人魚皇子

けろけろ

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21.ルパートの力

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 とりあえず俺たちは様子を見ようと、ドアの横に身体を潜める。そこから扉を蹴飛ばして開くつもりだったのに、よりによって――その身体を置いた場所へ、ドンという発砲音が響いた。幸い肩を掠っただけで済んだのは、エドが反射的に動いてくれたからだ。そうでなければ撃ち抜かれていた事だろう。
「すごいね~。立派立派、よく避けたね~」
ドアの向こうから、わざとらしい賞賛が聞こえてくる。警戒しつつ室内を見ると、ずいぶん細い身体をした男が立っていた。こいつがルパート。人を小馬鹿にするような、ふざけた表情の人間だ。ルパートの隣には数人の屈強そうな軍人が居て、そいつらは俺たちに対し銃と剣を向けている。
 俺は視認した瞬間にルパートへの移動を試みたが、あえなく弾かれた。
(姿としてはエドしか存在しないのに何故だ!?)
 その答えは、当のルパートが教えてくる。
「来るのは判ってたよ、お二人さん? いや、エド皇子とトニー殿下と言った方がいい? 殿下、あいにくの敵対、憑依できなくて残念でした」
 いきなり俺とエドがこの身体に存在しているのを看破され、しかも憑依の仕組みまで理解しているようで思わずたじろぐ。それに対し、ルパートは不自然なほど余裕の表情を浮かべていた。俺がその理由を考えあぐねていると、ルパートがくつくつと笑む。
「何者だ? って思ってるね。ああ、そんなのどうでもいいから僕を倒そうって? エド皇子は乱暴だね。でも、だめだめ。僕はナルネルを握ってる」
「……何だと?」
 俺の周囲の人間で、ナルネルの話を知っているのはエドだけのはずだ。エドがそれをこの男に話すとも思えず、俺は数通りのルートを考えた。するとルパートは手を叩く。
「人魚の国って、この先の海峡の近くにあるんだよね~。僕はこのあいだ、水面を散策中のナルネルを捕まえたのさ。ほら、トニー殿下も知ってるでしょ? 二週に一回、三時間だけ、侍女数名と行くのを」
 紛れもない事実を口にするルパートに対し、俺の心臓が一瞬だけ止まる。これはハッタリというレベルの話ではない。
 俺は変わっていく顔色を感じながら、なんとか落ち着きを取り戻そうと努力した。そうだ、こんな大事件があれば、ロージオやドロイも俺に黙ってはいまい。俺はそう考え、ルパートに対峙したのだが――。
「ねぇ殿下。皇族が拉致されたという情報に、そう易々アクセス出来ると思う? それとも人魚の国の騎士には、そこまでの権限があるの?」
 うっ、と俺の息が詰まる。そんな俺に向かい、ルパートは銃口を突きつけた。
「僕が無事に戻らなければ、港で待つナルネルは死ぬよ?」
「……俺に、どうしろと?」
「簡単だよ、このまま撃たれてくれる?」
 もしもこれが俺の身体だったとしたら、話に半分ほど乗ってしまうかもしれない。だが、この身体はエドのもので、俺にはどちらも選択出来なかった。
「……トニー、ここは僕に任せて貰っていい?」
 ふいにエドが言う。その瞬間、ルパートが発砲した。弾はエドの髪を数本飛ばす。それから銃声が二発、三発。ルパートが撃ったので、周囲の軍人もそれに続いていた。俺はエドの邪魔をしないよう力を抜いたが、頭の中はナルネルの事で一杯だ。
 そんな中、エドはあっという間に軍人たちを失神させ、ルパートの顎を蹴り飛ばす。これでコイツも意識を失った。
「ええと、何か無いかな――あ、あった!」
 エドは捨て置かれた縄を発見し、器用な手つきで失神した敵を縛り上げていく。それが落ち着いてから、俺はやっと口を出す事が出来た。
「エド、どうしてくれる。ルパートの姦計が真実の場合、この状態からナルネルを救うには――」
「大丈夫だよ。こいつ、なんか知らないけど僕たちの思考を読んでた。多分、君が考える度に都合のいい情報だけ拾って脅してたんだ」
「なぜそれが判る!? もしもナルネルが……!」
「だっておかしいじゃない! いきなり僕たちが二人なのを知ってるし、持ってる情報は段々詳細になっていくし! こんなの普通じゃないよ! 君は考え過ぎなんだ!」
「なっ……! 考え過ぎで悪かったな! 俺はこういう性格だ!」
 よりによってエドの身体にお邪魔している状態で、初めての喧嘩が始まった。俺はたたっと甲板に出て、水面に居たロージオに話し掛ける。
「おい、ロージオ! これからお前に移る!」
「ちょ……ちょっと待ってよトニー! 行かないでよ!」
「うるさい! ナルネルの無事を確かめてくるから、その間に、この旗艦の白旗でも掲げておけ!」
 悪いがエドの死を誤解した件もあり、自分の目で見ないと信用できない。俺はエドを振り切ってロージオに憑依した。何事かと思ったサラが俺たちを凝視しているけれど、構っている暇は無い。
「ロージオ、都まで頼む! ナルネルの無事を確認したい!」
「何かあったの?」
「ああ、実は――」
 事情を話すとロージオは大変心配し、都まで本当に急いでくれた。
 ナルネルは今の時間なら屋敷の離れに居るはずだが、ロージオの身体ではどかどかとそこへ踏み込む訳にも行かず――なので俺は、警備の人魚に次々と憑依してナルネルのもとへ向かう。
 その甲斐あって、久し振りにナルネルの住まいが見えてきた。俺は最後の憑依を終え、入室の合図もせずナルネルの部屋の扉を開く――。
 そこには、いつもと変わらないナルネルが居た。俺を見て、不思議そうに微笑んでいる。
「ナ、ナルネル! よく無事で……!」
「申し訳ありません皇女殿下! 私めの身体が勝手に動いております!」
 安心する俺をよそに、憑依されている警備の人魚が慌てていた。それもそうだ。俺はこの人魚を解放するため、また離れの外へ出た。ロージオが心配そうに寄って来たので、もちろん彼の中に移る。
「……大丈夫だったみたいだね、表情で判る」
「ああ、今回はエドの読みが正しかったようだ。やはり人間心理は人間に任せたほうがいいようだな」
「そうかな? たまたまだと思うよ? 私が思うに、エド皇子はちょっと――」
「エドを悪く言うな! 俺の恋人なんだぞ!」
 それきりロージオは黙ってしまった。ただただ敵の旗艦へと泳ぎ続ける。
「……おい、どうした?」
「うん、すっかり殿下の惚気に参っちゃってね」
「す、すまん」
 俺が恥じ入るとロージオは笑った。そこから先の話題は、恋をしたら俺の様子がこう変わったとか、ああなったとか、そんなものばかり。ロージオの鋭い観察眼が俺を抉りまくる。
「おい……もうやめろ、もしくは早く着け、頼む……」
 消えてしまいそうな俺に、ロージオは続けた。これはロージオの発言を制した俺への嫌がらせに違いない。
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