I've always liked you ~ずっと君が好きだった~

伊織愁

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朱里と潤の場合(後編)

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 朱里はいつもの穴場スポット、屋上に隣のクラスの胡桃とお昼を摂りに来ていた。 胡桃はお弁当箱の蓋を開け、早速玉子焼きを頬張っている。 朱里は中々、お弁当に手を付けようとしていなかった。

 今日は12月にしては、まだ太陽も出ており、温かい方だった。 朱里の様子を見て、胡桃はクスリと笑いを漏らした。 胡桃の様子に朱里は、訝し気に目を細めて胡桃を見つめる。

 「何? 何がおかしいの?」
 「へへ、何か以前と逆だなって思って」
朱里は『ああ』と力なく頷いた。
 「朱里は川村くんの事、嫌いなの?」
 「それは、人として好きだっていう事は、はっきりと言えるんだけど」
胡桃は白ご飯をパクリと口に入れ、咀嚼すると急いで飲み込んだ。
 「異性としては好きじゃない?」

 朱里はお弁当の唐揚げをつつきながら、潤の事を考えてみた。 思い出すのは潤が朱里に向ける熱い眼差しだ。 朱里の胸の奥に熱が灯ったのを感じ、朱里はよく考えて答えを出した。

 「うん、好きかも知れない。 だから、潤の言うようにしようと思う。 それでダメなら諦めてもらうしかないけどね」

 胡桃が朱里を瞳を輝かせて見つめてくる視線に、目を細めて苦笑で返した。 後は、他愛ない話をしながら、お弁当をつつく。 だから、拓哉の留学の話も他愛ない話の一つだったのだが。

 「胡桃は、4年間も離れる事に納得したの?」
 「うん、先の事は分からないけど。 止められないし、今は好きだから、一緒にいようって思うんだ。 それに待ってるだけじゃね。 私も好きな事を見つけて頑張ろうと思う」
 「そっか。 潤も東京の大学に行くんだって、いつか遠くに行く人と付き合うのって辛くない?」
 「寂しいけど、拓哉くんとなら、大丈夫かなって思うんだよね」
何を思い出しのか、胡桃の表情が行き成り無になった。
 「ど、どうした! 胡桃!」
 「あ、ごめんっ! 最近の拓哉くんの言動を思い出したら、つい」
 (何があった、胡桃! まさか、GPSと盗聴器付きの携帯に気づいたとか?!)

 微妙な空気の中、屋上の扉が音を立てて開かれると、姿を現したのは拓哉だった。 朱里は、恐怖の表情で固まった。 胡桃は相変わらず、拓哉の姿を見ると、瞳を輝かせている。

 「拓哉くん!」
 「ごめん、邪魔するつもりなかったんだけど、もう予鈴なるし。 迎えに来た」

 相変わらず、アクセをジャラジャラつけているが、胡桃にとっては優しい恋人の様だ。 朱里は苦笑混じりの溜め息を吐き、お弁当を片付けた。

 「私の要件は終わったから、ごゆっくりどうぞ!」

 屋上を後にしてそっと扉を閉める時、チラリと後ろを見ると、胡桃と拓哉は2人の世界に入っていた。

 (胡桃っ! 伊織くん来なくて良かったね。 キラキラして顔が見れないとか言ってた可愛らしい頃が懐かしいわっ! しかし、絶対に携帯にGPSと盗聴器ついてるよね?! タイミング良すぎなのよ。 まぁ、あの2人なら、離れても大丈夫そうだね)



――放課後、潤との帰り道は手を繋いで帰る事になった。

 「やっぱ、恋人同士だと恋人繋ぎだろう?」

 そう言うと、潤は繋いだ手を恋人繋ぎにし、熱い瞳で朱里を見つめる。 朱里の心臓が今にも爆発しそうで、逃げ出したくて仕方がない。 朱里の気持ちを読んだかのように、潤の手が強く握られた。

 「別に逃げないよっ」
朱里は見透かされたのが恥ずかしくて、潤から視線を逸らした。
 「そうか」

 潤は嬉しそうに微笑むと、駅前のカフェに寄って帰ろうとカフェに入り、カップルシートの席に着き、噂のスィーツを頂く。 潤と話しているうちに幼馴染の癖が出ると、潤が異性を匂わせる事をしてくる。

 テーブルの下で繋いだ手は中々、離してくれないようだ。 にっこり怖い笑顔を朱里に向けてくる。 でも、朱里の頭を過ぎるものがある。 これはいつまで続くのだろう、潤は1年後、東京に行ってしまうのだ。

 「朱里? どうした?」
朱里は笑顔を取り繕い、心に過ぎった不安を胸の奥に押し込んだ。
 「ううん、何でもない。 私、みたいテレビがあるから、帰ろう」
朱里は無意識に潤の手を強く握っていた。 潤は優しく握り返し、笑みを浮かべた。
 「うん、分かった」

 家までの道のりは長いようで短かく感じられた。 潤は自然な仕草で朱里の手を、自身のコートのポケットに導く。 慣れた様子に若干の疑いを持ち、じっと潤を見た。

 「何?」
 「いえ、随分、慣れてる様に自然とポケットに誘導したなっと思って」
潤にしては珍しく、口をぽか~んと開けて間抜け顔をした。
 「何、言ってんだよ。 昔、朱里が言ったんだろ?! 寒い季節には、男の子は女の子の手を繋いで、自然な流れで自分のポケットに誘うもんだって。 何かのCMに影響されて。 俺はそれから、必死に考えたわ。 小さい頃、よく一緒に歩いたろ? 覚えてないの?」
今度は朱里が口を開けて間抜け顔を晒す番だった。
 「うそ! 私、そんなキモイこと言ったの? 全然、覚えてない!」

 潤は深い溜め息を吐いて『しょうがない奴』と表情に出している。 朱里の心臓がまた、大きく跳ねた。

 (ぐっ! 何これつ! 好きかも知れないって思った途端、ときめく回数が多くなってない? 潤の事は本当に幼馴染ぐらいにしか思ってなかったのにっ! やばい、このままだと、潤に落とされるかもしれない!)

