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<第一王子>ルート
4<騎士A>視点
「踏み込みが浅い。そんなんじゃ、殺せないぞ」
「……」
口の端を上げて、肩をすくめるのが見える。舌打ちをして距離をとった。
―― そうだな、首を薙ぐには踏み込みが甘かった
音をさせぬように意識して、息を吸って吐き出す。挑発に冷静さを失った。殺してどうする。まだ情報を、探る必要があるだろうが。
「他には、誰が知ってる。何処まで、知っている。吐け。でなければ、また当主に戻る羽目になるぞ」
「おおっ息子よ。情けない。少しは取り繕うということを、覚えたらどうだ」
死にたくなければなんて脅しは、こいつには通じない。だから遠回しに、当主の首を挿げ替えると口にする。
『無理は、するなよ』
おっさんと違う穏やかな顔をした男の顔が浮かぶ。俺の立場も知ったうえで、案じてくる男だ。他人を弟だと、言い切るやつだ。貴族としての立場は置いておいて、良いやつではあるのだろう。少なくとも俺に害を、なそうとしない。
―― それでも
考えるまでもない。
あの子を想う王子の顔が浮ぶ。いつも冷静で理知的な、そんな人が馬鹿に変わっちまうほど、大事にしているあの子の顔も浮んだ。
―― だれを選ぶなんて
選択肢なんて、最初からないんだよ。ただ一人だ。
歪な音が、部屋に響く。
足を踏み出し距離を詰め、首筋に突きつけようとした短刀は、軽く止められた。同時に周りを取り囲もうとした風の刃も、四散する。
―― クソが
俺は、強くなった。泥水すすってでも生き残ろうとしていたときよりも、拾われて鍛えられ何度も死にそうになっていたときよりも強くなったはずだ。
けどこいつは、あの時と変わらずに悠然と笑んでいる。
「だから冷静になれと、言っているだろう。引退したとは言えファンブルクの当主だったんだぞ。王家に忠義を忠誠を、ってな。牙をむくわけがない」
「あんたが王家に忠誠誓ってるなんざ、初耳だ」
「なんてことを言うんだ息子よ。俺は海より深く王家を、愛しているぞ」
左手を胸に当て右手は開き、大仰に首を振ってやがる。胡散臭いという印象しか抱かない。いや嘘だと知っているから、余計にそう思うんだろうな。
「あんたが愛してるのは、この国だろう」
「そうはっきり言うな。俺にも一応は保つべき面目というものがある」
こいつにとって王家は、国を保つための駒みたいなもんだ。王家じゃない王族でもない。おのれが愛した国が持続させるために、必要ならば切り捨てる。だから体の弱い前王を、排することを許容した。
王という頭が弱ければ、国が滅ぶ。弱いということは、付け入る隙を与えるってことだ。他国からの侵略を、許すことになる。それがすべての要因になるわけではないけれど、一因となるならばこいつは動く。こいつにとって大事な国を守るためにだ。
ファンブルクの前当主が、認めている後続はリシュワルド様だ。もしその存在に危険が及ぶとなれば、排するために動く。
―― 今のところ、不利な要素しかないだろ
冷静ない人を、理知的な人を、おかしくさせる存在。そして素性がつかめない。
俺のことが嫌いなのに、優しさを見せる子の顔が浮かぶ。王子が誰よりも、大事に思う存在だ。
―― あっーくそっ!
さっさと無理やりにでも、そこそこの貴族の養子にさせればよかった!
