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19話
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深く思考していたエディは、リュシアンとアンリ、ロジェが何か悪巧みをしている事に遅ればせながら気づき、リラがどうやら妖精を探している事を聞いた。
(やっぱり、ダークヒロインは虹色の魔力を保持しているのねっ)
リラが虹色の魔力を保持している事を王宮に報告していない事から、平民という理由で欲深い貴族からリラを守る為だと思われた。 しかし、リラには逆手に取られ、不味い事態に陥っている。
「大丈夫だよ、エディ。 心配いらないからね」
にっこりと微笑むリュシアンに、エディは不安そうな眼差しを送った。 もし、王位を狙っているガッドにリラの事を知られ、二人に組まれたらとても厄介だ。 リュシアンに説明すれば、何故か哀れまれた。
(えっ、何でそんな顔にっ?)
『哀れだな、ガッド』と、呟いたリュシアンの声は聞こえなかった様だ。
「ガッドはまだ、エディの事を諦めてないと思うよ」
「……でも、最近はガッド様を見かけないっ、あ、今日は見ましたね。 私が騎士に連れられて行った時、ガッド様とすれ違いました……」
「うん、ガッドはね。 最近はずっと大聖堂の方へ足繫く通っているよ。 エディに会えると思って」
エディから淑女らしからぬ呻き声が発せられた。
「ですが、暫くは皆さま、何も出来ないと思われます」
ガゼボの入り口で報告していたアンリが無表情で発言した事に、エディは『ん?』と首を傾げた。
「エディ、もう直ぐ芸術祭が控えている。 予選も始まるし、お互いに忙しくなるだろう。 エディは臨時の執行委員だし、劇の稽古あるしね。 暫くは定例のお茶会は出来ないね」
(そうだったっ、そんなのがあったっ)
リュシアンは残念そうに笑みを浮かべた。 美しい人に切なげな眼差しで見つめられ、エディの心臓が脈打つ。 身体中の血液が循環し、巡る血液の音が脳内で響く。
(その顔は、反則ですっ……殿下っ)
◇
エディの学年が講堂へ集められ、芸術祭で行われる劇を披露する為、40人弱で1チーム、5チームに分かれて人数分けをされる。 芸術祭の本番に開演出来るのは、予選で勝ち抜いた2チームのみ。
芸術祭では、一学年で2チーム、全学年で6チームが劇を披露する。 敗れたチームの生徒たちは、有志で芸術作品を提示する。 なので、芸術作品も提示する者はとても忙しい一か月間と言える。
エディの周囲では、チームに勧誘する声が聞こえ、自身はどうするかと、知り合いを探して見回した。 ガッドと視線が合いそうなったが、踵を返した。
「お嬢様、どうされたんですか?」
「……ううん、なんでもないわっ」
(さて、どうしようかな?)
少し離れた場所に、見知った顔を見つけた。 エディの視線の先に、同じ執行委員であるネリーとミリアムの姿が見えた。 彼らは同じチームを組むらしい。 平民の中に入ってもいいか悩んだが、学園では身分関係なく、皆が平等だと謳っているのだからいいだろう。
「ネリー嬢、ミリアム嬢」
「「エディット様っ!」」
ネリーとミリアムが臣下の礼すると、周囲にいた平民生徒たちも続けて挨拶をし、臣下の礼をした。
「ごきげんよう、皆さま。 二人は同じチームなのですか?」
エディは笑顔で返事をし、彼女たちのチームに入れる様に、算段を付ける。
「はい、私たちは執行委員ですから、裏方希望ですけれど」
「あぁ、執行委員ねっ……」
「……はい」
「今から気が重いよね……」
エディ、ネリーとミリアムの三人は、前回の音楽祭での事を思い出し、深い溜息を吐き出した。
「では、私も皆さまのチームに入れて頂きたいの」
エディの要請に、平民ばかりが集まっているチームに衝撃が駆け抜けた。 一方、エディの脳内では、貴族令嬢、子息たちと組む面倒なチームは、避けたい事でいっぱいだった。
王太子妃、いずれは王妃になろうとしているエディにとっては、今から貴族と良い関係を築いた方がいいのだが、エディの行為は逆を行っている。 しかし、ネリーたちの返事を聞く前に、背後から聞きなれた声が聞こえて来た。
