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5章 武道家の女子、現る
61 決着、そして
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解の頭上に大きな影が生まれた。解は見あげた。
巨人の手のひらが落ちてくる。
解は息をのんだ。
そのとき解の胴体にだれかの手がふれた。
トウィードだ。彼は解を抱えて飛んだ。
解の手の指先を大きな雑夙の小指がかすめた。
ズシンッと大きく地面がゆれた。
巨人の四本の手足が地面に投げだされたのだ。
大きな雑夙は動きを止めた。
しばらくの間、あたりはしずまりかえった。
アシファット族の男たちは息を飲んだままだれも身じろぎ一つしなかった。
雑夙が動かなくなったことがどういう意味なのかを計りかねたのだ。
でも解にはわかった。解はつぶやいた。
「やった……。」
解は身体の力を抜いた。
トウィードが解の顔を見た。彼はうなずいて下降すると解を地面へ降ろした。
それから片手をあげて握りこぶしを突きあげた。
アシファット族の男たちが歓声をあげた。
解はトウィードに言った。
「ありがとうございました、トウィードさん、助かりました。」
「無茶苦茶だ。」
トウィードはニコリともせずに言った。
「山ほど言いたいことがある。だがまず私もお前に礼を言わねばならん。一族のセグレが死なずにすんだ。」
「礼なんか言う必要がありますかね?」
横から口をはさむ者がいた。
バローだ。バローは怒った顔で解をにらんだ。
「あのバカでかいのは一体なんだったんだ。あいつが放牧篭を襲ったのは、チビ、お前のせいじゃないのか?」
横からケルキトがバローの袖を引いた。
「兄さん、止めなよ。解は父さんを助けたんだぞ。」
バローの目がつりあがった。
早口で弟にまくしたてた。
「ちがうだろう、こんなところに地徒人がいきなり現れた。ここは放牧篭だぞ、放牧篭。亜陸ならともかく、こんなのは初めてだ。そしてこんなところに雑夙が現れた。雑夙だよな? それにしちゃわけのわからないやつだったけど。とにかくこんなやつが放牧篭にいるはずがないんだ。いいか、いきなり現れた地徒人にいきなり現れた雑夙だ。なんの関係もないって言えるのか? もしかしたらこいつが雑夙を連れてきたのかもしれない。」
「ちがう、ぼくはあんなの知らないよ。」
解は言った。巨人の眼球と目があったことや巨人が発した「見つけタ。」という言葉が解の頭をかすめたが、それでもあの巨人を解が知らないのは本当だ。
だがバローは険しい顔のままで言った。
「だったらお前はどうしてここにいるんだよ? 怪しいぞ、チビ。」
解が返事するよりも先にトウィードがバローを制した。
「若いの、たしかバローだったな、そう、セグレの長男だ。二年前の水神祭で目通りしたおぼえがある。」
バローはささっと胸に手を当ててトウィードに向かって頭を下げた。
トウィードはうなずいた。
「バロー、お前とケルキトは上へ行け。セグレの手当てをしてやれ。」
「ですが族長様!」
「時間のムダだ。」
トウィードがバローをひとにらみすると、バローはぐっとだまりこんだ。
しかし不満をあらわにした顔のままだ。
トウィードは首を横に振った。
「地徒人の子どもには私から話を聞く。処遇を決めるのも私だ。」
「……わかりました。」
バローは解をにらみつけ、それから浮上した。
ケルキトがその後を追う。ケルキトは去り際に解に小さく手を振ってみせた。
解も振りかえした。
「説明してもらおうか。」
トウィードが言った。
アシファット族の族長がそれを求めた相手は、袴姿の女の子だった。
花連はトウィードに黙礼した。
解は花連とトウィードを交互に見た。
花連は礼をしただけで口を開かない。
ホントに余計なことを言わないな、と解は感心した。
花連もトウィードもしばらく黙ったままお互いを見つめた。
すぐにしびれを切らしたのは、もちろんトウィードのほうだ。
彼は言った。
「あなたとは青の亜陸で一度お会いしたことがある。お父上と一緒に、そうだったな。」
花連がうなずいた。
「はい、四ツ谷花蓮です。父は四ツ谷枢といいます。」
「枢、そうだ、そういう名だった。十年ほど前だったか、天流衆国に武道のうちの一つの体系を持ちこんだ地徒人だ。三度前の王府での“大会”ですべての挑戦者を制して名をはせた。あのあとアシファット族でも北流の使師に武道を習う者が一気に増えたのだ。」
花連はもう一度頭を下げた。
トウィードは動かなくなった巨人を指さした。
「あなたがここへ現れたのはあの雑夙のためか。」
「はい。」
「あれは本当に雑夙なのか。我ら放牧民は日ごろ雑夙に遭遇することはまずないが、あれほど大きいものか? それにあの蘇石骨だ。まるで燃えているようだった。」
「いまはちがいます。」
花連の言葉と視線に誘導されて、解は取りだされた蘇石骨を見た。
それはいつの間にか炎や火の粉を吹くことを止めてただ単に赤く淡く光る骨に変わっていた。解が結生や杉野さんと一緒に地の底で集めたものとおなじだ。
