1 / 1
僕は「飲めます」って言いました
しおりを挟む
私は久方ぶりに会ったヨウくんと、いかにも大衆向けの居酒屋にいた。ヨウくんとの最後は五年前、しかも彼が高校生の頃。それがあっという間に育ち、一緒に飲んでいるのだから不思議なものだ。そういえば随分と背が伸び、肩幅も広くなっている。印象が高校生の頃とあまり変わらないのは、髪型が一緒なのと昔通りの爽やかイケメンだからだろうか。
「でさー、ヨウくんの話ってなに?」
今日は私が経営する美容室に、いきなりヨウくんが来た。カットでもするのかなと思ったら違う。なぜか居酒屋に誘われた。そこで話があると。何の話なのかと気になった私は、居酒屋に来る前も来た後も「早くしなさい」とヨウくんを急かしていた。でもヨウくんは答えない。
「……雛さんすみません、そのうちタイミングを見計らって言います」
「ふ~ん……」
それじゃあ私は待つしかなかった。
さて、私たち二人のテーブルには、数種類の肴とビール、ウーロン茶。お酒はヨウくんしか飲んでいない。
「いや~悪いねヨウくん、私すっごいお酒に弱くて」
「知ってますよ、高校生の頃に見ましたから」
「じゃあなんで居酒屋に誘うの!?」
「ここ、料理が美味しいんで……そう思いません?」
「まぁ確かに……じゃあヨウくんは心置きなく飲んで! 私は食べる!」
「ですね、すみません」
私は早速メニューを見て店員を呼ぶ。この店は小皿料理を沢山頼む形式なので、私もそれに倣っていた。そこにヨウくんが生中を一杯追加。
「お、本当に心置きなく行くつもりだね。そのジョッキで何杯目?」
「さぁ……?」
「覚えてないの? 心配になって来たよ」
「大丈夫です、僕は飲めますので!」
「……ん?」
言外に自分が飲めないのを馬鹿にされたと感じ、私の笑顔がひくっと引きつる。そのタイミングで料理とビールが運ばれてきた。ムカムカ来ていた私はヨウくんに酷い勝負を挑む。
「……は? 雛さんが一皿食べるにつき、僕が生中をジョッキで一杯……ですか?」
「そ! よく飲み比べってのがあるでしょ? 私はそれが出来ないから、飲み比べ対食べ比べだよ」
「……なるほど」
汚い、本当に私は汚い。大人げも無い。小皿料理とジョッキのビールでは重さが違う。しかしヨウくんが納得したので勝負が始まった。
「ほれほれ~、私の枝豆終わったぞ~」
「はい、じゃあもう一杯」
「頑張れ頑張れ」
この調子だから、ヨウくんは最終的にテーブルへ突っ伏した。
「やばっ、遊びすぎた!」
私は慌てて介抱するけれど、もう遅い。ヨウくんはすっかり眠っている。
「……こりゃあ私の責任だ。ヨウくん、立てる?」
「……寝たいです」
「だよね、ちょっと待ってて」
幸いここは繁華街。近所に宿泊やら休憩やらをするホテルが腐るほど存在する。私はヨウくんを引き摺るように、そのホテルに連れて行った。
「ひー、疲れた! この際、部屋はなんでもいい……!」
ホテルに着いた私は、適当な部屋を選ぶ。
「ヨウくん、もうちょいだからね!」
「ふぁい……」
「二〇三……二〇三……よっしゃココだぁ!」
私は意気揚々とドアを開けた。奥にダブルベッドが見えるので、もう少し。
だが、ドアを閉じた瞬間にヨウくんが豹変する。へろへろだった自分を取り戻したうえ、私の右手首を掴んだのだ。
「ヨ、ヨウくん……? どうしたの?」
まだ状況を把握できない私の耳の横を、ヨウくんの片手がすり抜けていく。着地点は壁。私は手首を取られ、壁にも押し付けられていた。
「えっ……なんなの!? っつか、ヨウくん! 背たっか! 見下ろさないでよ! しかも酔ってんのどうした! 眠いんじゃないの!?」
「僕は『飲めます』って言いましたよね?」
「だ……騙された」
「ついでに言いますが、昔から好きですよ雛さん」
「今日はそれが用事だったわけ!?」
返事代わりにヨウくんの口づけが降りてくる。とても酒臭かった。舌が入ってきたので押し返したら、ヨウくんは絡めたのだと勘違い。非常に喜ばせてしまう。
「……ありがとうございます、雛さん。気持ちが通じて嬉しいです」
今度はずるずる私が引き摺られていった。行き先はベッド。
「いやいや、舌は押し返しただけだから!」
「恥ずかしがらないでください」
ぽーんとベッドに放り投げられ、私はびっくりしてしまった。そこにふにゃっと笑ったヨウくんが覆い被さってくる。
「いきなりコレ!? ありえないんだけど!?」
「はぁ……憧れの雛さんが今ここに……必ず幸せにしますので」
「そんなこと言われたら、ちょっと嬉しくなっちゃうじゃん!?」
我ながらチョロい。だからヨウくんに対し、本気で抵抗できない夜は続く。
「でさー、ヨウくんの話ってなに?」
今日は私が経営する美容室に、いきなりヨウくんが来た。カットでもするのかなと思ったら違う。なぜか居酒屋に誘われた。そこで話があると。何の話なのかと気になった私は、居酒屋に来る前も来た後も「早くしなさい」とヨウくんを急かしていた。でもヨウくんは答えない。
「……雛さんすみません、そのうちタイミングを見計らって言います」
「ふ~ん……」
それじゃあ私は待つしかなかった。
さて、私たち二人のテーブルには、数種類の肴とビール、ウーロン茶。お酒はヨウくんしか飲んでいない。
「いや~悪いねヨウくん、私すっごいお酒に弱くて」
「知ってますよ、高校生の頃に見ましたから」
「じゃあなんで居酒屋に誘うの!?」
「ここ、料理が美味しいんで……そう思いません?」
「まぁ確かに……じゃあヨウくんは心置きなく飲んで! 私は食べる!」
「ですね、すみません」
私は早速メニューを見て店員を呼ぶ。この店は小皿料理を沢山頼む形式なので、私もそれに倣っていた。そこにヨウくんが生中を一杯追加。
「お、本当に心置きなく行くつもりだね。そのジョッキで何杯目?」
「さぁ……?」
「覚えてないの? 心配になって来たよ」
「大丈夫です、僕は飲めますので!」
「……ん?」
言外に自分が飲めないのを馬鹿にされたと感じ、私の笑顔がひくっと引きつる。そのタイミングで料理とビールが運ばれてきた。ムカムカ来ていた私はヨウくんに酷い勝負を挑む。
「……は? 雛さんが一皿食べるにつき、僕が生中をジョッキで一杯……ですか?」
「そ! よく飲み比べってのがあるでしょ? 私はそれが出来ないから、飲み比べ対食べ比べだよ」
「……なるほど」
汚い、本当に私は汚い。大人げも無い。小皿料理とジョッキのビールでは重さが違う。しかしヨウくんが納得したので勝負が始まった。
「ほれほれ~、私の枝豆終わったぞ~」
「はい、じゃあもう一杯」
「頑張れ頑張れ」
この調子だから、ヨウくんは最終的にテーブルへ突っ伏した。
「やばっ、遊びすぎた!」
私は慌てて介抱するけれど、もう遅い。ヨウくんはすっかり眠っている。
「……こりゃあ私の責任だ。ヨウくん、立てる?」
「……寝たいです」
「だよね、ちょっと待ってて」
幸いここは繁華街。近所に宿泊やら休憩やらをするホテルが腐るほど存在する。私はヨウくんを引き摺るように、そのホテルに連れて行った。
「ひー、疲れた! この際、部屋はなんでもいい……!」
ホテルに着いた私は、適当な部屋を選ぶ。
「ヨウくん、もうちょいだからね!」
「ふぁい……」
「二〇三……二〇三……よっしゃココだぁ!」
私は意気揚々とドアを開けた。奥にダブルベッドが見えるので、もう少し。
だが、ドアを閉じた瞬間にヨウくんが豹変する。へろへろだった自分を取り戻したうえ、私の右手首を掴んだのだ。
「ヨ、ヨウくん……? どうしたの?」
まだ状況を把握できない私の耳の横を、ヨウくんの片手がすり抜けていく。着地点は壁。私は手首を取られ、壁にも押し付けられていた。
「えっ……なんなの!? っつか、ヨウくん! 背たっか! 見下ろさないでよ! しかも酔ってんのどうした! 眠いんじゃないの!?」
「僕は『飲めます』って言いましたよね?」
「だ……騙された」
「ついでに言いますが、昔から好きですよ雛さん」
「今日はそれが用事だったわけ!?」
返事代わりにヨウくんの口づけが降りてくる。とても酒臭かった。舌が入ってきたので押し返したら、ヨウくんは絡めたのだと勘違い。非常に喜ばせてしまう。