「エディ、君は私と同じチームって、決まっているんだよ」
聞こえて来た声に、エディは恐る恐る振り返った。 振り返ったエディに、黒い笑みを浮かべているリュシアンがとても恐ろしい。 同じチームを組もうと、エディを探していた様だ。
「王太子殿下、わたくしたちもご一緒してもよろしいですか? 同じ執行委員ですし」
別方向から、聞きなれた声にエディの身体が震えた。 聞こえてきた方向に視線をやると、思っていた通りの人物が立っていた。 周囲に執行委員の取り巻きを従えて。
「カトリーヌ様っ」
「ごきげんよう、エディット様」
エディは一瞬で淑女の笑みを浮かべ、持っている扇子を広げた。
「ごきげんよう、カトリーヌ様」
「やぁ、バスティーヌ嬢、パレ嬢、ディッコ嬢、ゴスラン嬢」
リュシアンはさり気無くエディの隣に立ち、カトリーヌたちに王子の笑みを浮かべた。 エディが淑女の仮面を被ったので、リュシアンも王子の仮面を被った。
(まぁ、リュシアンはいつも王子の仮面を被っているけど……)
「じゃ、俺もリュシアンたちと同じチームがいいな」
「ヴァン……生徒会は忙しくてあまり稽古には参加できない。 皆に迷惑を掛けられない。 出来るだけ生徒会メンバーは各チームに散らばる様にと、生徒会長から言われているだろう?」
「えぇぇ、でも、リュシアンとドゥクレ侯爵令嬢、俺の三人なら別いいだろう?」
実はリュシアンと一緒にエディの事を探していたのだが、誰にも気づかれていなかった。 別方向でヴァンの話を聞いたカトリーヌは、もの凄い形相をした。 ヴァンの頭の中には、カトリーヌたちは居ない様な発言に、ショックを受けていた。 チラリと視線をカトリーヌに向ける。
カトリーヌの悔しそうな顔が視界に入った。 カトリーヌの淑女らしからぬ顔がとても怖かった。
結果、エディとリュシアンの周囲に集まって来た40人弱の生徒たちと、チームを組む事になった。 こっそりとガッドとリラが最後に、チームへ参加して来た事を後から知る。
◇
芸術祭の準備が始まった王立学園の生徒たちは忙しい一日を過ごしていた。 通常の授業に加え、劇の準備に稽古。 他、芸術祭に展示する芸術作品の制作。 そして、各々に課せられた勉強。
エディたちは、芸術祭の進行の準備なども加わり、生徒会があるリュシアンは誰よりも忙しく過ごしていた。 忙しい中、チームの話し合いもあった。 当然、執行委員の会合も。
「音楽祭のタイトルボードを使い回しになさるなんて、そんな貧乏くさい事、なさらないわよね? エディット様」
優雅に微笑むカトリーヌの笑い声が、執行委員室で響き渡る。 目元に隈のない肌と髪が艶々なカトリーヌを、皆が恨めし気に見つめている。 皆、忙しい日常に少しだけイラついている。
エディは頬を引き攣らせながら、カトリーヌに進言する。
「カトリーヌ様、皆、通常授業に、生徒会の雑務に芸術祭準備と忙しいのです。 今回は使い回しても誰も文句を言わないと思いますが……」
「駄目ですわ。 王太子殿下が通われている三年間は、手抜きは許されませんわ。 完璧にしなくてわっ!」
「……では、せめてボードの飾り物はコサージュではなくて、ティッシュの花にして頂きましょう。 執行委員の方々は当日、色々と業務がありますから、舞台には出られません。 皆さまが担当しているのは、ほぼ裏方ばかりです。 チームの小道具やセットなども作るのです。 皆さまに時間をかける暇がありませんわ」
「あら、貴方たちだけでボード作りくらい大丈夫でしょう?」
カトリーヌは、平民生徒の執行委員を見渡し、無茶ぶりをする。 ただでさえ、執行委員のネリーとミリアムはカトリーヌと同じチームで雑用や小道具作りを押し付けられているというのに。
カトリーヌのチームでの担当は、脇役ではあるが、姫か何かをやるらしい。 自身は稽古で忙しいと、雑用を皆に押し付けてばかりいる。 しかし、エディは知っているカトリーヌは脇役なので、主役よりは稽古の時間が短い事を。 自分勝手な事ばかり言うカトリーヌに、エディがいい加減にブチ切れた。 エディは淑女の笑みを浮かべて、カトリーヌを見据えた。