トウィードが鋭い視線を蘇石骨に向け、すぐに花連の顔にもどした。
巨人の手のひらが落ちてくる。
解は息をのんだ。
そのとき解の胴体にだれかの手がふれた。
トウィードだ。彼は解を抱えて飛んだ。
解の手の指先を大きな雑夙の小指がかすめた。
ズシンッと大きく地面がゆれた。
巨人の四本の手足が地面に投げだされたのだ。
大きな雑夙は動きを止めた。
しばらくの間、あたりはしずまりかえった。
アシファット族の男たちは息を飲んだままだれも身じろぎ一つしなかった。
雑夙が動かなくなったことがどういう意味なのかを計りかねたのだ。
でも解にはわかった。解はつぶやいた。
「やった……。」
解は身体の力を抜いた。
トウィードが解の顔を見た。彼はうなずいて下降すると解を地面へ降ろした。
それから片手をあげて握りこぶしを突きあげた。
アシファット族の男たちが歓声をあげた。
解はトウィードに言った。
「ありがとうございました、トウィードさん、助かりました。」
「無茶苦茶だ。」
トウィードはニコリともせずに言った。
「山ほど言いたいことがある。だがまず私もお前に礼を言わねばならん。一族のセグレが死なずにすんだ。」
「礼なんか言う必要がありますかね?」
横から口をはさむ者がいた。
バローだ。バローは怒った顔で解をにらんだ。
「あのバカでかいのは一体なんだったんだ。あいつが放牧篭を襲ったのは、チビ、お前のせいじゃないのか?」
横からケルキトがバローの袖を引いた。
「兄さん、止めなよ。解は父さんを助けたんだぞ。」
バローの目がつりあがった。
早口で弟にまくしたてた。
「ちがうだろう、こんなところに地徒人がいきなり現れた。ここは放牧篭だぞ、放牧篭。亜陸ならともかく、こんなのは初めてだ。そしてこんなところに雑夙が現れた。雑夙だよな? それにしちゃわけのわからないやつだったけど。とにかくこんなやつが放牧篭にいるはずがないんだ。いいか、いきなり現れた地徒人にいきなり現れた雑夙だ。なんの関係もないって言えるのか? もしかしたらこいつが雑夙を連れてきたのかもしれない。」
「ちがう、ぼくはあんなの知らないよ。」
解は言った。巨人の眼球と目があったことや巨人が発した「見つけタ。」という言葉が解の頭をかすめたが、それでもあの巨人を解が知らないのは本当だ。
だがバローは険しい顔のままで言った。
「だったらお前はどうしてここにいるんだよ? 怪しいぞ、チビ。」
解が返事するよりも先にトウィードがバローを制した。
「若いの、たしかバローだったな、そう、セグレの長男だ。二年前の水神祭で目通りしたおぼえがある。」
バローはささっと胸に手を当ててトウィードに向かって頭を下げた。
トウィードはうなずいた。
「バロー、お前とケルキトは上へ行け。セグレの手当てをしてやれ。」
「ですが族長様!」
「時間のムダだ。」
トウィードがバローをひとにらみすると、バローはぐっとだまりこんだ。
しかし不満をあらわにした顔のままだ。
トウィードは首を横に振った。
「地徒人の子どもには私から話を聞く。処遇を決めるのも私だ。」
「……わかりました。」
バローは解をにらみつけ、それから浮上した。
ケルキトがその後を追う。ケルキトは去り際に解に小さく手を振ってみせた。
解も振りかえした。
「説明してもらおうか。」
トウィードが言った。
アシファット族の族長がそれを求めた相手は、袴姿の女の子だった。
花連はトウィードに黙礼した。
解は花連とトウィードを交互に見た。
花連は礼をしただけで口を開かない。
ホントに余計なことを言わないな、と解は感心した。
花連もトウィードもしばらく黙ったままお互いを見つめた。
すぐにしびれを切らしたのは、もちろんトウィードのほうだ。
彼は言った。
「あなたとは青の亜陸で一度お会いしたことがある。お父上と一緒に、そうだったな。」
花連がうなずいた。
「はい、四ツ谷花蓮です。父は四ツ谷枢といいます。」
「枢、そうだ、そういう名だった。十年ほど前だったか、天流衆国に武道のうちの一つの体系を持ちこんだ地徒人だ。三度前の王府での“大会”ですべての挑戦者を制して名をはせた。あのあとアシファット族でも北流の使師に武道を習う者が一気に増えたのだ。」
花連はもう一度頭を下げた。
トウィードは動かなくなった巨人を指さした。
「あなたがここへ現れたのはあの雑夙のためか。」
「はい。」
「あれは本当に雑夙なのか。我ら放牧民は日ごろ雑夙に遭遇することはまずないが、あれほど大きいものか? それにあの蘇石骨だ。まるで燃えているようだった。」
「いまはちがいます。」
花連の言葉と視線に誘導されて、解は取りだされた蘇石骨を見た。
それはいつの間にか炎や火の粉を吹くことを止めてただ単に赤く淡く光る骨に変わっていた。解が結生や杉野さんと一緒に地の底で集めたものとおなじだ。
トウィードが鋭い視線を蘇石骨に向け、すぐに花連の顔にもどした。
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