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第二章 中宮殿
二ノ巻-相談①
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「晴孝ったら、何ですか……挨拶もせず、話の間に入るなど行儀の悪い。まずはお座りなさい」
私は久しぶりの直衣姿の彼に見とれてしまい。声が出なかった。そのくらい美しい。おそらく、参内された後なのだろう。
「姉上。夕月を巻き込むのはやめてください。やっと傷が癒えたのに、また何か……」
「……晴孝様。大丈夫です」
「何が大丈夫だ!君は無茶をしすぎる。大体、姉上のことを守るなら兼近がやるべきで、夕月はひっこんでいなさい。君は姉上のためなら平気で危ないことをする。私は君が心配で……」
「……ふふふ」
「姉上!笑い事ではありません。あんなに夕月を心配なさっていたくせに、どうしてすぐに趣旨替えされるのです」
「まったくもう……。最近の晴孝は夕月のこととなると我を忘れますね。お前は姉より彼女のほうがずっと大事なのでしょう?」
晴孝様はよほどびっくりしたのだろう。ぽとりと目の前に扇子を落とした。
「……な、何を仰せです。私にとってはどちらも同じくらい大切です」
「同じ?それはひどいわね。どう思いますか、夕月」
いたずらな笑みを浮かべて私をご覧になる。静姫はこんな冗談を言うところがおありなのだと私は初めて知った。
「申し訳ございません」
頭を下げる。
「何を謝っているのやら……謝らないといけないのはこちらですね。晴孝、しっかりなさい。きちんと気持ちを示さないとかわいそうなのは彼女です。想い人が姉と一緒などひどいでしょう」
「わかっているなら、彼女を危ない目に合わせるようなことをしないでください!夕月。約束しただろ。頼むからやめてくれ。あんな思いは……もうこりごりなんだよ」
「……晴孝様」
私は胸がいっぱいになった。そのお言葉だけで満たされた。
「まったく。姉上、実は御上から中宮様のところへ姉上をしばらく借りたいと父上に申し入れがあったようです。先ほど清涼殿で父上にお目にかかり、伺いました。先ほどのはなしは……それに夕月を巻き込むはなしですね」
相変わらず晴孝様も目ざといというか、耳ざといのね。さすが兄上の親友。
今も私の頭上の几帳の陰に小さな蝶が止まっている。これは兄上の式神。何かあればおそらく兄上にはすぐに連絡がいくだろう。兄上はあれから私を心配し、常に監視をつけているのだ。
「晴孝様。そんな言い方なさらないでください。静姫様からは何もそんなお話はありませんでしたが、私のほうで気がかりなことがあったのです。でも、それも兄上と相談してからのこととしますからご安心ください」
「そうですよ。私のほうから夕月を連れていきたいと言ったわけではありません」
ぷいっと横を向いて扇を広げられた。可愛らしい。
「……何か気になることがあったのか?なんだ?」
「それは……兄上にご相談して……」
「私には相談できないというのか、夕月」
「晴孝様……」
「もう困った人達ね。こんなところで喧嘩はよしてください。晴孝、あなた彼女がここに来ると志津から聞いて、会いに来たんでしょ。それなら、彼女を送っていったらどう?兼近様に内緒で特別に車を仕立ててあげましょう。久しぶりにゆっくり顔を合わせるといいわ」
「姉上!」
「姫様!」
「これは私からのご褒美よ、夕月。本当にありがとう。今日のことは兼近様とよく相談してからにしてほしい。そして、自分の身を大切にして。無理はしないでいいから。でも来てくれるなら私は大歓迎よ」
「……はい。ありがとうございます、姫様。近いうちお便りいたします」
「姉上。ありがとう」
「もう、なんですか、その顔は。晴孝ったらそんな顔するのね。私はあなたの変貌ぶりについていけませんよ」
私たちは真っ赤になり、下を向いた。でも姫のお心遣いが本当にうれしかった。彼と直に顔を合わせるのは半年以上ぶりだった。今日はきちんとしてきたので、恥ずかしくない格好だったのも安心だった。
私は久しぶりの直衣姿の彼に見とれてしまい。声が出なかった。そのくらい美しい。おそらく、参内された後なのだろう。
「姉上。夕月を巻き込むのはやめてください。やっと傷が癒えたのに、また何か……」
「……晴孝様。大丈夫です」
「何が大丈夫だ!君は無茶をしすぎる。大体、姉上のことを守るなら兼近がやるべきで、夕月はひっこんでいなさい。君は姉上のためなら平気で危ないことをする。私は君が心配で……」
「……ふふふ」
「姉上!笑い事ではありません。あんなに夕月を心配なさっていたくせに、どうしてすぐに趣旨替えされるのです」
「まったくもう……。最近の晴孝は夕月のこととなると我を忘れますね。お前は姉より彼女のほうがずっと大事なのでしょう?」
晴孝様はよほどびっくりしたのだろう。ぽとりと目の前に扇子を落とした。
「……な、何を仰せです。私にとってはどちらも同じくらい大切です」
「同じ?それはひどいわね。どう思いますか、夕月」
いたずらな笑みを浮かべて私をご覧になる。静姫はこんな冗談を言うところがおありなのだと私は初めて知った。
「申し訳ございません」
頭を下げる。
「何を謝っているのやら……謝らないといけないのはこちらですね。晴孝、しっかりなさい。きちんと気持ちを示さないとかわいそうなのは彼女です。想い人が姉と一緒などひどいでしょう」
「わかっているなら、彼女を危ない目に合わせるようなことをしないでください!夕月。約束しただろ。頼むからやめてくれ。あんな思いは……もうこりごりなんだよ」
「……晴孝様」
私は胸がいっぱいになった。そのお言葉だけで満たされた。
「まったく。姉上、実は御上から中宮様のところへ姉上をしばらく借りたいと父上に申し入れがあったようです。先ほど清涼殿で父上にお目にかかり、伺いました。先ほどのはなしは……それに夕月を巻き込むはなしですね」
相変わらず晴孝様も目ざといというか、耳ざといのね。さすが兄上の親友。
今も私の頭上の几帳の陰に小さな蝶が止まっている。これは兄上の式神。何かあればおそらく兄上にはすぐに連絡がいくだろう。兄上はあれから私を心配し、常に監視をつけているのだ。
「晴孝様。そんな言い方なさらないでください。静姫様からは何もそんなお話はありませんでしたが、私のほうで気がかりなことがあったのです。でも、それも兄上と相談してからのこととしますからご安心ください」
「そうですよ。私のほうから夕月を連れていきたいと言ったわけではありません」
ぷいっと横を向いて扇を広げられた。可愛らしい。
「……何か気になることがあったのか?なんだ?」
「それは……兄上にご相談して……」
「私には相談できないというのか、夕月」
「晴孝様……」
「もう困った人達ね。こんなところで喧嘩はよしてください。晴孝、あなた彼女がここに来ると志津から聞いて、会いに来たんでしょ。それなら、彼女を送っていったらどう?兼近様に内緒で特別に車を仕立ててあげましょう。久しぶりにゆっくり顔を合わせるといいわ」
「姉上!」
「姫様!」
「これは私からのご褒美よ、夕月。本当にありがとう。今日のことは兼近様とよく相談してからにしてほしい。そして、自分の身を大切にして。無理はしないでいいから。でも来てくれるなら私は大歓迎よ」
「……はい。ありがとうございます、姫様。近いうちお便りいたします」
「姉上。ありがとう」
「もう、なんですか、その顔は。晴孝ったらそんな顔するのね。私はあなたの変貌ぶりについていけませんよ」
私たちは真っ赤になり、下を向いた。でも姫のお心遣いが本当にうれしかった。彼と直に顔を合わせるのは半年以上ぶりだった。今日はきちんとしてきたので、恥ずかしくない格好だったのも安心だった。
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