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4章 コバルトブルーの放牧篭
52 次に向かう先は
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「いまではどこでなにをしているか、さっぱり話を聞かない。近ごろ凱風師に会えるのは彼の子弟である南流の四使か、あるいは北・東・西という他の流派の総帥に限られるという。」
トウィードの話に、解はいそがしく頭を働かせた。
(だとしたらまず南流の四使のだれか、そうでなければ他の流派の総帥という人に会えばいいんだ。)
トウィードは無理だと言ったが、説明をきいた解が考えたのはその反対だった。
むしろ凱風に話を伝える道すじを教えてもらえたと思った。
解は明るい気持ちになった。これで凱風とつながる方法がわかったぞ、と思った。
だから解はトウィードにもう一度頭を下げた。
「だったらやっぱりぼくは青の亜陸へ行きたいです。お願いします、トウィードさん、ぼくを一緒に連れていってください。」
トウィードがふん、と鼻を鳴らした。
「それについてわざわざ頭を下げる必要などない。いいか小僧、お前に頼まれなくても私はお前を青の亜陸へ連れていかねばならん。」
「本当ですか! ありがとうございます!」
トウィードが今度はこわい顔になった。
「勘ちがいするな、地徒人の小僧。お前を青の亜陸へ連れていくのは確かだが、お前を引きわたす相手は四使ではない。意裁官だ。」
「えっ?」
トウィードが人差し指を解に突きつけた。
「お前の話の通りならお前は重要な手続きを経ずにここにいることになる。お前は亜陸意裁庁へ出頭せねばならない。そこで意裁官がお前をどうするか決める。地徒人の世界へ送りかえすか、それとも天流衆国にとどまるか。」
「送りかえす?」
解はあわてた。トウィードはこわい顔のままでうなずいた。
「そうだ。送還される天流衆のほうが多い。お前のような子どもはなおさら送還の可能性が高い。役にも立たないし、だいたい天流衆国にこれ以上天流衆が増えてもだれも喜ばない。」
「ええっ、ちょっと待ってください。そんなの勝手に決められても、あっ、いやちがう。それでいいんだ! やった!」
解は思わず手を打った。解の様子にトウィードがけげんな顔をした。
「そこは喜ぶところか?」
「意裁官という人が裁定するのはぼくだけじゃないですよね? ぼくとおなじ電車に乗った人間全員を裁定しなきゃいけないですよね? じゃあ意裁官って人を骨鉱山へ連れていけばいいんだ! これで結生くんたちが解放される! トウィードさん、だったら早くぼくを連れていってください!」
トウィードがあきれた顔になった。
「せっかちなやつだ。」
どっちがだよ、という言葉を解は飲みこんだ。
とにかくこれで話は決まりだ。
トウィードが伝話貝を取りだした。
耳のかたちになった貝の身に話しかけるとき、トウィードの口調がこれまでより丁寧に改まった。どこかのえらい人と話をしているんだなと解は考えた。
ケルキトから父セグレへ、セグレから族長トウィードへ、そしてトウィードからどこかのだれかへ、順番に解の話が伝わっていく。
解は一瞬ひどくもどかしい気持ちになった。
早く、と思った。
この伝言ゲームが早く最後の一人、凱風へたどりつけばいいのに、と強く思った。
トウィードの声が風に流れていく。
「承知致した。では早急にこの子どもを連れて参る――いや、明日だ、支度に何日もかかりはしない。明朝早々に出立致す――なに、隊列? たかが子ども一人を送るのにそのように大仰なことは不要であろう。時間と労力の無駄だ。」
この人がせっかちでよかったと解は思った。
トウィードの立場にいるのがもっとのんびりした人間だったら、伝言ゲームの間と間がこれよりずっと長くなるかもしれない。
トウィードの声がつづいた。
「いいや、他の者に任せる気はない。どうもおかしな話のようだから私が直接出向くことに致そう。意裁官閣下に直接お目にかかっていろいろとお話をうかがいたいのだ――この場所か? ここはアシファット族の第四の放牧篭だ――ふむ、よろしかろう、亜陸候サルタン閣下のお耳には意裁官閣下から入れていただこう。では、失礼する。」
話が終わったようだ。
トウィードが伝話貝をしまい、解に向かってカラジョルに乗るようにうながした。
解はタンに声をかけた。
タンは殻に閉じこもったまま返事を寄こさない。
業を煮やしたのは解よりトウィードのほうが先で、彼はタンを両手でひょいっと持ちあげるとカラジョルの背に乗せた。全員がカラジョルに乗るとトウィードがカラジョルに命令し、カラジョルは放牧篭へ向かって上昇した。
放牧篭は間近で見るといっそう大きい。
青くて細長いものは、その太さが電車くらいに見えた。
あちこちから細い枝が生えていた。緑色の小さな葉の群れも見えた。
はじめ解は葉が枝から生えているのかと思ったが、よく見るとちがった。
