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第二十話
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舐めるようにれいこがすみれを見つめていると、彼女は怯えた声で言う。
「あの・・・れいこさん、行くって何処にですか?」
「そんなの、私の部屋に決まっているじゃない。」
「部屋!?」
信じがたい言葉を聞いたすみれは、目を見開いてれいこの手を振り払った。
「そそそそ!そんな!!私が行っていい場所ではないです!!失礼に当たります。それに、こんなにびしょ濡れ・・・ご迷惑をかけるに決まっています。れいこさんのお部屋を汚してしまうに決まっています。」
びしょ濡れも、汚すのも大歓迎。
と馬鹿なことを考えながら、れいこは再びすみれの肩を抱き寄せる。
「お詫びよ。私の可愛い後輩の非礼をお詫びしたいの。私が許しているのだから、貴女は部屋に来ていいの。」
「で、でも・・・。」
すみれが困惑していると、そのまま思わずくしゃみをしてしまう。
「ほらね、風邪をひいちゃうわ。行きましょう。」
れいこの笑顔にはやはりどうも弱いすみれは、小さく頷いた。
私など行って許されるのだろうか、しかし、私は行くことを許されているだ・・・という感情が交互に押し寄せて、普段我慢が苦手なすみれは後者の気持ちが勝ってしまった。
気持ちが落ち着かないまま、そうこうしているうちにれいこの部屋の前。
一年生と二年生は相部屋だが、三年生は一人部屋を許されていた。だから遠慮はいらないわとれいこは微笑んだ。
れいこは、ドアを開ける。それはまるで禁断の楽園のようなドア。
私はそこに入ることができるのだ。
すみれは高鳴る鼓動を抑えながら、恐る恐る足を踏み入れた。
これが、れいこさんの部屋。
綺麗に片付いていて、整然としている。無駄なものは一切ない。
最小限に抑えられた日用品。洋服は勿論全てクローゼットの中にあるみたいだ。
何でもかんでも出しっぱなしでだらしないなおと、考えもなしに小物を集めてぎゅうぎゅうに押し込めているすみれの部屋とは大違いだ。
言うなれば大人の部屋。それは少し、男の人の部屋に似ているかもしれない。男の人の部屋なんてすみれは見たことはないけれど。
ただ、やはりれいこは女の子なのだと唯一思った場所は棚の中身。
綺麗なティーカップや硝子の置物がコレクションのように並べてあった。
あまり見ると失礼なので、すみれは目だけを左右動かしてあたりを見渡す。
「そんなに私の部屋は不思議?」
れいこは、笑いながら言う。じろじろ見ていたことを悟られすみれは恥ずかしくなる。はしたないことをしてしまった。
「い、いえ・・・。すみません。」
「いいの、別に。殺風景だって自分でも思うから。」
「殺風景だなんて・・・そんな。あ!れいこさんって、硝子の小物が好きなんですね。とても綺麗。」
すみれは話をそらすようにそう言った。れいこはそれを聞いて棚に近づくと、硝子細工をなぞりながら答える。
「綺麗でしょう・・・私、綺麗なものが好き。知っている?硝子ってすぐに壊れてしまうの。ゆっくりゆっくり大切に扱わないと駄目なの。結局落として壊してしまうのにね。でもね、私そういうところ大好きなの。」
「れいこさん・・・?」
「さ!すみれちゃん制服を着替えましょう。」
れいこはすみれの言葉をかき消すよう次の話題を持ちかけた。すみれはすみれで、れいこの言葉にキョトンとする。
「制服・・・ですか?誰のに?」
「そんなもの、私の制服に決まっているじゃない。他に誰の制服があるのよ。背丈は一緒だから合うとは思うのだけれど。」
「ええええええ!?だっ、駄目です!そればかりは駄目です!!私、大丈夫です!!この制服を絞って帰ります。」
「貴女、何を馬鹿なことを言っているの?そういうこと言うから荒牧さんに怒られるのよ。んー。やっぱり合いそうね。」
れいこはお構いなしに、制服をすみれに当てて一人満足そうである。
「でも濡れたまま制服を着ても意味がないわね。シャワー、浴びてきなさい。」
「へ?」
「シャワー室、分からない?そっちよ。」
「ななななな何を言っているんですか!?全く理解できません。」
「あら、やだ。こんなに狭い部屋なのに貴女、方向音痴なのね。」
れいこは、すみれの手を引っ張って奥にあるシャワー室に連れて行く。
「ここよ。シャワー室。どうぞ?入りない。」
「そんな、困ります!私!制服をお借りするだけでも失礼ですのに・・・。こんなの拭けば大丈夫です。あまりにも厚かましいです・・・こんなこと・・・。」
「あぁ、バスタオルね。そこに置いておくわ。」
「そ、そうじゃなくて・・・。」
「入りなさい。」
れいこの微笑みは無言の圧力をかけてくる。やはり、れいこの笑顔は命令染みている。すみれも逆らうことができず、渋々頷く羽目になってしまった。
「あ、あの・・・。」
「なぁに?」
「あの、せめて・・・あちらに行っていただけませんでしょうか。その、恥ずかしいので。」
いけない。つい、いつもの癖で。
れいこは慌ててすみれにバスタオルと制服を渡すと、彼女に背を向けた。
「ごめんなさい。じゃあ、ゆっくりして行って頂戴。」
