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2.交尾
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次の週。
俺はドキドキしながら約束の浜辺へ向かっていた。気分が高揚するのも無理はない。この一週間エドに逢いたくて堪らなくて、俺は非常に辛い思いをしたのだから。そのせいか大好きな研究を進めても、どこか上の空で――いや、研究の内容的には、人間であるエドと触れ合ったため、かなりの質になっているのだが。それでも、心ここに在らずという雰囲気は否めない。
俺の変化にいち早く気づいたのは、妹姫のナルネルだった。俺とナルネルは本当に仲がいい兄妹で、しかし、そのナルネルにもエドの件を伝えてはいない。人魚と人間が愛し合うなど禁忌中の禁忌だから、そんな事をナルネルに伝えて悪影響でもあったら、と慎重にならざるを得ないのだ。
そんなナルネルの他にも、俺の異変に気づいた人魚はいる。まずは騎士のロージオ。時おり探りを入れて来たので少々気を遣った。次に研究仲間のドロイ。こちらは俺に付着したエドの匂いを感じ取って、という理由だから厄介だ。
このドロイは、身分がそこそこあるのに完全なる変わり者で、来る日の為に攻撃用兵器を作ったりしている。「いつ来るのだ、そんな日は」と何度も言ったが、それでもめげずに続けていた。
ドロイに関しては、他にも色々な噂がある。表に出せない怪しい事を幾つもしているようなのだ。それでエドの匂いが露見したのかもしれない。
そんな事を考えている間に浜辺へ着く。時間帯を約束していなかったので朝一番に来てしまった。見渡す浜辺には、残念ながら誰も居ない。だが、風景は先週と少し様子が違い――波打ち際近くに、色味が違う土や乾燥したような草、木を切ったようなもの、オレンジ色の石などがうず高く積まれていた。これはエドが言っていた別荘の準備に違いない。つまり、エドは約束をきちんと守ってくれている。だったら、このまま待てば、きっと来てくれるだろう。俺はゆらゆらと波に身体を任せながらエドを待った。
エドが現れたのは、それから一時間後の事だ。聞き覚えの無い足音がしたので、すぐに判った。見ればエドは、ずいぶん大きな黒い生き物に乗っている。俺が水中から手を振ると、エドは笑顔で生き物ごと近づいてきた。
「エドは何に乗っているんだ?」
「馬だよ、速いから便利なんだ」
「馬というのか、美しいし利口そうだな」
俺は褒めたけれど、馬にそれが通じたかどうか。馬は少し嘶いてからこちらを見つめていた。なので馬の視線を感じつつ、波打ち際に移動してみる。すると意外にも馬は首を下ろし、俺の頬に何度もキスした。
「おい、馬よ……く、くすぐったいぞ」
「あはは、こいつ――アルテイルもトニーの事が気に入ったみたいだ」
「そ、そうなのか?」
「うん、間違いないよ。僕の事はたまに噛むのに……でも、これ以上のキスはダメ! トニーは僕の!」
エドがアルテイルから降り、立ててあった材木に馬の綱を縛った。よくよく見れば、馬を繋ぐ為に、簡単な屋根や餌らしき草も用意されている。
エドはそれらをチェックしてから俺の傍まで戻って来て、いきなりぎゅっと抱きついてきた。
「久し振り……逢いたかったよトニー!」
「お、俺も逢いたかった。それと、別荘の準備にも感謝する」
「うん、地面が砂だから少し時間は掛かるけど、絶対に完成させるから待ってて」
「ああ、信じている」
ただでさえ至近のエドの顔が、もっと近づいてくる。俺たちは一週間ぶりの口づけで、お互いを確かめた。
「……トニー、来てくれてありがとう」
「それはこちらの台詞だな」
「嬉しいよ」
エドは何度も口づけを続ける。それは最初こそ優しい調子だったものの、あっという間に激しくなった。まるで食べられてしまいそうだ。
「……は、エド、すごいな……!」
「そりゃそうだよ! 愛してるんだ! ……ところで、発情期ってまだ?」
「人魚の発情期は、春に水が温かくなって来た頃だ」
「えっ……? 今って夏だよね?」