「では、カトリーヌ様。 生徒会の雑務の手伝いをお願いしますわ。 私たちは沢山の制作物がありますから、生徒会の雑務まで回りません。 主役を張る王太子殿下が生徒会に割く時間がありますのに、脇役のカトリーヌ様に出来ないわけありませんわよね? 確か、演技は上手くて、稽古も必要ないと仰ってらしたと聞きましたわ、殿下から」
にっこりと黒い笑みを浮かべれば、カトリーヌは眉間に深く皺を寄せた。 リュシアンから聞いたのは本当だ。 忙しい間に時間を作り、カトリーヌや他の執行委員の事を相談する為、二人でお茶をした時に教えてくれたのだ。
「そ、そうね。 わたくしの演技は完璧ですわ。 時間があれば生徒会の手伝いをしましょう」
「よろしくお願いしますわっ」
エディも主役にと配役されそうになったが、丁重に断った。 ちゃっかりと、リラも脇役になっている事に驚いたが、エディが何かを言う事は出来なかった。 兎に角、忙しくて皆は、自分で精いっぱいだった。 なので、ガッドが裏で暗躍している事は気づけなかった。
◇
王都の東西南北と街が広がり、西側の郊外には工場や倉庫街がある。 倉庫街には、ガッドの個人の倉庫が幾つかある。 倉庫の一つの前に、黒塗りの馬車が停まる。 黒塗りの馬車から出て来たのは、ジュレ家の次期当主であるガッドである。
重い倉庫の扉が響く音を軋ませ扉が開かれる。 倉庫の中では、沢山の人が忙しく働いていた。
皆、闇妖精としか契約が出来ない者たちなのか、身体から少しだけ闇の靄が漂っている。 闇妖精は、悪い物ではない。 使う者によって呪いを製作出来る為、忌避されている事もある。
代表格なのか、一人の男がガッドに木箱を持って運んできた。 蓋を開けて中身をガッドに見せる。
「ガッドの旦那、忙しいのにお疲れ様です。 中々のものですよ」
「ああ、そうだな。 いい出来だ」
中身を見たガッドは、口元に帆の暗い笑みを広げ、黙って頷いた。
(やっぱり、ダークヒロインは虹色の魔力を保持しているのねっ)
リラが虹色の魔力を保持している事を王宮に報告していない事から、平民という理由で欲深い貴族からリラを守る為だと思われた。 しかし、リラには逆手に取られ、不味い事態に陥っている。
「大丈夫だよ、エディ。 心配いらないからね」
にっこりと微笑むリュシアンに、エディは不安そうな眼差しを送った。 もし、王位を狙っているガッドにリラの事を知られ、二人に組まれたらとても厄介だ。 リュシアンに説明すれば、何故か哀れまれた。
(えっ、何でそんな顔にっ?)
『哀れだな、ガッド』と、呟いたリュシアンの声は聞こえなかった様だ。
「ガッドはまだ、エディの事を諦めてないと思うよ」
「……でも、最近はガッド様を見かけないっ、あ、今日は見ましたね。 私が騎士に連れられて行った時、ガッド様とすれ違いました……」
「うん、ガッドはね。 最近はずっと大聖堂の方へ足繫く通っているよ。 エディに会えると思って」
エディから淑女らしからぬ呻き声が発せられた。
「ですが、暫くは皆さま、何も出来ないと思われます」
ガゼボの入り口で報告していたアンリが無表情で発言した事に、エディは『ん?』と首を傾げた。
「エディ、もう直ぐ芸術祭が控えている。 予選も始まるし、お互いに忙しくなるだろう。 エディは臨時の執行委員だし、劇の稽古あるしね。 暫くは定例のお茶会は出来ないね」
(そうだったっ、そんなのがあったっ)
リュシアンは残念そうに笑みを浮かべた。 美しい人に切なげな眼差しで見つめられ、エディの心臓が脈打つ。 身体中の血液が循環し、巡る血液の音が脳内で響く。
(その顔は、反則ですっ……殿下っ)
◇
エディの学年が講堂へ集められ、芸術祭で行われる劇を披露する為、40人弱で1チーム、5チームに分かれて人数分けをされる。 芸術祭の本番に開演出来るのは、予選で勝ち抜いた2チームのみ。
芸術祭では、一学年で2チーム、全学年で6チームが劇を披露する。 敗れたチームの生徒たちは、有志で芸術作品を提示する。 なので、芸術作品も提示する者はとても忙しい一か月間と言える。
エディの周囲では、チームに勧誘する声が聞こえ、自身はどうするかと、知り合いを探して見回した。 ガッドと視線が合いそうなったが、踵を返した。
「お嬢様、どうされたんですか?」
「……ううん、なんでもないわっ」
(さて、どうしようかな?)
