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第二章 中宮殿
三ノ巻ー参内③
しおりを挟む彼は声を絞った。
「夕月、きみ……本当に織姫もかくありなんという……美しい」
「まあ、これは驚いた。晴孝の口からそんな言葉が出るとは……弟の左大臣から、あなたがいっこうに右大臣様から勧められている二の姫を娶ろうとしないという愚痴ばかり聞いてきたのに……そういうことだったのね」
「弟は夕月が大好きなのです。そして、私にとっても彼女は大切な友です。とても頭が良く、頼もしい。私の朱雀皇子との一件もすべて彼女と彼女の兄である兼近様が対処してくださったんです。でも、そのせいで夕月には大怪我をさせてしまいました」
中宮様は身を起こして驚いたように姫様を見た。
「なんですって?そんな大変なことがあったのですね。御上が東宮を廃位すると仰せになり、私は恐ろしくて理由を聞けませんでした。あなたのことも心配していたのです。本当に力になれず申し訳なかったわ」
「いいえ。今となってはそれももう遠い日のことです。それに、新しい私の道を作ってくれた彼女には感謝しかないのです。だから、弟とのご縁をできることならかなえてやりたいの。中宮様、どうかお力添えをいただけませんか?」
「姉上!」
「姫様!」
「……晴孝。お前、このこと父上には申し上げていないの?」
「おそらく、父上はご存じです。それに彼女の亡くなったお父様と父上は昵懇でした。伯母上様もご存じでしょう」
「ええ、よく知っていますよ。そう。わかりました。力になりましょう。右大臣家の姫はどうする気?」
「……お断りしたいのです」
「晴孝様、いけません」
「夕月は黙っていて」
静姫が言う。
「そう。気持ちはわかりました。でも、それならそれで、別な妥協点を探らないとお父様のお立場が悪くなりますよ」
「……わかっております。だから考えてはおります」
「夕月」
中宮様が私を見た。
「はい」
「そなた、今回ここへ入ったのはただの女房としてきたわけではない?」
すごい。さすが、中宮様。今の話の流れで気が付かれたのだろう。
「はい。気になることがございました。中宮様のこともお守りしたいのです。しばらくお時間をください。わかることがございましたら姫様経由でお知らせいたします」
「なるほどね。なんとなく察しはついています。夕月。近いうちにもう一度会いましょう」
「あ、はい……」
「実はそなたの兄が御上にご挨拶の際、書状を奏上したようです。そこに少しそなたの話も出ていたようでした。とても優秀な陰陽師だとか……亡きお父上以上と聞きましたよ。とても楽しみです」
「はい。兄はとても優秀です。晴孝様がそのことはよくご存じです」
「ええ。彼は私の親友なのです」
「なるほど。そういうことでしたか。そして、静の想い人よね」
「中宮様!」
姫様は顔を赤くしておられる。可愛らしい。
「よくわかりました。ごめんなさい、少し疲れたわ。休ませてもらうわね」
すると、女房がふたり寄ってきて、中宮様をお連れした。その日はそのまま退出したのだった。
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