リア充するにもほどがある!? 生徒会から始まる、みずほ先輩の下僕ライフ365日

秋月 一成

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【第七話 みずほ先輩と美術部の不思議な絵】

【7-7】

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 村本先輩と鮎川先輩は、同じ大学に受かったら恋人になろうと心に決めていた。約束を交わしたわけではなかったが、そんな暗黙の了解があったらしい。

 だからに気づいていた鮎川先輩は、せめてもの思い出にと、絵の中で村本先輩の隣に結奈の席を用意した。それが、結奈が一年生でありながら村本先輩の隣に描かれた理由だった。

 けれど鮎川先輩だけが東京の大学に合格し、離れ離れの運命となってしまった。

 だから鮎川先輩は自分の絵を消し、新しく村本先輩の絵を描くことでこう伝えようとしていた。「これからはわたしではなく、結奈ちゃんを見てあげて」と。

「……結奈ちゃんは、村本君のそばにいてあげられるひとだから」

 鮎川先輩は、ぽつりとさみしそうにつぶやいた。

 皆の視線が結奈に集まる。結奈は肩を震わせ、うつむいたままでいた。沈黙が生徒会室を支配する。

 村本先輩がそっと結奈に声をかける。

「俺――」

 すると突然、結奈は意を決したように腰を上げた。村本先輩の前に立ちはだかり叫ぶ。

「村本先輩、大学にいっかい落ちたくらいで大切なひととお別れできるなんて、あたしには信じられません! そんないくじなしで薄情なひと、あたしがあこがれた村本先輩なんかじゃありません!」

 村本先輩はぽかんと口を開けている。結奈はさらに鮎川先輩をびしっと指さした。

「鮎川先輩、ふたりが描き換えた絵、お互いの気持ちがだだもれでしたよ! ふたりともこんなに想いあっているんですから、村本先輩がお情けで付き合ってくれても、鮎川先輩のことをひきずるに決まってます!」

 鮎川先輩も言葉を失っていた。

 結奈は目に涙をため、ふたりに向かって声を張りあげる。

「先輩たちは一期一会の両想いで、くそまじめなふたりですから、絶対、絶対、ぜーったい浮気なんかしないで遠距離恋愛できますよ! それに世界はぐるぐる回ってるんですから、大学の四年間なんてあーっというまで、その先には新しい未来があるんですよ!」

 思いのたけを吐き出した結奈は息を切らしている。そして振り向き、強がりのブイサインを俺に突き出してみせた。

 その顔はまるで雨上がりのまぶしさを宿しているようだった。

 そう、最後の描き換えは、自ら身を引いてふたりの幸せを願う結奈の、渾身の仕業メッセージに違いなかったのだ。



「瑞穂先輩、黒澤君、これからよろしくおねがいしまーす!」
「結奈ちゃん、いらっしゃーい」
「おお、待ってたぞ」

 盛大に幕を閉じた卒業式の後、結奈は生徒会室にあいさつに来た。今日は制服を纏っていた。

 実は俺が結奈に電話をかけたとき、結奈はまさに自分の絵を消している最中だったのだ。

 結奈はスマホのコール音に驚いて手が滑り、パレットを床に落としてしまったのだ。しかも落ちる瞬間、受け止めようとして制服にべったりと絵の具をつけたという始末。

 でも、クリーニングが間に合い、制服姿で卒業式に出られたのは不幸中の幸いだった。

「結奈には新学期、勧誘を頑張ってもらうからな」
「うん、まかせといて!」
「しっかし、あのときは凛々しかったよ。愛のキューピッドじゃん」
「まあねぇ~」

 どうやら村本先輩への未練は吹っ切れたようで安堵した。

 あの後、おふたりはその場で遠距離恋愛の約束をさせられ、結奈はそれを見て大泣きした。俺はその後、結奈の慰め役となった。

 絵は三人の手によってめでたくもとの姿に戻された。

「でも、黒澤君ってひとを見る目があるんだね。ちょっとカッコイイなって思っちゃった」
「そんなことないよ。俺なんて、揚げ物で言えばエビの尻尾の先っちょ程度の存在さ」

 実は、真相を解明できたのはみずほ先輩の推理のおかげなのだ。宇和野先輩の洞察はすべて、みずほ先輩の入れ知恵だったと後で知って驚いた。

「恋を知る瑞穂だからこそ、ひそかな想いを理解できたのだろうな」、と宇和野先輩は語っていた。

 いや待てよ? そのときは聞き流したが、だとするとみずほ先輩は誰かに恋心を……?

 疑問を抱くと同時に、結奈が人懐こく腕に絡みついてきた。

「ねえねえ、失恋祝いに甘いタピオカミルクティー飲みたい~」
「よっしゃ、今回だけは俺がおごってやるぞ」
「やった、ふたりで学校帰りにタピタピィ~♪」
「ちょ、ちょっ……それはだめっ、ぜったい!」

 突然、みずほ先輩が絶叫して割り込んだ。俺と結奈はふたりして驚き飛び上がる。

「「なんでタピオカがダメなんですかっ!!」」
「そうじゃない、この鈍感バカイケメン男が! こうなったら今日はとことんお説教よ!」

 みずほ先輩はまたしても顔を紅潮させ、俺に向かって声を張りあげた。

 ああ、このひとは怒りを買うと、当面おさまりがつかなくなりそうだ。

 そのとき、俺は嵐に呑まれる裏山の椎茸の気持ちが理解できた気がした。

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