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3章 迷探偵エメルと名助手、ときどき竜人夫。
49話 半透明な真犯人【後編】
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「え……どうしてそんな!」
大切な恋人を共犯にしたくないから、関係がバレる前に別れる――淡々と言うシカクに、彼の肩に乗ったララミィが顔を寄せた。亜麻色のつぶらな瞳は、かすかに揺れている。
「そのエルフ、家族みたいにたいせつ……?」
シカクは深く頷き、目の光を弱めた。
カフェの新装イベントで、2人が秘密のデートをしていた時のことを今でもよく覚えている。喉が焼けるほどラブラブだった、あの光景を――。
『でも、ミス・グラニーの弟にも反対されてたし、ちょうどいい』
「ナノ、2人が付き合っていることを知っていたのですね……」
あのシスコンに知られていて、よく今まで戦争が起きなかったものだ。「姉さん」と聞けば、大抵大人しくなる彼を思い出していると。
「……ララミィ、知ってる」
静寂の中響いたのは、ララミィの声だった。
「知っている? 何をですか?」
久しぶりに聞いたイオの声には、かすかな圧がこもっていた。顔はいつも通り笑っているが、ララミィを見下ろす視線はどこか冷たい。
「……ほんとうの犯人がダレか、知ってる」
本当の犯人。
そう白状したララミィの瞳は、日の落ちかけた窓の外を見つめている。
「では……ララミィは、その誰かの居場所もご存知なのですか?」
今にも逃げ出しそうに震えるララミィを刺激しないよう、そっと問いかけると。彼女はシカクの肩から飛び降り、出口へ向かっていった。
「……来て」
まさか、真犯人のところへ案内してくれるのだろうか――急な告白に頭が追い付かないが、せっかくの手がかりを逃すわけにはいかない。
『ララミィ、ボクも……』
震えるララミィを見たシカクが、とうとう立ち上がったのだが。目の光をふっと消した彼は、突然電源が切れたように床へ崩れた。
「日が完全に落ちたのですね」
「あっ、なるほど……待っててね、シカク」
夜になり、ゴーレムはみんな休眠モードに入ったはずだ。こうなれば、イオと2人で乗り込んでいくしかない――覚悟を決めたところで、イオが「お待ちください」と立ち止まった。
「案内を受ける前に、彼女たち……そう、傭兵ノームの方々を呼び寄せてはいかがでしょうか?」
「サツキさんたちを?」
「ええ。思わぬ危険があるかもしれませんから」
いつもの笑みがない。初めて見る真剣な面持ちに、頷かざるを得なかった。
そうだ、こういう時こそ慎重にならなければ――先にギルドへ立ち寄り、シンシアの娘たちに護衛の依頼を出すことにした。
「ようやくだなぁエメル様! 腕が錆びついちまうか思ったぜ」
「相手がどの種族かは判明していないのですが、よろしくお願いします」
【スキル:擬態】をもつララミィが知る真犯人。彼女が先導して向かう先に、何となく予想はついているが――分からない。いったい彼女が、どうやって資材を盗み出したのか。
「おや、雨が降ってきましたね」
イオの声とともに思考を打ち切ったのは、頭をしっとり濡らすような雨。遺跡へ近づくごとに、雨足は強まっていく。
「雨か……コガネ、シズキ、トウカ、アカネ! 気合い入れろよ」
姉の威勢に対し、4人の妹たちは無言で頷いた。同時に私とイオを囲むと、あらゆる方向に視線を巡らせはじめる。
彼女たちの持つランプが照らす先には、糸状の雨が轟々と降り注いでいた。
「……っ、前がまったく見えなくなってきましたわね。この雨、もしかして……」
「もうちょっとだよ。そこに着いたら、ララミィはもう味方できない」
本物のブラックから犯人の特徴を聞いた時、なぜピンと来なかったのだろう。やはり真犯人は――。
「……裏切りモノ」
ぼんやり光る、虹色の結晶石がそびえる祭壇。そこに踏み入った瞬間、目の眩むような光が閃いた。
遅れて響く落雷の音に耳を塞いでいると――針のような雨が弱まり、闇の中にふたつの深淵が浮かび上がった。
「……ついに本性を現しましたわね、ゴシックガール」
向こう側が透けて見える肌に、雨雲を吐き出す青紫色の唇――真の姿を現した彼女は、結晶石の祠に腰かけ、レースのついた和風の雨傘をさしている。
元神王が、愚かにもこの豪雨でようやく気がついた。彼女たちの立つところは雨に濡れ、キノコが生える。そして身体は半透明のアンデッド――。
