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第二話
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「貴女って本当に最低な人間ね。」
薄暗いれいこの寮室。透き通るような声の主はれいこの耳元で囁いた。
れいこがゆっくりベッドから起き上がると、一糸まとわぬ姿で横たわる女性が見下したようにれいこを見つめていた。
絵に描いたような綺麗なアーモンド形の瞳に長い睫毛。ウエーブのかかったやわらかい長い髪。唇は熟れた果物のように艶やかで甘い。
その美しい彼女に誘われたら断れる男性などいようか、それは女性でも同じだ。
「それってどういう意味よ。」
不服そうにれいこがそう言うと、彼女は嫌味な笑いをする。
「貴女の顔はこの上なく美しいけれど、心はこの上なく醜いってことよ。」
なおもクスクス笑う彼女にれいこは嫌味返しをする。
「そんな私と寝ている貴女も相当最悪だと思うけれど?大天使ガブリエル様が聞いて呆れるわね。」
「嫌だわ、そこら辺の女の子と一緒にしないで頂戴。私と貴女は寝るだけの関係であって、それ以上は何でもないのよ。馬鹿にしないでよね。」
この嫌味を言い続ける美しい女性の名は、早見ゆり。
れいこと同じく学院の女生徒の羨望の眼差しを受ける一人で通称「大天使ガブリエル様」。
とはいえ、彼女は「王子様」ではなく「お姫様」ではあったが。
「どうだか?」
そう言い返すれいこは知っている。
ゆりが誰よりもれいこの顔を好きなことを。
彼女は、れいこと同じく自分の容姿を武器にしているし、プライドも同じくらい高い。
だから、そんな真実をれいこは言うつもりはなかった。
れいこは制服を着なおすと、鏡を見てほほ笑んだ。
今日もいつ何時も美しさに陰りはない。完璧な私。
「なあに?鏡なんて見て気持ちの悪い。」
「うるさい。私出かけてくるからね。」
「もうすぐ暗くなるのに?ていうか、私を放っておく気なの!?」
なおも文句を言い続けるゆりに背を向けたまま手を振りながられいこは自室を後にした。
夕暮れの学院内をれいこは気ままに歩く。
この時間帯の風は気持ちよかったし、なにより彼女は途中で出会った女学生たちに黄色い声をかけられるのが一番気持ちよかった。
今も何人かすれ違った際に手を振ってあげると、皆、嬉しそうに挨拶をして駆けていった。
普段、れいこは女学生たちに向かってこう言っている。
私ね、みんなの笑顔を見るのが嬉しいの。みんなの笑顔を見ると私も元気になれるわ。
根も葉もない言葉に聞こえるが、これはあながち間違いではない。
彼女はみなの憧れの眼差しを含んだ笑顔を見ると、この上なく悦びに満ちてきて、恍惚とし興奮するのである。
私を見なさい。
もっと羨望の眼差しで私を見つめなさい。
もっともっと私を称えなさい。
彼女は、この学院で誰よりも歪んでいる。
全てを手に入れてきて、行きついた先がこれだ。
誰よりも美しく、誰よりも優れ、誰もが自分の言いなりになる。
そう思って疑いもしないし、この先も疑うことはない。
彼女は誰よりも卓越しているが、同時に誰よりも子供だった。
勿論、本人はそれに全く気付いてないのであるが。
自分に酔っているれいこは、心の中でクスクス笑っていた。
そんな時である。何かを感じて彼女は急に足を止めた。
どこからか歌声が聞こえる。鼻歌のような。
薔薇園の方かしら?
校舎の裏側に位置する薔薇園にれいこは吸い寄せられるように足を踏み入れた。
赤、黄色、白、桃色。薔薇の花は今、盛りを迎えて美しく咲き誇っている。
一陣の強い風が吹き、花びらが高く舞い散る。れいこはスカートを抑えながら、薔薇園の中央の芝生に目をやると、そこに一人の少女が踊っていた。
彼女は歌いながらリズムを刻み、しなやかな肢体で流れるように踊る。バレエだろうか?
