御曹司は部下の彼女に仕事も愛も教えたい

花里 美佐

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香那の夢

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   今日も椎名不動産で打ち合わせ。私の打ち合わせ相手は最近いつも史人。
 結局、彼と打ち合わせすることが多くなった。担当が被ることもあって具体案を話し合うにはいい相手だからだ。
 同級生であることを本郷さん達に伝えたら、それは利用すべきだと言われて、こうなってしまった。

 確かに、話が早い。お互いどういう物が好きでどういう所を目指しているかわかりやすいというのもある。
 
 「柿崎さんはこういうの得意だと思うんです。ここのインテリアも同じ色にしたいので、出来れば台所がオープンキッチンの部屋を使いたいんです」

 史人は私を見て苦笑い。

 「水川さん。わかりました。オープンキッチンに設計を変えられるか担当に聞いてみます。まだ、設計段階だと誰に聞いたんです?」

 「え?そちらの清水課長です。物件の話になって、中の設計まだのところもあるので融通効かせますよって言って下さって……」

 ため息ついてる。まずかったかな?
 史人が小さい声で言う。

 「香那。お前この間の小さな子供のいるファミリー向けの案、以前俺に話したことがあっただろ……お前から来た案を見たとき驚いたよ。コマーシャルもお前の案だったんだとすぐにわかった」

 「……覚えてたんですね」

 「キッチンの壁にフライパンを大中小とぶら下げている……小さいときから子供も使えるように小さいフライパンから並べて、子供と並んで料理するのが夢って言ってたよな」

 「それを聞いてあなたはなんて言ったか覚えてる?」

 「……」

 「香那、俺は……」

 「ごめんなさい、そんなつもりじゃない。言い方が悪くてごめんなさい」

 この話は彼との未来を考えるのが難しいと結論を出した理由のひとつ。

 彼は子供が苦手というか、嫌いだと公言していた。外で一緒にいても、店で少しはしゃいでいる子供を迷惑だと言ってみたり、睨み付けたり……確かに冷たいなと思ってはいた。

 ある日、キッチンの話になってさっきの夢を話したとき、彼は自分の子供も持ちたいかどうかさえ、まだわからないからお前の夢は結婚しても実現できるかわかんないなって真顔で返された。
 
 そう、それが彼の答え。

 私は小さい頃から絵を描いたり、おままごとしたりが大好きで、専業主婦だった母にくっついて料理も覚えた。
 兄弟がいなかったのもあって、母親と自分が並んで料理が出来るくらいの本当は大きな台所がいいなあと思っていた。

 実家は狭くて調理台にはひとりしか入れなかった。
 私は子供も出来れば最低ふたりは欲しいとか結構自分の夢がはっきりしている。
 
 私と子供ふたりが大中小のフライパンを持って並んで料理する。それを旦那さんが嬉しそうに目の前で見ている。
 そんな家庭が欲しい。

 史人には結局フラれたけど、実際私の気持ちも彼のあの返事がきっかけで離れてしまい、ギクシャクし出した。

 最初にパンフレットを作ったときに、本部長が私のその風景を書いた文章を褒めてくれた。そして、自分もそういう家庭がいいなと何気なく話してくれたのが嬉しかった。別に彼とどうこうなるとか考えたわけではなかったけど、そう思ってくれる人が男性にもいて嬉しかった。

 仕事の打ち合わせが終わったとき、史人から聞かれた。

 「香那、あの日あれから大丈夫だったのか?椎名さんの件……今度またふたりで飲みに行こう。見せたいインテリアの店もある」

 あのときタクシーに女性と乗り込む彼を一緒に見てから、どうやら私のことを彼が大切にしていないと思ったのか、勘違いさせたのかもしれない。私があの話をするのもどうかと思うので、あれ以降あのことは何も話していないのだ。

 そういえば、本郷さんから椎名不動産の担当者さん達と明後日飲み会がありますと言われた。

 「会社同士の飲み会があさってあるそうですよ。お疲れ様です」

 他人事のように返事をして別れた。

 当日はモデルルームでのすりあわせがあるので準備もあり翌日から忙しくなった。

 飲み会の前日。ようやく仕事を終えて家に戻ると、いったん着替えて彼の部屋へ行った。

 最近は食事を作るのは彼の部屋で、彼が帰りの遅いときに帰ってから食べられるようにして作りおきしている。
 そうじゃないと外で食べてきてしまうので、なるべく家で食べた方が身体にもいいからわざと作っておくのだ。

