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2章 地中に埋まった骨鉱山
26 格闘
しおりを挟む「解くん!」
結生がさけんだ。
ブニョブニョした生きものが長い尾を振りまわしたのだ。
解の胸に尾がドスッと衝突した。
息が一瞬つまった。解は吹っとばされた。
地面に散らばる骨のなかへ解の身体が突っこんだ。
手のひらにビリッと痛みが走った。
なにかの骨の先端で手が切れたのだ。解は必死で上体を起こした。
そして解は目を疑った。
「なんだ、こりゃ。」
解は思わずつぶやいた。
ブニョブニョした生きもののかたちが変化した。
角の骨を打ちこまれて皮膚が破れたところ、くさい液体が吹きだしたところからブニョッとなにかが出てきた。
餅が焼けてふくらむときみたいだ、と解は思った。
背中と右の前足と首、三カ所からブニョッ、ブニョッとなにかが生えてきた。
右足から生えたものはやがてそいつの身体を支えるかっこうになり、背中から生えたものは尻尾らしきかたちになり、そして首から生えたものは先端が二つに分かれて口のかたちになった。
変な生きものはますます不格好なかたちになった。
「こんなのキリがないよ!」
杉野さんの声が解の耳に届いた。彼女の言う通りだ。
叩いた箇所から新たに器官が生えてくるのでは、ただかたちが変わるだけだ。
そのとき結生が解に向かって叫んだ。
「解くん、ぼくのショルダーバッグとって!」
解の倒れたすぐそばに結生のバッグが落ちていた。
解はいそいでそれを結生に向かって放り投げた。
結生はバッグを受けとるとブニョブニョした生きものの視界からスッとはずれた。
そしてバッグの肩掛けベルトをそいつの口に向かって投げた。
ベルトが口にきれいに巻きついた。
結生はベルトを一回転させ、そいつの口をしばる格好になった。
ブニョブニョした生きものが激しく首を振る。
結生とその生きものの力比べは互角だ。
大きさのわりには非力だ。
もしかして重さがおなじくらいなら出せる力も解くらいなのかもしれない。
結生が叫んだ。
「解くん、そいつの身体に触ってみてくれ! 脈か心臓をさがすんだ!」
解は飛びはねるようにして立ちあがり、ブニョブニョした生きものに抱きついた。
しばられた口から音がもれた。
すっごく怒ってるぞ、と解は思った。
そいつは二本に増えた尻尾をブンブン振った。
解はあわてて一度そいつから離れて尻尾の攻撃を避け、それからすぐにもう一度そいつの胴体にかじりついた。
「あっ、ここ!」
解は声をあげた。
背中にドクンドクンと脈の動きを感じた。
それは二本目の尻尾が生えてきた場所から握りこぶし一つぶんほど頭部に近い場所だった。
結生が叫んだ。
「そこへ打ちこむんだ!」
「わかった、やってみる。」
「解くん。これ!」
杉野さんが解になにかを向かって投げた。解はキャッチした。
見ると五徳ナイフだ。
「ありがと!」
解はナイフの刃をのばすとそれを両手で握りしめ、大きく背筋をそらせて歯をくいしばり、そいつの脈を感じた箇所に力いっぱい突き刺した。
そいつが激しく暴れた。身体を大きくゆすり、尻尾と首を振りまわした。
二本目の首が解にぶつかった。
解はよろけたけどそれでもナイフを突き刺すことをつづけた。
くさい液体が吹きだして解はびしょぬれになった。
それでもだ。ナイフの先に手応えが生じた。
と思った瞬間、くさい液体のなかに濃い色のべつの液体が混ざった。
(やった。)
そう思ったとたん、解の足元がおかしくなった。
シェルギの影のなかで足を踏みはずしたときとおなじ感触だ、と解は思った。
足の下に地面がない。
解は転落した。
変な生きものと一緒にだ。
解は必死でナイフを握りしめた。
(やばいぞ、やばいやばい!)
そう考えるくらいの間のあとすぐに解の身体はブニョブニョした変な生きものの身体の上に乗っかるかたちで地底に着地した。
いや、叩きつけられた。
衝撃で息がつまった。
骨や土やそのほか色々が上からバラバラとふりそそいだ。
ドサドサドサッと地面にモノが叩きつけられる衝動が少しの間つづいた。
ブニョブニョした変な生きものがクッションのように解の身体の重みを吸収し、そしてくさい液体がさらにいっそう吹きでた。
ブシュウーッとほとばしり、やがてしぼんだ。
解の身体がびしょぬれになった。
そして変な生きものはそれきり動かなくなった。
足とか尻尾とか首が新たに生えることもなかった。
解は呆然とした。
(助かった……。)
そう思ったのは、しばらくたったあとだ。
解はそろそろと身体を起こした。あちこちが痛むがいちおう動いた。
落ちてきた骨の淡い光をたよりにして、解はどうにか目をこらした。
解はあるものに気づいた。
くさい液体を出しつくした変な生きものの皮の内側に、わずかにだが、赤い光が見えた。解がナイフで刺した箇所の近くだ。
「 蘇石骨だ。」
解は思わず声をあげた。
ナイフを引きぬいてブニョブニョした皮を突っついてみた。
それから思いきってナイフを持つ手に力をこめた。
皮が裂けた。
解はググッと刃を進め、切れ目に手を突っこんだ。
コツンと爪にあたる感触があった。
あちこちが尖っている。
解は尖った個所を注意深く避けてその固まりを掴み、強引に引っぱった。
なかなかとれない。
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