財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す

花里 美佐

文字の大きさ
35 / 42

和解2

しおりを挟む
「香月さん。今まで色々すまなかった」

 総帥は軽く頭を下げた。私はびっくりした。

「君が慕っていた日傘君のこと、君自身への処遇、腹の立つことばかりだったろう。日傘君へは昨日の夜、直接電話をした。私の気持ちを話してようやく和解できた。そして君達が交際を始めたことを教えたんだ」

「あの……日傘さんはお元気でいらっしゃいましたか?」

「ああ、元気そうだったよ。相変わらずのシニカルなもの言いで負けそうだった。君にも近いうちに是非会いたいと言っていた。そして……悔しいんだが、崇と君のことは『予想通りになりました』と得意げに言われたよ。これが私へのだそうだ。全く彼には敵わないよ」

「日傘専務理事がここを去る直前に私へ言い残されたことがあります。自分は崇さんに種まきをした。でも花を咲かせるには毎日の水と時々の肥料が必要で、私に水と肥料をあげてねと言い残されたんです。あの頃は何を言っているんだろうと思っていましたが、ようやく意味がわかりました」

「日傘君がそんなことを?」

「ええ。私は素晴らしい上司に恵まれて本当に幸せです。日傘専務理事も素晴らしい上司でした。今は優しくて頼もしい崇さんのような人にお仕えできています。近頃は秘書以上の愛情も注いでくれます。これからは彼のために私のすべてで支えていきます」

「最近の崇は本当に素直になった。急に電話をしてきて今までの手法を聞いてきたりする。一皮むけたな。君をあのときやめさせないでよかった。君のことを辰巳が可愛がるはずだな……」

 意地悪そうに例の眼で辰巳さんを見ている。すると、すぐに辰巳さんが言った。

「総帥。実は私も随分前から崇さん同様に意中の女性がいるんです。香月も知っている人です。そのうち、崇さんに負けないように私も頑張って告白します」

「お前は何を言っておる?全く……」

 ノックの音がして辰巳さんが確認しに行った。すると急にドアが開いた。崇さんだ。私は驚いた。時間を気にするのを忘れていたのだ。

「父さん、彼女に連絡がつかないから困ったじゃないか。黙って連れて行くなよ。彼女は俺のものだぞ」

 私は急いで携帯を確認した。着信が二件ある。彼からだ。

「申し訳ありません。何か緊急でした?」

「ああ、緊急だ。指輪の件で、店から連絡が来ていて君に聞きたかったんだよ」

「はあ……え、指輪って……まだ早いです。あの、できればしばらく普通にお付き合いをさせてください」

 私の隣にドスンと座った彼は、私に向かって言った。

「今回の指輪は君へのただのプレゼントだ。父さん、夕べ彼女の事は家で話しただろ。呼び出してなんか問い詰めたり虐めたりしてたんじゃないだろうな」

「今回の事件の結末を伝えていたんだ。あと、無理矢理お前に付き合わされたんじゃないかと心配でね。本当にお前でいいのか確認していたところだ。彼女に問題は見当たらないが、お前の浮かれ具合にはあきれかえる。これでは清家にとても敵うまい」

 彼は私の手を取って、膝に載せるとポンポンと叩いた。辰巳さんが咳払いをした。私は手を引っ込めようとしたら、握り替えされた。

「一年後には総帥を完全に継承するよ。父さんも首を洗って待っていてくれ。それと、清家には負けないから安心してくれ」

「崇さんったら……口が悪いですよ」

「お前の口が綺麗だから問題なし。辰巳、後は頼むぞ」

「はい」

 彼は私を立ち上がらせると手を繋いで出てきた。

「もう、何してるんですか?公私混同はいけません」

 彼はキョロキョロと周りを見ながら柱の陰に私を引き込んだ。

「お前と気持ちが通じて幸せでおかしくなりそうだ。あの父が夕べ君のことを褒めていたぞ。専務とお前を左遷したくせに……いい気なもんだ。菜々、ふたりで父さんに少し意地悪して反省させてやろう」

「先ほど聞いたのですが、日傘専務に直接お電話して私とのことをお話しになったそうです。その時専務から少し虐められたようですよ」

 彼は嬉しそうに私を見て言った。

「それは本当か?なんだよ、俺が先に日傘さんへ連絡して教えようと思ったのに。まあ、いいや。きっと相当嫌みを言われたんだろうな。お前を以前支社に飛ばしたことも辰巳から聞いていて知っているはずだ」

「でも、何か拍子抜けしました。怒られるかと思っていました。最初、距離を置いてくれと言われていたので、まさか許して頂けるとは思っていませんでした」

「許すとか許さないとか関係ない。俺の相手は俺が選んで、報告するだけだ。縁談を持ってきても、最終的に選ぶのは俺だということだけは約束していたんだよ。文句なんて言わせるもんか。しかも相手は菜々だぞ」

「もう、すぐに調子に乗ってだめですよ。来週は出張もあるし、準備であちこちへ回って頂かねばならないんです。お仕事の時はけじめをつけてきちんとやりましょう」

「はいはい、秘書様。キチンとしますよ」

 彼は嬉しそうに私を見て笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『龍の生け贄婚』令嬢、夫に溺愛されながら、自分を捨てた家族にざまぁします

卯月八花
恋愛
公爵令嬢ルディーナは、親戚に家を乗っ取られ虐げられていた。 ある日、妹に魔物を統べる龍の皇帝グラルシオから結婚が申し込まれる。 泣いて嫌がる妹の身代わりとして、ルディーナはグラルシオに嫁ぐことになるが――。 「だからお前なのだ、ルディーナ。俺はお前が欲しかった」 グラルシオは実はルディーナの曾祖父が書いたミステリー小説の熱狂的なファンであり、直系の子孫でありながら虐げられる彼女を救い出すために、結婚という名目で呼び寄せたのだ。 敬愛する作家のひ孫に眼を輝かせるグラルシオ。 二人は、強欲な親戚に奪われたフォーコン公爵家を取り戻すため、奇妙な共犯関係を結んで反撃を開始する。 これは不遇な令嬢が最強の龍皇帝に溺愛され、捨てた家族に復讐を果たす大逆転サクセスストーリーです。 (ハッピーエンド確約/ざまぁ要素あり/他サイト様にも掲載中) もし面白いと思っていただけましたら、お気に入り登録・いいねなどしていただけましたら、作者の大変なモチベーション向上になりますので、ぜひお願いします!

