BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月

文字の大きさ
15 / 151

15

しおりを挟む

「災難だったな」

 サイジェスに呼び出されて、来てみれば開口一番にそう言葉をかけられた。

 一言そう言われただけで、なんのことか理解した。城での一件や、その後のあれやこれだ。ジルベートと俺がセットで呼び出される時点で、察しが付く。

 本当にサイジェスに呼び出される時は、碌な事がない。
いやサイジェスに、罪はない。この前も、そして今日も講師の主任という中間管理職的な立場のせいで、俺達との窓口にされているだけだ。

 さすがにそこまで分かっていて、サイジェスに悪感情を持つ気にはなれない。

「王子からはこちらに非があり、罰するつもりはないとそう伝言を承った」

 王子はそうでも学園は、どうだろうな。いくら王子が問題ないといっても、この学園は国からの援助で成り立っている。そんな学園に王族ともめごとをおこした生徒を在籍させたいかというと答えは否だろう。

「ジルベールは、始終防御に徹していました。彼は何も手出しはしていません。第二王子に、術を行使して刃を向けたのは俺のみです。退学は俺だけで、構いませんよね」

 俺の言葉に、サイジェスはわずかに目を見開く。

俺から退学の申し出があるとは、思わなかったのだろう。
だが生徒に退学を強要する役割を、たかが中間管理職だからといって押し付けられるのも憐れだ。あの表情は、どうやって退学させようかと思っていたら、こっちから申し出たから驚いているんだろう。

 俺は退学するからと言って、イベントを見るのをあきらめたわけではない。

  ジルベールは、街でのイベントが多い。
ということは、俺は退学してもジルベール関連のイベントを見る事が出来る。だがジルベールが退学すると、主人公との出会いが学園だからイベントが起こらない。となる選択肢は一つだ。俺は退学するから、ジルベールは見逃してもらおう。

 そもそもこいつは、俺に巻きもまれただけで何もしていない。

「レイザード! 何を言ってるんだ。君に非はない!」
「黙っていろ」

 今まで黙っていたジルベールが、俺の肩を掴んで声を荒げる。だが怒っているというよりは、辛そうな表情だ。

 俺としてはジルベールに退学されるのは、イベントの関係のため阻止したい。それに巻き込まれただけのジルベールが、退学なんてことになったらさすがの俺でも良心が痛む。

「いくら君の言う事だからって、聞けない事はある!」
「サイジェス先生、王子は俺達を罰するつもりはないと断言されていました。だというのに、退学という処分をされるのでしたら、俺はこのことを王子に告げに行きます」

 俺の肩を掴んだまま、ジルベールはサイジェスに鋭い視線を向ける。
 無茶を言うな。どうやって王子と会うつもりなんだ。城に忍び込むつもりか。

「お前は何もしてない。黙っていろ。退学したいわけではないんだろう」
「君ひとり犠牲にして、俺にここにのうのうと残れというのか。そんなこと出来るわけがないだろう。それに君と会えなくなるなんて……」
「退学しても街から、出ていくわけじゃない。会おうと思えば、いつでも会えるだろう。だからお前は残れ」

 どうしてもジルベールを退学させたくないのだが、当の本人が中々首を縦に振らない。案外頑固な奴だ。

「まて、お前達おちつけ。王子からお前たちに対して、何らかの処分を下すことはまかりならぬと厳命されている。使者の騎士の方が、直筆の書簡まで持ってこられた。もちろん王子のサインが入っている。ここまでされて学園側がなにかをお前たちにすることはない」

 虚をつかれたというのは、こういう事を言うのだろうか。そこまで念入りにやっているとは思わなかった。だがこれで俺もジルベールも退学はしなくて済みそうだ。

「申し訳ありませんが、それをもっと早くに言っていただけませんか」
「俺が話を始める前に、レイザードお前が勝手に決めつけて話始めたんだろう。お前はこの前の時もそうだったが、なんで王族がたの話になると勝手に決めつけて話をすすめるんだ。この前の城への召喚の話の時もそうだったろう」

 なんでだ、そういわれると自分でも分からない。けれど、あいつらは俺を害そうとしているんじゃないかって。なぜか強くそう思っている。
 そうだわざわざ学園に告げたのも、処分は学園にさせるつもりなんだと思った。

 だってあいつらは、信用ならないもの
 言ったことなど守らない
 駄目だよ、信じたら。心を許したら駄目だよ

「うるさい、黙っていろ!」 

 考えている最中に、聞こえてくる声にいら立ち思わず声にだしてしまう。不味いとそう考える前に、口が動いてしまっていた。
 だが頭の中でわめかれたことより、そんな分かりきったことをなぜ繰り返すのかという苛立ちを感じていた。なぜ自分でもそう感じたのかが、理解できない。

