フルーツサンド 2人の女の子に恋をした。だから、挟まりたい。

Raychell

文字の大きさ
25 / 44

プール

しおりを挟む
「あんたらね。今度またアタシの家でいちゃついたら、まとめて追い出すからね!」
 風呂上がり、俺とらいちは和室に正座をさせられて、ドラゴンさんからお説教を受けている。納得いかないが、彼にとって我々は共犯だ。
「あとねぇ! 若いのに運動もしないでグダグダしてんのが心と体に悪いのよ。良い? 明日、お店も休みだし、あんたら私とプールよ!」
 ん? なんだか変な方向に話が行ってますよ。ドラゴンさん。
「はい! 水着ないでーす」
 らいちが挙手した。確かにプールで遊ぶような水着は俺も持っていないので、彼女に続いて手を挙げた。
「買ってあげるわよ、二人分!」
 ドラゴンさんが勢いで怒鳴る。
「わーい! ドラゴンさんありがとー!」
「わーいじゃないわよ。このエロ雌狐」
「おにーちゃーん! ドラゴンさんがいじめるー」
「仕方ないだろ」
 ドラゴンさんのお説教タイムで、らいちに付き合えない理由を説明する案件がうやむやになった。うまく説明できる気がしなかったので、内心ほっとしている。その夜はらいちがやってこないか心配で、ドラゴンさんの部屋に寝袋を持ち込んで就寝した。

「うわーん! ドラゴンさーん! 水着がダサいよお!」
「ドラゴンさーん! こっちはピッチピチだよお!」
「うるっさいわね! プールでガンガン泳ぐ水着よ! ここはね、おしゃれプールじゃなくて、市民プールなの。健康づくりを目的に建設された場所なの。スイムキャップにきっちり髪の毛しまいなさいよ! おら、ゴーグル!」
 らいちは可愛く出した前髪と後れ毛をスイムキャップに仕舞われ、俺はゴークルを装着された。市民プールはウォータースライダーや流れるプール、そして小さめの25メートルプールがあり、エンジョイ勢からガチ勢まで楽しめる、なかなかの施設だった。
「先生! 私泳げないので浮き輪を借りてきま……」
「今日、泳げるようになりましょうね」
 飽くまで楽をしようとするらいちに対し、言い終わる前に回答するドラゴンさんは、
「らいちちゃん。私、スパルタだけど教えるの上手なの。安心なさい」
 とにっこり笑った。
「うええ……」
「あからさまに嫌がらないで。おら、こっちきなさい」
「きょーちゃーん! 一緒にぷかぷかしよぉー」
 ドラゴンさんに背中を押され、俺から引き剥がされつつらいちが助けを求める。
「俺は、ガチで泳ぐので失礼」
 特にそんなつもりはなかったが、彼女と離れるために適当な理由を作った。言ったからにはやらざるを得ないので、25メートルプールで泳ぐことにした。
 水泳なんて中学生以来だった。……まじか。もうちょっと海とかプールとかで遊んでおけばよかったかも。高校の時なんて、そうだ、彼女たちと出会った時、川で遊んだくらいだ。そんなことを考えながら、体を浮かせて、水を掻く。思い切り全身を動かす事が楽しく、気がつけば無心で泳ぎ続けていた。
 何周か泳いで、流れるプールの中心にあるジャグジーで休憩をしていると、スパルタ水泳教室をしているはずのドラゴンさんとらいちが、それぞれ巨大な浮き輪に乗って周りを流れているのが見えた。
「……泳げるようになったのかよ?」
 独り言で彼らを見送る。

