脳内お花畑から帰還したダメ王子の不器用な愛し方

伊織愁

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32話

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 マウリツィオとのお茶会の日は直ぐにやって来た。 

 学園寮の執務室に訪れたマウリツィオは、とても良い笑みを浮かべていた。

 和かな笑みには、何処か楽しんでいる色が滲んでいる。執務室の中央に置いてあるソファーセットに向かい合い、兄であるマウリツィオを出迎える。

 久しぶりの兄弟のお茶会には、ヴァレリアも参加している。ファブリツィオの隣に座るヴァレリアは、少し緊張気味だ。

 立ち上がった二人は、臣下の礼をして挨拶をする。

 「王太子殿下、この様な所まで足を運ばせ、申し訳ございません。ご無事でご帰還された事、大変喜ばしく思います」
 「ファブリツィオ、ありがとう。君たちも無事に帰って来て良かったよ。園遊会では面白い事があった様だね」

 もう、知っているのか……まぁ、そうだよな。もの凄く、嫌な予感がする。 

 「堅苦しい挨拶はもういいよ」

 続けて、淑女の礼をしたヴァレリアが挨拶をしようとしたが、マウリツィオに止められ、ヴァレリアは僅かに微笑んで頭を下げた。

 そして、思い出した様にマウリツィオが言った。

 「あ、そうだ。ファブリツィオにお礼を言わないとね」
 
 何のお礼か分からず、ファブリツィオは首を傾げ、問いかけた。

 「お礼とは何ですか?」
 「私が居ない間、仕事を手伝ってくれたでしょう?」
 「ああ、その事ですか。その事ならもう、いいです。でも、今後は何も言わないまま出て行かないで下さい。皆が心配します」
 「分かったよ、ファブリツィオ」

 可愛い弟が自身の心配をしてくれていたのが、とても嬉しかったらしく、マウリツィオはとても良い笑顔を浮かべた。

 「……っ」

 先程からマウリツィオは、終始笑顔だ。

 「で、ちょっと小耳に挟んだんだけど、君は王妃の事を調べているんだって?」
 「……すみません、気になる事がありますので」

 少し緊張した面持ちで答えた。マウリツィオには、王妃とファブリツィオがお互いに良い印象を持っていない事は知られている。

 繕っても、今更だな。

 ヴァレリアには言っていなかったので、驚いた表情をしていた。目を見開いて、ファブリツィオを見つめてくる。

 「気になる事って何だい?」

 マウリツィオの不敵な笑みに、ファブリツィオは喉を鳴らした。

 「まぁ、取り敢えず座ろうか。ピエトロ、お茶を入れてくれ」
 「はい、承知致しました」

 三人はまだ立ったままだった。
 
 側で控えていたピエトロが簡易キッチンへ移動する。お湯を沸かす音が静かに執務室に流れる。紅茶の香りが漂いだし、少し気分が落ち着く。

 しかし、自身の居間の様に寛いでいるマウリツィオに、ファブリツィオは内心で引いていた。

 弟たちの心の機敏に聡いマウリツィオは面白そうに笑った。

 「何を驚いているの?ここの執務室は、学園へ通っている時に私も使っていたから、私の部屋の様な物だよ」

 ファブリツィオの考えを読んだのか、マウリツィオは楽しそうに微笑んだ。 

 もう既にマウリツィオの話のペースに乗せられている。

 「じゃ、王妃の事は置いておいて、春の園遊会での事、話してもらおうかな」

 とても楽しみにしていたのか、マウリツィオはご機嫌な様子だ。

 そんなに聞きたいか?!俺が栄養剤の苦さで苦しんだ話を!絶対にピエトロから報告を受けているだろ?!リアの前では話したくないのに!

