財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す

花里 美佐

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和解1

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  あのクルーズから明けた月曜日。彼が外出中に辰巳さんから呼び出された。

 ついていくと総帥の部屋だった。逃げようとしたら辰巳さんに腕を掴まれて観念しろとひと言。

 引きずられて部屋に押し込まれた。そして、向かい合って第一声。総帥にこう言われた。

「香月さんは本当に崇が相手でいいのかね?」

「え?」

「君が崇をどう思っていたかはわからんが、崇はどうせ最初から、君を秘書というより交際相手にしたかったんだろう」

 私は驚いて総帥の顔を見た。

「……あの、それは……」

 総帥は私を見ながらニヤッと笑った。見たことのある嫌みな笑い方……ろくでもないことが親子は似るというのは本当だった。

「昨日の夜、急にアイツが本邸へ戻ってきて、君と付き合うことになったと嬉しそうに報告してきた。いつかそうなると予測していたし、驚きもしなかった。それより、アイツの顔ときたら……妻が驚いてた。今朝もひどかったな、なあ辰巳、お前もそう思っただろ?」

「はい。私もメールで交際の報告は崇さんから頂いておりました。それでも今朝は驚きました。私も長いこと彼のことを見てきましたが、今朝のような彼は初めて見ました。肌がつやつや、元気いっぱい、にこにこしている。正直誰だろうと思いました。気持ち悪かったです」

 私は恥ずかしくて真っ赤になって下を向いた。なんなのこれ?公開処刑?

「ただ、君を秘書として迎え入れると決めたときは、距離を置いてくれと言った。今同じ状況になったとしてもそう言うだろう」

「……はい。すみませんでした」

「確認するが、無理矢理だったんじゃないだろうな?」

「……え?」

「あのとき、どうしても君を秘書にしたいから支社へ迎えに行くとすごい勢いでまくし立てた。あいつが出ていった後、辰巳に確認した。崇が君に前から懸想してたことをね」

「……!」

 私は驚いて辰巳さんを睨んだ。すると横を向いて知らんふりをしている。

「だから、あいつが君に迫るのは時間の問題だとしても、この大事な時期に恋愛ごっこは困る。それでなくとも初の女性秘書だ。皆が注目している。君が有能なのは知っていた。崇にいい影響が出るかもしれないと辰巳も言うものだから、まあしばらく様子をみるつもりだった。ただ最初に適切な距離を保てと命じたのは、君だけでなく、崇にも釘を刺したつもりだ」

「それで……あの……私との交際をお許し頂けたのでしょうか?彼からは何も聞いておりません」

「香月さん。うちは特殊な財閥宗家だ。よく考えて、それでもよければ崇と付き合ってやってくれ。ただし、色々制約があることも覚悟してほしい」

「はい……わかっています」

「君を呼んだ本題は別にある。今回の黒沢さんと斉藤君のことだがね……」

「総帥。私の不注意でご迷惑おかけして申し訳ございませんでした。清家の助けもあり何とか解決しましたが、そうじゃなかったら本当に……」

 私は立ち上がって頭を下げた。

「座りなさい。そのことだが君もショックだったろう。交際相手だった斉藤君と黒沢さんのことは、調査していたので大分前からわかっていた。新藤から辰巳に伝えておけばよかったかもしれない。悪かったな」

 手を握って下を向いた私に、辰巳さんが横に来て背中を優しく叩いてくれた。

「いえ。私こそ気づかなかったのは自分でも情けないです」

「彼らは解雇する。黒沢さんの父親には私から直接事態を話した。君の父上の研究所に独断で彼がしたことも聞いている。君の父上は財閥のエレクトロニクス部門にいたときから知っているが、とても素晴らしい研究者だ。黒沢の父親は頭取から降ろされる。緊急の役員会が今日にも開かれて決まるはずだ。親子共々勝手なことをした懲罰が下る」

 辰巳さんが私を見て言った。

「香月。秘書課には隠さず説明する。今回の事件とは別に、彼女に言われて色々と加担していた秘書が数人いたようだったので、彼女達にも個別に面談中だ。今後のことは本人達に任せるが、おそらく全員辞めるだろう」

 本当に大事になってしまった。きっかけになったと自覚もある。責任を感じる。

「コンプライアンスとして秘書課の場合は別途決まりを作る必要がありそうだと新藤や辰巳とも話していた。それと、秘書課への入社後の配属も今までとは変えようと思っている。彼女を採用してあそこにおいた責任が私にもあるんだよ、香月さん」

「……総帥……」

「責任という意味では私達は痛み分けだな。ある面、辰巳や新藤にも責任がある。斉藤に関しては完全に指導監督不足。秘書課は守秘義務のせいもあるが、上司部下がお互い距離をおいている。それが裏目に出たな」

 辰巳さんは総帥に頷いた。

「はい、そのことは新藤さんとも話していました。私達にも責任があります。このことはいい教訓にしないといけません。香月、だからあまり自分を責めるなよ」

「辰巳さん……」

「さてと。事件のことはここまでだ。もう、考えなくていいから安心しなさい。そして今後のことだが、君に崇の秘書は続けてもらおう。実はね、辰巳を正式に私の専属秘書とする予定だ。来月いっぱいで新藤はここを非常勤になる」

「そうなんですか……」

「それに、崇は香月君以外の秘書は絶対おかないと言い張ってる。しっかり管理してやってくれ」

「よかったな、香月。これからも崇さんを頼むぞ。俺と二人三脚だ」

「……はい」

「何だよ、その顔……」

 総帥は面白そうに私達を見ていたが、咳払いをして真面目な顔で私を見た。
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