27 / 112
2章 地中に埋まった骨鉱山
26 格闘
しおりを挟む「解くん!」
結生がさけんだ。
ブニョブニョした生きものが長い尾を振りまわしたのだ。
解の胸に尾がドスッと衝突した。
息が一瞬つまった。解は吹っとばされた。
地面に散らばる骨のなかへ解の身体が突っこんだ。
手のひらにビリッと痛みが走った。
なにかの骨の先端で手が切れたのだ。解は必死で上体を起こした。
そして解は目を疑った。
「なんだ、こりゃ。」
解は思わずつぶやいた。
ブニョブニョした生きもののかたちが変化した。
角の骨を打ちこまれて皮膚が破れたところ、くさい液体が吹きだしたところからブニョッとなにかが出てきた。
餅が焼けてふくらむときみたいだ、と解は思った。
背中と右の前足と首、三カ所からブニョッ、ブニョッとなにかが生えてきた。
右足から生えたものはやがてそいつの身体を支えるかっこうになり、背中から生えたものは尻尾らしきかたちになり、そして首から生えたものは先端が二つに分かれて口のかたちになった。
変な生きものはますます不格好なかたちになった。
「こんなのキリがないよ!」
杉野さんの声が解の耳に届いた。彼女の言う通りだ。
叩いた箇所から新たに器官が生えてくるのでは、ただかたちが変わるだけだ。
そのとき結生が解に向かって叫んだ。
「解くん、ぼくのショルダーバッグとって!」
解の倒れたすぐそばに結生のバッグが落ちていた。
解はいそいでそれを結生に向かって放り投げた。
結生はバッグを受けとるとブニョブニョした生きものの視界からスッとはずれた。
そしてバッグの肩掛けベルトをそいつの口に向かって投げた。
ベルトが口にきれいに巻きついた。
結生はベルトを一回転させ、そいつの口をしばる格好になった。
ブニョブニョした生きものが激しく首を振る。
結生とその生きものの力比べは互角だ。
大きさのわりには非力だ。
もしかして重さがおなじくらいなら出せる力も解くらいなのかもしれない。
結生が叫んだ。
「解くん、そいつの身体に触ってみてくれ! 脈か心臓をさがすんだ!」
解は飛びはねるようにして立ちあがり、ブニョブニョした生きものに抱きついた。
しばられた口から音がもれた。
すっごく怒ってるぞ、と解は思った。
そいつは二本に増えた尻尾をブンブン振った。
解はあわてて一度そいつから離れて尻尾の攻撃を避け、それからすぐにもう一度そいつの胴体にかじりついた。
「あっ、ここ!」
解は声をあげた。
背中にドクンドクンと脈の動きを感じた。
それは二本目の尻尾が生えてきた場所から握りこぶし一つぶんほど頭部に近い場所だった。
結生が叫んだ。
「そこへ打ちこむんだ!」
「わかった、やってみる。」
「解くん。これ!」
杉野さんが解になにかを向かって投げた。解はキャッチした。
見ると五徳ナイフだ。
「ありがと!」
解はナイフの刃をのばすとそれを両手で握りしめ、大きく背筋をそらせて歯をくいしばり、そいつの脈を感じた箇所に力いっぱい突き刺した。
そいつが激しく暴れた。身体を大きくゆすり、尻尾と首を振りまわした。
二本目の首が解にぶつかった。
解はよろけたけどそれでもナイフを突き刺すことをつづけた。
くさい液体が吹きだして解はびしょぬれになった。
それでもだ。ナイフの先に手応えが生じた。
と思った瞬間、くさい液体のなかに濃い色のべつの液体が混ざった。
(やった。)
そう思ったとたん、解の足元がおかしくなった。
シェルギの影のなかで足を踏みはずしたときとおなじ感触だ、と解は思った。
足の下に地面がない。
解は転落した。
変な生きものと一緒にだ。
解は必死でナイフを握りしめた。
(やばいぞ、やばいやばい!)
そう考えるくらいの間のあとすぐに解の身体はブニョブニョした変な生きものの身体の上に乗っかるかたちで地底に着地した。
いや、叩きつけられた。
衝撃で息がつまった。
骨や土やそのほか色々が上からバラバラとふりそそいだ。
ドサドサドサッと地面にモノが叩きつけられる衝動が少しの間つづいた。
ブニョブニョした変な生きものがクッションのように解の身体の重みを吸収し、そしてくさい液体がさらにいっそう吹きでた。
ブシュウーッとほとばしり、やがてしぼんだ。
解の身体がびしょぬれになった。
そして変な生きものはそれきり動かなくなった。
足とか尻尾とか首が新たに生えることもなかった。
解は呆然とした。
(助かった……。)
そう思ったのは、しばらくたったあとだ。
解はそろそろと身体を起こした。あちこちが痛むがいちおう動いた。
落ちてきた骨の淡い光をたよりにして、解はどうにか目をこらした。
解はあるものに気づいた。
くさい液体を出しつくした変な生きものの皮の内側に、わずかにだが、赤い光が見えた。解がナイフで刺した箇所の近くだ。
「 蘇石骨だ。」
解は思わず声をあげた。
ナイフを引きぬいてブニョブニョした皮を突っついてみた。
それから思いきってナイフを持つ手に力をこめた。
皮が裂けた。
解はググッと刃を進め、切れ目に手を突っこんだ。
コツンと爪にあたる感触があった。
あちこちが尖っている。
解は尖った個所を注意深く避けてその固まりを掴み、強引に引っぱった。
なかなかとれない。
0
あなたにおすすめの小説
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
少年騎士
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。
村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~
楓乃めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。
いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている.
気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。
途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。
「ドラゴンがお姉さんになった?」
「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」
変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。
・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
ノースキャンプの見張り台
こいちろう
児童書・童話
時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。
進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。
赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる