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4話

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 丸焦げになった大きなウサギを見つめ、綾は小さく喉を鳴らした。

 「ありがとう、綺麗。 綺麗が居なかったら、どうなっていたかっ……」
 「……一応、言っておくよっ。 あの角ウサギは弱い方だよっ」

 綺麗に気まずそうに言われ、綾は頬を引き攣らせた後、誤魔化す様に笑った。

 綺麗からは、溜息をつかれた。

 うっ、仕方ないじゃないっ! だって平和な場所で生活してたしっ、ゲームだと言ったって、リアル過ぎて生々しいんだもんっ!

 青い瞳に涙を溜めて、悔しそうに唇を引き結ぶ。 綺麗が慰める様に綾の頬に鼻を擦り寄せる。

 「慰めてくれてるの? ありがとう、綺麗」
 「マスター、これから頑張ろう。 直ぐにとは言わないけど、慣れるよ」
 「……う、うん」

 改めて思うけど、このゲーム大丈夫かなっ? 教育衛生上、悪くないっ?!

 綾は焼け焦げた角ウサギを視界に入れない様に横を通り過ぎ、森の奥へ入って行った。

 暫く歩くと、草原に出た。 綾の視界に薬草が生い茂る光景が飛び込んで来た。

 「おぉ、受付のお姉さんが言ってた通りにあったっ! 魔物の角ウサギが一匹だけだったし。 初依頼として、まぁまぁな滑り出しよねっ!」

 得意気に鼻を鳴らすと、肩に乗っていた綺麗が瞳を細める。 綺麗の責める様な眼差しに、綾の心臓がドキリと跳ねる。

 「まぁ、最初はこんなものよっ! ささっ、魔物が出ない内に薬草を採取しましょうっ」

 薬草が生い茂る草原に足を踏み入れた。

 依頼書の絵を見ながら、生えている薬草を確認する。 何度も確認しながら、依頼分を束にして布袋へ入れていく。

 薬草を束ねる作業をしている横で、綺麗は楽しそうに蝶々を追いかけている。

 先程の角ウサギとの戦闘などなかった様だ。 飛んでいる蝶々を見て、綾はふと思う、リアル過ぎではないかと。

 「う~ん、飛んでいる様子も本物みたいに見えるっ……角ウサギの丸焦げも、変にリアルだったっ」

 本当に此処が現実だったりして……。

 嫌な予感が頭を過ぎり、綾は顔を横に振る。

 「まさかねっ」

 綾は頭を過ぎった考えを無理やり、隅に追いやった。 遊び倒して満足した綺麗の足音が聞こえて振り返る。

 綾の青い瞳が見開かれた。

 「綺麗っ……」

 満足そうに微笑むウリ坊が綾の視界に飛び込んでくる。 草むらに顔を突っ込んだのか、綺麗は顔を葉っぱだらけにしていた。

 「ふふっ、顔を葉っぱだらけにして、愛い奴っ!」

 近づいて来たウリ坊を強く抱きしめる。

 「マ、マスター……ぐるじいっ、はなじでぇ~」
 
 苦しそうな綺麗の声で我に返った。

 「あっ! ごめん、綺麗っ」
 「いいよ、それよりも……あっちに開けた場所があるから、火魔法の練習をしよう」
 「うん! ファイヤーボールは出たけど、簡単に避けられたしねっ」
 「うん、本当に簡単に避けられたよね」

