財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す

花里 美佐

文字の大きさ
33 / 42

企み~黒沢side2

しおりを挟む
 日傘専務は総帥に煙たがられて、崇さんの海外長期出張を機に冷遇され更迭された。そして私の瀬川常務がようやく専務になった。しかも香月さんも一緒に支社へ左遷され秘書課を追われたのだ。伸吾は可愛くない女だと言っていた彼女とすぐに別れた。

 私の天下が来た!そう思った。

 ところが、海外へ行く崇さんに外から縁談がもたらされた。焦っていたら、すぐに彼が縁談を断った。どうやら総帥と日傘専務のことで喧嘩したらしい。私にとっては完全勝利が目前だった。おそらく、海外から戻ったタイミングで婚約だろうと父からも言われていたのだ。

* * * *

 あとは崇さんが帰ってくるのを待つだけだった。一年後に戻ると言っていたので楽しみにしていた。

 ところが、半年後。急に崇さんが一旦帰国した。そのまま総帥となにやら話し合い、翌日からいなくなった。海外へ戻ったのかとみんなは言っていたが、辰巳秘書は相変わらず海外についていかないし、元気がない。

 すると、驚いたことに香月さんの親友で同期の住谷さんが騒いでいるのが耳に入った。

「御曹司、神奈川の支社へ行っているらしいわよ。菜々から連絡があったの」

「どういうこと!?何でお戻りになったの?」

 私は嫌な予感しかしなかった。まさか、彼女の異動を皆が内密にしていたのに、彼に漏れた?

「さあ?黒沢さんならご存じかと思ったけどそうじゃないんですね、びっくりです」

 この気の強い香月さんの同期は本当に気に入らない。虐めても、虐めても、涙ひとつ見せない。香月さんはすぐにメンタルやられていたのに……。

* * * *

 翌週、崇さんは本部へまた急に戻ってきた。でもひとりだった。安心していたらとんでもないことを皆の前で言った。

「明日から、神奈川支社へ半年前に行った香月さんが戻ってくる。そして、彼女が辰巳に代わって俺の専属秘書になる予定だ。みんなよろしく頼む」

 ざわざわと皆が顔を見合わせ話し出した。総帥が許さないだろうと皆が言う。男性秘書しか御曹司にはつけないというきまりがあるのだ。だから私は瀬川さんで我慢していたのに!

「ああ、言い忘れたがこのことは父もわかっている。彼女を問い詰めるようなことはしないように。時間をもらって悪かったな。仕事に戻ってくれ」

「あ、あの……崇さん」

 私は彼に言った。彼は相変わらずのクールな瞳をこちらに向けた。

「何かな、黒沢さん」

「その、女性秘書が許されるなら、立候補したい人はいると思います。私の方が香月さんより秘書経験もありますし、よろしければ……」

 彼は手を上げて私の言葉を制した。

「悪いが、俺は香月さんに決めたから、黒沢さんは瀬川専務にこのままお仕えして下さい。彼も昇格してさぞかし忙しいでしょう。何しろ、日傘専務の代わりだそうだし、さぞかし忙しいことだろう。君も覚悟してくれ」

 最後は冷たい目を向けた。日傘専務を追い出したのは瀬川専務と志村専務。彼はいきさつを知ったのかもしれない。

 実は総帥は日傘専務を更迭するつもりはなかったらしいが、うちの父が瀬川専務を巻き込んで数人の取締役と多数決で有利になるよう裏で仕組んだと後で聞いた。全ては先々のお前のためだと父は言っていた。

