同期恋愛は山あり谷あり溺愛あり

花里 美佐

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望んだ姿

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 「今年度のコンテスト最優秀賞は吉崎紗良さんの発案商品になりました。吉崎さん、前へ」
 
 「はい!」

 今日は商品開発本部の表彰式。
 会社で本部という独立部門になり、実質子会社化は来期の予定だ。

 私は、そちらへ転籍することを決めた。
 それは、このコンテストの結果も大きな要因。
 とうとう、結果をものにした。

 「吉崎、おめでとう」
 
 「ありがとうございます、本部長」

 本部長とは、以前の椎名課長。
 彼は私より一足先に、そちらの部へ異動となった。

 お付き合いはお断りしたが、転籍に関しては前向きに考えて、今までの営業事務としての仕事を徐々に引き継いでいる。
 今回の結果で転籍は事実上決定だろう。

 「吉崎、異動は春からだ。そのつもりでいてくれ」
 
 「はい。わかりました」

 「とりあえず、よかったよ。お前の案が一等賞で」
 
 「本部長。かけっこじゃないんですから、一等賞はないでしょ?」

 「どうでもいいだろ。おんなじなんだから。お前の異動がこれで確定する。俺は安心だ」
 
 「本部長。最優秀賞でなくても、私異動考えてましたよ」

 「どうだかね。田村が最後までごねてただろ。あいつ、何なんだ。結婚もほぼ決まりながらお前を囲い込んで……」
 
 「そういう、本部長だって、私と交際前から結婚して、転籍させようとしてましたよね?それを囲い込むって言うんですよ」

 「俺らしくなかったな。あんなに目の前で指くわえていたのは初めてだ。実力行使に出ればよかった。今更だがな……それだけお前に本気だった」
 
 私は本部長の横顔を眺める。彼は舞台上を見ながら小さな声で話してる。

 「本部長のような素敵な御曹司は私には高嶺の花です。少し馬鹿な大和ぐらいで身の丈です」
 
 「……吉崎。俺はあの馬鹿に負けたのか?それもかなりのショックだが。営業成績でもあいつに負けるとは思えないしな」

 それを言われたら、何も言い返せない。
 
 「だから、私がその程度なんですよ。本部長にはもっと素敵な女性がいます」
 
 「そうかな?まあ、失恋でどうこうなるには恥ずかしい年齢だから我慢しているが、これでも結構堪えた」

 「すみません」
 
 「だが、いい。これからも仕事ではお前を独占できるし、お前が俺のアシストにつけば大抵のことはやっていけそうだ」
 
 嬉しそうな本部長。これだから、大和がキレる。私の賞が内定したときなんて、大騒ぎ。はあ。

 三日前のこと。
 昼休みに電話があり、受賞内定の連絡と、授賞式の連絡があった。

 嬉しくて、つい隣の川の、二課のお誕生席にいる大和に受賞の報告に言った。

 「……なんだと?それは本当か?やっぱりな……絶対椎名課長のせいだろ。無理矢理お前にしたんだよ。くそったれ!」
 
 「え?ひどくないそれ?そんなわけないじゃん。全社員投票なんだよ?」

 「わかったもんじゃねえよ、内緒の御曹司だろ?」
 
 私の耳元でささやく。

 「……大和それって言い過ぎだし、私に失礼だと思わないの?ひとこと、お祝いも言えないわけ?」
 
 私の顔を見つめて、ふてくされて言う。
 
 「おめでとうございます。これで、営業ともおさらばだな」
 
 「……ひどい」
 
 私は頭にきて、くるりときびすを返すと席に戻った。

 パチパチ、バン。
 無意識で力を入れてパソコンキーを叩いてしまい、すごい音がした。
 みんなおびえている。聡子ちゃんも何事かと私を見ていた。
 
 「吉崎どうした?」
 
 里崎さんが、書類を手に私の所へ来たが、あまりの機嫌の悪さに驚いている。

 「里崎さん。私、転籍事実上決まりました」
 
 「え?ほんとに?もしかして……」
 
 「そう、それです。受賞連絡ありました」
 
 「おめでとう、やったな、吉崎。すげえなってどうしてそれなのに怒ってんだよ」

 「隣の川にいる馬鹿が私の受賞は不正だとかなんだとか言うんです」
 
 「……はーなるほどね。そう思いたいんでしょ。ま、許してやれよ」

 バン!
 私が机を叩いて立ち上がり、里崎さんはびっくりして後ずさる。
 
 「どうして、許してやらなければならないんですか?私の汗と涙の結晶である作品が受賞するのに、おめでとうのひとつも言えないような奴を何故庇うんです?」
 
 すごい剣幕の私に、里崎さんはまあまあと手を上下させた。
 
 「落ち着けって。みんなびっくりしてるぞ。まだ、内密なんだろ?」
 
 「……」
 
 ギリギリとボールペンを握りしめた私を恐ろしげに見ている。
 
 「とにかくさ、お前が転籍することを何より恐れてるんだから。というか、本部長がお前にまだ執着してると思い込んでる節がある。そうじゃないと安心させてやれば大丈夫だよ」
 
