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しおりを挟む今日は快晴だ。雲一つない空に気分よく家の扉を開いて、力の限り勢いよく閉めた。
扉が壊れるんじゃないかっていう音をたててしまったが、後悔はしていない。
扉を開いた先には、なぜか王子に拝謁したときにいた、こちらを睨んでくる騎士が立っていた。王子が家に来たときは、その睨みが悪化して射殺しそうな視線に変化していたあの騎士Dだ。おかしい。なぜ奴がいる。この前の一見は、あれで終了したんじゃなかったのか。
それともあれは王子が、謝罪にきたいからいかせただけで最初から俺を捕まえるつもりだったのか。いや書簡までよこして、そんな訳ないか。
奴が着ていたのはどう見ても私服だった。個人的に俺の態度が気に食わないから締めに来たのだろうか。面倒くさい。裏口から出ることにしよう。
「まってくれ! 私は礼を言いに来たんだ!」
「身に覚えがありません。人違いです。お帰り下さい」
扉を開けようとして来る騎士Dに、俺は必死に抵抗する。
「城の闘技場で、騎士を一人助けてくれただろう! 私の弟なんだ!」
「弟さんですか……かけらも似ていませんが」
あの時の青ざめた顔のモブ騎士を思い出しながら、目の前の騎士と見比べる。血縁関係など、ミジンコほども感じられないくらい顔が似ていない。
なんだこの前のサイジェスといい、似てない家族がこの世界のセオリーなのか。
「正直だな」
苦笑された。自覚はあるのだろう。その表情に見覚えがある気がして、眉根を寄せる。
「どうした?」
俺は今重大な事に気づいた。こいつはモブじゃない。攻略キャラだ。そう、こいついた。無骨で不器用な騎士が確かに攻略キャラにいた。
見た目は違うが、サイジェスとキャラが被るか?
でもサイジェスは無愛想ではあるけど、不器用じゃないな。それにサイジェスは、親しくなるとよく軟らかい表情をするイベント多かったな。人がいないとき限定だけど。
まあそれはこの際、どうでもいい。
問題はなぜこいつが単体で俺の目の前にいるんだ。攻略キャラらは主人公と絡んでこそだろう。
私服ということは休日なはずだ。なら俺に礼など言いに来ないで、主人公と出会いイベントの一つでもおこせばいいのに。
ああそれ以前に、主人公はいつ現れるんだ。
そうえいばなんでこいつ、俺に礼を言いたかったのならものすごい形相で俺を見ていたんだ。俺の家に来たあとに、弟が巻き込まれたことを知ったんだろうか。
「伺いたいことが、あるのですが」
「なんだ?」
数回瞬きしたあとに、首をかしげる様はまるで熊のようだ。そう思うとかわいく……ならないな。熊はこちらを食い殺せる生き物だ。可愛いいわけがない。
「王子が家にいらっしゃった時に、俺……私を射殺しそうな殺気のこもった目でみていたのは、もしかして弟さんの件で礼を言いたかったからですか?」
「射殺しそう目!? そんな目で見てはいない」
ショックを受けたように、口をあけて固まっている。どうやら自覚がなかったようだ。
あんな恐ろしい形相をしておいて、自覚ないなど迷惑すぎる。
「自覚がないなら自覚をして頂きたいんですが、見られている方はいつ首を切られるか分からない気分にさせられるような、凶悪な目をしていらっしゃいましたよ」
「……」
言葉がないというのは、こういう事をいうのだろう。呆然と立っている。だがこれで次もまた犠牲者がでるのを防げるんだ。我慢してもらおう。
そのとき近くから、噴き出した声が聞こえた。周りに視線を向けると、隣の家と俺の家との壁の隙間にもたれかかるように男が体を震わせて立っていた。
「貴方は……」
こいつも見覚えがある。頸動脈野郎だ、俺の頸動脈にナイフを当てた騎士Aだ。
なんでこいつまで、ここにいるんだ。
「はははははっは、俺そいつにそこまで、はっきり言う奴初めて見た。あははは……駄目だ腹がいたい、腹筋がつる!」
「用がすんだなら、まとめて帰っていただけませんか」
今は腹を抱えて、大笑いしているだけの変な奴にしか見えない。
けれど俺は、あの日の事を鮮明に覚えている。手も足も出なかったうえに、止めに頸動脈にナイフだ。そんな奴と、和やかに会話ができるわけがない。いますぐ逃げ出したい衝動にかられるが、こいつがその気になれば俺なんてすぐに捕まえられる。
「いや、ごめんって。そいつが弟の礼にいくって、緊張した顔でいうもんだからさ心配になってね。ほら顔がこわばると何時もの5割増しで顔が怖くなるろう?」
「普段を知っているわけではないので、なんとも申しあげられませんが」
笑いすぎたんだろう、目尻にたまった涙をぬぐいながら騎士Aが俺の方に近づいてくる。
恐怖で足が地面に縫い付けられたように、動かない。
いま近くにいるのは、俺を殺そうと思えば簡単に出来る奴だ。怖がらない方がおかしい。
「あっそうか、会うの3度目だもんね。それにしても君凄いね。だいたいの奴はこいつの顔の怖さにビビって怯えたような顔するのに。君はあくまでいつも通りだ……ね」
なぜ会うのが3度目だとしっているのか。この男は1度目に合った時には。その場にいなかったはずだ。そしてなんで、俺のいつも通りをしっているんだ。お前にあったのは、今日で2回目だろう。
色々と、突っ込みたいことがある。だがいまはそんなことは、どうでもいい。それよりこいつはモブたる俺にはどうしようもできない事を言いやがった。
俺はビビってないわけじゃない。十分に怖がっている。だがそれを表す表情差分がないだけだ。
そう、俺は恐怖を表す表情差分を持っていないだけだ。なので今の俺は眉間に皺が寄っているだけだ。
騎士Aは一見、ただの軽い奴という風貌のキャラだ。だがやはり攻略キャラなのか、が分からない。陽も明るいから顔もはっきりと見えるが、覚えがなかった。でも隠れキャラとかだったら知らないかもしれないから、攻略キャラじゃないとも断言できない。
まあいいか頸動脈野郎とは、関わり合いになりたくない。考えてもみろ、自分の頸動脈にぴったりとナイフを当てていた奴と、普通に会話するなんて無理だ。心臓に悪すぎる。さっさと騎士Dと一緒に帰ってほしい。
「うん、やっぱりすごいな。ほしいな」
一瞬、騎士Aの目が細くなった。そして訳の分からないことを、言ってくる。今の会話の流れで、何が欲しくなるんだ。
やはりこいつは、覚えがないが攻略キャラなのかもしれない。表情が豊かすぎる。
こんなに表情差分が用意されているのは、主人公か攻略キャラくらいだ。よしこいつは攻略キャラだと思っておこう、でも危険な奴だから、王族ともども、関わりたくない。
目の前で騎士Aがと騎士Dがまた会話を始めてしまった。
こいつらは、いつ帰るんだろうか。もう放っておいて出かけてもいいだろうか。
騎士Aがふとこっちを見て、微笑む。ほほえ……なにか強烈な既視感に襲われる。俺はこいつの胡散臭い笑みを知っている気がする。最近、どこかでみたそんな気がしてならない。
だが引っ掛かるものの、それがどこだったか分からなかった。
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