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【最終話 みずほ先輩の華麗なる誘導尋問】

【8-6】

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「そうか! この問題の答えは――みずほ先輩です! みずほ先輩なら、正解を引き当てられます! 俺はみずほ先輩を選びます!」

 怒り顔だったみずほ先輩が目を丸くして驚きをあらわにする。

「かつき君、それ……ファイナルアンサー?」
「はい、ファイナルアンサーです!」
「でも、ちゃんと理由を述べられないと、正解とは言えないわ!」

 俺は消去法でみずほ先輩を選んだわけじゃない。なぜなら、この問題は確率論ではないからだ。

「いいですか。俺とみずほ先輩の焼き印の種類は違うから、青葉さんは正解を答えられなかった。けれど、みずほ先輩は青葉さんが答えられないので、その事実に気づき、自分の焼き印は俺のとは違うと確信を持ったんです。つまり、唯一見えている俺の焼き印と逆の焼き印を選べば正解を引き当てられるんです!」

 みずほ先輩の表情は花が咲いたように鮮やかに染まる。

「そう、正解! さすがわたしが見込んだ男、かつき君ね!」
「あざーす。みずほ先輩に褒められて光栄っす!」
「男は顔がいいだけじゃなんにもならないからね。ちょっと安心したよ――」

 あの暗雲の表情はきれいに消え去り、ご機嫌が回復していた。よし、なんとか生き延びたぞ。これで無事、生徒会室を出られる!

 だが、みずほ先輩の出題の意図はいったい何だったのだろうか。

「しっかし、変な問題出す鬼もいたもんですね。その鬼、何ていうんすか」

 問いかけるとみずほ先輩は上目遣いで俺を見て歩み寄ってきた。

 両手を俺の肩にかけ、耳元に桃色の唇を近づける。吐息のような声でささやく。

「いい? その鬼はねぇ――『浮鬼うわき』っていうのよ」
「は……? うわ鬼……?」
「でももう、は覆えせないからね。今からほかの子を選んだりなんてしないよね!?」
「はぁ?」

 ――ファイナルアンサーとはどういうことか。

 そう考えた瞬間、みずほ先輩の意図することがはっきりと読み取れてしまった。

 背筋に冷たいものが走る。

 ――まさか、まさかっ!

 けれど、みずほ先輩の支離滅裂な言動は、けっして支離滅裂ではなかった。一貫性があるのだ。

 おっかなびっくり確かめる。

「あの……ひとつ聞いていいっすか。俺って、みずほ先輩の何なんすか?」

 その瞬間、俺の頭が勢いよく叩かれた。みずほ先輩は怒りを忘れ、恥ずかしそうな顔をして答える。

「やだ、かつき君。いまさら何いってるのよー」

 頬を緩ませたみずほ先輩の答え。

 それは――。

「きみはわたしの、か・れ・し、でしょ?」
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 聞いた俺は隕石が衝突したほどの衝撃を受け、心臓が喉から飛び出し月まで飛んでいきそうになった。
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