「貴女、レヴナント族だったのですね?」
震える指先を押さえ、深淵をまっすぐに見つめると。目を丸くしたレヴィンは、やがて嘲笑うように口角を上げた。そして子狼たちが遊んでいたような手振りで、「ヒュードロドロ」と笑い混じりに言う。
「……あーあ、もうちょいで逃げられたんだけどなぁ。スキだらけでカワイイ、『領主代理』さん?」
大切な恋人を共犯にしたくないから、関係がバレる前に別れる――淡々と言うシカクに、彼の肩に乗ったララミィが顔を寄せた。亜麻色のつぶらな瞳は、かすかに揺れている。
「そのエルフ、家族みたいにたいせつ……?」
シカクは深く頷き、目の光を弱めた。
カフェの新装イベントで、2人が秘密のデートをしていた時のことを今でもよく覚えている。喉が焼けるほどラブラブだった、あの光景を――。
『でも、ミス・グラニーの弟にも反対されてたし、ちょうどいい』
「ナノ、2人が付き合っていることを知っていたのですね……」
あのシスコンに知られていて、よく今まで戦争が起きなかったものだ。「姉さん」と聞けば、大抵大人しくなる彼を思い出していると。
「……ララミィ、知ってる」
静寂の中響いたのは、ララミィの声だった。
「知っている? 何をですか?」
久しぶりに聞いたイオの声には、かすかな圧がこもっていた。顔はいつも通り笑っているが、ララミィを見下ろす視線はどこか冷たい。
「……ほんとうの犯人がダレか、知ってる」
本当の犯人。
そう白状したララミィの瞳は、日の落ちかけた窓の外を見つめている。
「では……ララミィは、その誰かの居場所もご存知なのですか?」
今にも逃げ出しそうに震えるララミィを刺激しないよう、そっと問いかけると。彼女はシカクの肩から飛び降り、出口へ向かっていった。
「……来て」
まさか、真犯人のところへ案内してくれるのだろうか――急な告白に頭が追い付かないが、せっかくの手がかりを逃すわけにはいかない。
『ララミィ、ボクも……』
震えるララミィを見たシカクが、とうとう立ち上がったのだが。目の光をふっと消した彼は、突然電源が切れたように床へ崩れた。
「日が完全に落ちたのですね」
「あっ、なるほど……待っててね、シカク」
夜になり、ゴーレムはみんな休眠モードに入ったはずだ。こうなれば、イオと2人で乗り込んでいくしかない――覚悟を決めたところで、イオが「お待ちください」と立ち止まった。
「案内を受ける前に、彼女たち……そう、傭兵ノームの方々を呼び寄せてはいかがでしょうか?」
「サツキさんたちを?」
「ええ。思わぬ危険があるかもしれませんから」
いつもの笑みがない。初めて見る真剣な面持ちに、頷かざるを得なかった。
そうだ、こういう時こそ慎重にならなければ――先にギルドへ立ち寄り、シンシアの娘たちに護衛の依頼を出すことにした。
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「相手がどの種族かは判明していないのですが、よろしくお願いします」
【スキル:擬態】をもつララミィが知る真犯人。彼女が先導して向かう先に、何となく予想はついているが――分からない。いったい彼女が、どうやって資材を盗み出したのか。
「おや、雨が降ってきましたね」
イオの声とともに思考を打ち切ったのは、頭をしっとり濡らすような雨。遺跡へ近づくごとに、雨足は強まっていく。
「雨か……コガネ、シズキ、トウカ、アカネ! 気合い入れろよ」
姉の威勢に対し、4人の妹たちは無言で頷いた。同時に私とイオを囲むと、あらゆる方向に視線を巡らせはじめる。
彼女たちの持つランプが照らす先には、糸状の雨が轟々と降り注いでいた。
「……っ、前がまったく見えなくなってきましたわね。この雨、もしかして……」
「もうちょっとだよ。そこに着いたら、ララミィはもう味方できない」
本物のブラックから犯人の特徴を聞いた時、なぜピンと来なかったのだろう。やはり真犯人は――。
「……裏切りモノ」
ぼんやり光る、虹色の結晶石がそびえる祭壇。そこに踏み入った瞬間、目の眩むような光が閃いた。
遅れて響く落雷の音に耳を塞いでいると――針のような雨が弱まり、闇の中にふたつの深淵が浮かび上がった。
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「貴女、レヴナント族だったのですね?」
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