少し離れた場所に、見知った顔を見つけた。 エディの視線の先に、同じ執行委員であるネリーとミリアムの姿が見えた。 彼らは同じチームを組むらしい。 平民の中に入ってもいいか悩んだが、学園では身分関係なく、皆が平等だと謳っているのだからいいだろう。
「ネリー嬢、ミリアム嬢」
「「エディット様っ!」」
ネリーとミリアムが臣下の礼すると、周囲にいた平民生徒たちも続けて挨拶をし、臣下の礼をした。
「ごきげんよう、皆さま。 二人は同じチームなのですか?」
エディは笑顔で返事をし、彼女たちのチームに入れる様に、算段を付ける。
「はい、私たちは執行委員ですから、裏方希望ですけれど」
「あぁ、執行委員ねっ……」
「……はい」
「今から気が重いよね……」
エディ、ネリーとミリアムの三人は、前回の音楽祭での事を思い出し、深い溜息を吐き出した。
「では、私も皆さまのチームに入れて頂きたいの」
エディの要請に、平民ばかりが集まっているチームに衝撃が駆け抜けた。 一方、エディの脳内では、貴族令嬢、子息たちと組む面倒なチームは、避けたい事でいっぱいだった。
王太子妃、いずれは王妃になろうとしているエディにとっては、今から貴族と良い関係を築いた方がいいのだが、エディの行為は逆を行っている。 しかし、ネリーたちの返事を聞く前に、背後から聞きなれた声が聞こえて来た。
「エディ、君は私と同じチームって、決まっているんだよ」
聞こえて来た声に、エディは恐る恐る振り返った。 振り返ったエディに、黒い笑みを浮かべているリュシアンがとても恐ろしい。 同じチームを組もうと、エディを探していた様だ。
「王太子殿下、わたくしたちもご一緒してもよろしいですか? 同じ執行委員ですし」
別方向から、聞きなれた声にエディの身体が震えた。 聞こえてきた方向に視線をやると、思っていた通りの人物が立っていた。 周囲に執行委員の取り巻きを従えて。
「カトリーヌ様っ」
「ごきげんよう、エディット様」
エディは一瞬で淑女の笑みを浮かべ、持っている扇子を広げた。
「ごきげんよう、カトリーヌ様」
「やぁ、バスティーヌ嬢、パレ嬢、ディッコ嬢、ゴスラン嬢」
リュシアンはさり気無くエディの隣に立ち、カトリーヌたちに王子の笑みを浮かべた。 エディが淑女の仮面を被ったので、リュシアンも王子の仮面を被った。
(まぁ、リュシアンはいつも王子の仮面を被っているけど……)
「じゃ、俺もリュシアンたちと同じチームがいいな」
「ヴァン……生徒会は忙しくてあまり稽古には参加できない。 皆に迷惑を掛けられない。 出来るだけ生徒会メンバーは各チームに散らばる様にと、生徒会長から言われているだろう?」
「えぇぇ、でも、リュシアンとドゥクレ侯爵令嬢、俺の三人なら別いいだろう?」
実はリュシアンと一緒にエディの事を探していたのだが、誰にも気づかれていなかった。 別方向でヴァンの話を聞いたカトリーヌは、もの凄い形相をした。 ヴァンの頭の中には、カトリーヌたちは居ない様な発言に、ショックを受けていた。 チラリと視線をカトリーヌに向ける。
カトリーヌの悔しそうな顔が視界に入った。 カトリーヌの淑女らしからぬ顔がとても怖かった。
結果、エディとリュシアンの周囲に集まって来た40人弱の生徒たちと、チームを組む事になった。 こっそりとガッドとリラが最後に、チームへ参加して来た事を後から知る。
◇
芸術祭の準備が始まった王立学園の生徒たちは忙しい一日を過ごしていた。 通常の授業に加え、劇の準備に稽古。 他、芸術祭に展示する芸術作品の制作。 そして、各々に課せられた勉強。
エディたちは、芸術祭の進行の準備なども加わり、生徒会があるリュシアンは誰よりも忙しく過ごしていた。 忙しい中、チームの話し合いもあった。 当然、執行委員の会合も。
