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【第六話 みずほ先輩と学園祭に輝く七つの星】

【6-1】

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 みずほ先輩が生徒会長に就任して数日後、さっそく大きな問題が勃発した。

「ちわー……って、いったい何事っすか?」

 放課後の生徒会室を訪れると、中央の机には険しい顔の学生が七人。みずほ先輩を囲んで睨みつけていた。

「生徒会長、こんなのおかしいだろ! 俺ら全員、別々の部活だが意見は一致してるんだ!」
「なんで俺らは今年も屋外でやれないんだ! いいかげん、少しは配慮したらどうなんだ!」
「いくら少人数の部活だからって、ここまで邪険に扱っていいと思っているのか⁉」
「ちょっ、ちょっと冷静になってください! 邪険に扱うなんてつもりは全然ありません。それにわたしも詳しい経緯を知らなくて……」
「経緯は問題じゃない。今年こそはどうにかしてくれよ、新生徒会長さん!」

 断片的な会話から察するに、七つの部活の代表者が結託して押し寄せたらしい。

 しかも相手は三年生たちのようだ。生徒会長を引き継いだタイミングで、下級生であるみずほ先輩に不満をぶつけにきたに違いない。

 しかし、いったい何のクレームだろうか?

「だいたい、去年は宇和野に煙に巻かれたけど、今年は絶対に引かないからな!」
「せっかくの学園祭だってのに、屋内の会場じゃ、誰も見に来ないんだよ!」
「去年、舞台でイベントをやれた部活には遠慮してもらってくれないか!」
「で、でも、わたしの一存では決められません。実行委員と相談してみないと……」

 なるほど、学園祭の舞台取りの問題か。彼らはいわゆる舞台からあぶれた残念な部活の代表たちということか。

 言い分はわかるが、すべての部活が舞台を使えるわけではないからしかたないじゃないか。

 けれどみずほ先輩は多勢に無勢で、詰め寄られおろおろとするばかり。

「「「すぐにどうにかしてください!」」」
「はっ、はいっ、努力します!」

 引き継ぎ早々、いきなり重荷を背負わされたみたいだ。こんなとき、俺は下僕としてみずほ先輩の盾にならなくちゃいけない。

 誰が相手だろうが、俺はどうせ底辺の存在なのだ。ちょっとやそっとじゃへこたれない、踏まれてこその雑草だ。

 気持ちを引き締め、割り込んで先輩たちの前に立ちはだかる。

「先輩方、その問題は俺たち生徒会に任せてください!」
「なんだ、こいつ」

 冷たい視線が俺を突き刺す。けれどひるんではいられない。

「先輩方のご要望は、みずほ先輩がしっかりと聞き入れましたから、生徒会が一丸となって必ず解決します!」
「ああ、ほんとうなのか⁉ えーと……」
「黒澤克樹といいます、これでも生徒会員っす!」
「言ったな、じゃあ、生徒会の公式コメントとしての約束だぞ!」
「わかりました、最大のパフォーマンスでご要望にお答えしまーっす!」
「その言葉、撤回はできないからな!」
「もちろん、男に二言はありません!」
「じゃあ、一週間後に返事を聞かせてもらうからな。そのときには納得できる答えを準備しておくように」


 張り詰めた空気の中、三年生たちが立ち上がり、きびすを返す。不機嫌な表情のまま、ぞろぞろと縦列で生徒会室を後にした。

 足音が遠ざかり、静寂が戻ってきたところで、みずほ先輩は机の上に突っ伏した。

「はぁぁ……」
「みずほ先輩、やっぱり生徒会長って大変なんすね」

 言いながら隣の椅子に腰掛ける。

「うん。いきなり押し寄せて来られたから、どうしていいかわからなくてさ。でもかつき君、三年生に向かって勇気あるね。助かったよ」
「聞いていて事情は呑み込めました。とりあえず危機は脱出できてよかったっす」

 みずほ先輩は片方の頬をぺったりと机につけたまま俺を見上げて尋ねる。

「でも、かつき君、どうやって解決するつもりなの? きみのアイディア、教えてくれるかな」
「あっ、いや、その……」

 俺に向けられる期待のまなざし。けれど当然ながら、瞬時に解決策など浮かぶわけがない。

 しかたないと思い、俺は正々堂々と答える。

「アイディアはこれから降る予定です!」
「これからっ⁉」
「はい、ですからまずは雨乞いみたいなことから始めます!」
「あうーっ、やっぱりそうかー!」

 俺の提案に、みずほ先輩は奇妙な声をあげて机から滑り落ちた。

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