 私は自分で言うのもなんだけど、料理が得意なので喜んでもらえているようだ。

 玄関が開いた音がした。パタパタとスリッパの音を立てて、彼を迎えに行く。

 「お帰りなさい」

 「ただいま。いい匂いだな」

 「うん。丁度いいときに帰ってきましたね。一緒に食べましょう」

 そう言って、白菜と豚肉の鍋やわかめとキュウリの和え物、お刺身などを並べた。

 「香那」

 「はあい?」

 「今日は泊まっていけ」

 「嫌です」

 「は?」

 「明日、例の飲み会だし、帰り遅くなるから今日は早く寝たいの。寝ておかないと私酔うから……」

 英嗣さんはあっけにとられた顔をしてこちらを見ている。向かい合って座って、食べ始めた。

 「美味しいー!この豚肉、脂が少ない割に柔らかくて美味しいです」

 ん?なんで何も食べないの?じっとこちらを見ている。

 「どうしたの?具合悪いんですか?」

 「……香那。お前、あいつと二人三脚で仕事しているらしいな。どうして俺に言わないんだ?」

 ゴックン。わかめをかまずに飲んじゃったよ。ゴホゴホ。水を飲んで彼を見て言う。

 「だって、知ってるかと思ったの。担当役員だし……」

 「……なんで目が泳いでる?お前、俺に隠し事出来るとでも思ってたのか?ずいぶんと成長したな」

 「そんな言い方しなくても……ちゃんと普通に働いてます。史人とやると仕事が早いからそうしてるだけ」

 彼が何も言わずにこちらをじっと見てる。

 「史人とか俺の前で言うな!同級生だし、デザインの勉強を一緒にしていたから仕事が早いと言い訳しているらしいな。それだけじゃないだろ?付き合っていたからわかるんだよな?色々と……」

 頭きた!そんな言い方ない!

 「そうだと言ったら?しょうがないでしょ?仕事なんだからスムーズに行けばいいことですよね?勘ぐられるようなこと何もしてないもん」

 私の怒りっぷりに彼は驚いた顔をして、箸を置いた。

 「……すまん。本郷から今日聞いて驚いた。想像するだけで腹が立って、気が狂いそうだ。今日は俺に香那を補充させてくれ」

 英嗣さん……。

 「わかったわ。でも信じてほしいな。英嗣さんよりいい男なんてあんまりいないから……」

 嬉しそうにはにかんでる。

 「よし、早く食え。いい男が後でたっぷり可愛がってやる」

 そ、それは困るな。最近、激しくて私ついていけない。

 「あの……明日も朝早いから、手加減して下さい」

 「まあ、考えておく」

 「なにそれ……そうだ、あちらの女性課長も英嗣さんのこと大好きだから、明日気をつけてね」

 鍋を食べながら、片眉をあげて私を見ている。

 「お前、知らないのか?本郷が彼女に片思いしてるらしい……」

 「ええ?!」

 「店の選定をあいつに頼んだら、彼女がどういう店なら喜びますかねとか言うんだ。担当課長だから喜んで欲しいとか訳わからんこと言うから問い詰めたら、真っ赤になって……」

 そう言われてみれば、本郷さんとあちらの課長が打ち合わせる事も多い。実質本郷さんはこっちのチームリーダーだもんね。
 そして、私も清水課長さんとは仲がいい。本郷さんが好きになるのもうなずける。応援しちゃおう。

