財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す

花里 美佐

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最初の一歩2

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「そうだ、その顔だ。お前は笑顔がいいんだ。俺もお前といれば無表情から離れられる。お互い無愛想を卒業しよう」

「はい……え?」

 少しして隣の部屋の電話の音が聞こえた。急いで立ち上がり席へ戻ろうとしたら、久しぶりの毛足の長い部屋のジュータンに足を取られた。

「あっ!」

 転びそうになった私を崇さんが立ち上がって腕を引っ張ってくれた。弾みで彼に抱きついてしまった。

「っと……危ないな。大丈夫か?」

「すみません。ありがとうございました」

 歩き出そうとしたら電話が切れてしまった。頭の上から声がした。

「香月」

 頭を上げて見ると彼が右手で私の背中を支えて、左手は私の右腕をつかんでいる。

「はい……」

「常に側にいるんだぞ」

「え?」

「今日からお前は俺のものだ。やっと……」

 そう言って、そっと私を抱きしめた。彼の香りに包まれて、私の頭は混乱した。先週のホテルでのことが頭をよぎった。

「さあ、父さんの所へ行こう。はっきりさせておかないとな」

 彼は私の背中を押して部屋を出ると、総帥のところへ向かった。緊張する。崇さんがノックをすると、辰巳さんがドアを開けてくれた。

「おはようございます」

「来たか。香月君、久しぶりだな」

「はい、急に戻ることとなりました。今日からまたよろしくお願い致します」

 入り口で頭を下げた私を見て、座るように手で指図された。怯える私を、崇さんが背中を押すようにエスコートして先にソファーへ座らせようとする。

 私は頭を振って、崇さんから先に座ってくれるように彼の目を見たら、にっこりと私を見て腕をつかんで一緒に座ってしまう。

 そんな私達を総帥は目を見開いて驚いて見ている。辰巳さんは苦笑いしていた。

「……おい、崇。お前、彼女の事はそういうんじゃないと言っていたよな?」

「そうですね」

 少し沈黙したあと、彼は言った。

「ようやく彼女を側に置くことができるようになりましたからね、徐々に俺のやり方でやっていきます」

「お前のやり方?」

 総帥が怖い顔で言う。すると、辰巳さんが言った。

「総帥、お時間が……あと十分ほどです」

「……わかっている。崇お前……辰巳と組んで俺を裏切るんじゃないだろうな?」

「父さん。その言い方は卑怯だ。先に裏切ったのは父さんだ。日傘さんどころかこいつまで支社へやってしまった。それに辰巳を利用していたのは父さんだ。俺と父さんの板挟みで辰巳はこんなに痩せたんだ。そのくらいにしてやれよ」

 私はびっくりして固まった。辰巳さんが総帥に言った。

「総帥。香月は私の大学時代からの後輩です。支社へやりたくはなかったですが、でも彼女を辞めさせられるよりはいいと思い、あの時は秘書室長にお願いしたんです。支社の部長横領の証拠固めも彼女の功績ですよ。彼女を認めて下さい。仕事が出来ることはよくご存じですよね」

 辰巳さん……。嬉しくて涙が出そうだった。

「父さん。彼女を秘書において今後は俺のやり方でやっていく。しばらく様子を見てくれないか。父さんの仕事を引き継いでいく重要な時期だ。それと縁談のことだけど、しばらくはやめて欲しい。忙しいのもあるが、実は心に決めた人がいる。そのうち紹介できるようにするから待っていてくれ」

 またもや驚いて彼を見た。聞いてないけど、まさか黒沢さんじゃないですよね。青くなった私を見て、辰巳さんは笑っている。辰巳さんはお相手を知っているのね、きっと。後でこっそり聞いてみよう。

 ちょっと待って……。総帥が私を睨んでる。勘違いしないで下さい、違います、違いますよ。私は右手を左右に振ってジェスチャーで違うと総帥に示すと、横から手を引っ張られ、引っ張った人を見るとこちらを見ずに私の手を握ったまま彼の膝にもっていかれてしまう。辰巳さんがクスッと笑った。

「仕事も、プライベートも必ず結果を出すから、せめて半年待ってくれ」

 総帥はため息をついて、私に言った。

「香月さん。崇は一年後をめどに総帥となる予定でいる。君はその重要な時期に秘書となる覚悟をしてここへ戻ってきたんだろうね」

 私は総帥を正面から見て、震える声で答えた。

「全力で崇さんをお支えします。で、でも力不足になることもあるかと思います。そのときは辰巳秘書のお力も借りるかもしれません。どうぞよろしくお願いします」

 頭を下げた。

「香月のことは何があろうと全て俺の責任だ。俺が守るつもりだから、父さんはそのつもりでいてほしい」

「そうか……本気なんだな」

「ああ」

「わかった。しばらくは様子を見よう。縁談だが、お前の母がさらに違う人を週末探していたようだ。彼女にも話しておいた方がいいかもしれないぞ」

「わかった。そうするよ」

「香月さん。崇のことよろしく頼む。それはつまり榊原財閥を頼むということを意味する。せっかくの女性秘書だ。こいつの身体のことも気をつけてやってくれ。それと、崇とは適切な距離感でいるように……」

 だから、そういう関係にはならないから違うって言ってるのに。

「はい、プライベートは別ですのでご心配には及びません。ご安心下さい。仕事は出来るだけ頑張ります」

 じろりと崇さんが私を睨む。何なのよ。辰巳さんは口を押さえて笑っている。それをまた総帥が見て睨んでる。

 崇さんが急に立ち上がり、私の腕を引っ張って部屋を出た。

「お前は一体何を余計なこと言ってるんだよ」

 崇さんの部屋へ戻ったら急に壁に追いやられた。もしかして、壁ドン?整った顔がこちらを睨んでる。怖い。だから笑って欲しいのに。

「……余計なこととは?」

「プライベートは別だとか何とか言ってただろ」

 何を言っているのだろう。崇さんのことではない。私のプライベートは別だ。キチンと言わないといけない。

「あの……別ですよね?私は女ですが、タダの秘書です。そういう関係ではないと言ったじゃないですか」

 崇さんは両腕をバンと壁に付けた。びっくりした。彼は下を向いたままだ。

「……まあ、いい。とにかく半年間で全部なんとかする。覚悟しろよ」

「あの、最初に約束しました。優しくして下さい。そういう怖い目で見ないでください」

 すると身体を近づけて私の顔を両腕で囲った。顔を近づけてきた。私は顔を背けた。

「……な、なんですか」

「だから、優しくしようと思ってさ。こっち見ろよ」

「セ、セクハラです。近すぎます。もっと離れて下さい。総帥とさっき約束しました……て、適切な、きょ、距離を……」

「約束なんて意味ないね。お前を連れ戻した段階からスタートなんだよ」

 驚いて彼を見たら、目の前にいる。耳の横で彼が囁いた。私は息をのんだ。

「全部優しくしてやる。安心しろ」

 そう言うと、固まっている私の頬を撫でて、離れていった。まさか、そういうことなの?私の頭の中はどうしようという言葉で埋め尽くされた。
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