エドは、ひーふーみーと指を折って数えている。それから少し呆け、もう一回数え直して――最終的には瞳を丸くした。
「あ、あと半年以上は無いって事!?」
「そうなるな」
「えーっ!?」
エドはガッカリしたようだ。俺は嫌われたかと気が気でない。
「す、すまんエドよ。俺が人魚のせいで……」
「ううん、いいんだ。ただ、早く君を僕で埋めたくて……それだけなんだよ」
埋める。このニュアンスでは初めて聞く言葉だ。そういえばエドは、人間には色々な繋がり方があると言っていた。だからエドに尋ねてみる。
「エド、埋めるとは、どういう繋がり方なんだ?」
「あ、ええと……僕の生殖器を君に挿れる事だよ」
「この間、俺の口の中に挿れていたよな?」
「僕は欲張りだから、他の場所も味わいたいんだ。例えば、あの……あくまで人間の男性同士の場合なんだけど――」
エドは言い辛そうに説明してくれた。それによれば、排泄器官を使って愛し合うらしい。
「何だ、それならそうと言ってくれれば。俺にだってその器官は付いているぞ?」
「で、でも! 同時に生殖器も弄って、一緒に気持ち良くなりたいんだよ! だって、その器官を使うと、い、痛むらしいから……」
「……エド、お前」
エドは赤面している。きっと正直な気持ちを言ってくれたのだ。俺はエドの思いやりを感じ、とても嬉しかった。だったら多少の痛みなど――俺はそう思い、エドを岩場の影に誘う。ここは女性型が真夜中の合唱に利用している場所で、割と居心地がいい。ちょっとした洞窟にも繋がっている。
「へぇ、こんなトコがあったんだ」
「涼しくていいだろう?」
「そうだね、陽があまり射さないから、君の鱗も元気そうだ」
人魚は身体の維持に湿り気が必要だ。でもエドの言う通り、ここでなら多少の活動が出来る。だからわざわざ、この岩場を選んだのだ。
俺は早速エドに近づいて声を掛ける。なるべく甘い音で。
「な、エド」
「ん? どうしたの?」
「俺に生殖器を挿れてくれないか?」
「は!?」
エドが驚いている。単刀直入過ぎただろうか。だが、その辺の駆け引きは勉強不足で解らない。人魚の交わりはもっと事務的なのだから。
俺は何とか交尾して貰おうと、引き続きエドに気持ちを伝える。
「エド……嫌か? やっぱり俺にも生殖器が無いと出来ないか?」
「そ、そんな事無いけど……! でも君には苦痛ばかりだろうし、僕は!」
「俺はお前に気持ちよくなって欲しい。そうする事で、発情期までお前を満足させる事が出来ると思えば、その方が絶対に心地よいんだ」
エドは暫く考え込んでいた。だが、俺がもう一度お願いしたら、はにかんだような表情で受け入れてくれる。
「ごめん……正直言って、本当は嬉しい。君への欲望が止まらなくて」
「そ、それで構わない。俺もエドが欲しいんだ」
俺がそう言うと、エドは優しく俺の頬に触れた。それから、そっと口づけして、俺の身体にも触れる。
「じゃあ、せめて少しでも――君の気持ちいい場所を見つけたいな。トニー、そういうトコ判る?」
「よ、よく判らない……」
「人魚の性感帯ってどこなんだろう、君の事をもっと知りたいよ」
エドがちゅ、ちゅと俺の身体のあちこちに口づけをした。その中に、くすぐったい場所が混じっていて、思わず尾びれを動かしてしまう。エドはそれを見つけ、もしかしたらと思ったらしい。
「ココはどう?」
「んっ!」
エドが怪しんだのは俺の背中だった。そこには背びれが退化した痕があり、少しだけ肌の様子が変わっている。エドはその部分を執拗に刺激した。だから俺はへなへなと崩折れ、岩場に這いつくばる。
「エ、エド、そこは……もう、やめ……!」
「人間同士なら、そういう風に言われたら『止めないで』っていう合図なんだよ? 君はどう?」
「お、俺も同じだ……!」
「本当に君は可愛いなぁ……!」
エドがその場所に強く口づける。痛いくらいだ。思わず振り向きエドを見ると、エドの舌は自分の唇を舐めていた。瞳だっていつもより昏くて――その表情に、俺の全身がどくんと脈打つ。視線だって離せない。そんな俺に、エドは掠れた声で囁いた。
「ね、トニー……教えてくれる? 僕がこれから埋める場所……」
「こ、ここだ、ここにある」
退化した背びれから真っ直ぐ降りた部分、上から五枚目の鱗の継ぎ目。ここは排泄の為、非常に柔らかい鱗で囲まれており、しかも平素は内側に隠れている。
俺がエドの手をその場所に導くと、早速エドは指先を使った。突いたり少し指を入れたり、そうかと思えば口づけしたりする。なぜすぐに挿れないのかと尋ねたら、少しでも俺が楽なように準備をしたいと答えてくれた。エドは優しい。背後に居るので俺から口づけ出来ないのが残念だ。だから、尾びれをエドに絡ませてみた。エドはそれを喜んでいる。
そこに、みしみしという感触を覚えた。排泄器官に何かが入って来たのだが、かなりの質量で驚いてしまう。
「エド……お前、挿れた、のか?」
「違うよ、これは僕の指を二本だけ。ちょっと解してみるね」
「あ、あ……!」
エドの指が、俺の中でうねうねと動いた。暫くすると、エドは安堵したような息を吐く。
「……これなら大丈夫そうだ、狭くて裂けちゃったらどうしようかと」
「ど、どういう事だ?」
「うん、僕の生殖器を挿れても大丈夫そうだ、って事」
「そうか、本当に良かった……! だったらエド、早くしてくれ……早くお前とこの場所で繋がりたい」
俺がそう言うと、エドが真面目な表情になった。ちょっと怒ったようにも見えるが、多分違う。
エドは俺を背中から抱き上げた。ちょうど地面に座っているエドに重なるような格好だ。俺には脚が無いから、この方法が一番理に適っているだろう。
やがてエドは狙いを定めたのか、俺の身体を固定して――ゆっくりと下ろしていった。
「トニー、ちょっと我慢してね……愛してる」
「うあ、あ、あ……!」
エドの熱さが俺に分け入る。確かに痛いが、エドが解してくれたせいか、絶対に無理だという感じはしない。じわじわ挿入してくれているエドにも感謝だ。
「トニー、平気……?」
「ん、大丈夫だ、もっとたくさん挿れていいぞ……俺で気持ちよくなれ」
「……まったく君は!」
エドの侵入スピードが少しだけ速くなる。そこでエドから耐えるような呻きが聞こえた。
「ど、どうした? 鱗が当たって痛いのか?」
「逆だよ! 人魚って皆こうなの!? なんでこんなに、ぬるぬるしてるの!?」
「それは気持ち良いという事か……?」
「うん、本当に……でも、すぐ出ちゃえば君の負担が減るから丁度いいか……っ、く!」
エドが、ふうっと深呼吸している。本当に気持ち良さそうだ。人魚の身体で幸せな事が一つ増えた。そう思えば、いま感じている多少の痛みなど、どうって事ない。俺はもっとエドを喜ばせたくて、排泄器官をむにゅりと動かしてみた。途端にエドが反応する。
「き、君ねぇ……っ!」
「もっとエドに俺を感じて欲しいんだ!」
そう言いながら、むにゅむにゅと動かす。エドだけに心地よくと思っていたのだが――気づくと俺は喘いでいた。
「なっ、何? どうしたのトニー?」
エドが戸惑っている。俺にもよく解らない。なので正直に言う事にした。
「お、お前を喜ばそうと動かしていたら、生殖器が疼いた様な気がしたんだ……仕舞われているのに、おかしい……」
「へぇ……それは嬉しいな。じゃあ、もしかしたら……」
後ろから聞こえるエドの声が、暗みを帯びたように響く。同時に俺は持ち上げられ、ず、ず、と何度も貫かれた。
「疼くのはドコ? 教えて、トニー」
「わ、判らない、俺……っ!」
「いいよ、じゃあ僕が探す……君の知らない場所を」
「ひ、あ!」
エドは丹念に、かと思えば少し強く俺の中で暴れる。その動きに対して俺が甘い声を上げれば、エドはその辺りだけ丁寧に探った。なので暫くすると、俺は余裕を無くしてしまう。
「え、エド、そこは……!」
「うん、判るよ、ココだね……」
「ん、あ!」
おかしい。生殖器が無いのに、まるで女性型と繋がっている時のような感覚が止まらない。このまま行けば、がくがく震えて意識が飛んでしまうはずだ。人魚の交尾は年に一度なので、その分快楽も深い。
「エド、俺、意識なくなる、かも……それ、普通だ、から、気にしない、でくれ!」
俺は薄くなった脳内を制し、途切れ途切れに叫んだ――つもりだ。それが最後まで言えたかどうかは判らない。思った通りに震えが来て、あっという間に攫われていく――。
俺はドキドキしながら約束の浜辺へ向かっていた。気分が高揚するのも無理はない。この一週間エドに逢いたくて堪らなくて、俺は非常に辛い思いをしたのだから。そのせいか大好きな研究を進めても、どこか上の空で――いや、研究の内容的には、人間であるエドと触れ合ったため、かなりの質になっているのだが。それでも、心ここに在らずという雰囲気は否めない。
俺の変化にいち早く気づいたのは、妹姫のナルネルだった。俺とナルネルは本当に仲がいい兄妹で、しかし、そのナルネルにもエドの件を伝えてはいない。人魚と人間が愛し合うなど禁忌中の禁忌だから、そんな事をナルネルに伝えて悪影響でもあったら、と慎重にならざるを得ないのだ。
そんなナルネルの他にも、俺の異変に気づいた人魚はいる。まずは騎士のロージオ。時おり探りを入れて来たので少々気を遣った。次に研究仲間のドロイ。こちらは俺に付着したエドの匂いを感じ取って、という理由だから厄介だ。
このドロイは、身分がそこそこあるのに完全なる変わり者で、来る日の為に攻撃用兵器を作ったりしている。「いつ来るのだ、そんな日は」と何度も言ったが、それでもめげずに続けていた。
ドロイに関しては、他にも色々な噂がある。表に出せない怪しい事を幾つもしているようなのだ。それでエドの匂いが露見したのかもしれない。
そんな事を考えている間に浜辺へ着く。時間帯を約束していなかったので朝一番に来てしまった。見渡す浜辺には、残念ながら誰も居ない。だが、風景は先週と少し様子が違い――波打ち際近くに、色味が違う土や乾燥したような草、木を切ったようなもの、オレンジ色の石などがうず高く積まれていた。これはエドが言っていた別荘の準備に違いない。つまり、エドは約束をきちんと守ってくれている。だったら、このまま待てば、きっと来てくれるだろう。俺はゆらゆらと波に身体を任せながらエドを待った。
エドが現れたのは、それから一時間後の事だ。聞き覚えの無い足音がしたので、すぐに判った。見ればエドは、ずいぶん大きな黒い生き物に乗っている。俺が水中から手を振ると、エドは笑顔で生き物ごと近づいてきた。
「エドは何に乗っているんだ?」
「馬だよ、速いから便利なんだ」
「馬というのか、美しいし利口そうだな」
俺は褒めたけれど、馬にそれが通じたかどうか。馬は少し嘶いてからこちらを見つめていた。なので馬の視線を感じつつ、波打ち際に移動してみる。すると意外にも馬は首を下ろし、俺の頬に何度もキスした。
「おい、馬よ……く、くすぐったいぞ」
「あはは、こいつ――アルテイルもトニーの事が気に入ったみたいだ」
「そ、そうなのか?」
「うん、間違いないよ。僕の事はたまに噛むのに……でも、これ以上のキスはダメ! トニーは僕の!」
エドがアルテイルから降り、立ててあった材木に馬の綱を縛った。よくよく見れば、馬を繋ぐ為に、簡単な屋根や餌らしき草も用意されている。
エドはそれらをチェックしてから俺の傍まで戻って来て、いきなりぎゅっと抱きついてきた。
「久し振り……逢いたかったよトニー!」
「お、俺も逢いたかった。それと、別荘の準備にも感謝する」
「うん、地面が砂だから少し時間は掛かるけど、絶対に完成させるから待ってて」
「ああ、信じている」
ただでさえ至近のエドの顔が、もっと近づいてくる。俺たちは一週間ぶりの口づけで、お互いを確かめた。
「……トニー、来てくれてありがとう」
「それはこちらの台詞だな」
「嬉しいよ」
エドは何度も口づけを続ける。それは最初こそ優しい調子だったものの、あっという間に激しくなった。まるで食べられてしまいそうだ。
「……は、エド、すごいな……!」
「そりゃそうだよ! 愛してるんだ! ……ところで、発情期ってまだ?」
「人魚の発情期は、春に水が温かくなって来た頃だ」
「えっ……? 今って夏だよね?」
エドは、ひーふーみーと指を折って数えている。それから少し呆け、もう一回数え直して――最終的には瞳を丸くした。
「あ、あと半年以上は無いって事!?」
「そうなるな」
「えーっ!?」
