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第二章 中宮殿
三ノ巻ー参内②
しおりを挟むお二人のおばさまに当たられる中宮様。かわいい姪と立派な甥と一緒にお茶を楽しみたいだけだと思う。
「そうかもしれないけれど、私は今が好機だと思う。何しろ、あれだけ忙しいと言っていた晴孝が私たちの入内する今日来ているなんておかしいと思わないの?あなたに会いたいからに決まっているわ。姉としてそれくらいは察しがつくのよ。さあ行くわよ」
こうなっては何を言っても無駄。
私は意を決して立ち上がり、とにかくこの唐衣をはじめとしたたくさんの服をうまくさばいて転ばないようにすることだけで頭がいっぱいになった。
とりあえず、転ばずに部屋まで行くことが出来た。
御簾をくぐったのはとりあえず姫様おひとり。中には几帳が囲うように置いてあり中は全く見えない。
おそらく、その中に晴孝様がおられるのだろう。几帳越しのご対面なのだろうか、親しい親族だしどうなのだろうなどと考えていた。
しばらくして、中宮様おつきの女房が御簾側に来た。
「暦師阿部兼近朝臣の妹、夕月殿。中宮様がお呼びです」
「……は、はい……」
私はそうっと立ち上がり、足元を見ながら進んだ。女房が御簾を掲げてくれた。頭を下げて中に入る。
一枚几帳を隔てるとまた几帳がある。そこから声がした。
「夕月とやら、おはいりなさい」
中宮様のお声がした。ためらっていたら、静姫の声がした。
「夕月。入りなさい」
「はい、失礼いたします」
私は頭を下げたまま、座ると手をついた。
「お初に御目もじ仕ります。夕月と申します」
「頭を御上げなさい」
私は静姫様のもえぎ色の唐衣と裳のすそしか見えていなかったが、思い切って目をつむったまま頭を上げた。
そこには優しそうな女性が紫の内着を柔らかくはおり、脇息に横たわりながらこちらをご覧になっていた。
病のせいかもしれないが、少しおやつれだ。でも、美しさは隠しようがない。
はらはらと流れるような黒髪。涼しげな眼もと。
どこか静姫と晴孝様お二人に似たところがおありなのも好ましかった。
「あら、かわいい。こんな子がいたのね。静は隠していたの?志津じゃなくてこんな子がいるなら、参内するときは必ず連れてきなさい。参議達の噂になりそうね」
「……ゴホン」
隣から咳払いがする。
「うふふ……おばさま。どうして弟がここに今日来たか教えて差し上げます。ねえ、晴孝」
「姉さん!」
「あらあら……まさかそういうことなの?」
私は彼のほうをちらっと見た。すると、彼は目を大きくして私を凝視している。どうして?何か変?恥ずかしくて下を向いた。
「晴孝。夕月、今日は一段と綺麗でしょ。いい日に来たわね。あなたに見せてあげたかったのよ」
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