「音楽祭のタイトルボードを使い回しになさるなんて、そんな貧乏くさい事、なさらないわよね? エディット様」
優雅に微笑むカトリーヌの笑い声が、執行委員室で響き渡る。 目元に隈のない肌と髪が艶々なカトリーヌを、皆が恨めし気に見つめている。 皆、忙しい日常に少しだけイラついている。
エディは頬を引き攣らせながら、カトリーヌに進言する。
「カトリーヌ様、皆、通常授業に、生徒会の雑務に芸術祭準備と忙しいのです。 今回は使い回しても誰も文句を言わないと思いますが……」
「駄目ですわ。 王太子殿下が通われている三年間は、手抜きは許されませんわ。 完璧にしなくてわっ!」
「……では、せめてボードの飾り物はコサージュではなくて、ティッシュの花にして頂きましょう。 執行委員の方々は当日、色々と業務がありますから、舞台には出られません。 皆さまが担当しているのは、ほぼ裏方ばかりです。 チームの小道具やセットなども作るのです。 皆さまに時間をかける暇がありませんわ」
「あら、貴方たちだけでボード作りくらい大丈夫でしょう?」
カトリーヌは、平民生徒の執行委員を見渡し、無茶ぶりをする。 ただでさえ、執行委員のネリーとミリアムはカトリーヌと同じチームで雑用や小道具作りを押し付けられているというのに。
カトリーヌのチームでの担当は、脇役ではあるが、姫か何かをやるらしい。 自身は稽古で忙しいと、雑用を皆に押し付けてばかりいる。 しかし、エディは知っているカトリーヌは脇役なので、主役よりは稽古の時間が短い事を。 自分勝手な事ばかり言うカトリーヌに、エディがいい加減にブチ切れた。 エディは淑女の笑みを浮かべて、カトリーヌを見据えた。
「では、カトリーヌ様。 生徒会の雑務の手伝いをお願いしますわ。 私たちは沢山の制作物がありますから、生徒会の雑務まで回りません。 主役を張る王太子殿下が生徒会に割く時間がありますのに、脇役のカトリーヌ様に出来ないわけありませんわよね? 確か、演技は上手くて、稽古も必要ないと仰ってらしたと聞きましたわ、殿下から」
にっこりと黒い笑みを浮かべれば、カトリーヌは眉間に深く皺を寄せた。 リュシアンから聞いたのは本当だ。 忙しい間に時間を作り、カトリーヌや他の執行委員の事を相談する為、二人でお茶をした時に教えてくれたのだ。
「そ、そうね。 わたくしの演技は完璧ですわ。 時間があれば生徒会の手伝いをしましょう」
「よろしくお願いしますわっ」
エディも主役にと配役されそうになったが、丁重に断った。 ちゃっかりと、リラも脇役になっている事に驚いたが、エディが何かを言う事は出来なかった。 兎に角、忙しくて皆は、自分で精いっぱいだった。 なので、ガッドが裏で暗躍している事は気づけなかった。
◇
王都の東西南北と街が広がり、西側の郊外には工場や倉庫街がある。 倉庫街には、ガッドの個人の倉庫が幾つかある。 倉庫の一つの前に、黒塗りの馬車が停まる。 黒塗りの馬車から出て来たのは、ジュレ家の次期当主であるガッドである。
重い倉庫の扉が響く音を軋ませ扉が開かれる。 倉庫の中では、沢山の人が忙しく働いていた。
皆、闇妖精としか契約が出来ない者たちなのか、身体から少しだけ闇の靄が漂っている。 闇妖精は、悪い物ではない。 使う者によって呪いを製作出来る為、忌避されている事もある。
代表格なのか、一人の男がガッドに木箱を持って運んできた。 蓋を開けて中身をガッドに見せる。
「ガッドの旦那、忙しいのにお疲れ様です。 中々のものですよ」
「ああ、そうだな。 いい出来だ」
中身を見たガッドは、口元に帆の暗い笑みを広げ、黙って頷いた。
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