 マウリツィオは一通り話を聞き、栄養剤の下りでは腹を抱えて笑っていた。

 ここまで引っ張る程、面白い話ではないだろう。

 話し終えたファブリツィオは深い溜め息を吐いた。隣でヴァレリアが吹き出しそうになっているのに気づき、とても恥ずかしい思いをした。

 「じゃ、面白い話も聞かせてもらえたし、帰るよ。この後、会食があるんだっけ?」

 マウリツィオは背後に控えている侍従に視線をやり、スケジュールの確認をした。

 「はい、馬車も既にご用意しております」
 「うん、分かった」

 ソファから立ち上がったマウリツィオ
を二人で扉前まで送る。

 「ここで大丈夫だよ」
 
 後ろから着いて行ったファブリツィオは足を止めた。執務室の扉の前でマウリツィオが振り返る。マウリツィオの真剣な眼差しに、ファブリツィオは目を見開いた。

 「ファブリツィオ。母上……王妃を調べるなら気をつけるんだ。特に侍女周りには口が軽い者がいるからね」
 「はい……」

 真剣な雰囲気を出したと思ったら、直ぐ和かに笑う。軽い感じで出て行ったマウリツィオを見送り、扉が閉められていく様子を眺める。

 「結局、兄上はさっきの事を言いたくて来たのか?」
 「ファーベル様の事を心配しておられるんじゃないですか?」
 「……うん、そうか。兄上は幼い頃から俺の心配をしているな。でも、そうか、侍女か……ピエトロ、頼みがある」

 ◇

 ファブリツィオの執務室を出たマウリツィオは、学園の門に辿り着く前に、在校生に見つかり、王太子の顔をして手を振っていた。 

 馬車に乗り込み、溜め息を吐く。

 「ファブリツィオの様子だと、まだ何も気づいていないな。あの真実に辿り着くにはもう少し掛かるかな」
 「殿下…….」

 心配そうに何か言いた気な表情をしている侍従に、いつもの笑みを向ける。

 「大丈夫だよ、ただちょっとね。ファブリツィオが知ってしまったら、私と口を聞いてくれるだろうかと思ってね」
 「ファブリツィオ殿下はきっと、知ってしまっても変わらないと思いますよ」
 「だろうね。それであの男は何をしようとしているか分かったか?」
 「はい、殿下、お耳を」
 
 小さく頷くと、マウリツィオの口元に笑みが広がった。

 「やっぱりファブリツィオの周りは面白いね。私が学生の時は面白い事など何もなかったのにな」

 マウリツィオが学生時代の学園も大分、騒々しいものだったが、惚けているのか、忘れているのか、笑顔を浮かべる彼からは感情が読み取れなかった。

 「まぁ、でも、ピエトロの言う通り、そっとしておこうかな。危なくなったら助けに入るけれど。お兄ちゃんの役目は終わりかな」
 「では、婚約者の選定を進めてもよろしいですか?」

 侍従が瞳を輝かせて、期待を帯びた色を滲ませる。

 「あ、また、オラツィオが呼んでる気がする!」
 「やめて下さい、殿下!」

 走り出した馬車から飛び降りようとして、慌てた侍従がマウリツィオにしがみついて止めた。

 ◇

 学園の生徒会室で、生徒会の面々と実行委員の面々が集まり、来月末に行われる芸術祭の話し合いが行われていた。

 芸術祭の内容は、『テーマ』を決め、テーマに沿った芸術作品の展示や、有志に寄って演劇が開演される。学園外の人達も呼ぶ為、警備も大変になる。

 「で、今年のテーマだが、何がいいと思う?」

 ファブリツィオの問いかけに、皆が意見を言い合う。生徒会の面々は黙り込んでいた。フラヴィオは眠たいのか、半目になっている。 

 左隣に座るフラヴィオの脛を軽く蹴る。

 「そんなに立派なテーマじゃなくていいんだ。何かないか?」

 フラヴィオは小さい悲鳴をあげて、身体を震わせ、痛みに眉を顰めた。

 「俺の話を聞いていたか?フラヴィオ」
 「あ、えと……何だっけ?」

 覚醒したフラヴィオは眉尻を下げて頭を掻いていた。

 「お前は、会計で予算を出してもらわないといけないのに、ちゃんと話を聞け」
 「は~い」

 間延びしたフラヴィオの返事に、ファブリツィオは眉間に皺を寄せた。

 「で、何の話だっけ?」
 「だから、芸術祭のテーマを何にするか話し合っている。もう、下旬だしな。準備は早めの方がいい」
 「ああ、もうそんな時期なんだ。月日が経つのは早いねぇ」
 「何を呑気に言っている。五月は生徒会選挙があるから、俺たちの仕事は来月の芸術祭で終わりだぞ」
 「うわぁ、一気に寂しくなるなぁ。三年生になると勉強漬けかぁ」

