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第三話
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れいこの視線に気づいて彼女は踊るのをやめた。
「あ・・・。ミカエル・・・様?」
驚く少女は、猫のような釣り目。透けるような白い肌。背が高くてスタイルがいい。髪型はショートになってしまってはいるが。
「・・・徳島さん?」
そう呼ばれて彼女は慌てふためく。
「え?え!え!?ど、どうしてミカエル様が私の名前を!?」
「だって、憶えているわ。貴女、可愛いのだもの。」
れいこが忘れもしない少女。徳島すみれ。
入学式からずっと目で追っていた。いや。目をつけていたという方が正しいのかもしれない。
引っ込み思案でいつも陰で泣いていた子。
いつからか、笑顔が多くなっていって。男の子みたいに飛び跳ねて。いつも笑っている子。
可愛い子。
れいこはずっと目をつけていた。
だが、他に可愛い子はいたし、その子たちは自られいこに寄ってきた。不自由はしなかったわけだし、特に今はいらないかなと思ってきたのである。
でも今は違う。
この子が欲しい。
そして壊したい。
れいこには歪んだ性癖があり、欲しいもの、とりわけ美しいものを自分のものにして壊すのが好きであった。
至高の美術品を誰もが愛でるだけで壊そうとはしない。なぜなら、そんなこと怖くてできないから。しかし、自分ならできる。ほかの人は壊せないけど自分なら壊せる。
優越感に浸る甘美なる所業。
欲しいおもちゃを手に入れて、散々遊んで壊して捨てる。
彼女らしい歪な嗜好である。
れいこは、ゆっくりと徳島すみれに近づくと、彼女の肩を撫でるように触る。
可愛いと言われた上に、そのようなことをされてすみれは顔を真っ赤にして下を向いてしまった。おまけに震えている。
「徳島さん・・・。」
れいこは、最上級に優しくそして美しく彼女に微笑みかけた。きっとすみれにとってその笑顔は、女学生の憧れの的の気高き大天使様そのものにうつっていたことだろう。
それはやはり当たりで、彼女は顔を上げると目を丸くして、また慌てて下を向いてしまった。
なんて可愛いのだろう。
すみれの一挙一動、全てにれいこは興奮した。
「怖がらないで。ね、貴女の顔私に見せて?」
そう言って、すみれをのぞき込む。
彼女の長い睫毛が震えている。それを見たれいこは、いよいよぞくぞくしてきて今すぐにでも彼女の瞼にキスしたくなった。
おずおずとすみれが顔を上げようとした時、それは彼女を呼ぶ大きな声で邪魔された。
「すみれー!!」
一際大きい声で名前を呼ばれ、すみれはハッと我に返る。
「なお!!」
「もう!どこに行ったかと思ったよ!!」
すみれは、れいこの手を振りほどくと、なおと呼ばれる少女の元へと駆け寄った。
薄茶色のミドルヘア―で、切れ長の目。背はすみれよりは低いが、体型は華奢なすみれよりしっかりとしていて、いかにもスポーツタイプの少女である。
こちらも女学生たちが憧れそうな顔姿であるが、れいこの趣味ではなかった。
繊細な徳島さんと全然違う。なんだか、嫌なタイプ。
れいこがそう思いながら、その少女を見ていると、それに気づいてびくっと驚く。
「げっ!!ミカエル様!?」
げっ!!
そんな下品な驚かれ方をされて、れいこは甚だ心外である。
「すみれ!!あんた、何かしでかしたの!?」
「違うよ!私はただ踊っていただけ。その時、声をかけてくださったの・・・。」
「声をかけてくださったって・・・それが、おかしいのよ!相手はミカエル様よ!!どうしてすみれに声かけるのよ!?やっぱり何かしでかしたのね!?」
「だから何もしてないって!!」
れいこがつまらなさそうに二人の夫婦漫才のようなやり取りを見ていると、それに気づいたすみれは頭を下げた。
「ミカエル様、ごめんなさい。この子は、荒牧なおっていって・・・。」
「すみれのルームメイトです。」
れいこが聞いてもいないのに、なおという少女はすみれの前にすっと出てきてそう言った。
「・・・もう遅いし、帰ろう?すみれ。」
「あ・・・。ミカエル様・・・。私はこれで。」
「えぇ・・・。引き留めてごめんなさいね。」
帰り際、すみれはもう一度振り返りれいこに頭を下げる。
「あの・・・名前、憶えていてくださって・・・嬉しかったです。」
れいこは去っていくすみれの姿を見ながら舌で唇をなめた。
徳島さん。可愛い。すごく可愛い。
私のものにして、たくさん可愛がってあげたい。
そしてたくさん泣かしたい。
欲しい。絶対に欲しい。
れいこの顔は、この上なく悦びに満ちている。
今までにない欲望に駆り立てられていたが、それが気持ちいい。
この胸の高鳴りを抑えたくて、れいこは急いでゆりに電話をかけた。
「部屋に行ってもいい?もう一回抱いてあげるから。」
ゆりは放っておいたくせにと不機嫌そうな声で言ったが、断りはしなかった。
今夜は、ゆりを泣くまで滅茶苦茶にしてやろう。いつか、徳島さんにそうするように。
