BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月

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<シーディス>ルート

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「座ってくれ。本当に大丈夫か? やっぱりギーニアスを……」
「本当に、大丈夫です。ぶつかったときだけで、もう痛みもありません」

 顔を覗き込んでくるシーディスさんが、過剰なくらいに気遣ってくれる。ここまでされると、鼻でも曲がってるのかと不安になるが触ってもいつも通りの低い鼻に変化はない。
 止めないと本当に、先生を呼びかねない。力を込めて問題ないと言ってみたが、伝わっているだろうか。

 ―― 無理か
 言葉に力を込めてみたが、表情筋は相変わらず役目を放棄している。これで本気度を、推し測れなんて無理にもほどがあるだろう。
 
「ならいいが、痛みが出たら言ってくれ」
「ありがとうございます。あの突然お邪魔して、すいません。こちらは、どなたの……」

 いきなりお邪魔したのだから、家主に挨拶をした方がいいだろう。そう思ったのだが、扉がしまっても誰もでてこない。シーディスさんも、声をかける気配がないから言葉にして伝える。
 失礼にならない程度に、部屋の中に視線を向ける。俺と同じ庶民、いわゆるモブ達が、住んでいる住宅街の一角にある。家の外観も、内装もシンプルな作りをしていた。

「ん? ああ、俺の家だ」

 ―― 俺の家?
 言われた言葉をそのままに、繰り返しそうになる。
 確かシーディスさんの家は、見るからに金持ちだって分かる家だった。イベントで家というか、屋敷に行くものがあったから間違いない。敷地も建物も広いし照明とか飾りとか、全部が見るからにお金がかかっていますって庶民が見ても分かる。
 ―― 間違いはない
 腐男子である俺が、萌えイベントを間違って記憶するなんてありえない。

 ―― いくつも、あるのかもしれないな
 たぶんロイを連れていったのは、本宅というやつなのかもしれない。ここはなんだろう。忙しくて家に帰れない時のために用意した休憩所だろうか。

 ―― 広い休憩所だな
 確実に俺の家より面積が広い。比べてもしょうがないけれど、なんとも言えない気分になる。

「どうした?」
「いえ少し驚いただけです」
「狭いからか? ここはちょっとした時による作業場みたいなものだ。悪いな。たいしたもてなしも出来ない」

 狭いどころか、俺の家より広いって思っていたなんて言えない。確かに扉を開けて直ぐに、居間があるし簡易の台所があるのも見える。けどだからといって、狭いなんて口が裂けても言えない。これが狭いなら、俺の家はどうなってしまうのか。

「いえそれはお構いなく」
 着替えてくると言ったシーディスさんを、大人しく座って待つ。その間に自分で作った氷で、鼻を冷やしていく。ついでに低いせいで一緒にぶつけたらしく痛みを、訴えてきた額も一緒に冷やした。こういうとき水の適性が、あるとすごく便利だ。

「悪い待たせたな」
「いえ……」
 ―― うわっ
 思わず口から出そうになった感嘆を、頑張って飲み込み。
 現れたシーディスさんは、いつもとがらりと印象が違った。さっきまで身につけていたいつもの派手な服も装飾品もない。着ているのはモノトーンのシンプルな服だ。けど逆にそれが、とても似合っていてかっこいい。

 ―― 羨ましい
 シンプルと地味は、似てるようで違う。俺が同じ服を着たら、シンプルではなく地味に成り果てる。

 顔が怖いから忘れがちになるけど、シーディスさんは顔がいい。なんというかオリエンタルちっくで、堀が深くてかっこ良いんだよな。
 それにしてもいつもと雰囲気が、違いすぎ別人みたいで戸惑うな。