「なぁにニヤニヤしてんのぉ?」
 気がついたららいちがジャグジーに入ってきた。俺は全身を動かした疲労感と、ジャグジーの心地よさで、顔の筋肉がすっかり緩んでいたようだ。
「あれ? ドラゴンさんは?」
「疲れちゃったから着替えて休憩室で寝てるって、疲れるの早くない? はぁーよいしょっと」
 わざと年寄り臭い掛け声で腰掛ける。フィットネス用の可愛さなんて皆無の水着姿だが、体のラインがピッタリ出るので、ジャグジーの泡で水中が見えなくなるのがありがたかった。
「らいちは泳げるようになったの?」
「全然。だから諦めて浮き輪で遊んでた」
「へぇ……」
「で、なんで私と付き合えないの?」
 きた。豪速球。
「あー……なんていうか、らいちは俺にとって家族みたいな感じ? 親愛、みたいな。だからわざわざ『お兄ちゃん』も名乗ってるわけだし」
「え? ……そーゆーフェチじゃないの?」
「なんでそう、真っ先に性癖と捉えるんだよ。真っ当に線引きしてんだよ」
「家族なら妹じゃなくて奥さんでも良いってこと? じゃあ奥さんにしてよ」
 らいちと結婚。全く想像していなかったし、するつもりもない。
「ごめんなさい」
「なんでよ! 良いじゃん」
「なんだろう……なんか、公平じゃない? っていうか……」
「公平?」
 らいちが明るい様子で笑いながら話をするから、こちらも気が楽だった。
「言葉を選ばないと、らいちを人間として見れないっていうか」
「なにそれ……ふふっ変なの。何に見えてるの?」
「手のかかる妹?」
「妹って人間じゃないの?」
「そこね! 人間なんだけど、なんだろ……うまく言えないんだよな……」
「わかんない。何それ」
 彼女は不自然なタイミングで、ジャグジーに頭までもぐった。顔を出したとき、すでに目元と鼻の頭が赤くなっていて、泣いているのが解った。
「らいちごめんね。大事な話だから続けてもいい?」
「聞きたくない」
「ごめんね。聞いて」
「……」
 らいちは返事をしなかった。でも、その場から離れる様子もなかったので続けることにした。
「昨日みたいに襲われたら、俺安心して暮らすことができないから、家を出ないといけなくなる。だからもうやめてほしい」
「……私が出ていけばいい?」
「いや、襲ってこなければこのままで大丈夫」
「襲うって人聞き悪いなぁ……告白してキスしただけなのに」
「でも俺ね、昨日怖くてドラゴンさんの部屋で寝た」
「ひどいなぁ……みんなこーゆーのやるじゃん……好きって言って、手を出してって……」
 らいちがボソボソと呟いた。
「きょーちゃんは、怖いとか嫌だとか言えていいよね。言っても怖くないでしょ? 私なんかに嫌われても」
「嫌なことは嫌って言ったらいいし、そんなことで嫌う?」
「……嫌わなくても、気分はよくないっていうか……気持ちを逆撫でされると怒る人っていっぱいいるんだよ。男の人とか、特に家の中で女の子と二人きりだと……そうなるよ」
 俺とらいちの話のつもりが、知らない誰かの話にすり替わっていた。でも、らいちは声を震わせて、一生懸命に言葉を絞り出している。彼女が話したいならこのまま聞こうと思った。

「男? 全部がそんなんじゃないだろ?」
「大体そうだったよ」
「それは、らいちの男を見る目がないだけでは?」
「ちゃんと優しい人を選んでもだよ?」
「優しくないだろ。それ」
「ほんとは優しくない。なんて、わかんないよ」
「まあ、難しいか」
「うん」
 らいちがどんな気持ちなのか、俺にはわからないけれど、彼女の顔は悔しそうに見えた。
「らいち。俺はね、自分に優しい人より、自分が優しくしたい人が好きな人だと思う」
「じゃあ私は、きょーちゃんに優しくしたい」
「じゃあ優しく言うこと聞いてよ」
「いやです。優しくするから大丈夫だよ。怖くないよ」
 意味を微妙にすり替えて、らいちが含み笑いをした。
 優しさってなんだろう? よくわからなくなってきた。

 いつの間にか会話はくだらない問答になっていて、らいちの泣き顔も笑顔になっていた。それを確認して、一緒にプールから上がった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

ツルギの剣

Narrative Works
青春
 室戸岬沖に建設された海上研究都市、深水島。  舞台はそこに立つ女子校、深水女子高等学校から始まる。  ある日、深水女子高等学校の野球部に超野球少女が入部した。  『阿倍野真希』と呼ばれる少女は、ささいなことから本を抱えた少女と野球勝負をすることになった。  勝負は真希が勝つものと思われていたが、勝利したのは本の少女。  名前を『深水剣』と言った。  そして深水剣もまた、超野球少女だった。  少女が血と汗を流して戦う、超能力野球バトル百合小説、開幕。 ※この作品は複数のサイトにて投稿しています。

処理中です...