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第一幕 新しい世界
第八話
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夕食の時刻。
このアカデミーでは、18時から20時の間なら自由に食堂で食事を取れるようになっている。
ジークフリートがジャンと共に食堂に現れると、生徒達は一気にざわつきだした。
「あれが転校生の・・・。」
「ヴァルティ?」
「それにしても・・・。」
「爵位持ちか?」
生徒達は転校生というもの珍しさから、ジークフリートについての様々な憶測を次々に飛び交わせた。
さらに彼の容姿を見て、男と分かっていても誰もが息を呑み、それもまた話題の一つになっていた。
「あっちにでも座ろうか。」
ジャンはそう言うと、皆の視線を受けて萎縮するジークフリートの肩をぽんっと押す。そして二人は、たくさんの好奇の視線をかいくぐりながら席に着いたのだった。
「ははは、君があまりに美人だからみんなが驚いているぞ。」
緊張もあいまって、うかない顔色のジークフリートを尻目に、ジャンはふざけるようにして言った。
「ジャン、何を・・・。大体、僕は男・・・。」
そうジークフリートが言いかけたとき、一人の生徒が二人の前にやって来くる。
「やぁ、ジャン、彼が噂の転校生かい?」
プラチナブロンドの髪の毛にコバルトブルーの瞳。優しそうな顔立ちのその青年は、アンリ・バルザックと名乗った。
「ジャンとは去年同じクラスだったんだ。同郷ともあって今でも仲良くさせてもらっている。・・・君、名前は?」
「あ・・・僕は、ヴォルフェ・オースティン・・・。」
「狼(ヴォルフェ)?また似合わない名前だな・・・。」
「みんなもそう言うよ。」
ジークフリートが苦笑いをするとアンリも、そうだろ?と言って笑った。
「俺のことはアンリで構わないよ。俺もヴォルフェって呼んでいいかな?」
「もちろん。」
「それで、ヴォルフェはどこのクラス?」
「えっと・・・確か、Aだったと思う。」
「じゃあ、俺と同じだね!これからよろしく。」
そう言うとアンリは握手の手を差し伸べた。
ジークフリートがそれに応え、手を差し出すとアンリはにこりと笑う。
知らない人たちばかりで緊張していたジークフリートはその笑顔をみて少しほっとした。
「種族はネオで、家の爵位は伯爵。出身はマルス。転校してきたばかりで分からないことも多いだろうから、何か知りたい事とかあったら俺にきいてくれ。ジャンじゃ当てにならないだろ?」
「失礼だな。・・・まぁ、その通りだけど。・・・ということで、分からないことはアンリに聞いてくれ。オレより丁寧に教えてくれるそうだから。」
そんなことを話して笑い合っていると、ぞろぞろと他の生徒たちがジークフリートの周りに集まってきた。
美貌の転校生を前にして何となく近寄りがたい雰囲気があったので今まで誰も寄ってこなかったのだが、一人が話しかけたことによりそれはなくなり、我も我もと次々に寄って来てすぐさまジークフリートの周りに人だかりができてしまう。彼らは次々にジークフリートに質問を投げかけていく。
まるで舞踏会のようだと思いながらも、ジークフリートは彼らの質疑に応答していった。
ジークフリートたちから少し離れた席。
ジークフリートとそれに群がる人々を怪訝そうに見つめる青年がいた。
黒髪に灰色の瞳で眼鏡をかけており、眉間にしわを寄せ神経質そうな顔つきをしている。
彼の名前はウィリアム・アームストロングといい、種族はネオである。
ウィリアムの横には、アルバート・クロケットが座っていた。
ウィリアムはアルバートと親しかった。といっても、ウィリアムの方が一方的にそう思っているといった感じではあったが。
「あいつが、バートが案内したっていう転校生かい?」
ウィリアムが少し怒ったような口調で言うと、アルバートは相変わらずの表情で「ああ。」とグラスの水を飲んだ。
「あんなに騒ぎ立てて・・・馬鹿らしい。相手はヴァルティだぞ?」
「・・・セカンド、だそうだ。」
「・・・どっちにしたって同じだろう?はっ、どうせ家柄も良くないに決まっている!」
そう言うとウィリアムは、はっとしてアルバートを見た。アルバートはいたって普通に食事を続けていたが、ウィリアムは一人慌てて取り繕うようにアルバートに話しかけた。
「バ、バートは特別さ。きっと卒業したら誰よりも・・・っ!」
それを聞いてか、アルバートはフォークをカチャンと置いた。その音を聞いたウィリアムは、びくっとして恐る恐るアルバートを見たが、彼の表情はいつも通りである。
アルバートは、ため息を一つ吐くと、席を立った。
「・・・何にせよ、騒がしいのは好きじゃない。」
それを見たウィリアムは自分も慌てて食器をまとめ、立ち上がった。
「バート・・・っ!」
ウィリアムは遅れまいとしてアルバートの後ろを追う。
「さっきのことだけれど・・・あれは・・・。」
先程の失言に対してウィリアムが謝ろうとするとアルバートは立ち止まり、静かに口を開いた。
「・・・そのことはどうでもいい。気にしてはいない。だが、しつこく話題にされると不愉快だ。さっきも言ったと思うが、騒がしいのは好きじゃない。」
「・・・悪かったよ。もう何も言わない。」
反省するウィリアムにアルバートは、またため息を吐いた。
そしてそれからジークフリートとそれに群がる一派を見た。美貌の転校生を囲み、下劣な目で彼を見ては騒ぐ生徒達に嫌悪の情を抱きながらアルバートは呟く。
「“咲き誇りし花は蜂に貪られ、そして蜂はその蜜に溺れる”・・・か?」
「え?」
「・・・『花盗人』第二章。」
「・・・それが何か?」
『花盗人』とは、この世界における古典小説のひとつである。
だが、アルバートが今なぜその小説のことを言い出したのかウィリアムはさっぱりわからなかった。
また、この小説はそちらかというと内容が俗なものだったので、アルバートがそんなものを引き合いに出すなんて、と訝しそうな顔でアルバートを見た。
だがアルバートはそれ以上何も言わずに歩き出したので、ウィリアムもそれ以上は何も聞かずに彼の後を追って食堂を後にしたのだった。
このアカデミーでは、18時から20時の間なら自由に食堂で食事を取れるようになっている。
ジークフリートがジャンと共に食堂に現れると、生徒達は一気にざわつきだした。
「あれが転校生の・・・。」
「ヴァルティ?」
「それにしても・・・。」
「爵位持ちか?」
生徒達は転校生というもの珍しさから、ジークフリートについての様々な憶測を次々に飛び交わせた。
さらに彼の容姿を見て、男と分かっていても誰もが息を呑み、それもまた話題の一つになっていた。
「あっちにでも座ろうか。」
ジャンはそう言うと、皆の視線を受けて萎縮するジークフリートの肩をぽんっと押す。そして二人は、たくさんの好奇の視線をかいくぐりながら席に着いたのだった。
「ははは、君があまりに美人だからみんなが驚いているぞ。」
緊張もあいまって、うかない顔色のジークフリートを尻目に、ジャンはふざけるようにして言った。
「ジャン、何を・・・。大体、僕は男・・・。」
そうジークフリートが言いかけたとき、一人の生徒が二人の前にやって来くる。
「やぁ、ジャン、彼が噂の転校生かい?」
プラチナブロンドの髪の毛にコバルトブルーの瞳。優しそうな顔立ちのその青年は、アンリ・バルザックと名乗った。
「ジャンとは去年同じクラスだったんだ。同郷ともあって今でも仲良くさせてもらっている。・・・君、名前は?」
「あ・・・僕は、ヴォルフェ・オースティン・・・。」
「狼(ヴォルフェ)?また似合わない名前だな・・・。」
「みんなもそう言うよ。」
ジークフリートが苦笑いをするとアンリも、そうだろ?と言って笑った。
「俺のことはアンリで構わないよ。俺もヴォルフェって呼んでいいかな?」
「もちろん。」
「それで、ヴォルフェはどこのクラス?」
「えっと・・・確か、Aだったと思う。」
「じゃあ、俺と同じだね!これからよろしく。」
そう言うとアンリは握手の手を差し伸べた。
ジークフリートがそれに応え、手を差し出すとアンリはにこりと笑う。