 「執着があろうとなかろうと、それはつまり私を信用してないんですよね?」
 
 「だから言ってるだろうが。早く籍だけでもいいからいれちまえ。そうすりゃ、あの馬鹿も少しはさ……」

 後ろから低い声がする。
 
 「馬鹿って言うのは俺のことですか?里崎さん」
 
 大和が睨んで横で立っている。
 
 「あー、面倒くさい奴ら。もう本当に勝手にしろ」
 
 里崎さんは私にプリントを渡すといなくなった。

 「ちょっと来い」
 
 大和は私の腕をつかむと、部屋を出て行く。
 打ち合わせ室を使用中にして、私の背中を押すとドアを閉めて鍵をした。

 私は大和をじっと睨んでいた。
 
 「紗良。すまん。頭に血が上って嫉妬した」
 
 「……」
 
 私は反動で涙が出てきた。
 
 「おい、おい……紗良……ごめん、ごめん泣くなよ」
 
 そう言って、私を抱き寄せると頭を撫でて背中をさすり、なだめ出した。
 彼のワイシャツが濡れてしまう。
 
 私は、離れようとした。
 それに気付いた彼が、ハンカチを出して顔を拭いてくれた。
 
 「紗良。転籍前に婚約しよう。お前のご両親へ挨拶して、きちんとしよう。指輪してくれ。そうじゃないと俺……」
 
 泣いている私の顔を両手で挟み目をのぞき込む。
 
 「お前をきちんと俺のものだとわかるようにしたい。いいだろ?」
 
 鼻をすする私を見て、ため息をついている。
 
 「……わかった。婚約する。挨拶行く」
 
 大和は喜んでまた私を抱きしめた。
 
 「ありがとう、紗良。子供みたいだけどさ。あの本部長には持ってるスペックが敵わないんだよ。俺勝てない……」
 
 私は笑った。
 
 「馬鹿ね、大和。私はどんなイケメンだろうと御曹司だろうと、お馬鹿さんの大和のほうがいいの。だから何の心配もいらない。あんな完璧な人、私には全く魅力的に映らないの」
 
 「……それって。お前全く褒められてる気にならんのだが……」
 
 「褒めてないもん。当たり前じゃん。だから、ちょっと手のかかる大和がいいの。私がそのお世話をする。大和も私を元気づけるって言ってたよね。だからそれでいいの」
 
 「……そうだな、俺は脳天気に今のままがいいんだよな」
 
 得意げな大和を見て、がっくりした。
 
 「だれが、脳天気でいいって言ったのよ?私はあんたを矯正するの。それが生きがいなのよ。成長しようね大和」
 
 にっこり微笑む。
 大和はむっとして私を見ていたが、ため息をついてまた抱きしめた。
 
 「いいや、もう何でも。とにかく、俺がいいんだろ?よし、早速挨拶の日取りを決めようぜ」
 
 喜んだ彼は今日の夜にもふたりで相談しようと言って、打ち合わせ室を出て行った。

 私は、涙を拭くと部屋を出た。
 
 「先輩。どうしたんですか?」
 
 「聡子ちゃん。ごめんね、大騒ぎして……」

 「なんかあったんですか?ただの喧嘩ならいいですけど……」
 
 ついでに聡子ちゃんを打ち合わせ室に引っ張っていく。

 「聡子ちゃん。私、来春から転籍すること決まったから、後のこと頼むね」
 
 「え?!何ですか、それ。まさか……」

 「そう、そのまさか。受賞が決まったの」
 
 聡子ちゃんはジャンプして喜んでくれた。
 あー、なんていい子なんだろう。
 これだよ、これ。私が求めていたリアクション。
 
 「よかったですねえ、先輩。頑張って考えてましたもんね。報われましたねえ」
 
 「聡子ちゃん。あなたはなんていい子なんだろう。私、惚れ直した」
 
 「へ?」
 
 「大和は嫌みを言ったんだよ。あいつ、許せん」
 
 「ま、そうでしょうね。今だって他の課なのにジロジロ見てるし、先輩のこと。いなくなるなんて、きっと耐えられないんじゃないですか?結構へたれなんですね」
 
 むう。自分の彼氏を馬鹿にされるのがこんなに辛いとは。しかも、事実だし。複雑だわ。
 
 「私も寂しいですう。ああ、どうしよう。里崎さんの担当はイヤだな。結構無理矢理振るでしょ。先輩甘やかしすぎですよ」
 
 確かにそうかも知れない。私、結構里崎さんにはプライベートでお世話になってるから、ギリギリの納期でも受けてあげたりしてきてるから、その自覚はある。
 
 「そうだね。それについてはひとこと言ってから転籍するよ。今から少し矯正していく」
 
 うんうんと手を前で組んでお願いする聡子ちゃん。可愛い後輩のためだもんね、なんだってするわ。
 ふたりで近いうちに食事へ行こうねと約束して、部屋を出た。

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