風に誘われて舞い上がるようなジャンプ。花びらをすくうように優美に動く手。
その美しい動きは、体の先まで全てにおいて無駄はない。
れいこは言葉を失った。
彼女はこの薔薇の花々に比べようにもなく美しく完璧で盛りを迎えている。
そう、今まで見た子の誰よりも美しい。
でも、確か、この子は・・・。
薄暗いれいこの寮室。透き通るような声の主はれいこの耳元で囁いた。
れいこがゆっくりベッドから起き上がると、一糸まとわぬ姿で横たわる女性が見下したようにれいこを見つめていた。
絵に描いたような綺麗なアーモンド形の瞳に長い睫毛。ウエーブのかかったやわらかい長い髪。唇は熟れた果物のように艶やかで甘い。
その美しい彼女に誘われたら断れる男性などいようか、それは女性でも同じだ。
「それってどういう意味よ。」
不服そうにれいこがそう言うと、彼女は嫌味な笑いをする。
「貴女の顔はこの上なく美しいけれど、心はこの上なく醜いってことよ。」
なおもクスクス笑う彼女にれいこは嫌味返しをする。
「そんな私と寝ている貴女も相当最悪だと思うけれど?大天使ガブリエル様が聞いて呆れるわね。」
「嫌だわ、そこら辺の女の子と一緒にしないで頂戴。私と貴女は寝るだけの関係であって、それ以上は何でもないのよ。馬鹿にしないでよね。」
この嫌味を言い続ける美しい女性の名は、早見ゆり。
れいこと同じく学院の女生徒の羨望の眼差しを受ける一人で通称「大天使ガブリエル様」。
とはいえ、彼女は「王子様」ではなく「お姫様」ではあったが。
「どうだか?」
そう言い返すれいこは知っている。
ゆりが誰よりもれいこの顔を好きなことを。
彼女は、れいこと同じく自分の容姿を武器にしているし、プライドも同じくらい高い。
だから、そんな真実をれいこは言うつもりはなかった。
れいこは制服を着なおすと、鏡を見てほほ笑んだ。
今日もいつ何時も美しさに陰りはない。完璧な私。
「なあに?鏡なんて見て気持ちの悪い。」
「うるさい。私出かけてくるからね。」
「もうすぐ暗くなるのに?ていうか、私を放っておく気なの!?」
なおも文句を言い続けるゆりに背を向けたまま手を振りながられいこは自室を後にした。
夕暮れの学院内をれいこは気ままに歩く。
この時間帯の風は気持ちよかったし、なにより彼女は途中で出会った女学生たちに黄色い声をかけられるのが一番気持ちよかった。
今も何人かすれ違った際に手を振ってあげると、皆、嬉しそうに挨拶をして駆けていった。
普段、れいこは女学生たちに向かってこう言っている。
私ね、みんなの笑顔を見るのが嬉しいの。みんなの笑顔を見ると私も元気になれるわ。
根も葉もない言葉に聞こえるが、これはあながち間違いではない。
彼女はみなの憧れの眼差しを含んだ笑顔を見ると、この上なく悦びに満ちてきて、恍惚とし興奮するのである。
私を見なさい。
もっと羨望の眼差しで私を見つめなさい。
もっともっと私を称えなさい。
彼女は、この学院で誰よりも歪んでいる。
全てを手に入れてきて、行きついた先がこれだ。
誰よりも美しく、誰よりも優れ、誰もが自分の言いなりになる。
そう思って疑いもしないし、この先も疑うことはない。
彼女は誰よりも卓越しているが、同時に誰よりも子供だった。
勿論、本人はそれに全く気付いてないのであるが。
自分に酔っているれいこは、心の中でクスクス笑っていた。
そんな時である。何かを感じて彼女は急に足を止めた。
どこからか歌声が聞こえる。鼻歌のような。
薔薇園の方かしら?
校舎の裏側に位置する薔薇園にれいこは吸い寄せられるように足を踏み入れた。
赤、黄色、白、桃色。薔薇の花は今、盛りを迎えて美しく咲き誇っている。
一陣の強い風が吹き、花びらが高く舞い散る。れいこはスカートを抑えながら、薔薇園の中央の芝生に目をやると、そこに一人の少女が踊っていた。
彼女は歌いながらリズムを刻み、しなやかな肢体で流れるように踊る。バレエだろうか?
風に誘われて舞い上がるようなジャンプ。花びらをすくうように優美に動く手。
その美しい動きは、体の先まで全てにおいて無駄はない。
れいこは言葉を失った。
彼女はこの薔薇の花々に比べようにもなく美しく完璧で盛りを迎えている。
そう、今まで見た子の誰よりも美しい。
でも、確か、この子は・・・。
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