BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月

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<シーディス>ルート

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「レイザード?」
 耳に届くのは振り払うように、落とした鉱石が床にぶつかってたてる音
 シーディスさんの困惑した声
 あと異様なくらい大きい心臓の音 
 貴重な物に何してるんだとか、シーディスさんに失礼だろうとか色々と考えてるのに、言葉が出てこない。上手く呼吸が、出来ない。さっきまで、普通にしてたのに。

 ―― 息が、はけない。どうやったら、いいんだっけ
 気づいたら震えていた右手を、抑えるけど左手も震えていたから何も意味を成してない。

「大丈夫だ。レイザード大丈夫だ」
 体が温かくなって落ち着いた声が、聞えてくる。頭の上から聞える声に、シーディスさんに抱きしめられてるんだなと漠然と理解する。
 ただ大丈夫だって、落ち着くようにだと思う。背中を、撫でられる。

 ―― どこかで、聞いた
『大丈夫、もう大丈夫だから』
 これはヴァルの声だ。出会った頃のそんなに無愛想で、商売できるのかって心配したころのヴァルだ。
 シーディスさんと同じように、大丈夫って繰り返す。俺の知らない誰かの名前を、呼びながら繰り返す。

 ―― なにが、大丈夫なんだろう
 なにも大丈夫じゃない。だって――なんだ?
 自分で考えていることが、理解できない。ただ考えようとした先が、真っ暗で何も分からない。そもそも俺は、なにを考えてたんだろ。

 ―― 大好きな誰かが、いた気がする
 誰だろう
 ―― 温かい何処かに、いた気がする
 それは、どこだろう
 ―― またバグだ
 無意識に考えたことの訳のわからなさに、混乱しそうになる思考を無理矢理止める。

「ごめんなさい」
 ―― 誰に謝ってる?
 シーディスさんに、申し訳なくて謝罪を伝えようとしたはずだ。きちんと謝れた。なのに何であろう。まるで違う誰かに、いったような気になる。
 ―― 謝ったて、しょうがない
 だって僕のせいだ。
 ―― だから何なんだ、このバグは! 

 訳が分からなすぎて、もの凄くイライラしてくる。まるで自分の記憶のように、感じてくるんだ。違うのに、ただのバクなのに。
 苛立ちが頂点に達してけど声に出すわけにいかなくて、両手を握りしめて何かを掴んでることに気づいた。
 嫌な予感に恐る恐る確認すると、シーディスさんに抱きついていたことが発覚した。握りしめるようにしてたのは、シーディスさんの服できっとシワが寄っているに違いない。いくらバグに混乱してるからって、何をしてるのか。

「ごっ、ごめんなさい」
「大丈夫だ。謝る必要はない。無理も、しなくて良い」
 慌てて離れて、深く頭を下げる。全部バグのせいだけれど、迷惑行為を働いたのは俺であるから非は俺にある。
 優しい声で頭を上げてくれって言われたから、ゆっくりあげて再度謝罪を口にした。

「あの失礼なことして、申し訳ありません。もうお暇します」
「ああ、わかった。送っても、いいか」
 今は消えたバグが、いつまた現れるかわからない。色々と迷惑掛けてるのに、これ以上は避けたくて帰ると伝えた。一刻も早く離れた方が良いと思ったのだけれど、シーディスさんは挙動不審の俺を心配してくれているらしい。

「いえこれ以上のご迷惑は……」
「迷惑じゃない。お前が迷惑になることなんてありえない。もし遠慮してるだけなら、家まで送らせてくれ」
 真剣な表情のシーディスさんに、さらに断りを告げようとした口を閉じて頷き返す。


 玄関を出てゆっくり歩く。なんか気分的に早足出歩く気に、なれなかった。
 ―― 誰のだろう
 さっきのバグは、きっと誰かのものだ。誰かの回想だったり過去だったり、それがモブの俺に発生したのだろう。けど誰だか分からない。鉱石が絡んでくるキャラは、いただろうか。貴重な物だから、お金持ちのキャラだろうけれど……
 ここまで考えて、なんか思考すること事態に疲労を覚えて止めた。

 ―― なんか安心するな
 隣を歩いているシーディスさんを、見ると優しい目をしてどうしたって声をかけられる。ただ見ていただけだから、何でもないことを伝えてまた前を向く。
 迷惑掛けたくないから、一人で帰ろうとした。けど今隣にシーディスさんが、いてどこかほっとしている。あの可笑しなバグに、予想以上にダメージを受けていたらしい。

 ―― 合わせてくれてるよな
 身長差というか足の長さが違うから、いつものペースで歩いたらとっくに距離があいてるはずだ。けどずっと俺の隣を歩いてる。ということは俺の歩く速度に、合わせてくれてるってことだ。
 そういえば前に学園であったときも、同じように歩いてくれた。

 ―― 優しい人だ
 現に失礼なことをした俺を、気遣って家まで送るといってくれた。

「あの、ありがとうございます」
「礼を言われるようなことはしてないぞ」
 出かけるところを邪魔をして、あげくに爆睡して貴重な物を床に落としてどれをとっても迷惑行為なのに――帰ってきたのは優しい声だった。
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