席に花束をそっと下ろし、彼の方を向く。
思った以上に美味しい料理とワインを頂きながら、久しぶりにゆったりと過ごす。デザートが出てきて食べ終わると、コーヒーだけになった。
それは突然だった。
「……菜摘。僕と結婚してくれる?」
ポケットから出したリングケースを渡され、驚く。
中央には輝くダイヤ。想像以上の大きさでまぶしくて直視できない。
「俊樹さん……。びっくりした……でもありがとう、とても嬉しいです。こんな私で良ければ、よろしくお願いします」
びっくりしたのもあり、気づくと頬を涙が伝っていた。彼が私の前にハンカチを出した。受け取ると頬の涙を拭う。
「あさっての日曜日、両親へに会いに行こう。約束を取り付けてある。昼ご飯を一緒に食べるけど、三時頃に兄夫婦が合流する。今回のことをきっかけに父から僕の退社と出来れば菜摘も一緒に氷室商事へ移ることを話し合うためだ」
この間専務ご夫妻と話していたこと、もう進んでいるんだ。相変わらずやることが速い。
「そちらはいいとして、そんな簡単にこちらの会社を辞めるなんてできるの?」
「もちろん、ミツハシの担当は俺にしてもらうので、しばらくはどちらの仕事もしながらということになるだろう。氷室へ逆出向という形も最悪の場合は受け入れて、いずれ戻る形にする。すべては会長次第だな。ただ、達也のことを父が助けるという条件ならあっという間に決まるだろう」
確かに、三橋部長をいずれ社長にすると言っていたし、氷室商事社長が約束をするとなればかなり違ってくるかもしれない。
「菜摘。君のご両親にはその後に挨拶でもいいかい?君の会社での今後を決めてからご報告したほうがいいだろう」
「ええ、その方がいいと思います」
私の左手をつかむと、薬指に大きなダイヤがはめられた。ピッタリだ。驚いて彼の顔を見た。
「どうして、ぴったりなの?サイズはどうして知っているの?」
「菜摘が寝ているとき測ったに決まってるだろう?さあ、すぐに帰ろう。菜摘をようやく公私ともに完全に僕のものに出来そうだ」
席を立つと、すぐに背中を押されて外にでた。
マンションに帰ると、先にシャワーを浴びてリビングでひとりぼんやりした。少し仕事があった彼は、家に戻るとパソコンに向かっていた。今さっき終わり、ようやくシャワーを浴びている。
異動の話を聞いたときは驚いたし、すぐに決まるかと思った。まさか彼がここまでして私を囲い込むとは本当に驚いた。
「菜摘。ぼんやりしてどうした?」
タオルで頭をふきながら、彼が入ってきた。
「……ううん。展開が急すぎて、ついていけてないだけ」
水を飲んだ彼が、ソファーの隣に座ると肩を寄せてきた。
「菜摘は必ず俺と結婚させるって言ってあったよな。きっかけはどうあれ早いか遅いかの問題だ。そうだ、例の一人暮らしはなしだ。このまま住んでもいいし、将来を見据えて家を探してもいい。どうする?」
もう結婚が決まったかのように話すのはやめてほしい。まだご両親にご挨拶していない。お許しくださるかわからない。
私の顔色を見て何もかもわかってしまったのだろう、彼は私を抱き上げてベッドへ直行。
「さてと……。今日はプロポーズの夜だ。念入りにかわいがるから覚悟しろ」
ニヒルな笑みを浮かべて私を横たえる。深いキスから始まって、もう何も考えられない。
「愛してる、菜摘……」
「私も、愛してます……あ、あん、そこダメ、触らないで……」
「もうこんなになってる……本当にかわいい……」
「だめ、もう……早く来て……」
その日は外が明るくなるまで抱き合い、気を失うようにして眠った。そしてまた目が覚めると彼に抱かれた。ふたりにとって特別な夜となった。
* * * * *
朝から晴天の日曜日。ご両親にご挨拶すると、拍子抜けするほどすんなりと結婚を認めて頂けた。
「ほら、言ったとおりだったろ。菜摘は絶対気に入られると思っていたよ。義姉さんだってイチコロだったしな」
氷室商事への入社は全く心配いらないとお父様から言われた。ミツハシフードサービスを辞めるのは最悪結婚退社という形にすればいいと言われた。
結婚式は、私の両親も含め相談が必要だが、少なくとも緑ちゃんの出産前はない。大きな披露宴を覚悟してほしいとお母さまから言われてしまった。
ミツハシにも在籍していた。つまり両方の会社関係者を呼ぶ式になるということだ。
彼の今後については、今の会社との相談ももちろんだけど、氷室商事には役員として入ることになるのは間違いないと言われた。
つまり、専属秘書として今まで同様彼についていくということになる。
「これからの菜摘はやっと俺の妻になった。会社では秘書のまま、いずれ俺の子供の母親にもなってもらう。ああこれで安心だ。どんなときも俺の側で目の届く範囲内でいてもらう。だれにも渡さないと決めていたが、これで俺も安心して生きていける」
生きていけるって、大げさすぎる。
「だめよ、そんなこと言ってちゃ。私がいなくなったらどうする気?」
こちらを怖い顔でのぞきこみ、すぐにこう言った。
「あの世に行くときも一緒だ。とにかく、子供が出来たとしても一人にはしないからな。お前がいないと思うだけで、ぞっとする」
すぐに抱きつかれて、キスされた。
「で、達也と明日飲みに行くというのは本当か?」
嘘でしょ。あれほど内緒にしてたのに、何でわかったの?
「業務部の飲み会に呼ばれただけよ。業務部の若手もいるから懐かしくて行きたいの」
「なんで黙ってた?反対されるのをわかっていたんだろ?」
心配させたくないから接待の夜の日に入れたのに、どうして……。
「ねえ、それくらいは許してよ。どうしたの?今までは許してくれてたじゃない」
「最近、さらに綺麗になったと社内で噂されてると聞いた。心配だから接待も落ち着けない。どうしてくれる」
「もう……大丈夫だから、私には俊樹さんだけです」
両腕を彼の頭に回し抱きしめる。
「……当たり前だ」
彼の溺愛は結婚するときまったのにさらに深くなった。どういうことなんだろう。これ以上ってあるの?考えていると、気づけば深いキスをされて身体を撫でる彼の手に、今日も意識がすべて持って行かれてしまうのだった。
俊樹さんは私を見えない鎖でぐるぐる巻きにする夢を見たと言う。夢ならいいけど、最近の彼を思うと笑えないのよね……。
菜摘はため息をついたのだった。
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