 『嫌だぁ~』と、フラヴィオが絶望的な声を出し、話が徐々に脱線していく。

 ヴァレリオが咳払いをして、二人のじゃれ合いを止めた。

 「お二人とも、脱談はそこまでで、いつまで経ってもテーマが決まりませんから」
 
 フラヴィオは軽く謝罪しながら笑い、ファブリツィオも咳払いをした。フラヴィオは絶対に悪いと思っていない。

 「では、改めて、何かないか?」
 「はい」

 フィオレラが手を挙げた。フィオレラは、生徒会から抜けたメンバーの補充要員だ。生徒副会長と書記が抜けたので、臨時で書記として、フィオレラとフリオが実行委員会から抜擢された。

 「花をテーマにしてはどうですか?」
 「花?」
 
 皆が首を傾げてフィオレラを見た。

 「はい、花が咲き誇る季節ですし、学園を花で飾れば綺麗だと思います。花には色々と逸話もありますし、きっと創作意欲が沸くと思います」
 「花かぁ、高いんだよねぇ、花って」
 「まぁ、侯爵家のご子息が何を仰っているんですか」
 「フィオレラ嬢が欲しいって言うなら、いつでも、毎朝、ジラルデンゴ家の庭師が育てた花束を届けるよ」
 「女ったらしの花束なんていりませんわ」
 「連れないなぁ、フィオレラ嬢」

 フラヴィオの所為でまた、話が脱線しそうになっており、ファブリツィオが咳払いをする。

 「フラヴィオ、関係のない話をするな、話が止まるだろう。花の値段は考えるとして、トロヴァート令嬢の意見は分かった。 他はないか?」

 続いて挙手したのは、ヴァレリオだった。

 「はい、俺は領地の物とかを展示したいです」
 「領地の物?」
 「はい、折角なので、俺の領地の特産とか、ジェンマ領の事を皆に知ってもらいたいし、将来の商売にならないかなぁとか、考えてます」
 「商魂だましいが逞しいね、リオ」

 フラヴィオが呆れた声を出す。

 「領地の物産展か。それも面白いが、芸術祭たがら、芸術作品か工芸作品に限るぞ。それに、クラスの出し物としては認められないな」
 「あ、やっぱりですか?」
 「ああ、やるなら、個人での有志だな。クラス毎にすると、高位貴族の言いなりになるぞ」
 「……それ、もの凄くありそう」

 フリオが嫌そうに眉を顰め、チラリとフラヴィオに視線をやる。フリオの視線を受け、フラヴィオは小さく身体が震える。

 ファブリツィオも高位貴族の横暴さを思い出しているのか、瞳に苦いものが混じっている。

 「同じ領地出身者でやるならいいがな」

 ファブリツィオの呟きに、ヴァレリオが残念そうな声を出す。

 「……物産展は無理そうですね」
 「リオ、俺なんて身分を偽ってるから参加しずらいなぁ。勿論、偽称は抜かりないけどな」
 「カルロ。そうか、それもそうだね」
 「ああ、いい案だが、ちょっとな……」

 ヴァレリオの意見が却下となり、他の意見はないかと、ファブリツィオが募る。

 実行委員からも沢山の案が出た。

 充分な話合いの末、フィオレラのテーマが一番多様性があり、面白いのではないかと結論が出た。予算を何とか捻出し、ファブリツィオも王宮で育てられている花を使えないか、話をつける事にした。