「レイザード? どうしたんだ。また頭が痛むのかい?」
「……失礼しました。先生、もうお話は終わりですよね。申し訳ないのですが、疲れているのでこれで失礼してもよろしいでしょか」

 また頭痛がはじまったと誤解したジルベールが、俺を心配げな表情で見てくる。変な声がしたとは、言えずに俺は眉間に皺を寄せる事しかできない。

「……わかった。さがっていい」

 サイジェスからしたら、いきなり生徒である俺に怒鳴られたんだ。怒ってもいいのだが、小さくため息を付いただけで何も言われなかった。

 俺はそれをいいことに、一礼して部屋を出ていく。そのあとをジルベールが退出の挨拶をする声が聞こえる。
 ああそういえば失礼しますくらい言えばがよかった。

 本当にあの声は何なんだろうか。

 さっき聞こえたあの声はきっと、王族のことを言われたからだ。サイジェスがというより王族の話をされたから、聞こえたそんな気がしてならない。明確な理由はない。だがそう感じた。

 それにしても何時も聞こえてくる言葉が、不吉過ぎる。信じたらだめだ、殺されてしまう。だいたいこれだ。
 考えても分からない。けど権力者とそれに関する話をされなければ今の所は大丈夫だ。よし避けよう。きっともう関わり会いになる事もないだろう。

「レイザード、顔色が悪いよ。少し中庭で休んでいかないか」
「頭は痛くない」
「顔色がまっさおだよ」
「問題ない」
「レイザード」

 俺に対して意見を押し付けて来ることがないこいつが、引かないってことは相当顔色が悪いらしい。俺はおとなしく言う事を聞くことにした。

 ああ、でもさっきは、真っ向から逆らってきたな。珍しい事もあるもんだ。


 中庭は、ちょうど学園の真ん中に位置する。
 テーブルと椅子が、何脚も置いてあって自由に使えるように設置されている場所だ。
 その椅子の一つに、腰をかける。するとジルベールが、少し待てってほしいと言い残しどこかに去って行った。

「はいこれ、食堂のだからあまりおいしくはないけれど」

 しばらくすると戻ってきたジルベールは、ゆげの出ているティーカップをもって戻ってきた。 
 そのティーカップを俺の前に置く。飲めということらしい。俺はとくに遠慮もせず言われたまま口をつけた。

「温かい、甘い」
「うん、その方がほっとするかなと思って」

 そう言って椅子に座るが、自分の分はもってこなかったようだ。俺を気遣わしげに見ている。よほど顔色が悪かったらしい。

 俺にも顔色が悪くなるという、差分があったことが驚きだ。新たな発見だな。
 それにしてもこちらを見ているジルベールも僅かだか、何時もより顔色が悪い気がする。
 俺はだいぶ落ち着いた。少し分けてやることにしよう。

「お前も飲むか?」
「えっ?」
 ジルベールの顔が、一瞬で赤く染まった。どうやら怒らせたらしい。
まあそうだな。俺も男が口を付けた、飲みかけのものを渡されたらはっきりっ言って嫌だしな。
 とりあえず飲まないようなので、カップを置いた。

 そうだ、わざわざ飲み物を持ってきてもらっておいて礼を言っていなかった。忘れないうちに言っておくことにしよう。

「ジルベール、礼を言う」
「えっ……」

 俺が礼をいうと、ジルべールはネジが切れたブリキ人形のように動きを止めた。
 なんでこいつは、いつも俺が礼を言うと固まるんだ。

だが世話をかけたのも事実だ。誘われたら5回に1回じゃなくて3回に1回は応じてやろう。どうもこの短期間でジルベールには迷惑をかけすぎている。気を付ける事にしよう。

俺は固まっているジルベールを放置して、残りの茶をゆっくりとすすった。














しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆4月19日18時から、この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」を1話ずつ公開予定です。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが

松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。 ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。 あの日までは。 気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。 (無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!) その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。 元日本人女性の異世界生活は如何に? ※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。 5月23日から毎日、昼12時更新します。

転生したが壁になりたい。

むいあ
BL
俺、神崎瑠衣はごく普通の社会人だ。 ただ一つ違うことがあるとすれば、腐男子だということだ。 しかし、周りに腐男子と言うことがバレないように日々隠しながら暮らしている。 今日も一日会社に行こうとした時に横からきたトラックにはねられてしまった! 目が覚めるとそこは俺が好きなゲームの中で!? 俺は推し同士の絡みを眺めていたいのに、なぜか美形に迫られていて!? 「俺は壁になりたいのにーーーー!!!!」

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼2025年9月17日(水)より投稿再開 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

処理中です...