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【第二話 みずほ先輩は女優さんに怒られる】
【2-3】
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腰をかがめて人ごみの隙間を縫ってゆく。前列に出ると、芝生にたたずむきれいな身なりの男女が目に入った。
ふたりとも、どこかで見たことがある気がする。
突然、みずほ先輩が一オクターブ高い声をあげた。
「うわぁ、あれ、桜木淳と鈴音美沙じゃない!」
みずほ先輩の表情がぱっと弾ける。俺は名前を聞いてはじめて気づいた。
桜木淳は、最近デビューした人気急上昇中の若手俳優。
かたや鈴音美沙は、天才子役と言われて十余年のベテラン女優。
そのふたりの取り合わせだった。
「っていうことは、『エターナルメッセージ』の撮影じゃない!」
――エターナルメッセージ。
確か、次シーズンの注目ドラマで、放送前だというのに話題になっている恋愛ミステリー。
「こんな場面に出会えるなんて、すごいラッキーね!」
みずほ先輩は瞳を二倍にして俺を見上げる。
けれど俺は女優さんの表情が気になってしかたない。どうも浮かない顔をしているように思えたのだ。
「みなさん、これから撮影が始まりますので、もう少し距離を置いて下さい。それからできるだけ音を立てないようにお願いします」
数名のスタッフが観衆を制した。俺たちは指示に従いほかの観客と一緒に後ずさりする。
ふたたび目を向けると、女優の鈴音さんがスタッフを手招きしていた。若いスタッフがあわてて駆け寄る。
すると鈴音さんがスタッフに向かってまくしたてるように話し始める。スタッフは頭を下げる。何度も下げたが、鈴音さんの口の動きはいっこうに止まらない。
何かと思い俺は耳をすまして声を拾う。自慢の地獄耳の発動だ。
「だから、どうしてこの私が現場にいるのに、エキストラが遅刻してるのよ!」
「誠にすみません、人身事故で電車が遅れているようでして……。連絡はついたんですが、いつ着くかは……」
「まったく、私のスケジュールの過密さ、わかってるでしょ? エキストラなんて別にいらないから早く始めて!」
「すみません、監督が場の雰囲気を作るためにエキストラは絶対、必要だって言うので……」
鈴音さんは不機嫌な顔でベンチに腰を下ろす。桜木さんも隣に座った。
すると鈴音さんはハンドバッグをふたりの間にどかっと置いて足を組んだ。
桜木さんはその様子を一瞥したが、表情を変えることはなかった。
「だいたい私、こんな新参者の俳優と組みたくなんかなかったんだから!」
指先だけ隣に向けて、そう言い放った。横柄な態度で目に余る。
俳優の桜木さんは何も言わずやり過ごしたが、スタッフはその態度にたじたじだ。
そこでひとりの男が間に入る。先ほど遭遇した、怪しい雰囲気のおじさんだった。
おじさんは両手を合わせ、低く響く声で鈴音さんを説得する。
「まあまあ鈴音さん、いたらない点は俺がどうにかしますから、ここはひとつ、俺の顔に免じてこらえてもらえませんか」
「そうですか、監督がそうおっしゃるなら、少しは我慢しますけど」
やり取りを聞いて、みずほ先輩と俺は顔を見合わせた。
「みずほ先輩、あのひと実は監督さんみたいっすね」
「やっぱり。クリエイターのひとって、なんか独特の雰囲気があるよね」
「あれ? 思いっきり怪しい男だと思ってましたよね?」
「そっ、そんなことないわよ、思い違いがはなはだしいわ!」
みずほ先輩はぷいっとそっぽを向いた。俺は深入りせず視線を撮影現場に戻す。
監督と目が合った。俺たちに気づいたらしい。
突然、右腕を上げてこちらを指さし、一直線に歩み寄ってきた。
「いたいた! そこのきみと隣の彼女ォ!」
「おっ、俺たちっすか⁉」
「そうそう、そこのお似合いのおふたりさん。頼みがあるんだけどさぁ」
「なになに、かつき君」
「もっ、もしや……」