 生徒会からは、校訓である『清く正しく美しく』をテーマに生花を差し、校舎の各所で飾る事にした。クラスの展示や演劇は、各自クラスで話し合ってもらう。

 学園寮の執務室に戻って来たファブリツィオはソファの上でダラけた姿を晒す。

 「良かった、何とかテーマが決まった」
 「殿下、婚約者様の前ですよ。ちゃんと座って下さい。骨格が歪みます」
 「……っ」

 紅茶をワゴンに乗せたピエトロが現れた。ファブリツィオは素直に従い、座り直した。

 子供の様なファブリツィオの様子に、ヴァレリアは可笑しそうに笑みを零す。

 ピエトロが淹れた紅茶をローテーブルへ置く。今日は甘いクッキーもソーサーに二枚乗せられていた。

 「……ありがとう」
 
 ピエトロに礼を言うと、ファブリツィオは紅茶に口を付けた。

 「テーマが全く決まらないと、大変なんでしたね」
 「そうだな、演劇とかは練習とかもあるしな」

 ヴァレリアの分の紅茶をカップに注いでいるピエトロが、何かを思い出した。

 「そう言えば……マウリツィオ殿下の時は大変だった様です」

 ピエトロが王太子の侍従だったわけではないが、同僚から聞いていたのか、最悪な事を思い出した様だ。

 詳しく聞かなくても、何となく分かるな。兄上の事だから、無理難題を押し付けたんだろうな。

 ヴァレリアの机にも紅茶が置かれる。

 「ありがとうございます」

 紅茶を一口飲んだヴァレリアは、楽しそうに微笑んだ。

 「楽しみですね。芸術祭当日は、学園中の校舎や色々な場所で花が咲きますね」

 ヴァレリアの言葉で、ファブリツィオの脳内で色々な花が飾られる学園が浮かぶ。

 色々な花か。事前に危険な花は使わない様にとか、決めておかないと駄目だな。

 「もう一度、会議をしないといけないか」
 「何かご不明な点でも?」

 ピエトロが不思議そうに顔を傾げる。

 「ああ、違法な植物を持ち込ませない様にな」
 「そうですね、生徒たちは詳しく知らないでしょう」
 「では、ファブリツィオ様、私が調べてリストにします」

 ヴァレリアが進んでやってくれると言うので、頼む事にした。
 
 「じゃ、リアに頼むよ。ピエトロ、違法植物のリストがあったろう?出してやってくれ」
 「承知致しました」

 当日は、花瓶に生けた花や、造花の花束、工芸品や彫刻の花、芸術作品の花が学園に溢れ、花の精の演劇が行われる。

 模擬店では花を使ったメニューが並ぶそうで、花の香りが学園中に漂うだろう。

 「花の匂いはどうにかした方がいいな」

 前日は生徒会や実行委員のメンバーで違法植物がないか調べるのに、一日中かかる事になった。

 ◇

 「このまま学園に通っても、もう俺たちは殿下の補佐官にはなれない。いい成績で卒業したとしても、卒業後は領地に引っ込んで飼い殺しだ」

 悔しそうに口元を歪めるアドルフォと、静かに酒を口に運ぶサヴェリオがいた。

 二人は、アドルフォの部屋で飲酒しながら、話をしている。

 アルコールが頭から身体中を巡り、よからぬ事が脳内に染み渡る。

 「カーティアがどうやら殿下に媚薬を盛ったらしい」
 「それは本当ですか?!」
 「ああ、俺の父が言っていたからな、間違いない。そんな女だからカーティアの事は諦めろと言われた」
 「…….そうですか。それで謹慎になったんですね。いつか、やらかすのではと思っていました。カーティアは殿下に執着してましたからね」
 「……今、思えば、殿下はあまりカーティアの事を好きではなかったんだな」
 「……どうしてそう思われるんです?」
 「カーティアの事を好ましく思ってはいただろうが、ストラーネオ侯爵令嬢に接する殿下は全く違う。あんな風にカーティアを見た事はなかった。だから、カーティアも焦ったんだろう」
 「……っ」
 「アドルフォ、お前は卒業後はどうするんだ?」
 「えっ」
 「俺は領地の騎士団に入れと父から言われているが、俺は肩身の狭い思いをしてまで、領地に居たいとは思わない」
 「では、貴方はどうするんです?」
 「俺は家を出る。次男だし、ロンコーニ家は兄貴が継ぐしな。今回の事を教訓にして、俺は別の場所でやり直す。アドルフォ、お前も何時迄も愚痴っていても仕方ないぞ」
 「サヴェリオ」

 グラスの残り酒を一気に煽ったサヴェリオは、アドルフォの部屋から出て行った。

 一人残されたアドルフォは酒を煽りながら、窓の外を眺める。

 「私は簡単に捨てられませんよ。ガリツィア家ですよ。公爵家で、王家の縁戚なんですから」

 アドルフォの呟きは、薄暗くなる窓の外へ消えた。
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