 「そうだったんだ。でも清水課長はいっつも私に椎名取締役は今日来ないんですか?格好いいですよねとか言うの。絶対気がある」

 「……しょうがないだろ?俺が格好いいんだから」

 始まったよ。俺様大劇場……。

 「はいはい。そうでしたね。だから私は心配ですよ」

 「俺が選んだのは香那だろ?自信満々でいろよ」

 目の前でどや顔しながらすごい勢いで食べている。

 「香那、料理本当にうまいな。お前、お手伝いさんよりうまいぞ……早く嫁に来いよ」

 だから、どうして軽くそういうこと言うのかな?黙っている私を見て、焦っている。

 「おい?どうした?褒めてんだぞ」

 「何でもありません。ほんと、英嗣さんって残念なところがありますね」

 「なんだ、その言い方?」

 「いいえー、早く気付くといいな」

 「お前、あとで覚えておけよ」

 言葉の通り夜半まで彼に愛されて、その翌日の朝は眠かった。

 「……か、かな、おい、香那」

 「……ううーん」

 ペチペチと頬を叩く音で目が覚めた。え?ワイシャツを着ている彼がこちらを見てる。

 「やっと起きたか。そろそろやばいんじゃないか?いくら近いと言っても……」

 時計を見ると八時。嘘でしょ?どうして起こしてくれないの?
 すごい勢いで飛び起きた。ああ、もう……。シーツを前に引っ張る。

 「ちなみに三回起こした。朝ご飯作ってあるから、食え。俺はそろそろ先に出るから閉めて出ろよ」

 「……許さない。全部英嗣さんのせいだから」

 「そうだな、俺のせいだ。でも俺は大満足だ。ごちそうさま」

 そう言って、嬉しそうに笑いながら先に出ていった。信じらんない。

 今日はモデルルームが出来てきたので、実際に行って、商品を納品して部屋を作っていく。
 四人総出で荷物を持って、車に乗り込みマンションへ向かった。

 ファミリータイプ、新婚タイプ、子供の巣立った熟年タイプなど三部屋を作っていく。

 部屋へ入ると内装も色も統一されていて、とてもよかった。
 キッチンもそれぞれ特徴がある。

 持ってきた調理器具は部屋と同じ色合いになっていて、年代別に考えられた種類を置いていく。
 わくわくして、楽しい。やりたい仕事が出来るってこんなに楽しいんだと実感した。

 手分けしてそれぞれやっていくが、皆のキッチンへの思いが聞けてとてもためになるし、それぞれみんな考え方があるんだなと思う。結婚後のことってその時に決めればいいんだろうけれど、夢ぐらいあってもいいよね。

 ファミリータイプのところをひとりでセッティングしていたら、椎名社長が現れた。

 「水川さん、お疲れ様」

 「あ、社長。お疲れ様です」

 「コマーシャルのときより、ずっといいわね。色にも統一感があるし、キッチンもおしゃれだわ。あなたのセンス最高ね」

 「ありがとうございます。センスというより、ここは私の夢そのものなんです。この仕事は本当に幸せでした」

 「それって……結婚後の夢ってこと?」

 「はいそうです。実際は十五年以上前から考えていた感じです」

 「ええ?!そんな前から結婚願望があったの?」

 「そうじゃなくて、台所願望。キッチンに家族で立つのが私の夢だったんです。ちょっと変ですけど……」

 「そうなのね。そういえば、あなた料理がすごくうまいんですって?英嗣がお手伝いさんよりうまいって言うから驚いて。あの子は一応栄養士の資格とか持っているのよ」

 「あの子って?」

 「だから、お手伝いさんの子。椎名家で仕えていたお手伝いさんが最初英嗣のところへ行っていたんだけど、歳でね、その娘が代わりに最近行ってたのよ。まあ、使用人の子供だったから、英嗣にとっては妹みたいなものだけどね」

 「……そうだったんですね」

 「辞めさせたって聞いてね、笑っちゃった。お手伝いさんはもういらないって言っていたのに彼女が無理矢理入ったの」

 「……」

 「嫌な思いさせたならごめんね。英嗣から少し聞いたの。辞めさせたって言うから、一応ね。私もあの子の親にはお世話になっていたので。でもよかったわ、あの子も諦めるでしょ」

 私はどう答えたらいいのかわからず立ち尽くした。すると優しい笑顔で話しかけてくれた。

 「英嗣と弟の店にも行ったでしょ?あの子、あなたのこと見せびらかして隠すつもりもないのね、きっと。英嗣のことどうかよろしくね。何か頭にくることがあれば私に言ってくれたら叱りますから……」

 「社長……」

 綺麗なウインクをして社長は出て行った。

  
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