「は、はい・・・。」
ついに観念してすみれはシャワー室の戸を引いたのであった。
「あの・・・れいこさん、行くって何処にですか?」
「そんなの、私の部屋に決まっているじゃない。」
「部屋!?」
信じがたい言葉を聞いたすみれは、目を見開いてれいこの手を振り払った。
「そそそそ!そんな!!私が行っていい場所ではないです!!失礼に当たります。それに、こんなにびしょ濡れ・・・ご迷惑をかけるに決まっています。れいこさんのお部屋を汚してしまうに決まっています。」
びしょ濡れも、汚すのも大歓迎。
と馬鹿なことを考えながら、れいこは再びすみれの肩を抱き寄せる。
「お詫びよ。私の可愛い後輩の非礼をお詫びしたいの。私が許しているのだから、貴女は部屋に来ていいの。」
「で、でも・・・。」
すみれが困惑していると、そのまま思わずくしゃみをしてしまう。
「ほらね、風邪をひいちゃうわ。行きましょう。」
れいこの笑顔にはやはりどうも弱いすみれは、小さく頷いた。
私など行って許されるのだろうか、しかし、私は行くことを許されているだ・・・という感情が交互に押し寄せて、普段我慢が苦手なすみれは後者の気持ちが勝ってしまった。
気持ちが落ち着かないまま、そうこうしているうちにれいこの部屋の前。
一年生と二年生は相部屋だが、三年生は一人部屋を許されていた。だから遠慮はいらないわとれいこは微笑んだ。
れいこは、ドアを開ける。それはまるで禁断の楽園のようなドア。
私はそこに入ることができるのだ。
すみれは高鳴る鼓動を抑えながら、恐る恐る足を踏み入れた。
これが、れいこさんの部屋。
綺麗に片付いていて、整然としている。無駄なものは一切ない。
最小限に抑えられた日用品。洋服は勿論全てクローゼットの中にあるみたいだ。
何でもかんでも出しっぱなしでだらしないなおと、考えもなしに小物を集めてぎゅうぎゅうに押し込めているすみれの部屋とは大違いだ。
言うなれば大人の部屋。それは少し、男の人の部屋に似ているかもしれない。男の人の部屋なんてすみれは見たことはないけれど。
ただ、やはりれいこは女の子なのだと唯一思った場所は棚の中身。
綺麗なティーカップや硝子の置物がコレクションのように並べてあった。
あまり見ると失礼なので、すみれは目だけを左右動かしてあたりを見渡す。
「そんなに私の部屋は不思議?」
れいこは、笑いながら言う。じろじろ見ていたことを悟られすみれは恥ずかしくなる。はしたないことをしてしまった。
「い、いえ・・・。すみません。」
「いいの、別に。殺風景だって自分でも思うから。」
「殺風景だなんて・・・そんな。あ!れいこさんって、硝子の小物が好きなんですね。とても綺麗。」
すみれは話をそらすようにそう言った。れいこはそれを聞いて棚に近づくと、硝子細工をなぞりながら答える。
「綺麗でしょう・・・私、綺麗なものが好き。知っている?硝子ってすぐに壊れてしまうの。ゆっくりゆっくり大切に扱わないと駄目なの。結局落として壊してしまうのにね。でもね、私そういうところ大好きなの。」
「れいこさん・・・?」
「さ!すみれちゃん制服を着替えましょう。」
れいこはすみれの言葉をかき消すよう次の話題を持ちかけた。すみれはすみれで、れいこの言葉にキョトンとする。
「制服・・・ですか?誰のに?」
「そんなもの、私の制服に決まっているじゃない。他に誰の制服があるのよ。背丈は一緒だから合うとは思うのだけれど。」
「ええええええ!?だっ、駄目です!そればかりは駄目です!!私、大丈夫です!!この制服を絞って帰ります。」
「貴女、何を馬鹿なことを言っているの?そういうこと言うから荒牧さんに怒られるのよ。んー。やっぱり合いそうね。」
れいこはお構いなしに、制服をすみれに当てて一人満足そうである。
「でも濡れたまま制服を着ても意味がないわね。シャワー、浴びてきなさい。」
「へ?」
「シャワー室、分からない?そっちよ。」
「ななななな何を言っているんですか!?全く理解できません。」
「あら、やだ。こんなに狭い部屋なのに貴女、方向音痴なのね。」
れいこは、すみれの手を引っ張って奥にあるシャワー室に連れて行く。
「ここよ。シャワー室。どうぞ?入りない。」
「そんな、困ります!私!制服をお借りするだけでも失礼ですのに・・・。こんなの拭けば大丈夫です。あまりにも厚かましいです・・・こんなこと・・・。」
「あぁ、バスタオルね。そこに置いておくわ。」
「そ、そうじゃなくて・・・。」
「入りなさい。」
れいこの微笑みは無言の圧力をかけてくる。やはり、れいこの笑顔は命令染みている。すみれも逆らうことができず、渋々頷く羽目になってしまった。
「あ、あの・・・。」
「なぁに?」
「あの、せめて・・・あちらに行っていただけませんでしょうか。その、恥ずかしいので。」
いけない。つい、いつもの癖で。
れいこは慌ててすみれにバスタオルと制服を渡すと、彼女に背を向けた。
「ごめんなさい。じゃあ、ゆっくりして行って頂戴。」
「は、はい・・・。」
ついに観念してすみれはシャワー室の戸を引いたのであった。
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