 本当の事だが、他人に口にされると、なんだか胸がモヤっとする。

 綺麗に先導され、綾は布袋を背負って華麗の後を追った。

 ◇

 綾が綺麗と火魔法の練習を始めた頃、圭一朗も炎を纏う練習をしていた。

 森から出られない事を知り、圭一朗は覚悟を決めていた。 というか、綾が迎えに来てくれないと、森を出られないのだから仕方ない。

 「さて、先ずは」

 紫月が言った様に、拳に炎を纏わせた。

 青い炎が拳に巻き付くが、やはり気持ち的に自身が魔物を殴りつける想像が出来ない。

 「もっと違う方法の方がしっくり来る気がする」
 「……ふむ、では色々な物に炎を纏わせてみましょう。 拳以外だと……剣でしょうか?」
 
 周囲を見回し、大自然を感じて虹色の瞳を細める。 同じ様に周囲を眺めた紫月が琥珀色の瞳を細めた。

 「……剣は無いだろうなっ」
 「そうですね……」

 しかし、剣に炎を纏わせる技は良くある技だ。 やってみても良いだろうと考えていたら、突然、足に何かの衝撃が来た。

 そして、膝からガクッと崩折れる。

 バランスを崩したり圭一朗は、立っていられなくなり、小さい呻き声をあげる。

 「圭一朗様っ」

 慌てた様な紫月の声が聞こえ、続いて叱責が轟いた。

 「白夜っ! 圭一朗様に何をするっ!」
 「なっ、膝カックンをして来たのは、白夜だったのかっ」
 「えっ、剣がある場所を知っているって?」

 白夜は紫月に頷いた。 白夜の黒にも見える焦げ茶の瞳が『自分に着いて来い』と言っていた。 白夜の真剣な眼差しに迫力負けした圭一朗は、大人しく着いて行く事にした。

 周囲で思い思いに過ごしていた精霊たちも直ぐに圭一朗の側へ寄って来た。

 移動する事が分かったらしい。

 白夜を先頭に、圭一朗と11体の精霊がゾロゾロと後を着いて行く。

 暫く険しい山道を歩き、森の奥へと進む。 奥へ進ま毎に、緑の匂いが濃くなる。

 突然、圭一朗の耳に人が怒鳴る声が届く。 思わず見つかると不味いと思い、草むらへ隠れた。

 声のする方向へ視線を向けると、圭一朗の視界に飛び込んで来たのは、忙しく動き回る青年たちと、何かを打ち付ける音が響く村だった。

 人里がこんな森の中にあるとは、あっ、竈門が見えるっ?! いっぱいあるなっ。

 竈門の前では、赤く燃えた板を金槌で打つ人影が見えた。

 そうかっ! 此処は鍛冶場かっ?! でも、何で森の中に?

 首を捻っている圭一朗の目の前を、荷車に鉄の拳大くらいの大きさの鉱石が運ばれて行った。

 あっ、そうか。 この山は鉱山かっ!

 「だから、竈門の前で打っているのは鉄だな」

 赤く燃える鉄を打っている中に、煌めく板を打っている者もいる。

 「鉄だけじゃないのか……」
 「圭一朗様、あちらを見て下さい」
 「ん?」

 紫月に促され、視線の向きを変える。

 視線の先には、荷馬車に乗せられた籠に剣が沢山詰められ、他に木箱や桐箱、装飾品や彫り物が施された細長い箱もある。

 あれはきっと、立派な箱の中にはいい剣が入ってるんだろうな。

 と思い、白夜に視線を向けた。 白夜は喋れないのか、話さないのか、小さく頷いた。 白夜が言っている事を理解して、圭一朗は青ざめた。

 「いや、盗みは駄目でしょ。 それに俺たちは精霊だしっ!」
 「そうですよっ、白夜っ! 圭一朗様は精霊王になられるお方ですっ! 盗人など、させてはいけませんっ!」

 紫月の叱責に、白夜はプイッと顔を逸らした。 亜麻音とクロガネは成獣なので、圭一朗たちの会話が理解出来たのか、呆れた眼差しを白夜に向けている。

 白いからって清純って訳じゃないんだな。

 幼子な幼生の精霊たちは遊んでいて、少し大きい子達は、飽きたのか寝ている。

 どうしたものかと、考え込んでいると、人の声が直ぐ近くでした。

 「不味いっ、見つかるっ」
 「大丈夫です、圭一朗様。 我々の姿は魔力の高い者にしか見えませんから」
 「そうかっ」

 「おい、この使えない剣も街に持って帰るのか?」
 「う~ん、どうするかな。 持って帰ってもナイフ代わりにもならないし、かと言って、森に捨てるとゴミになるしな」
 「ああ、土に変えればいいけどな」
 「無理だろう? 土魔法が得意な者が、今日はいないしな」
 「しゃ~ない、持って帰って捨てるか」
 「少しでも金になるなら、小遣い稼ぎになるのになっ」
 「仕方ねぇべ、帰るぞ」
 
 一人の男に、皆が大きな返事を返す。

 「あの剣は要らない剣みたいだな」
 「そうですね……」

 圭一朗は紫月と視線を合わせた。 二人の考えは一致したが、どうにも身体が動かない。 要らない物でも盗人は盗人なのだ。

 躊躇っていると、鍛冶職人たちは荷物を纏めて、次々と荷馬車に乗り込んでいく。 荷馬車が動き出した時、圭一朗の横を一陣の風が通り過ぎた。

 圭一朗の視界の端に、白黒が走って行った様に見えた。

 圭一朗があっと思う間に、走り去る荷馬車から白夜が飛び降りた。 口には何かを咥えていて、戻って来た白夜は、圭一朗の足元に咥えて来た物を置いた。

 圭一朗の足元で転がったのは、先程、鍛治職人が要らないと言っていた剣だった。

 圭一朗と紫月、亜麻音とクロガネが驚き表情を作る。

 「相手が要らないと言っていたんだ。 貰っても大丈夫だ」

 白夜が呟く。 職人たちが要らないと言っていた剣だが、手に取るとしっくりと手に馴染む。 剣に魔力を流すと、剣が青い炎を纏わせた。

 『圭一朗は使えない剣を手に入れました。 使えない剣から使える剣に変えますか? はいかいいえで答えて下さい』

 「えっ」

 再び、頭の中で声が聞こえた。

 『使える剣に変えますか?』
 
 少しだけ、声が低くなった事は気になったが、圭一朗は使えない剣を握りしめた。

 「はい、変えますっ!」

 圭一朗が返事を返した瞬間、剣が眩く光り輝き、圭一朗をも包み込んだ。

 光が収まると、また頭の中で声が聞こえた。

 『圭一朗は、炎を纏いし剣(レベル1)を手に入れた』

 「おお、炎を纏いし剣かっ」

 圭一朗は剣を手に入れた後、火の魔法石がある洞窟の前へ戻って来た。

 「まぁ、仕方ないですね。 いずれは入りましたし、兎に角、これで修行が出来ますね」
 「ああ、なんだか、やっと前へ進んだって気がするよ」

 早速、剣を使わせてもらおうと、剣を握りしめる。 先程と同じ様に、魔力を流すと、剣は赤い炎を纏った。
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