 潤は朱里の様子を他所に、ご機嫌で家までの道のりを歩いている。 何度も潤と歩いた道だったが、知らない道を歩いているようで、とても気恥ずかしく感じた朱里だった。

 そうして、帰れる日は潤と一緒に下校し、日曜に買い物に出かけたりもした。 潤と恋人のように出かけたりしてるうちに、朱里の気持ちが徐々に潤に傾いていった。



――期末試験も終わり、明日からはテスト休みに入り、終業式に登校すれば冬休みに入る。
 もう直ぐ楽しい冬休みに入り、クリスマスパーティーもあるというのに、クラスの男子はどんより曇り空の様な表情をしている。 同じクラスだが、拓哉だけは楽しそうに携帯を弄っていた。

 「ねぇ、何で皆、あんなにどんよりしてるの? テスト駄目だったのかな?」
 「何、言ってんの? あんたに彼氏が出来たから、皆、落ち込んでんのよ」
紗江が呆れたような声を出し、朱里は素っ頓狂な声を出して驚いた。
 「えっ! 潤はそんなじゃっ」

 『彼氏じゃないから!』と言いかけて、止めた。 今は、彼氏ではないが、なるかも知れないからだ。 ただ、朱里はまだ、勇気を持てないでいる。 1年したら、潤は東京に行ってしまうからだ。

 紗江に苦笑を漏らすと『帰る』と言い、教室を後にした。 紗江は『また、明日』と手を振って朱里に笑顔で答えた。

 下駄箱に向かって中央階段を降りていると、階段の上から伊織の怒鳴り声が聞こえて来た。 また、どこかのいちゃつきカップルが見つかったのだろう。 ムスッとした伊織が降りて来た。

 「伊織くん、チューくらい多めに見てあげればいいのに」
伊織は朱里を見ると目を細めた。
 「あのな、俺は学校でいちゃつくなって言ってるんだ。 風紀が乱れるからな。 でもな、人間ってのは一つ許されたら、全部が欲しくなるもんなんだよ。 学校外では、いちゃついてもいいけど、沢田も気を付けろよ」
 「全く、どういう意味か分からないからっ!」
 (いやいや、学校外でも駄目でしょ!!)

 朱里は動揺したながら、伊織に反論した。 相変わらず、教師らしからぬ事を言う人だと、溜め息を吐いた。
朱里の携帯のお知らせ音が廊下に鳴り響く。 画面を確認すると、相手は潤だった。

 『もう直ぐ、授業が終わるから、いつもの所で待ってて』
 『了解』

 「『一つ許されたら、全部が欲しくなる』か」

 (もう、そろそろ返事しないと駄目? いや、私の方が我慢が出来なくなっているんだ。 潤に対して、こんな気持ちになるなんて思わなかったよっ! だって、離れたくないよ。 いつか離れるの分かってて、付き合うなんて、私には出来ないよ。 でも、このままでも寂しくてしょうがない。 私も東京に行くなんてのも、何か違う気がする)

 「朱里? 良かった、まだ校舎出てなかったんだな」
下駄箱の入り口で立ち止まった朱里を見つけた潤が声を掛けてきた。
 「無理っ」
 「えっ?」

 潤は訳が分からない様子だったが、朱里の様子を見て、場所を移動しようと、2人は3年校舎裏に来た。

 「どうした、朱里? ちゃんと話して、何が無理?」
 「潤と付き合うのがっ」
 「何で? 俺が嫌い?」
 「ううん、好きだよ。 だから、離れたくない! 東京なんかに行ってほしくない。 でも、潤にとっては必要な事なんでしょ?」
 「うん、ごめん。 でも、約束する。 絶対に大学を卒業したら迎えにくるから、だから今は一緒にいて欲しい」

 潤は朱里を強く抱きしめてきた。 朱里は『そんな奴、絶対にいない』と思ったが、胡桃が言っていた事を思い出し、胡桃の声と笑顔が、朱里の脳裏を駆け巡った。

 『今は好きだから、一緒にいようって思うんだ』

朱里は潤に苦笑を漏らして、降参した。
 「分かった。 私も今は、一緒にいたい。 でも、その後は知らないからね。 待ってないかも知れないからね! それとまた、きっとグズグズ言うと思うよ。 それでもいいの?」
 「うん、その度に朱里を納得させるから。 東京に行っても、寂しい思いをさせない」
潤の黒い笑顔が一瞬だけ煌めいた後、朱里の背筋に冷たい物が流れた。

 潤の表情はガラリと変わり、瞳に熱が徐々に帯びていく。 朱里の瞳にも熱が籠っていった。 唇が重なると、抱きしめるお互いの腕に力が入った。

 2人の背後で、草を踏みしめる足音が耳に届き『おほん』と咳払いが一つ聞こえた。 振り向くとやはりそこに居たのは、こめかみを引くつかせ、黒い笑顔を浮かべる伊織が腕を組んで立っていた。 反省文は免れたが、きつくお説教をされたのは言うまでもない。

 余談、東京に行った潤が、毎日テレビ電話を寄越すようになり、少々鬱陶しく感じた朱里である。 そして4年後、本当に宣言通り、朱里を迎えに来るのだが、それはまだ先の話だ。          ――完
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