あの子には確実に、さらに嫌われる。意思を無視する行動だ。王子も激怒するだろう。正直、行動した結果、俺の首がつながってるか疑問だ。
それでも少なくとも、おっさんがすぐに手を出せない防波堤は作っておくべきだった。
「安心しろ。息子よ。まだ俺しかしらん」
―― やっぱり、殺そう
おっさんのことだ。もうどうとでも動ける網を、張り終えている。そんな想像と違う言葉が、耳に届く。その瞬間、どんな手段を使ってでも、目の前の存在を屠ることに決めた。
「……」
口の端を上げて、肩をすくめるのが見える。舌打ちをして距離をとった。
―― そうだな、首を薙ぐには踏み込みが甘かった
音をさせぬように意識して、息を吸って吐き出す。挑発に冷静さを失った。殺してどうする。まだ情報を、探る必要があるだろうが。
「他には、誰が知ってる。何処まで、知っている。吐け。でなければ、また当主に戻る羽目になるぞ」
「おおっ息子よ。情けない。少しは取り繕うということを、覚えたらどうだ」
死にたくなければなんて脅しは、こいつには通じない。だから遠回しに、当主の首を挿げ替えると口にする。
『無理は、するなよ』
おっさんと違う穏やかな顔をした男の顔が浮かぶ。俺の立場も知ったうえで、案じてくる男だ。他人を弟だと、言い切るやつだ。貴族としての立場は置いておいて、良いやつではあるのだろう。少なくとも俺に害を、なそうとしない。
―― それでも
考えるまでもない。
あの子を想う王子の顔が浮ぶ。いつも冷静で理知的な、そんな人が馬鹿に変わっちまうほど、大事にしているあの子の顔も浮んだ。
―― だれを選ぶなんて
選択肢なんて、最初からないんだよ。ただ一人だ。
歪な音が、部屋に響く。
足を踏み出し距離を詰め、首筋に突きつけようとした短刀は、軽く止められた。同時に周りを取り囲もうとした風の刃も、四散する。
―― クソが
俺は、強くなった。泥水すすってでも生き残ろうとしていたときよりも、拾われて鍛えられ何度も死にそうになっていたときよりも強くなったはずだ。
けどこいつは、あの時と変わらずに悠然と笑んでいる。
「だから冷静になれと、言っているだろう。引退したとは言えファンブルクの当主だったんだぞ。王家に忠義を忠誠を、ってな。牙をむくわけがない」
「あんたが王家に忠誠誓ってるなんざ、初耳だ」
「なんてことを言うんだ息子よ。俺は海より深く王家を、愛しているぞ」
左手を胸に当て右手は開き、大仰に首を振ってやがる。胡散臭いという印象しか抱かない。いや嘘だと知っているから、余計にそう思うんだろうな。
「あんたが愛してるのは、この国だろう」
「そうはっきり言うな。俺にも一応は保つべき面目というものがある」
こいつにとって王家は、国を保つための駒みたいなもんだ。王家じゃない王族でもない。おのれが愛した国が持続させるために、必要ならば切り捨てる。だから体の弱い前王を、排することを許容した。
王という頭が弱ければ、国が滅ぶ。弱いということは、付け入る隙を与えるってことだ。他国からの侵略を、許すことになる。それがすべての要因になるわけではないけれど、一因となるならばこいつは動く。こいつにとって大事な国を守るためにだ。
ファンブルクの前当主が、認めている後続はリシュワルド様だ。もしその存在に危険が及ぶとなれば、排するために動く。
―― 今のところ、不利な要素しかないだろ
冷静ない人を、理知的な人を、おかしくさせる存在。そして素性がつかめない。
俺のことが嫌いなのに、優しさを見せる子の顔が浮かぶ。王子が誰よりも、大事に思う存在だ。
―― あっーくそっ!
さっさと無理やりにでも、そこそこの貴族の養子にさせればよかった!
あの子には確実に、さらに嫌われる。意思を無視する行動だ。王子も激怒するだろう。正直、行動した結果、俺の首がつながってるか疑問だ。
それでも少なくとも、おっさんがすぐに手を出せない防波堤は作っておくべきだった。
「安心しろ。息子よ。まだ俺しかしらん」
―― やっぱり、殺そう
おっさんのことだ。もうどうとでも動ける網を、張り終えている。そんな想像と違う言葉が、耳に届く。その瞬間、どんな手段を使ってでも、目の前の存在を屠ることに決めた。
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こんばんは!!!
最新めちゃくちゃ嬉しいです!!
めちゃくちゃ初期からこの小説追いかけていて、主人公の性格とジルベールの性格がもういい組み合わせすぎて!!!過去一好きな小説です!!
好みどストライク!!!!!
続きが気になりすぎるー!!!
こんばんは
二人のことを気に入ってきただけて、嬉しいです。ありがとうございます。