 彼女が戻ってきて二ヶ月。見るからに彼女を特別扱いし、彼女には優しいまなざしを向ける彼を見て、皆私の顔色をうかがいながら噂するようになった。

 こんなはずではなかった。今頃盛大に婚約披露のパーティーが行われるはずだったのだ。

 しかも、伸吾まで崇さんから目の敵にされて営業へ飛ばされた。飛ばされた日の夜のことだ。いつものホテルで彼の鬱憤を身体で受け止めた。ふたりの怒りの源は一緒になった。

「伸吾……聞きたいことがあるのよ」

 ベッドに身を起こして私はシャワーから戻ってきてビールを飲んでいる伸吾に言った。

「ああ、何でも聞けよ。今日はお前のお陰でだいぶスッキリした」

「あの子、机の鍵をどこにつけて持ってるか、あんたなら知ってる?」

 あの子が誰かすぐにわかったんだろう。聞き返しもせず伸吾は私を見た。

「おいおい。美保何する気だ?相手は御曹司秘書だぞ。いくらお前でもやり過ぎるとまずいぞ」

「ちょっと拝見させていただくだけよ」

 伸吾は秘書出身だからピンと来たんだろう。ベッドに乗り上げると私の横に来て耳元で囁いた。

「……アイツはいつも羊のキーホルダーに家の鍵と机の鍵、ロッカーの鍵も付けてる」

「ありがと。うまくいったらたっぷりお礼をするわ」

 伸吾の頬にお礼のキスをすると、彼は私の身体に覆い被さってきた。

「ああ、そうしてくれ。俺とお前の相性は最高だ。あんなマグロ女、御曹司にどうせすぐ捨てられるから何もしなくてもお前におちてくるぞ」

「……うふふ」

 待ってなさい、香月さん。崇さんは返してもらう。その夜は伸吾と朝までそこで過ごした。

 その頃、父は香月さんの実家へ手を伸ばしていた。私は仕掛けるなら彼女に大きなダメージが出そうな相手先を選んだ。

 計画は成功したかに見えた。まさか、その相手先に足下を掬われるとは思いもしなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

銀狼の花嫁~動物の言葉がわかる獣医ですが、追放先の森で銀狼さんを介抱したら森の聖女と呼ばれるようになりました~

川上とむ
恋愛
森に囲まれた村で獣医として働くコルネリアは動物の言葉がわかる一方、その能力を気味悪がられていた。 そんなある日、コルネリアは村の習わしによって森の主である銀狼の花嫁に選ばれてしまう。 それは村からの追放を意味しており、彼女は絶望する。 村に助けてくれる者はおらず、銀狼の元へと送り込まれてしまう。 ところが出会った銀狼は怪我をしており、それを見たコルネリアは彼の傷の手当をする。 すると銀狼は彼女に一目惚れしたらしく、その場で結婚を申し込んでくる。 村に戻ることもできないコルネリアはそれを承諾。晴れて本当の銀狼の花嫁となる。 そのまま森で暮らすことになった彼女だが、動物と会話ができるという能力を活かし、第二の人生を謳歌していく。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

思い出のチョコレートエッグ

ライヒェル
恋愛
失恋傷心旅行に出た花音は、思い出の地、オランダでの出会いをきっかけに、ワーキングホリデー制度を利用し、ドイツの首都、ベルリンに1年限定で住むことを決意する。 慣れない海外生活に戸惑い、異国ならではの苦労もするが、やがて、日々の生活がリズムに乗り始めたころ、とてつもなく魅力的な男性と出会う。 秘密の多い彼との恋愛、彼を取り巻く複雑な人間関係、初めて経験するセレブの世界。 主人公、花音の人生パズルが、紆余曲折を経て、ついに最後のピースがぴったりはまり完成するまでを追う、胸キュン&溺愛系ラブストーリーです。 * ドイツ在住の作者がお届けする、ヨーロッパを舞台にした、喜怒哀楽満載のラブストーリー。 * 外国での生活や、外国人との恋愛の様子をリアルに感じて、主人公の日々を間近に見ているような気分になれる内容となっています。 * 実在する場所と人物を一部モデルにした、リアリティ感の溢れる長編小説です。

【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る

水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。 婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。 だが―― 「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」 そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。 しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。 『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』 さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。 かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。 そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。 そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。 そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。 アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。 ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。

再会したスパダリ社長は強引なプロポーズで私を離す気はないようです

星空永遠
恋愛
6年前、ホームレスだった藤堂樹と出会い、一緒に暮らしていた。しかし、ある日突然、藤堂は桜井千夏の前から姿を消した。それから6年ぶりに再会した藤堂は藤堂ブランド化粧品の社長になっていた!?結婚を前提に交際した二人は45階建てのタマワン最上階で再び同棲を始める。千夏が知らない世界を藤堂は教え、藤堂のスパダリ加減に沼っていく千夏。藤堂は千夏が好きすぎる故に溺愛を超える執着愛で毎日のように愛を囁き続けた。 2024年4月21日 公開 2024年4月21日 完結 ☆ベリーズカフェ、魔法のiらんどにて同作品掲載中。

処理中です...