財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す

花里 美佐

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激務と私生活1

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「菜々。顔色が悪いが、大丈夫か?……おいっ!」

 昼前にふらっとめまいがして倒れかけた私を彼が支えてくれた。

 要は過労だったのだが、彼は医務室のベッドへ横になった私を見ながら目を三角にして怒った。

「とにかく、ひとりで何でもやり過ぎなんだよ!この間も残業しすぎだって言っただろ。辰巳なんて他の秘書をたくさん使って調べ物とかさせてた。菜々は無理をしすぎる」

「……忙しいのはしょうがないです。今が一番大変なときですから……」

「だからって全部ひとりでやろうとするなよ。それに最近痩せただろ」

 彼はベッドの横に座ると私を心配そうに見ながら言った。
 
「なあ、菜々。俺が同棲しないでいるのはどうしてだと思う?」
 
 そう言えば、真紀にも言われた。同棲どうしてしないのって……。真紀は同棲始めたところで彼の異動がわかって、ついていく決心をしたらしい。離れられないって言ってた。

 最近のプライベートでの私達は、彼が完全オフの日に、基本彼のマンションで会っている。

 彼の秘書になって半年。とにかく目が回るほど忙しい。

 土日祝日関係なく仕事が入ることもある。

 変な話、観劇のチケットを頂いたり、そのほかイベントチケットなど取引のある会社からたくさん頂く。

 そういったものを使って会場に行く場合、もはや観劇やコンサートも、この間なんてスポーツ観戦でもただ見に行くことはないわけで、ほとんどが仕事になる。

 私は事前に花輪やアレンジのお花を贈ったり、関係者席だった場合は手土産持参でご挨拶にも伺う。

 そうなったら、もうお休みではない。そうやっていつ休んだっけと思いながら過ごすこともある。

 同棲したほうが一緒にいられる時間は多くなるからそのほうがいいのかもしれないけれど、疲れているときはバタンキューになる。

「それは……」

「菜々のためだよ。自分のマンションで休ませるためだ。菜々は俺のところにくるとすぐに世話を焼く。休んでいろと言ってもなんか作ったりするだろ。あげく仕事の話になったりする」

「だって、手料理が食べたいんです。私、ひとり暮らしでも基本自炊キチンとしたいタイプなんです。それにやっと崇さんのキッチンに調理用具や調味料も私の選んだのが揃いましたし、作りたい……」

 彼のところは定期的に掃除は入れているが、食事は外食か、下のコンシェルジュ経由が多いので誰にも頼んでいなかったらしい。

 何か食べたいときは、本邸に戻っていつもの料理人にあれを食べたいと言えばすぐに出てくると言われて呆れてしまった。

 キッチンはピカピカで何もなかった。それをようやく色々と揃えて、彼の所へ私が行ったときに、食事をようやく作り始めたところだった。

「そういう問題じゃない。いいか、玖生のところの織原さんも忙しすぎて、玖生と会うとすぐに、うとうとと居眠りしていることがあると言っていた。今に菜々もそうなる。寝不足でさらに病気になるぞ」

 織原さんって……そうかそんなに忙しいのね。

 確かに私も忙しい。わかってはいる。

 限界だなと最近は思い始めた。辰巳さんにも顔色が悪いのは言われていて、どうするか実は相談しているのだ。

「わかっています。辰巳さんにも指摘されて相談しています」

「菜々。総帥を退いたら父さんはおそらくそんなに大変じゃなくなるから、非常勤の新藤が出社する日に合わせて来てもらおう。辰巳に新藤さんを補佐できる秘書を捜させている」

「それはつまり、総帥になったと同時に、辰巳さんが崇さんの秘書に戻ってくるって事ですか?」

 総帥になったら、私は秘書を外されるって事?

 それは……悲しい。でも予想はしていた。ここは基本男性秘書が総帥秘書だ。

 私は専務に頼まれて、彼という苗木を栽培している。彼の今の様子だとようやく木が充実してきたところ。

 総帥になったって、一年後くらいにようやく蕾がつくくらいだろう。花が咲くのは二年後くらいかもしれないと専務にも言われている。

 私、花が咲く前に栽培担当から外されちゃうの?
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