知らない人たちばかりで緊張していたジークフリートはその笑顔をみて少しほっとした。
「種族はネオで、家の爵位は伯爵。出身はマルス。転校してきたばかりで分からないことも多いだろうから、何か知りたい事とかあったら俺にきいてくれ。ジャンじゃ当てにならないだろ?」
「失礼だな。・・・まぁ、その通りだけど。・・・ということで、分からないことはアンリに聞いてくれ。オレより丁寧に教えてくれるそうだから。」
そんなことを話して笑い合っていると、ぞろぞろと他の生徒たちがジークフリートの周りに集まってきた。
美貌の転校生を前にして何となく近寄りがたい雰囲気があったので今まで誰も寄ってこなかったのだが、一人が話しかけたことによりそれはなくなり、我も我もと次々に寄って来てすぐさまジークフリートの周りに人だかりができてしまう。彼らは次々にジークフリートに質問を投げかけていく。
まるで舞踏会のようだと思いながらも、ジークフリートは彼らの質疑に応答していった。
ジークフリートたちから少し離れた席。
ジークフリートとそれに群がる人々を怪訝そうに見つめる青年がいた。
黒髪に灰色の瞳で眼鏡をかけており、眉間にしわを寄せ神経質そうな顔つきをしている。
彼の名前はウィリアム・アームストロングといい、種族はネオである。
ウィリアムの横には、アルバート・クロケットが座っていた。
ウィリアムはアルバートと親しかった。といっても、ウィリアムの方が一方的にそう思っているといった感じではあったが。
「あいつが、バートが案内したっていう転校生かい?」
ウィリアムが少し怒ったような口調で言うと、アルバートは相変わらずの表情で「ああ。」とグラスの水を飲んだ。
「あんなに騒ぎ立てて・・・馬鹿らしい。相手はヴァルティだぞ?」
「・・・セカンド、だそうだ。」
「・・・どっちにしたって同じだろう?はっ、どうせ家柄も良くないに決まっている!」
そう言うとウィリアムは、はっとしてアルバートを見た。アルバートはいたって普通に食事を続けていたが、ウィリアムは一人慌てて取り繕うようにアルバートに話しかけた。
「バ、バートは特別さ。きっと卒業したら誰よりも・・・っ!」
それを聞いてか、アルバートはフォークをカチャンと置いた。その音を聞いたウィリアムは、びくっとして恐る恐るアルバートを見たが、彼の表情はいつも通りである。
アルバートは、ため息を一つ吐くと、席を立った。
「・・・何にせよ、騒がしいのは好きじゃない。」
それを見たウィリアムは自分も慌てて食器をまとめ、立ち上がった。
「バート・・・っ!」
ウィリアムは遅れまいとしてアルバートの後ろを追う。
「さっきのことだけれど・・・あれは・・・。」
先程の失言に対してウィリアムが謝ろうとするとアルバートは立ち止まり、静かに口を開いた。
「・・・そのことはどうでもいい。気にしてはいない。だが、しつこく話題にされると不愉快だ。さっきも言ったと思うが、騒がしいのは好きじゃない。」
「・・・悪かったよ。もう何も言わない。」
反省するウィリアムにアルバートは、またため息を吐いた。
そしてそれからジークフリートとそれに群がる一派を見た。美貌の転校生を囲み、下劣な目で彼を見ては騒ぐ生徒達に嫌悪の情を抱きながらアルバートは呟く。
「“咲き誇りし花は蜂に貪られ、そして蜂はその蜜に溺れる”・・・か?」
「え?」
「・・・『花盗人』第二章。」
「・・・それが何か?」
『花盗人』とは、この世界における古典小説のひとつである。
だが、アルバートが今なぜその小説のことを言い出したのかウィリアムはさっぱりわからなかった。
また、この小説はそちらかというと内容が俗なものだったので、アルバートがそんなものを引き合いに出すなんて、と訝しそうな顔でアルバートを見た。
だがアルバートはそれ以上何も言わずに歩き出したので、ウィリアムもそれ以上は何も聞かずに彼の後を追って食堂を後にしたのだった。
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