エドはガッカリしたようだ。俺は嫌われたかと気が気でない。
「す、すまんエドよ。俺が人魚のせいで……」
「ううん、いいんだ。ただ、早く君を僕で埋めたくて……それだけなんだよ」
埋める。このニュアンスでは初めて聞く言葉だ。そういえばエドは、人間には色々な繋がり方があると言っていた。だからエドに尋ねてみる。
「エド、埋めるとは、どういう繋がり方なんだ?」
「あ、ええと……僕の生殖器を君に挿れる事だよ」
「この間、俺の口の中に挿れていたよな?」
「僕は欲張りだから、他の場所も味わいたいんだ。例えば、あの……あくまで人間の男性同士の場合なんだけど――」
エドは言い辛そうに説明してくれた。それによれば、排泄器官を使って愛し合うらしい。
「何だ、それならそうと言ってくれれば。俺にだってその器官は付いているぞ?」
「で、でも! 同時に生殖器も弄って、一緒に気持ち良くなりたいんだよ! だって、その器官を使うと、い、痛むらしいから……」
「……エド、お前」
エドは赤面している。きっと正直な気持ちを言ってくれたのだ。俺はエドの思いやりを感じ、とても嬉しかった。だったら多少の痛みなど――俺はそう思い、エドを岩場の影に誘う。ここは女性型が真夜中の合唱に利用している場所で、割と居心地がいい。ちょっとした洞窟にも繋がっている。
「へぇ、こんなトコがあったんだ」
「涼しくていいだろう?」
「そうだね、陽があまり射さないから、君の鱗も元気そうだ」
人魚は身体の維持に湿り気が必要だ。でもエドの言う通り、ここでなら多少の活動が出来る。だからわざわざ、この岩場を選んだのだ。
俺は早速エドに近づいて声を掛ける。なるべく甘い音で。
「な、エド」
「ん? どうしたの?」
「俺に生殖器を挿れてくれないか?」
「は!?」
エドが驚いている。単刀直入過ぎただろうか。だが、その辺の駆け引きは勉強不足で解らない。人魚の交わりはもっと事務的なのだから。
俺は何とか交尾して貰おうと、引き続きエドに気持ちを伝える。
「エド……嫌か? やっぱり俺にも生殖器が無いと出来ないか?」
「そ、そんな事無いけど……! でも君には苦痛ばかりだろうし、僕は!」
「俺はお前に気持ちよくなって欲しい。そうする事で、発情期までお前を満足させる事が出来ると思えば、その方が絶対に心地よいんだ」
エドは暫く考え込んでいた。だが、俺がもう一度お願いしたら、はにかんだような表情で受け入れてくれる。
「ごめん……正直言って、本当は嬉しい。君への欲望が止まらなくて」
「そ、それで構わない。俺もエドが欲しいんだ」
俺がそう言うと、エドは優しく俺の頬に触れた。それから、そっと口づけして、俺の身体にも触れる。
「じゃあ、せめて少しでも――君の気持ちいい場所を見つけたいな。トニー、そういうトコ判る?」
「よ、よく判らない……」
「人魚の性感帯ってどこなんだろう、君の事をもっと知りたいよ」
エドがちゅ、ちゅと俺の身体のあちこちに口づけをした。その中に、くすぐったい場所が混じっていて、思わず尾びれを動かしてしまう。エドはそれを見つけ、もしかしたらと思ったらしい。
「ココはどう?」
「んっ!」
エドが怪しんだのは俺の背中だった。そこには背びれが退化した痕があり、少しだけ肌の様子が変わっている。エドはその部分を執拗に刺激した。だから俺はへなへなと崩折れ、岩場に這いつくばる。
「エ、エド、そこは……もう、やめ……!」
「人間同士なら、そういう風に言われたら『止めないで』っていう合図なんだよ? 君はどう?」
「お、俺も同じだ……!」
「本当に君は可愛いなぁ……!」
エドがその場所に強く口づける。痛いくらいだ。思わず振り向きエドを見ると、エドの舌は自分の唇を舐めていた。瞳だっていつもより昏くて――その表情に、俺の全身がどくんと脈打つ。視線だって離せない。そんな俺に、エドは掠れた声で囁いた。
「ね、トニー……教えてくれる? 僕がこれから埋める場所……」
「こ、ここだ、ここにある」
退化した背びれから真っ直ぐ降りた部分、上から五枚目の鱗の継ぎ目。ここは排泄の為、非常に柔らかい鱗で囲まれており、しかも平素は内側に隠れている。
俺がエドの手をその場所に導くと、早速エドは指先を使った。突いたり少し指を入れたり、そうかと思えば口づけしたりする。なぜすぐに挿れないのかと尋ねたら、少しでも俺が楽なように準備をしたいと答えてくれた。エドは優しい。背後に居るので俺から口づけ出来ないのが残念だ。だから、尾びれをエドに絡ませてみた。エドはそれを喜んでいる。
そこに、みしみしという感触を覚えた。排泄器官に何かが入って来たのだが、かなりの質量で驚いてしまう。
「エド……お前、挿れた、のか?」
「違うよ、これは僕の指を二本だけ。ちょっと解してみるね」
「あ、あ……!」
エドの指が、俺の中でうねうねと動いた。暫くすると、エドは安堵したような息を吐く。
「……これなら大丈夫そうだ、狭くて裂けちゃったらどうしようかと」
「ど、どういう事だ?」
「うん、僕の生殖器を挿れても大丈夫そうだ、って事」
「そうか、本当に良かった……! だったらエド、早くしてくれ……早くお前とこの場所で繋がりたい」
俺がそう言うと、エドが真面目な表情になった。ちょっと怒ったようにも見えるが、多分違う。
エドは俺を背中から抱き上げた。ちょうど地面に座っているエドに重なるような格好だ。俺には脚が無いから、この方法が一番理に適っているだろう。
やがてエドは狙いを定めたのか、俺の身体を固定して――ゆっくりと下ろしていった。
「トニー、ちょっと我慢してね……愛してる」
「うあ、あ、あ……!」
エドの熱さが俺に分け入る。確かに痛いが、エドが解してくれたせいか、絶対に無理だという感じはしない。じわじわ挿入してくれているエドにも感謝だ。
「トニー、平気……?」
「ん、大丈夫だ、もっとたくさん挿れていいぞ……俺で気持ちよくなれ」
「……まったく君は!」
エドの侵入スピードが少しだけ速くなる。そこでエドから耐えるような呻きが聞こえた。
「ど、どうした? 鱗が当たって痛いのか?」
「逆だよ! 人魚って皆こうなの!? なんでこんなに、ぬるぬるしてるの!?」
「それは気持ち良いという事か……?」
「うん、本当に……でも、すぐ出ちゃえば君の負担が減るから丁度いいか……っ、く!」
エドが、ふうっと深呼吸している。本当に気持ち良さそうだ。人魚の身体で幸せな事が一つ増えた。そう思えば、いま感じている多少の痛みなど、どうって事ない。俺はもっとエドを喜ばせたくて、排泄器官をむにゅりと動かしてみた。途端にエドが反応する。
「き、君ねぇ……っ!」
「もっとエドに俺を感じて欲しいんだ!」
そう言いながら、むにゅむにゅと動かす。エドだけに心地よくと思っていたのだが――気づくと俺は喘いでいた。
「なっ、何? どうしたのトニー?」
エドが戸惑っている。俺にもよく解らない。なので正直に言う事にした。
「お、お前を喜ばそうと動かしていたら、生殖器が疼いた様な気がしたんだ……仕舞われているのに、おかしい……」
「へぇ……それは嬉しいな。じゃあ、もしかしたら……」
後ろから聞こえるエドの声が、暗みを帯びたように響く。同時に俺は持ち上げられ、ず、ず、と何度も貫かれた。
「疼くのはドコ? 教えて、トニー」
「わ、判らない、俺……っ!」
「いいよ、じゃあ僕が探す……君の知らない場所を」
「ひ、あ!」
エドは丹念に、かと思えば少し強く俺の中で暴れる。その動きに対して俺が甘い声を上げれば、エドはその辺りだけ丁寧に探った。なので暫くすると、俺は余裕を無くしてしまう。
「え、エド、そこは……!」
「うん、判るよ、ココだね……」
「ん、あ!」
おかしい。生殖器が無いのに、まるで女性型と繋がっている時のような感覚が止まらない。このまま行けば、がくがく震えて意識が飛んでしまうはずだ。人魚の交尾は年に一度なので、その分快楽も深い。
「エド、俺、意識なくなる、かも……それ、普通だ、から、気にしない、でくれ!」
俺は薄くなった脳内を制し、途切れ途切れに叫んだ――つもりだ。それが最後まで言えたかどうかは判らない。思った通りに震えが来て、あっという間に攫われていく――。
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