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

【完結】薬屋たぬきの恩返し~命を救われた子狸は、茅葺屋根の家で竜と愛を育む~

ジュレヌク
恋愛
たぬき獣人であるオタケは、生贄にされそうになった所を、冒険者のリンドヴルムに助けられる。 彼は、竜人族最強を目指すため、世界中を巡り自分より強い竜を探し求めていた。 しかし、敵を倒してしまった彼は、家族を亡くした上に仲間に生贄にされた彼女を置いていくことができず、母国に連れ帰ることにする。 そこでオタケは、夜行性であることと、母より受け継いだ薬草の知識があることから、「茅葺き屋根の家」を建てて深夜営業の「薬屋たぬき」を営み始める。 日中は気づくものがいないほど目立たない店だが、夕闇と共に提灯を灯せば、客が一人、また一人と訪れた。 怪我の多い冒険者などは、可愛い看板娘兼薬師のオタケを見ようと、嬉々として暖簾をくぐる。 彼女の身元引受人になったリンドヴルムも、勿論薬屋の上顧客になり、皆に冷やかされながらも足繁く通うようになった。 オタケは、教会が行う「ヒール」に似た「てあて」と言う名の治癒魔法が使えることもあり、夜間の治療院代わりも担う。 特に怪我の多いリンドヴルムに対しては、助けてもらった恩義と密かな恋心があるからか、常に献身的だ。 周りの者達は、奥手な二人の恋模様を、焦れったい思いで見守っていた。 そんなある日、リンドヴルムは、街で時々起こる「イタズラ」を調査することになる。 そして、夜中の巡回に出かけた彼が見たのは、様々な生き物に姿を変えるオタケ。 どうやら、彼女は、ただの『たぬき獣人』ではないらしい……。

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

何も言わずメイドとして働いてこい!とポイされたら、成り上がり令嬢になりました

さち姫
恋愛
シャーリー・サヴォワは伯爵家の双子の妹として産まれた 。実の父と双子の姉、継母に毎日いじめられ、辛い日々を送っていた。特に綺麗で要領のいい双子の姉のいつも比べられ、卑屈になる日々だった。 そんな事ある日、父が、 何も言わず、メイドして働いてこい、 と会ったこともないのにウインザー子爵家に、ポイされる。 そこで、やっと人として愛される事を知る。 ウインザー子爵家で、父のお酒のおつまみとして作っていた料理が素朴ながらも大人気となり、前向きな自分を取り戻していく。 そこで知り合った、ふたりの男性に戸惑いながらも、楽しい三角関係が出来上がっていく。 やっと人間らしく過ごし始めたのに、邪魔をする家族。 その中で、ウインザー子爵の本当の姿を知る。 前に書いていたいた小説に加筆を加えました。ほぼ同じですのでご了承ください。 また、料理については個人的に普段作っているのをある程度載せていますので、深く突っ込むのはやめてくださいm(*_ _)m 毎日朝6時更新です(*^^*)あとは、 気分でアップします

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

『生きた骨董品』と婚約破棄されたので、世界最高の魔導ドレスでざまぁします。私を捨てた元婚約者が後悔しても、隣には天才公爵様がいますので!

aozora
恋愛
『時代遅れの飾り人形』――。 そう罵られ、公衆の面前でエリート婚約者に婚約を破棄された子爵令嬢セラフィナ。家からも見放され、全てを失った彼女には、しかし誰にも知られていない秘密の顔があった。 それは、世界の常識すら書き換える、禁断の魔導技術《エーテル織演算》を操る天才技術者としての顔。 淑女の仮面を捨て、一人の職人として再起を誓った彼女の前に現れたのは、革新派を率いる『冷徹公爵』セバスチャン。彼は、誰もが気づかなかった彼女の才能にいち早く価値を見出し、その最大の理解者となる。 古いしがらみが支配する王都で、二人は小さなアトリエから、やがて王国の流行と常識を覆す壮大な革命を巻き起こしていく。 知性と技術だけを武器に、彼女を奈落に突き落とした者たちへ、最も華麗で痛快な復讐を果たすことはできるのか。 これは、絶望の淵から這い上がった天才令嬢が、運命のパートナーと共に自らの手で輝かしい未来を掴む、愛と革命の物語。

婚約破棄された侯爵令嬢、帝国最強騎士に拾われて溺愛される

夜桜
恋愛
婚約者である元老院議員ディアベルに裏切られ、夜会で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢ルイン。 さらにバルコニーから突き落とされ、命を落としかけた彼女を救ったのは、帝国自由騎士であるジョイアだった。 目を覚ましたルインは、落下のショックで記憶を失っていた。 優しく寄り添い守ってくれるジョイアのもとで、失われた過去と本当の自分を探し始める。 一方、ルインが生きていると知ったディアベルと愛人セリエは、再び彼女を排除しようと暗躍する。 しかし、ルインの中に眠っていた錬金術師としての才能が覚醒し、ジョイアや父の助けを得て、裏切った元婚約者に立ち向かう力を取り戻していく。

処理中です...