「……ありがとうございます、雛さん。気持ちが通じて嬉しいです」
今度はずるずる私が引き摺られていった。行き先はベッド。
「いやいや、舌は押し返しただけだから!」
「恥ずかしがらないでください」
ぽーんとベッドに放り投げられ、私はびっくりしてしまった。そこにふにゃっと笑ったヨウくんが覆い被さってくる。
「いきなりコレ!? ありえないんだけど!?」
「はぁ……憧れの雛さんが今ここに……必ず幸せにしますので」
「そんなこと言われたら、ちょっと嬉しくなっちゃうじゃん!?」
我ながらチョロい。だからヨウくんに対し、本気で抵抗できない夜は続く。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
遊び人の侯爵嫡男がお茶会で婚約者に言われた意外なひと言
夢見楽土
恋愛
侯爵嫡男のエドワードは、何かと悪ぶる遊び人。勢いで、今後も女遊びをする旨を婚約者に言ってしまいます。それに対する婚約者の反応は意外なもので……
短く拙いお話ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
このお話は小説家になろう様にも掲載しています。
感情の無い聖女様は、公爵への生贄にされてしまいました
九条 雛
恋愛
「――私など、ただの〝祈り人形〟でございます。人形に感情はありませぬ……」
悪逆非道の公爵の元へと生贄として捧げられてしまった聖女は、格子の付いた窓を見上げてそう呟く。
公爵は嗜虐に満ちた笑みを浮かべ言い放つ。
「これからは、三食きちんと食べてもらおう。こうして俺のモノとなったからには、今までのような生活を送れるとは思わぬことだな」
――これは、不幸な境遇で心を閉ざしてしまった少女と、その笑顔を取り戻そうとする男の物語。
虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜
ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」
あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。
「セレス様、行きましょう」
「ありがとう、リリ」
私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。
ある日精霊たちはいった。
「あの方が迎えに来る」
カクヨム/なろう様でも連載させていただいております
冷遇された没落姫は、風に乗せて真実を詠う ─残り香の檻─
あとりえむ
恋愛
「お前の練る香など、埃と同じだ」
没落した名家の姫・瑠璃は、冷酷な夫・道隆に蔑まれ、極寒の離れに追いやられていた。夫の隣には、贅を尽くした香料を纏う愛人の明子。
しかし道隆は知らなかった。瑠璃が魂を削って練り上げた香は、焚く者の心根を映し出す「真実の鏡」であることを。
瑠璃が最後に残した香の種を、明子が盗み出し、手柄を偽って帝の前で焚き上げた瞬間。美しき夢は、獣の死臭が漂う地獄へと変貌する。
「この香りの主を探せ。これほど澄み切った魂が、この都に在るはずだ」
絶望の淵で放たれた一筋の香りに導かれ、孤独な東宮が泥の中に咲く白蓮を見つけ出す。
嘘と虚飾にまみれた貴族社会を、ひとりの調香師が浄化する、雅やかな逆転劇。
だって悪女ですもの。
とうこ
恋愛
初恋を諦め、十六歳の若さで侯爵の後妻となったルイーズ。
幼馴染にはきつい言葉を投げつけられ、かれを好きな少女たちからは悪女と噂される。
だが四年後、ルイーズの里帰りと共に訪れる大きな転機。
彼女の選択は。
小説家になろう様にも掲載予定です。
姉の引き立て役の私は
ぴぴみ
恋愛
アリアには完璧な姉がいる。姉は美人で頭も良くてみんなに好かれてる。
「どうしたら、お姉様のようになれるの?」
「ならなくていいのよ。あなたは、そのままでいいの」
姉は優しい。でもあるとき気づいて─
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる