平安事件絵巻~陰陽師の兄と妹はあやかし仲間と悪人退治致します!

花里 美佐

文字の大きさ
26 / 38
第二章 中宮殿

五ノ巻ー準備①

しおりを挟む
 

 翌日昼過ぎのことだ。中宮殿からお召があり、とうとうひとりで向かった。

 内密で御簾内に入り、二本の几帳をくぐり、とうとう中宮様の御前に出た。

「楽にして頂戴」

 そうは言われても楽になどできようはずもない。

「ほほほ。あの二人があそこまであなたを大切にしているのよ。私も知らなかったとはいえ、あなたが色々してくれたこと感謝せねばならないわね」

「いえ、恐れ多い……」

 脇息にもたれ、相変わらず辛そうだ。

「京極に東宮としての地位が巡ってきたのは運命だったというものが私の周りにいますが、そうではなかったということです」

「中宮様」

「もとより、朱雀皇子がいたのですから考えてもおりませんでしたが、色々あったという話を聞くにつけ、東宮殿にあがることで何かあったらと考えますれば心配でなりません」

「中宮様は私が来たことにどんな意味があるとご存じでいらっしゃったんでしょうか?」

 兄上がどのようなことを御上に書面で奏上したのか、聞いてみたが、知らなくてよいと言うのだ。

 あの兄上のことだ。

 おそらく、先々まで見通して何か奏上したのだろう。

「葵祭に際して、そなたの兄上に神事を任せたいと御上より話があった。だが、藤壺尚侍より彼女の父も神官ゆえ、何かお手伝いさせてくださいと頼まれたそうな」

「そうでしたか」

「驚いていないようですね。藤壺のことは知っていたの?」

「いえ……。はっきりと申し上げます。中宮様のその病、呪詛ではないかと疑っております。そして病をお治しするため、兄とともにお近くへ参りました」

 中宮様は脇息から身体を起こされ、身を乗り出した。目が輝いている。

「やはりそうでしたか。私は最近なぜか不思議な夢を見たり、うなされることが多くなりました。そのせいで昼間もだるいのです。御上は京極のことを心配しすぎて心労からだろうと仰せでした。そんなはずはないのです。自分で言うのもなんですが、わたくし、深く物事を考えるような性格ではありません」

「中宮様!」

 私が驚いて顔を上げたのを見ては嬉しそうに口元を扇で隠し、ふふふと声を上げて笑われた。

「だから、今までうなされたこともなかった。変だと思ったのです。気を病むまでには至りませんでした。神経質な方なら病気になっていたでしょう。これは毎夜眠れないせいでだるいのです。ただ、食欲が落ちてきました」

「よくありません」

「ええ。でも急に元気になってきました。私の病はだれかの指金で、あなたたち兄妹が来たからには治してもらえるのでしょう?早く元気になって京極のためにできることを静姫と一緒にやらなくてはなりません」

「はい。本日より兄が中宮様の寝殿の外で夜間は祈祷をします。憑坐よりましにすべて移すことができましたら、楽になられるかと思います」

「そう。頼もしいことです」

「静姫様と晴孝様からお聞き及びのことと思います。女童のことです」

「ええ。驚きました」

「そういうものが入るには、手引きするものがいます。そして、そういった者達は人馴れしている。つまり、人間が遣っているあやかしだということです」

「そうなの」

 私は頷いた。

「京極皇子の東宮擁立を阻むため、宣旨の儀式に出席なさる中宮様の病はうってつけです。同じ御殿の対で寝起きするのですから、藤壺と使用人も行き来できる。特に女童など下人はわかりづらいのです」

「藤壺尚侍……」

「御上の皇子はもうおひとりおられて、藤壺尚侍が母上。そのご実家について調べればすぐにぴんときます」

「なんということでしょう。私は入内してすぐの藤壺尚侍を気遣ってきたわ。弘徽殿の皇后様は怖いお方ですから。藤壺尚侍の指し金だとは思いたくないですが、どうなのかしらね」

「女童のこと、視えないとは思えません。私程度でもわかったのです。尚侍様は巫女としての力がどのくらいおありかわかりませんけれども……」

「そう。それで?私は何をすればいいの?あなたがこの御殿で動きやすいよう手伝うのが私達の役目と静姫からも聞いていますよ」

「はい。それではお願いします。静姫が中宮殿に入ったご挨拶として藤壺に行くのをお許しください。私がついていきます。その際準備頂きたいものがございます。香木です」

「香木?」

「ええ。あやかしが苦手な香を調合致します。特別な香なので材料が珍しいものなのです。こちらでしたらあるかもしれぬとお聞きしました」

「わかりました。そこの女房に準備させましょう」

「藤壺尚侍様はおそらく私の存在を知っていますが、姫をお連れすることで彼女が力を使うことを止めるのです。そして尚侍様の人となりを見てまいります」

「あの子はいい子だと思うんだけれど、そうじゃなかったとしたら……」

「大丈夫です。あやかしからも情報が入りますので、わかり次第ご報告いたします。中宮様はとにかく夜兄上の調伏がうまくいきましたらきっと楽になられます」

「そうね。ありがとう」

 私は細かい香の材料などについて、筆頭女房を入れて打ち合わせを始めた。後ろにいた鈴へ頷くと、鈴はすぐに外へ出た。他のあやかし猫を使い、兄上に連絡するためだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ハーレム系ギャルゲの捨てられヒロインに転生しましたが、わたしだけを愛してくれる夫と共に元婚約者を見返してやります!

ゴルゴンゾーラ三国
恋愛
 ハーレム系ギャルゲー『シックス・パレット』の捨てられヒロインである侯爵令嬢、ベルメ・ルビロスに転生した主人公、ベルメ。転生したギャルゲーの主人公キャラである第一王子、アインアルドの第一夫人になるはずだったはずが、次々にヒロインが第一王子と結ばれて行き、夫人の順番がどんどん後ろになって、ついには婚約破棄されてしまう。  しかし、それは、一夫多妻制度が嫌なベルメによるための長期に渡る計画によるもの。  無事に望む通りに婚約破棄され、自由に生きようとした矢先、ベルメは元婚約者から、新たな婚約者候補をあてがわれてしまう。それは、社交も公務もしない、引きこもりの第八王子のオクトールだった。  『おさがり』と揶揄されるベルメと出自をアインアルドにけなされたオクトール、アインアルドに見下された二人は、アインアルドにやり返すことを決め、互いに手を取ることとなり――。 【この作品は、別名義で投稿していたものを改題・加筆修正したものになります。ご了承ください】 【この作品は『小説家になろう』『カクヨム』にも掲載しています】

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

処理中です...