れいこの歪んだ感情の先と、それを一心に受けることになるすみれの先はここから始まる。
二人の終わりの始まり。
「あ・・・。ミカエル・・・様?」
驚く少女は、猫のような釣り目。透けるような白い肌。背が高くてスタイルがいい。髪型はショートになってしまってはいるが。
「・・・徳島さん?」
そう呼ばれて彼女は慌てふためく。
「え?え!え!?ど、どうしてミカエル様が私の名前を!?」
「だって、憶えているわ。貴女、可愛いのだもの。」
れいこが忘れもしない少女。徳島すみれ。
入学式からずっと目で追っていた。いや。目をつけていたという方が正しいのかもしれない。
引っ込み思案でいつも陰で泣いていた子。
いつからか、笑顔が多くなっていって。男の子みたいに飛び跳ねて。いつも笑っている子。
可愛い子。
れいこはずっと目をつけていた。
だが、他に可愛い子はいたし、その子たちは自られいこに寄ってきた。不自由はしなかったわけだし、特に今はいらないかなと思ってきたのである。
でも今は違う。
この子が欲しい。
そして壊したい。
れいこには歪んだ性癖があり、欲しいもの、とりわけ美しいものを自分のものにして壊すのが好きであった。
至高の美術品を誰もが愛でるだけで壊そうとはしない。なぜなら、そんなこと怖くてできないから。しかし、自分ならできる。ほかの人は壊せないけど自分なら壊せる。
優越感に浸る甘美なる所業。
欲しいおもちゃを手に入れて、散々遊んで壊して捨てる。
彼女らしい歪な嗜好である。
れいこは、ゆっくりと徳島すみれに近づくと、彼女の肩を撫でるように触る。
可愛いと言われた上に、そのようなことをされてすみれは顔を真っ赤にして下を向いてしまった。おまけに震えている。
「徳島さん・・・。」
れいこは、最上級に優しくそして美しく彼女に微笑みかけた。きっとすみれにとってその笑顔は、女学生の憧れの的の気高き大天使様そのものにうつっていたことだろう。
それはやはり当たりで、彼女は顔を上げると目を丸くして、また慌てて下を向いてしまった。
なんて可愛いのだろう。
すみれの一挙一動、全てにれいこは興奮した。
「怖がらないで。ね、貴女の顔私に見せて?」
そう言って、すみれをのぞき込む。
彼女の長い睫毛が震えている。それを見たれいこは、いよいよぞくぞくしてきて今すぐにでも彼女の瞼にキスしたくなった。
おずおずとすみれが顔を上げようとした時、それは彼女を呼ぶ大きな声で邪魔された。
「すみれー!!」
一際大きい声で名前を呼ばれ、すみれはハッと我に返る。
「なお!!」
「もう!どこに行ったかと思ったよ!!」
すみれは、れいこの手を振りほどくと、なおと呼ばれる少女の元へと駆け寄った。
薄茶色のミドルヘア―で、切れ長の目。背はすみれよりは低いが、体型は華奢なすみれよりしっかりとしていて、いかにもスポーツタイプの少女である。
こちらも女学生たちが憧れそうな顔姿であるが、れいこの趣味ではなかった。
繊細な徳島さんと全然違う。なんだか、嫌なタイプ。
れいこがそう思いながら、その少女を見ていると、それに気づいてびくっと驚く。
「げっ!!ミカエル様!?」
げっ!!
そんな下品な驚かれ方をされて、れいこは甚だ心外である。
「すみれ!!あんた、何かしでかしたの!?」
「違うよ!私はただ踊っていただけ。その時、声をかけてくださったの・・・。」
「声をかけてくださったって・・・それが、おかしいのよ!相手はミカエル様よ!!どうしてすみれに声かけるのよ!?やっぱり何かしでかしたのね!?」
「だから何もしてないって!!」
れいこがつまらなさそうに二人の夫婦漫才のようなやり取りを見ていると、それに気づいたすみれは頭を下げた。
「ミカエル様、ごめんなさい。この子は、荒牧なおっていって・・・。」
「すみれのルームメイトです。」
れいこが聞いてもいないのに、なおという少女はすみれの前にすっと出てきてそう言った。
「・・・もう遅いし、帰ろう?すみれ。」
「あ・・・。ミカエル様・・・。私はこれで。」
「えぇ・・・。引き留めてごめんなさいね。」
帰り際、すみれはもう一度振り返りれいこに頭を下げる。
「あの・・・名前、憶えていてくださって・・・嬉しかったです。」
れいこは去っていくすみれの姿を見ながら舌で唇をなめた。
徳島さん。可愛い。すごく可愛い。
私のものにして、たくさん可愛がってあげたい。
そしてたくさん泣かしたい。
欲しい。絶対に欲しい。
れいこの顔は、この上なく悦びに満ちている。
今までにない欲望に駆り立てられていたが、それが気持ちいい。
この胸の高鳴りを抑えたくて、れいこは急いでゆりに電話をかけた。
「部屋に行ってもいい?もう一回抱いてあげるから。」
ゆりは放っておいたくせにと不機嫌そうな声で言ったが、断りはしなかった。
今夜は、ゆりを泣くまで滅茶苦茶にしてやろう。いつか、徳島さんにそうするように。
れいこの歪んだ感情の先と、それを一心に受けることになるすみれの先はここから始まる。
二人の終わりの始まり。
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