驚く俺たちに向かい、監督はぎらぎらした笑顔でこう告げた。
「ちょっとだけカップルの役やってくれない? きみらなら地で行けばいいからさ」
「「ええ~っ!」」
ふたりとも、どこかで見たことがある気がする。
突然、みずほ先輩が一オクターブ高い声をあげた。
「うわぁ、あれ、桜木淳と鈴音美沙じゃない!」
みずほ先輩の表情がぱっと弾ける。俺は名前を聞いてはじめて気づいた。
桜木淳は、最近デビューした人気急上昇中の若手俳優。
かたや鈴音美沙は、天才子役と言われて十余年のベテラン女優。
そのふたりの取り合わせだった。
「っていうことは、『エターナルメッセージ』の撮影じゃない!」
――エターナルメッセージ。
確か、次シーズンの注目ドラマで、放送前だというのに話題になっている恋愛ミステリー。
「こんな場面に出会えるなんて、すごいラッキーね!」
みずほ先輩は瞳を二倍にして俺を見上げる。
けれど俺は女優さんの表情が気になってしかたない。どうも浮かない顔をしているように思えたのだ。
「みなさん、これから撮影が始まりますので、もう少し距離を置いて下さい。それからできるだけ音を立てないようにお願いします」
数名のスタッフが観衆を制した。俺たちは指示に従いほかの観客と一緒に後ずさりする。
ふたたび目を向けると、女優の鈴音さんがスタッフを手招きしていた。若いスタッフがあわてて駆け寄る。
すると鈴音さんがスタッフに向かってまくしたてるように話し始める。スタッフは頭を下げる。何度も下げたが、鈴音さんの口の動きはいっこうに止まらない。
何かと思い俺は耳をすまして声を拾う。自慢の地獄耳の発動だ。
「だから、どうしてこの私が現場にいるのに、エキストラが遅刻してるのよ!」
「誠にすみません、人身事故で電車が遅れているようでして……。連絡はついたんですが、いつ着くかは……」
「まったく、私のスケジュールの過密さ、わかってるでしょ? エキストラなんて別にいらないから早く始めて!」
「すみません、監督が場の雰囲気を作るためにエキストラは絶対、必要だって言うので……」
鈴音さんは不機嫌な顔でベンチに腰を下ろす。桜木さんも隣に座った。
すると鈴音さんはハンドバッグをふたりの間にどかっと置いて足を組んだ。
桜木さんはその様子を一瞥したが、表情を変えることはなかった。
「だいたい私、こんな新参者の俳優と組みたくなんかなかったんだから!」
指先だけ隣に向けて、そう言い放った。横柄な態度で目に余る。
俳優の桜木さんは何も言わずやり過ごしたが、スタッフはその態度にたじたじだ。
そこでひとりの男が間に入る。先ほど遭遇した、怪しい雰囲気のおじさんだった。
おじさんは両手を合わせ、低く響く声で鈴音さんを説得する。
「まあまあ鈴音さん、いたらない点は俺がどうにかしますから、ここはひとつ、俺の顔に免じてこらえてもらえませんか」
「そうですか、監督がそうおっしゃるなら、少しは我慢しますけど」
やり取りを聞いて、みずほ先輩と俺は顔を見合わせた。
「みずほ先輩、あのひと実は監督さんみたいっすね」
「やっぱり。クリエイターのひとって、なんか独特の雰囲気があるよね」
「あれ? 思いっきり怪しい男だと思ってましたよね?」
「そっ、そんなことないわよ、思い違いがはなはだしいわ!」
みずほ先輩はぷいっとそっぽを向いた。俺は深入りせず視線を撮影現場に戻す。
監督と目が合った。俺たちに気づいたらしい。
突然、右腕を上げてこちらを指さし、一直線に歩み寄ってきた。
「いたいた! そこのきみと隣の彼女ォ!」
「おっ、俺たちっすか⁉」
「そうそう、そこのお似合いのおふたりさん。頼みがあるんだけどさぁ」
「なになに、かつき君」
「もっ、もしや……」
驚く俺たちに向かい、監督はぎらぎらした笑顔でこう告げた。
「ちょっとだけカップルの役やってくれない? きみらなら地で行けばいいからさ」
「「ええ~っ!」」
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