「どうし……ああ、地味で、驚いたか?」
「地味ではなくて、おしゃれだと思いました。意外だとは、思いましたけど」

 なんでこういうときに、正直に言うんだ。後悔しているとシーディスさんが、苦笑したのが見えた。

「普段の悪趣味なあれはな、俺は金持ってる。だから信用してもいいぞって、示すためにやってるんだ。俺みたいな生まれの奴を、信用させるにはどれだけ金持ってるかって分かりやすく示す必要があるんだよ。商売に信用は、必須だからな」
「そうだったんですね。すいません。ああいう服装が、好みだと思ってました」
「そんなこと、謝らなくて良い。気にするな」

 また馬鹿正直に口に出すと、シーディスさんは口を開けて笑った。怒ってないようで、ほっとしたけど唐突に正直に開く口をどうにかしたい。

「生まれ良いなら家の名を、使えるし信用にもなるが俺にはそれがないからな。一番これが手っ取り早いんだ。誰にでも、分かるだろ」
「あの俺は、そっちの方がすごいと思います」

 どこか自分を卑下する響きに、思わず口を挟んでいた。
 ―― あの時と、同じだ
 ドラゴンに遭遇したとき、自分を奴隷だったと言ったときそのときと同じ感じがした。
 ―― なんかムカつくんだ
 何も悪くないのに努力して、必死にやってきてその結果が今のシーディスさんを形作っているのにそれでも自分をおとしめるような感じがして腹が立ってくる。
 凄いんだぞって、自慢したっていい。それだけ大変だっただろうから。自分を誇ってもいい。なのにシーディスさんは、何処か自分を下に置く。

「うん?」
「生まれた家が良いって、別にその人が凄いわけじゃないと思うんです。けどシーディスさんがいまお金を持ってるのは、貴方自身が努力して得たものだから……最初から持ってる人より、ずっと凄いと思います」

 長く話して密かに頑張ったなと思っていたら、シーディスさんは目を見開いて固まった。
 ―― どういう顔だろう
 もしかしてお前に何が分かるって、思われているのか。それとも俺が長文話したから、驚いているのか。

「そうか……そうだな。ありがとう」
 一度目を閉じてゆっくり開いた目は、凄く穏やかで噛み締めるように礼を言われた。
「いえ、あの……ふぁ」

 ―― 盛大に空気を、読んでほしい
 また襲ってきた眠気を抑えきれずに、でてしまった欠伸を堪えきれず間抜けな顔をさらしてしまった。
謝ろうと思ったらその前に手が伸びて、目元の部分を指がなぞる。ゴミでも付いていただろうか。

「ちゃんと寝ているか?」
「えっ?」

 何の問題もないですと、答えようとして言葉に詰まる。最近、借金返済の為に、氷の置物を多く作るようになった。
 術の研究に、剣の稽古の時間は削りたくなくて―― 必然的に、睡眠時間を削っている。ちゃんと寝てますなんて、欠伸が出た時点で説得力の欠片もない。

「隈が、できてるぞ」
「少し夜更かしは、しました」
 バレバレの嘘をつくのも、気が引けて少し控えめに寝てないと告げてみる。嘘は言ってない。どのくらいから夜更かしになるかなんて、当人の主観だからな。

「なあ金はいつでもいいんだ。無理だけは、してくれるなよ」
「はい、ご心配をおかけして申し訳ありません」

 言っていないのに、なぜか借金返済のためってバレてしまったらしい。なんでだろうか。俺の表情筋は、碌に動かないから表情から読み取るなんて出来ないと思うのだが。
 それはそれとして、心配掛けたのは申し訳ないから謝罪を伝えておく。

「俺が勝手に心配しているだけだ。謝る必要はない」

 目元にあった指が、頬を触る。
 今度はどうしたのだろうか。あれか睡眠不足がたたって、頬がこけたりしているのだろうか。そこまでいくと、さすがに不味いな。今日は、早めに寝た方がいかもしれない。

「シーディスさん?」
「……っ、悪い」
「いえ」

 お気になさらずにと返そうとして、眠気が酷すぎて落ちてきた瞼を必死に上げる。よっぽど酷い状態なのか、ソファしかないけど寝て行けと言ってくれたシーディスさんに船を漕ぎながらうなずきそのまま瞼を降ろした。
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