僕は「飲めます」って言いました

けろけろ

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僕は「飲めます」って言いました

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 私は久方ぶりに会ったヨウくんと、いかにも大衆向けの居酒屋にいた。ヨウくんとの最後は五年前、しかも彼が高校生の頃。それがあっという間に育ち、一緒に飲んでいるのだから不思議なものだ。そういえば随分と背が伸び、肩幅も広くなっている。印象が高校生の頃とあまり変わらないのは、髪型が一緒なのと昔通りの爽やかイケメンだからだろうか。
「でさー、ヨウくんの話ってなに?」
 今日は私が経営する美容室に、いきなりヨウくんが来た。カットでもするのかなと思ったら違う。なぜか居酒屋に誘われた。そこで話があると。何の話なのかと気になった私は、居酒屋に来る前も来た後も「早くしなさい」とヨウくんを急かしていた。でもヨウくんは答えない。
「……雛さんすみません、そのうちタイミングを見計らって言います」
「ふ~ん……」
 それじゃあ私は待つしかなかった。
 さて、私たち二人のテーブルには、数種類の肴とビール、ウーロン茶。お酒はヨウくんしか飲んでいない。 
「いや~悪いねヨウくん、私すっごいお酒に弱くて」 
「知ってますよ、高校生の頃に見ましたから」 
「じゃあなんで居酒屋に誘うの!?」 
「ここ、料理が美味しいんで……そう思いません?」
「まぁ確かに……じゃあヨウくんは心置きなく飲んで! 私は食べる!」 
「ですね、すみません」 
 私は早速メニューを見て店員を呼ぶ。この店は小皿料理を沢山頼む形式なので、私もそれに倣っていた。そこにヨウくんが生中を一杯追加。 
「お、本当に心置きなく行くつもりだね。そのジョッキで何杯目?」
「さぁ……?」 
「覚えてないの? 心配になって来たよ」 
「大丈夫です、僕は飲めますので!」 
「……ん?」 
 言外に自分が飲めないのを馬鹿にされたと感じ、私の笑顔がひくっと引きつる。そのタイミングで料理とビールが運ばれてきた。ムカムカ来ていた私はヨウくんに酷い勝負を挑む。
「……は? 雛さんが一皿食べるにつき、僕が生中をジョッキで一杯……ですか?」 
「そ! よく飲み比べってのがあるでしょ? 私はそれが出来ないから、飲み比べ対食べ比べだよ」 
「……なるほど」 
 汚い、本当に私は汚い。大人げも無い。小皿料理とジョッキのビールでは重さが違う。しかしヨウくんが納得したので勝負が始まった。 
「ほれほれ~、私の枝豆終わったぞ~」 
「はい、じゃあもう一杯」
「頑張れ頑張れ」 
 この調子だから、ヨウくんは最終的にテーブルへ突っ伏した。 
「やばっ、遊びすぎた!」 
 私は慌てて介抱するけれど、もう遅い。ヨウくんはすっかり眠っている。
「……こりゃあ私の責任だ。ヨウくん、立てる?」
「……寝たいです」
「だよね、ちょっと待ってて」
 幸いここは繁華街。近所に宿泊やら休憩やらをするホテルが腐るほど存在する。私はヨウくんを引き摺るように、そのホテルに連れて行った。
「ひー、疲れた! この際、部屋はなんでもいい……!」
 ホテルに着いた私は、適当な部屋を選ぶ。
「ヨウくん、もうちょいだからね!」
「ふぁい……」
「二〇三……二〇三……よっしゃココだぁ!」
 私は意気揚々とドアを開けた。奥にダブルベッドが見えるので、もう少し。
 だが、ドアを閉じた瞬間にヨウくんが豹変する。へろへろだった自分を取り戻したうえ、私の右手首を掴んだのだ。
「ヨ、ヨウくん……? どうしたの?」
 まだ状況を把握できない私の耳の横を、ヨウくんの片手がすり抜けていく。着地点は壁。私は手首を取られ、壁にも押し付けられていた。
「えっ……なんなの!? っつか、ヨウくん! 背たっか! 見下ろさないでよ! しかも酔ってんのどうした! 眠いんじゃないの!?」
「僕は『飲めます』って言いましたよね?」
「だ……騙された」
「ついでに言いますが、昔から好きですよ雛さん」
「今日はそれが用事だったわけ!?」
 返事代わりにヨウくんの口づけが降りてくる。とても酒臭かった。舌が入ってきたので押し返したら、ヨウくんは絡めたのだと勘違い。非常に喜ばせてしまう。
「……ありがとうございます、雛さん。気持ちが通じて嬉しいです」
 今度はずるずる私が引き摺られていった。行き先はベッド。
「いやいや、舌は押し返しただけだから!」
「恥ずかしがらないでください」
 ぽーんとベッドに放り投げられ、私はびっくりしてしまった。そこにふにゃっと笑ったヨウくんが覆い被さってくる。
「いきなりコレ!? ありえないんだけど!?」
「はぁ……憧れの雛さんが今ここに……必ず幸せにしますので」
「そんなこと言われたら、ちょっと嬉しくなっちゃうじゃん!?」
 我ながらチョロい。だからヨウくんに対し、本気で抵抗できない夜は続く。
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