青くて細長いものの表面を養分にして草が根を張り葉を生やしていた。
カラジョルがすきまから放牧篭のなかへ入った。
そこには巨大な空間が広がっていた。
大きな、大きなドームだ。
トウィードの話に、解はいそがしく頭を働かせた。
(だとしたらまず南流の四使のだれか、そうでなければ他の流派の総帥という人に会えばいいんだ。)
トウィードは無理だと言ったが、説明をきいた解が考えたのはその反対だった。
むしろ凱風に話を伝える道すじを教えてもらえたと思った。
解は明るい気持ちになった。これで凱風とつながる方法がわかったぞ、と思った。
だから解はトウィードにもう一度頭を下げた。
「だったらやっぱりぼくは青の亜陸へ行きたいです。お願いします、トウィードさん、ぼくを一緒に連れていってください。」
トウィードがふん、と鼻を鳴らした。
「それについてわざわざ頭を下げる必要などない。いいか小僧、お前に頼まれなくても私はお前を青の亜陸へ連れていかねばならん。」
「本当ですか! ありがとうございます!」
トウィードが今度はこわい顔になった。
「勘ちがいするな、地徒人の小僧。お前を青の亜陸へ連れていくのは確かだが、お前を引きわたす相手は四使ではない。意裁官だ。」
「えっ?」
トウィードが人差し指を解に突きつけた。
「お前の話の通りならお前は重要な手続きを経ずにここにいることになる。お前は亜陸意裁庁へ出頭せねばならない。そこで意裁官がお前をどうするか決める。地徒人の世界へ送りかえすか、それとも天流衆国にとどまるか。」
「送りかえす?」
解はあわてた。トウィードはこわい顔のままでうなずいた。
「そうだ。送還される天流衆のほうが多い。お前のような子どもはなおさら送還の可能性が高い。役にも立たないし、だいたい天流衆国にこれ以上天流衆が増えてもだれも喜ばない。」
「ええっ、ちょっと待ってください。そんなの勝手に決められても、あっ、いやちがう。それでいいんだ! やった!」
解は思わず手を打った。解の様子にトウィードがけげんな顔をした。
「そこは喜ぶところか?」
「意裁官という人が裁定するのはぼくだけじゃないですよね? ぼくとおなじ電車に乗った人間全員を裁定しなきゃいけないですよね? じゃあ意裁官って人を骨鉱山へ連れていけばいいんだ! これで結生くんたちが解放される! トウィードさん、だったら早くぼくを連れていってください!」
トウィードがあきれた顔になった。
「せっかちなやつだ。」
どっちがだよ、という言葉を解は飲みこんだ。
とにかくこれで話は決まりだ。
トウィードが伝話貝を取りだした。
耳のかたちになった貝の身に話しかけるとき、トウィードの口調がこれまでより丁寧に改まった。どこかのえらい人と話をしているんだなと解は考えた。
ケルキトから父セグレへ、セグレから族長トウィードへ、そしてトウィードからどこかのだれかへ、順番に解の話が伝わっていく。
解は一瞬ひどくもどかしい気持ちになった。
早く、と思った。
この伝言ゲームが早く最後の一人、凱風へたどりつけばいいのに、と強く思った。
トウィードの声が風に流れていく。
「承知致した。では早急にこの子どもを連れて参る――いや、明日だ、支度に何日もかかりはしない。明朝早々に出立致す――なに、隊列? たかが子ども一人を送るのにそのように大仰なことは不要であろう。時間と労力の無駄だ。」
この人がせっかちでよかったと解は思った。
トウィードの立場にいるのがもっとのんびりした人間だったら、伝言ゲームの間と間がこれよりずっと長くなるかもしれない。
トウィードの声がつづいた。
「いいや、他の者に任せる気はない。どうもおかしな話のようだから私が直接出向くことに致そう。意裁官閣下に直接お目にかかっていろいろとお話をうかがいたいのだ――この場所か? ここはアシファット族の第四の放牧篭だ――ふむ、よろしかろう、亜陸候サルタン閣下のお耳には意裁官閣下から入れていただこう。では、失礼する。」
話が終わったようだ。
トウィードが伝話貝をしまい、解に向かってカラジョルに乗るようにうながした。
解はタンに声をかけた。
タンは殻に閉じこもったまま返事を寄こさない。
業を煮やしたのは解よりトウィードのほうが先で、彼はタンを両手でひょいっと持ちあげるとカラジョルの背に乗せた。全員がカラジョルに乗るとトウィードがカラジョルに命令し、カラジョルは放牧篭へ向かって上昇した。
放牧篭は間近で見るといっそう大きい。
青くて細長いものは、その太さが電車くらいに見えた。
あちこちから細い枝が生えていた。緑色の小さな葉の群れも見えた。
はじめ解は葉が枝から生えているのかと思ったが、よく見るとちがった。
青くて細長いものの表面を養分にして草が根を張り葉を生やしていた。
カラジョルがすきまから放牧篭のなかへ入った。
そこには巨大な空間が広がっていた。
大きな、大きなドームだ。
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